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極上の血の晩餐と、五人目の家族

「……ねえ、リン。あなた、私の旅の料理人にならない?」


私が紅茶のカップを置き、真っ直ぐに見つめてそう告げると、タオ・リンはパチクリと目を瞬かせた。


「えっ? お、お姉さんたちの旅にアルか?」

「ええ。私たちはこれから、暴食の神の腹をかっ捌きにいく。あなたのご両親を取り戻すためにも、道案内が必要だし……何より、あなたのこの極上の料理、手放すには惜しすぎるわ」


私が微笑むと、隣で特大のチャーハンを書き込んでいたレヴィアが「賛成ー!」と両手を挙げた。


「リンのご飯、すっごく美味しい! 私、毎日これ食べたい!」

「……ふふっ、このトカゲちゃん、本当に気持ちいいくらいよく食べるネ」


リンは空っぽになったお皿の山を見て、嬉しそうに目を細めた。

 料理人にとって、自分の作ったものを幸せそうに平らげてくれる客ほど嬉しいものはないのだろう。それに、セラフィとミアが真剣に私を護ろうとする姿を見て、リンはこの少し歪で、けれど温かい私たちの『家族』のような関係性に、すっかり惹き込まれていた。


そして何より、リンの瞳は私に釘付けになっていた。


「お姉さん……ううん、カノンお姉さん。初めて会った時から、すごく綺麗で、目が離せなかったアル。……私、カノンお姉さんたちと一緒に行くネ! 父さんたちを助け出して、ずっとみんなに美味しいご飯を作るアル!」


リンが力強く頷いたのを見て、私は満足げに立ち上がり、彼女の華奢な肩にそっと手を置いた。


「嬉しいわ。……でも、神殺しの旅は過酷よ。ただの人間であるあなたを、そのまま連れて行くわけにはいかない」

「えっ?」


私が真紅の瞳を妖しく輝かせ、自身の口元にスッと指を這わせる。


「私を受け入れなさい、リン。私と血の契約を結べば、あなたは『特級』を遥かに超える力を手にするわ」

「血の、契約……っ」


リンの白い喉がゴクリと鳴る。

 私は彼女の健康的なうなじに顔を寄せ、その柔らかな肌に、私の鋭い吸血鬼の牙をゆっくりと突き立てた。


「あッ……!? んんっ……!!」


私の牙が食い込んだ瞬間、リンの身体がビクンッと大きく跳ねた。

 彼女の熱い血をすすると同時に、私の神聖な魔力を彼女の体内へと直接注ぎ込んでいく。


「あ、あぁぁ……っ! な、なにこれ……頭の中、ぐちゃぐちゃに……あはぁッ、すごく、気持ちいいネ……っ♡」


リンの口から、今まで出したこともないような甘く色っぽい嬌声が漏れた。

 圧倒的な快感と多幸感の波が彼女の脳髄を溶かし、私の魔力が彼女の細胞一つ一つを極限まで強化していく。

 私が牙を離すと、リンは完全にトロンと濁った瞳で私を見つめ、力なく私の胸に崩れ落ちた。


「カノンお姉さん……私、カノンお姉さんのもの……ずっと、離れないアル……っ♡」

「いい子ね、リン」


完全に私にメロメロになり、頬をすり寄せてくる五人目の可愛い眷属。

 だが、彼女はただ愛に溺れるだけの少女ではなかった。私の血の味を知った彼女の瞳に、突然『特級料理人』としての凄まじいインスピレーションの炎が灯ったのだ。


「……カノンお姉さん! お願いがあるアル! お姉さんの血を、少しだけ分けてほしいネ!」

「私の血を? 構わないけれど……飲むの?」

「違うアル! お姉さんの血は、神聖で完璧すぎる究極の『食材』ネ! これを使って、最高の料理を作るアルよ!」


リンは目を輝かせて厨房へとすっ飛んでいった。


数十分後。

 テーブルに並べられたのは、美しく透き通った『真紅のジュレ(ゼリー状のスープ)』が添えられた、冷製の蒸し鶏やカルパッチョだった。


「熱を加えると、お姉さんの神々しい魔力が変質して飛んじゃうアル。だから、徹底的に温度管理して冷製の下処理を行い、タレとしても使える極上のジュレにしたネ!」


リンが自信満々に胸を張る。

 私たちは一口、その料理を口に運んだ。


「――ッ!!」

「なっ、なんだこれは……ッ!?」

「すごい……全身から、力が溢れてくる……!」


セラフィとミアが驚愕に目を見開いた。

 カノンの血の圧倒的な魔力が、リンの技術によって完璧に調和し、味覚としての「究極の美味」と、眷属としての「規格外の魔力バフ」を同時に引き起こしたのだ。

 レヴィアに至っては「美味しすぎるぅぅぅ!」と涙を流しながらお皿を舐め回している。


「ふふっ……すごいわ、リン。私の血が、こんなに美味しい料理になるなんて」


私自身も、自分の魔力がこれほど美しく昇華されたことに感動していた。


「えへへ……あくまでカノンお姉さんの血を受け入れた『私たち専用』の料理だけど……私、料理人として、これ以上ない最高の料理が作れたネ。もう、思い残すことはないアル!」


リンは厨房を愛おしそうに見渡すと、店の看板をパタンと裏返し、『閉店』の札を掲げた。


「一般のお客さん向けの店は、これでおしまいネ。今日から私は、カノンお姉さんたちだけの専属料理人アル!」


満面の笑みで宣言するリン。

 こうして、最強のセラフィ、最速のミア、規格外の大火力レヴィアに加え、私たちの胃袋と命を支える特級のバッファー(リン)が仲間に加わった。


「さあ、お腹もいっぱいになったことだし……。行くわよ、みんな。暴食の豚を屠りに」


神殺しの旅、第二幕。

 最強の五人となった私たちは、いよいよ美食の都の中央にそびえる、最悪の『暴食の宮殿』へと歩みを進めた。

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