地図と、飯と、金
夜のアパートは、
異様に静かだった。
ボロいワンルーム。
天井の低さと、
冷蔵庫の唸り音だけが、
この部屋の“生活”だ。
俺は、
床に地図を広げていた。
赤いマーカーで、
ヴィランの出現地点に
印をつけていく。
一つ、
また一つ。
最初は、
ただの偶然だと思っていた。
だが、
重ねるほど、
偶然は形を持ちはじめる。
変電所。
発電施設。
地下送電網の交差点。
データセンター。
すべて、
エネルギーが集まる場所だ。
俺は、
ペンを止めた。
……狙ってるな。
こいつは、
人じゃない。
エネルギーを、
喰っている。
仮説は立った。
だが、
仮説だけじゃ、
金にはならない。
俺は、
実際に行ってみることにした。
翌日、
次に“来そうな場所”の
近くで待った。
古い送電施設の外れ。
人通りも、
ほとんどない。
空は、
まだ歪んでいない。
何も起きなければ、
それでいい。
ただの、
妄想だ。
だが――
空が、
わずかに歪んだ。
次の瞬間、
現れた。
ヴィランだ。
やっぱりな。
目標は、
変電所か。
ヴィランは、
ゆっくりと、
施設に近づいていく。
まるで、
“食う場所”を
確かめるみたいに。
そして、
その巨大な腕が
変電所に触れた瞬間――
周囲の建物から、
一斉に、
電気が消えた。
街が、
沈黙した。
……喰ってる。
間違いない。
そのとき、
スマホが鳴った。
配達通知。
“緊急搬送要請
発電機一基
現地設置”
俺は、
小さく笑った。
さて、
仕事か。
ヴィランの体が、
大きく揺れた。
衝撃波。
遅れて、
空から
何かが降ってくる。
ヒーローだ。
ようやく、
主役の登場らしい。
ヴィランが、
轟音とともに倒れた。
その衝撃で、
一台の高級車が、
ひしゃげた。
次の瞬間、
車内から、
人が弾き出されるように飛び出した。
ヒーローが、
慌てて追い、
空中で掴む。
だが、
勢いまでは殺しきれず、
二人とも、
大きく揺れた。
空中で、
一瞬、
止まったように見えて、
すぐに、
また落ちかける。
助けてやるか。
俺は、
トラックを寄せ、
窓を開けて叫んだ。
「おい!
そいつ、
トラックに乗せろ!」
ヒーローが、
一瞬だけこちらを見る。
「助かる!」
男を、
荷台に下ろす。
スーツ姿。
血に濡れているが、
生地は、
妙に高そうだった。
腕時計が、
傷一つないまま、
鈍く光っている。
……場違いだな。
こんな場所にいる男じゃない。
俺は、
発電機を回し、
通信を繋ぐ。
救急を呼ぶ。
ヒーローは、
再び空へ上がっていった。
ヴィランは、
もう動かない。
街に、
光が戻る。




