君の未来に、投資する
銀行のロビーは、
やけに明るかった。
ガラス張りの天井から、
白い光が落ちてくる。
俺は、
手の中の資料を
何度もめくっていた。
地図。
ヴィランの出現記録。
エネルギー集中地点の分析。
仮の事業計画。
……理屈は、
揃っている。
だが、
それだけで
金が動くほど、
この世界は
甘くない。
応接室で、
担当者は、
何度も頷いた。
「なるほど」
「面白いですね」
「理論としては」
そのあとに、
必ず、
これが続く。
「ですが……」
俺は、
その言葉が来るたびに、
内心で、
ため息をついた。
「発電機は?」
「まだです」
「実績は?」
「ありません」
「担保は?」
「……ありません」
沈黙。
担当者は、
資料を閉じた。
「申し訳ありませんが、
今回は……」
わかっていた。
銀行は、
“過去”にしか
金を貸さない。
“未来”には、
貸さない。
銀行を出ると、
空は、
やけに高かった。
俺は、
入口の前で、
しばらく、
立ち尽くしていた。
構造は、
見えている。
だが、
そこへ行く
“道”がない。
……どうする。
「どうしたんだい?」
声がした。
顔を上げると、
そこにいた。
あのときの男だ。
高級車から
放り出された、
あの男。
今は、
何事もなかったような顔で、
スーツを着ている。
「……あんた」
「偶然だな」
そう言って、
少し笑った。
「銀行かい?」
「ああ」
「借りられなかった?」
「まあな」
男は、
少しだけ、
目を細めた。
「だろうね」
妙に、
納得した声だった。
「飯、
まだか?」
唐突に、
そう言われた。
「……何の?」
「礼だよ」
「助けてもらっただろ」
俺は、
一瞬、
迷ってから、
頷いた。
どうせ、
今は
やることもない。
店は、
やけに落ち着いた場所だった。
銀行の近くなのに、
騒がしくない。
男は、
ワインを頼み、
俺は、
水にした。
「で、
何をやろうとしてる?」
俺は、
地図を出した。
ヴィランの出現法則。
エネルギーの集中。
そして、
“時間を売る”商売の話。
男は、
黙って聞いていた。
途中、
一度も、
口を挟まなかった。
「……面白い」
やがて、
そう言った。
「だが、
銀行は
貸さないだろう」
「だから、
今、
こうしてる」
俺は、
そう答えた。
男は、
少しだけ、
笑った。
「君、
金の匂いがする」
「……そうか?」
「してる」
即答だった。
「いくら要る?」
唐突だった。
俺は、
一瞬、
言葉を失い、
やがて、
数字を言った。
男は、
少しだけ考え、
頷いた。
「出そう」
「……担保は?」
そう聞くと、
男は、
ワインを一口飲んで、
言った。
「君だ」
「……俺?」
「そうだ」
男は、
グラスを置いて、
俺を見る。
「これは、
融資じゃない」
「投資だ」
「君の未来に、だ」
俺は、
言葉を失った。
男は、
続ける。
「稼いだら、
返してくれればいい」
「失敗したら?」
「そのときは、
私の見る目がなかっただけだ」
淡々と、
そう言った。
……これが、rか。
働いて、
積み上げて、
やっと届くgじゃない。
“未来に金が流れ込む”
というやつだ。
なるほどな。
rは、
もう、
ここにあった。
店を出ると、
夜風が、
やけに冷たかった。
俺は、
空を見上げた。
歪みは、
まだない。
だが、
もう、
見えている。
ここから先は、
“稼ぐ話”だ。




