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第四章:双子との出会い

その日はいつもより静かな朝だった。

女将はいつものように旅館の前で掃除をしていた。

「よいしょ、よいしょ……」

箒を動かしながら女将は考えていた。

「やっぱり一人では限界があるから従業員を雇わないと。」

そんな時森の奥から二匹の猫が歩いてくるのが見えた。

双子の猫だった。

一匹は少し気の強そうな顔つきをしていて、もう一匹は優しそうで穏やかな表情をしている。二匹とも足取りがおぼつかずとても疲れているようだった。

「ねぇ!大丈夫!?」

女将は箒を置いて駆け寄った。

二匹の猫は女将を見上げる。その目には不安と疲れが浮かんでいて体も少し瘦せていた。

「お腹空いてるんじゃない?待ってて!」

女将は旅館に戻って朝食用の焼き鮭を持ってきた。

「はい!慌てずゆっくり食べて!喉に詰まらせないようにね!」

二匹の猫は恐る恐るご飯を食べ始める。

そして美味しさに目を輝かせた。

「にゃー!」 「にゃー!」

女将は微笑みながら二匹を撫でる。

「よかった。元気になってきたね!」

ご飯を食べ終わった二匹は女将にすりすりと体をこすりつけてきた。

女将はふと気づいた。

「もしかして……君たち、猫人族?」

女将も猫人族だから同じ匂いでわかる。

「どうしてここに?迷子になっちゃったの?」

気の強そうな方の猫が女将をじっと見つめる。

その目には複雑な感情が浮かんでいた。

優しそうな方の猫は姉の猫に寄り添うように座っている。

「そっか……何か事情があるんだね?」

女将は二匹を優しく抱き上げた。

「じゃあしばらくここにいる?疲れてるだろうし休んでいきなよ!」

二匹の猫は顔を見合わせて小さく鳴いた。

「にゃー!」 「にゃー!」

女将にはそれが「ありがとう!」と言っているように聞こえた。


数日が経った。

二匹の猫は旅館に居ついていて、女将のそばでいつも一緒にいる。

そして不思議なことに二匹は女将の仕事の手伝いを始めた。

気の強そうな猫は女将が掃除をしていると、小さな足でちりとりを押さえたり、客室を整える時には交換する布団のシーツをくわえて運ぼうとする。

優しげな猫は女将が料理をしているあいだ、鍋が沸騰すれば知らせ、洗い物も黙って運んでくれる。

そして二匹ともお客さんが来ると玄関まで一緒についていって、可愛らしく鳴いて出迎える。

「えへへ、二人ともいつも手伝ってくれてありがとね!」

女将は二匹の姿を見て微笑む。

ある日、女将が重い荷物を運んでいると二匹は小さな体で一生懸命押そうとしてくれた。

「ありがとう!…でも無理はしないでね!」

女将は二匹の優しさを見て目に涙が浮かんだ。

その夜、女将は二匹を膝に乗せて優しく撫でながら言った。

「ねぇ、二人に相談なんだけど……もしよかったら人間の姿になってみない?」

二匹の猫は女将を見上げる。

「猫の姿でも十分手伝ってくれてるけど、人間の姿になったらお手伝い以外にも色々できるよ。それに…」

女将は優しく微笑んだ。

「女将は二人ともっとたくさんお話ししたいんだ!」

気の強そうな猫は少し考えるように女将を見つめ、優しそうな猫は姉猫の顔を見て小さく鳴いた。

そして二匹はお互いを見つめ合うと女将の方を向いて小さくうなずいた。

「にゃー!」 「にゃー!」

「本当に!?」

女将の顔がぱっと明るくなる。

「でも……人間になるには猫神石が必要なの。だから二人の猫神石を取りに行かないと」

女将は少し不安そうな表情で二匹に言った。

「女将は...何も言わずに村から出てきちゃったから村に帰るのちょっと怖いんだ…でも二人のためだから頑張るね!」

ある満月の夜、女将は決心した。

「ちょっと出かけてくるよ。すぐに帰ってくるから」

二匹にそう伝えると、女将は猫人族の村へと向かった。

村は以前と変わらず静かだった。

女将はそっと村の中央へ近づいた。猫神石が置かれている場所へ。

でも、そこには——

「……ない!?」

猫神石がなくなっていた。

女将は驚いて周りを見渡す。すると長老が姿を現した。

「お前か」

長老の声は冷たくいつもの覇気がなかった。

「長老……猫神石は?」

「お前には関係ない。お前は村の掟を破り人間になった。もうこの村の者ではない」

村の人に出会えば何か言われる覚悟はしていた女将だったが、こともあろうに最も関わりの深かった長老から厳しい言葉を向けられ胸が痛んだ。

「でも...私……」

「早く帰れ!」

長老は背を向けた。

女将は何も言えずただ静かに村を後にした。

肩を落として歩く女将の背を見つめながら、長老はボソッとつぶやいた。

「すまんな……また村の者が居なくなってしまう、あの寂しさを味わうのはもう嫌なのじゃ……」

長老の鞄の中には静かに光る猫神石が輝いていた。

女将は長老の言葉が重く胸に残り、夜が明けるまで泣き崩れていた。


旅館に戻ると二匹の猫が心配そうに迎えてくれた。

「ただいま……」

女将は力なく笑った。

「ごめん...猫神石が無くなってて、二人の石を持って帰れなかった。長老にも見つかって追い出されちゃった...」

二匹の猫は女将を慰めるように、女将の頬にそっと顔をすり寄せてきた。

「二人とも...ありがとう...。でもまだあきらめた訳じゃないよ!」

女将は二匹の猫を抱きしめた。

「ねぇ二人とも...ずっと一緒にいてくれる?」

二匹の猫は女将の顔を舐めた。

その夜、女将は非常時に使うために隠し持っていた猫神石を二人に差し出した。

「これで私たち家族になれるよ」

猫神石が二匹を照らし、優しい光が二匹を包み込む。

そして——

光が消えた時、そこには二人の少女が立っていた。

一人はツンとした表情の可愛らしい少女。

もう一人は笑顔溢れる、天使のような少女。

二人とも頭には猫耳がついている。

「わぁ……」

女将は感動して目を潤ませた。

「無事に人間になれたね!」

気の強そうな方の少女が照れくさそうに言った。

「……ありがとう」

優しそうな方の少女は嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!」

女将は二人を抱きしめた。

「これからはずっと一緒だよ。あ、そうだ!名前を教えてくれる?」

気の強そうな少女が答えた。

「姉の...らこ」

優しそうな少女も答えた。

「妹のこころです」

「らことこころ……素敵な名前だね!」

女将はにっこりと笑った。

「じゃあこれから一緒に旅館を盛り上げていこう!んー...らことこころは若女将だよ!」

「若女将……?」

二人は顔を見合わせた。

「そう!私と一緒にこの旅館で楽しく暮らすんだよ。三人仲良くね!」

らこは少し照れながらも嬉しそうだった。

こころは涙を浮かべて笑っていた。

こうして温泉旅館「夜凪の家」に二人の若女将が誕生した。

女将、らこ、こころ。

三人の新しい生活が始まろうとしていた。



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