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第三章:温泉旅館の開業

人間になった夜凪はまず温泉のある場所を探すことから始めた。

村から少し離れた山の奥…自然に囲まれた神秘的な場所。

そこには温かい温泉が湧き出ていた。

「ここならお婆さんも来てくれるかもしれない!」

夜凪はこの場所に旅館を作ることを決めたが旅館の作り方なんてわからない。

「どうしよう……」

困っていた夜凪は気晴らしに近くの町へ行ってみることにした。

以前から人間の世界を知るためにも町を見てみたかったのだ。

町はとても賑やかだった。

たくさんの人が行き交い、お店が並び、町いっぱいに笑い声が響いている。

夜凪は目をキラキラさせながら町を歩いた。

「人間の世界ってやっぱり楽しい!」

八百屋さんでは色とりどりの野菜が、魚屋さんでは新鮮な

魚が、お肉屋さんでは肉質の良いお肉が並んでいる。

「美味しそう……」

夜凪のお腹がぐぅと鳴った。

そんな夜凪を見て一人のおじいさんが声をかけてくれた。

「お嬢ちゃん、お腹空いてるのかい?」

がっしりとした体格の穏やかな顔をしたおじいさんだった。

おじいさんはこの町の町長でみんなから「こだまさん」と名前で呼ばれ慕われている人物だ。

「あ、はい……」

夜凪は少し恥ずかしそうに答える。

「じゃあこれを食べな」

こだまさんはほかほかのおにぎりをくれた。

「ありがとうございます!」

夜凪は夢中でおにぎりを頬張る。

「んー!温かくて美味しい……」

夜凪はお腹がいっぱいになり、改めて人間の優しさに触れた。

こだまさんは夜凪の様子を見て微笑んだ。

「お嬢ちゃんはどこから来たんだい?」

「えっと……山の奥から来ました。実は温泉旅館を作りたくて

……」

「えっ!?温泉旅館を!?一人で??」

こだまさんは驚いた顔をする。

「はい!でも作り方がわからなくて……」

夜凪は元々猫であること以外についての全てをこだまさんに正直に話した。

お婆さんを探していること、そのために旅館を作りたいこと。

こだまさんは夜凪の話を真剣に聞いてくれた。

その一生懸命な姿を見ていて昔の後悔した出来事を思い出した。

こだまさんが町長になったばかりの時のこと、少しでも町を反映させるために仕事に囚われて余裕がなかった。

そんなある日、町の外から遊びに来た観光客の女の子につい冷たくあたってしまい悲しませてしまったことがあるのだ。

夜凪の見た目はあの時の女の子にどこか似ていた。

「なるほどね。よし、そういうことならわしが手伝ってやろう!」

「本当ですか!?」

夜凪の顔がぱっと明るくなる。

「ああ。わしは元々大工をしてたから建築のことにも詳しいんだ。旅館を建てるくらい朝飯前さ。それにお嬢ちゃんみたいに一生懸命な子を見てると力になってやりたくなるんだ」

「でも……」

夜凪は困ったように俯く。

「私...お金を持ってないんです。だからお願いできません……」

こだまさんは優しく笑った。

「お金は旅館が繁盛したら返してくれればいいから心配しないでいいさ。それまでの間はたまに温泉に入らせておくれ笑」

「えっ!?本当に……それでいいんですか?」

「ああ。困った時はお互い様だ。さあ、早速始めよう!」

こうして夜凪の旅館作りが始まった。

こだまさんの呼びかけで町の人たちもたくさん手伝ってくれた。

町の人は資材の運搬や、温泉の掘り方、料理や旅館業についてなど一通り夜凪に教えてくれた。

「みんな、本当にありがとう……」

夜凪は人間の温かさに触れるたびに胸が熱くなった。

そして数ヶ月かけてようやく旅館が完成した。

まだ小さな旅館だったけれど、夜凪が町のみんなと一生懸命作り上げたもの。

自然に囲まれた温かい雰囲気の旅館。

「入口の看板には何て書こうかな?」

夜凪は少し考えてからひらめいた。

「 『夜凪の家』にしよ!誰でも気軽に来れて、温かいお家の様な旅館にしたいから!」

こだまさんが立派な看板を作ってくれた。

【温泉旅館『夜凪の家』】

「完成だ!」

町の人たちが拍手をしてくれる。

「頑張ったね!夜凪ちゃん!」

「素敵な旅館じゃないか!」

「お客さんたくさん来るといいね!」

夜凪は涙をこらえながらみんなにお礼を言った。

「本当に...ありがとうございました。みんなのおかげです!」

「何言ってるんだ。夜凪ちゃんが一生懸命だったからさ」

こだまさんが夜凪の頭を優しく撫でる。

「さあ、開業だ!頑張るんだよ!」

「はい!」

こだまさんはにっこりと笑った、その表情はどこか晴れやかだった。

「でもこれからは夜凪ちゃんじゃなくて、女将って呼ばないといけないな笑」

こうして温泉旅館「夜凪の家」が開業した。

最初はお客さんもまばらだったが女将は諦めなかった。

一人一人のお客さんを心を込めて迎えた。

「いらっしゃいませ!ようこそ、夜凪の家へ!」

女将の笑顔と心のこもったおもてなしにお客さんたちは喜んでくれた。

「女将さん!温泉本当に気持ちよかったよ!」

「料理も美味しかった!」

「また来るね!」

少しずつお客さんが増えていった。

でも女将の探しているお婆さんはすぐには現れなかった。

毎日旅館の入り口でお客さんを迎えながら女将は探していた。

「お婆さん……いつか、きっと来てくれるはず!」

女将はそう信じて毎日を必死に一生懸命過ごしていた。

そんなある日、女将はふと思った。

「あれ……もしかして、これがワンオペ…?」

女将は掃除、料理、お客様対応、全部一人でやっていた。

旅館を作ることに夢中で従業員を雇うことを完全に忘れていたのだ。

「うーん、やっぱり一人だと大変だなぁ……」

女将は旅館の前を箒で掃きながら考えていた。

「いまから従業員を探すとしても時間も無いし、そもそも私は元々猫だから人間の知識少ないし...どうしよう...」

そんな時、森の奥から二匹の猫がふらふらと歩いてくるのが見えた。

双子の猫だった。

一匹は少し気の強そうな顔をしていて、もう一匹は優しそうな顔をしている。

二匹はとても疲れている様子でいまにも倒れそうだった。

「ねぇ!大丈夫!?」

女将は思わず駆け寄っていく。

これが『らこ』と『こころ』との運命の出会いだった。


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