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11.試合はすでに始まっております

ぎょっとして見返していると、男性はまたすまなそうな顔をした。


「すみません、驚かすつもりはなかったんですけど……」


背が高いところを除けば、いい人そうな雰囲気を醸し出す人だと思った。

少し俯けた顔は日に焼けて黒っぽく、そばかすが目立った。

まだ少年らしいあどけなさを残していて、ハロルドとは違う可愛らしさをもっている。

見たところ腰に剣をぶら下げていることからも騎士らしい気はしたが、服装は騎士団員というには相応しくない簡素なものだ。

クレアの従者ではない、のか……?


「私に何か?」

「いえ……、えっと………」


歯切れが悪く、男性は口ごもった。

私が首を傾げて次の言葉を待つと、男性はちらりと上目遣いで私を窺うように見た。


「た、助けようかと……」

「は?」

「俺なんかがおこがましいのは分かってるんですけど、あの、さっきの女が、あなたにいちゃもんてけてて……、それで……」

「いちゃもん……?」


つまり、私とクレアとの喧嘩を止めようと、はたまた私を助けようとしてくれていたのだ。

見た目通り、いい人なんだろう。


「近くで見ていたんです、ずっと」

「ずっとって……」

「あなたが会話に加わる前からです」


ということは最初からだ。

私がクレアたちとの会話を盗み聞きしていたのと同じくして、この男性も丸っと会話を聞いていたようだ。

言葉通り『ずっと』ということになる。


なんだか罰が悪いような、少し気恥ずかしいものがある。

悪いことをしたわけではないが、やはり大人気ないことをしたのだ。

私とそう年も変わらない男性には、あまり見られたくない場面だったかもしれない。


「お恥ずかしいところをお見せしてしまって……」

「とんでもない!!」


そう言いながら、男性は手をぶんぶんと振った。

まさかと言うような男性の表情を見ると、お世辞や社交辞令ではないらしい。


「貴族の喧嘩を知れたし、何よりあなたの格好良さを見れました」


貴族の喧嘩……?

あ、あなたの格好良さ?

彼の言葉の何もかもが入ってこない。


「あ、あの……?」

「あ、俺一般でこの武道大会に出場してるんです。もともと貴族って俺的にはいいイメージなかったんですよね。さっきの女の人もやっぱりイヤなかんじだったし」

「はぁ……」


まぁ否定はしないが。


「でもあなたは違った。自分から立ち向かっていくし、でも最低限の礼儀は絶対に崩さない。俺が今まで会ってきた女性の中で、あなたほど格好良い女性は初めてです!」

「それは、どうも……?」


熱烈アピールをされているような気がするのは、私の気のせいだろうか?

彼はいつの間にか目をキラキラさせて私を見つめていて、勢いあまって幾分か顔も近い。

手を握られていないだけ、まだ冷静さは残っているのかもしれないが……。


そういえば彼はこの武道大会の出場者だと言わなかったか?

しかも一般参加の。


「あの……」

「あ、俺はナットと言います。あなたはアマリリスさん、ですよね」

「そうなんですけど、そうではなくて……」


話をずっと聞いていたのなら名前を知っていてもおかしくはない。

名前なんかどうでもいいのだ。

彼はきょとんとして私を見つめた。


「ナットさん、ここにいてもいいんですか?参加者なら、早く選手控え室に向かわれた方がいいはずですが……」


間もなく違う選手の対戦とはいえ、控え室から出てうろうろ油を売るのは良いイメージにはならない。

それに、まだ選手として残っているのならば、次の試合相手が決まる対戦だと思う。

いや、残っている、のか……?

そうだ。

そもそも彼がまだ残っているとは限らない。

むしろもう敗退している可能性の方が高い。

これだけの競争率で一般参加者がここまで残るのは、かなり困難なはずだ。

彼は照れたように笑顔を作った。


「そ、それが……」

「?」

「控え室の場所がわからなくなってしまって……」

「………」


そうして私は彼に控え室の場所を教えてやり、そうこうしているうちに試合が始まってしまって、髪を振り乱しながらハロルドの隣へと戻ったのだった。

「飲み物はどうしたの?」というハロルドの問いに、なんと答えることもできなかった。

「急いだら忘れちゃった」と少ししたら答えた私に、ハロルドは不思議そうな顔をしながらもなにも言わなかった。

嘘はついていません。




*****




アラク兄さんとラミナス様の試合はすでに始まっていた。

始まってはいたのだが、私が来るまでなんの進展もなかったらしいのだ。

私が観戦を始めてからも両者とも一向に動くことはせず、お互いがお互いを見つめている。

期をうかがっている、というのだろうか。

素人目に見ても二人の間に流れる空気はピリピリしていて、緊張状態であるのが会場中に伝わっているようだ。

というのも、先までの試合ではヒートアップしてわぁわぁと騒がしかった会場が、今はしんと静まり返っている。

こんな光景が果たして今まであっただろうか?


「あっ……!」


誰がそう声にしたかは分からない。

その声の一瞬前に試合が動いた。


先に動いたのはラミナス様だった。





ラミナス様戦ってますよー

アラク兄さんも応援してくださいねー


ナットくんは何をしたいんだろ?


お読みいただき、ありがとうございました。

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