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第五章:突然の来訪者

女将、らこ、こころの三人での生活が始まって数週間が経った。

温泉旅館「夜凪の家」は双子の若女将が加わりこれまで以上に賑わっている。

「いらっしゃいませ!」 「ようこそ、夜凪の家へ!」

毎日笑顔でお客さんを迎え、旅館の仕事も三人で協力しスムーズに進んだ。

らこは不愛想になったり怒りっぽい性格な一面があるが、お客さんの前では一生懸命接客をしていた。

ある日、らこが女将に尋ねた。

「ねぇ、女将。ずっと思ってたんだけど...人間って私たちの猫耳のことについて聞いてこないのはなんでだろ?」

「私たち、女将に会う前に一人の人間にひどい目に遭ったから...少し怖くて。」

らこは自分の頭の猫耳を触りながら不安そうな顔をしている。

「前にこころと森に落ちてた缶詰を拾って食べようしたら、その人間に缶詰を蹴り飛ばされて大声で怒鳴られたんだ...」

らこは人間に対して、わずかな怒りと憎しみを抱えていた。

「あっ、そういえば言ってなかったね!」

女将は優しく微笑んだ。

「実はね、猫耳は人間には見えないんだよ」

「え!?見えてないの??」

らこは驚いた顔をした。

こころも隣で不思議そうに首を傾げている。

「うん。猫神石の力で人間になった私たちの猫耳や尻尾は、同じ猫人族や他の野生の動物にしか見えてないの。だから人間には、私たちが普通の人間に見えてるんだよ」

「へぇ……そうなんだ!」

らこは少し考え込んだ。

「じゃあ私たちの正体が猫人族だってバレないんだ?」

「そうだよ!それに練習すれば猫耳としっぽはしまうこともできるよ!」

「あっ!女将が完璧な人間になった!」

「えへへ、でも猫の仕草をしたり猫の言葉で話しちゃったりすると、変に思れるかもしれないから気をつけてね!」

女将はにっこりと笑った。

らこは少しほっとした顔をした。

「わかった。気をつける!」

こころは完璧な人間になった女将を見て、その場で猫耳としっぽをしまう真似をしていた。

「女将ー!全然できないよー!」

「すぐにはできないからゆっくり練習していこうね!」

若女将の二人は少し気にしていた謎が解けてより一層仕事に励むようになった。

「若女将さんたちも本当に可愛いね」 「また来たくなる旅館だわ」

お客さんたちの言葉に女将は嬉しくてたまらなかった。

でもいまだに女将の探しているお婆さんが来る気配はなかった。


その頃、女将が去った猫人族の村では思いもよらぬ事態が起きていた——

「長老!大変です!」

一匹の猫が慌てて長老のもとへ駆け込んできた。

「どうした?そんなに慌てて」

「人間が……人間が村に入ってきました!」

長老の顔色が変わった。

「何だと!?」

村の中央へ急ぐとそこには一人の男が立っていた。

無精髭を生やした、がっしりとした体格の男。背中には大きなリュックを背負っている。

「おぉ、これは……」

男は猫神石を見つめていた。その目は宝物を見つけた時の輝きを放っている。

「人間よ!その石から離れろ!」

長老が叫ぶ。

男は長老を見た。

「え?……猫が...喋ってる?」

男は驚いた顔をした。

長老は鋭い目で男を睨んだ。

「貴様は何者じゃ!」

「俺は……灯真。トレジャーハンターをやってる」

灯真はまだ信じられないという顔で長老を見ている。

「どうして猫が人間の言葉を……」

「わしはこの村の長老じゃ。わしら猫人族の長老は代々、人間の言葉を理解し話す方法が伝えられている。貴様のような人間の対応をするためにな」

長老は続けて言った。

「その石はわしら猫人族が代々守り抜いてきた神秘の石なのじゃ、それを持ち帰ることは許さん」

「すまねぇな。だが...これが俺の仕事なんだ」

「それに俺にもこの石...いや、この宝を譲れない理由がある」

灯真は猫神石に手を伸ばした。

「させるか!」

村の猫たちが一斉に灯真に飛びかかる。

でも灯真は猫たちを傷つけることなく、巧みに避けていく。

「悪いな。お前らを傷つけるつもりはねぇんだ」

灯真は猫神石を掴むと素早く村から逃げ出した。

「待て!!」

長老と猫たちが追いかける。

灯真の足は速く軽やかに森を抜けどんどん遠くへ。

「くそ……絶対に逃がさない!」

「あの男の匂いを辿るんだ!」

長老たちは必死に灯真を追った。


その日の夕方、温泉旅館「夜凪の家」に一人の男が訪れた。

「すみません、泊まりたいのですが部屋は空いてますか?」

女将が玄関に出るとそこには疲れた様子の男が立っていた。

「ようこそ、夜凪の家へ!まだお部屋空いてますよ!」

女将はいつもの笑顔で男を迎えた。

「良かった。それじゃ一泊お願いします。」

リュックを背負って息を切らしてる男...これが灯真であり、猫神石を奪った男だとはこの時は誰も知らなかった。


その夜、女将は旅館の外に懐かしい気配を感じた。

女将が外に出てみるとそこには長老と村の仲間たちがいた。

「長老…それにみんなもどうしたの…?」

みんな怒りの表情を浮かべている。

「お前か。この旅館にリュック背負った無精ひげの男が泊まっていないか?」

「え、いますけど……どうして知ってるの?」

「そいつは猫神石を盗んだのじゃ!」

「わしらは追いかけたけど逃げられて...それで男の匂いを辿ってここまで来たのじゃ。」

女将は息を呑んだ。

「だからあのお客さんあんなに息を切らしてたんだ...」

その時、旅館の二階から灯真が姿を現した。

「……すまねぇ」

灯真はリュックから猫神石を取り出した。

「これのことだよな」

「返せ!それは我々の大切な宝じゃ!」

長老が叫ぶ。

灯真は困ったような顔をした。

「それは……できねぇ。これを売らねぇと、娘の治療費が……」

「そんなの知ったことか!返せ!」

猫たちが灯真に飛びかかろうとする。

その時——

「待って!」

女将と若女将の二人がそれぞれの間に入った。

「みんな落ち着いて!暴力はダメだよ!」

女将は灯真を見た。

「あなた、本当に困ってるの?」

灯真は少し驚いた顔をしてうなずいた。

「……ああ。娘が病気で...だからどうしても治療費が必要なんだ」

女将の目が優しく微笑んだ。

「そっか……でも村の物を勝手にとったらダメだよね?だからそれは返そう?」

「でも他に治療費を稼ぐ方法がない...」

「じゃあ一緒に考えよう?きっといい方法があるはずだから!」

そして、ちょうどその時——

「あら、こんな夜遅くに賑やかね」

優しい声が聞こえた。

女将が振り向くとそこには——

薄いピンク色の髪、眼鏡、紫色のカーディガンを着たお婆さんが立っていた。

女将の心臓が大きく跳ねた。

「お……お婆さん……?」

運命の再会が訪れようとしていた。




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