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第一章:猫人族の村

お婆さんと出会う前のある日のこと。

夜凪が暮らしていた猫人族の村は深い森の奥にひっそりと存在していた。

そこは人間たちの目にはあまり触れることのない秘密の場所。

村の中央には大きな岩があり、その岩の上に月の光を受けてほのかに輝く石が置かれていた。

『猫神石』(びょうじんせき)

猫人族が代々守り続けてきた神秘的な石...この石の力があれば猫たちは人間の姿に変身することができる。

でも村の猫たちはその力を使おうとはしなかった。

「人間など...信用できるものか」

村の長老はいつもそう言っていた。

長老は年老いた灰色の猫で片目に大きな傷がある。

その傷は若い頃に人間につけられたものだという。

ある日、夜凪は他の猫たちと一緒に月に一度の集会のため村の広場に集められた。

「よく聞くのじゃ」

長老の声は静かだけれど重みがあった。

「まだわしが若い頃、食べ物を探しにゴミ捨て場へ行った時のことじゃ。そこで出会った人間にいきなり箒で何度も叩かれて、わしは慌てて逃げたがその人間にさらに石を投げつけられた。この傷は...その時のものじゃ」

長老は片目の傷に触れる。

「人間は恐ろしい生き物じゃ。わしらを見つければ容赦なく攻撃してくる。だからこそ...猫神石の力を使って野蛮な人間になることなど決してあってはならん。人間に近づくことも、関わることも禁じる!」

周りの猫たちは神妙な顔でうなずいている。

でも夜凪だけは違った。

「ねぇ、長老...」

夜凪は小さな声で尋ねる。

「でも...優しい人間もいるんじゃないかな?私ね、村の外で人間を見たことがあるんだけど....みんなで楽しそうに温泉に入りながら笑って話してたよ?怖い顔なんてしてなかったし、普段私たちがお喋りしてるのと変わりなかったけど...」

夜凪は一人で村の外に遊びに行くことが多かった。

村から少し離れた温泉で人間たちが笑顔で語り合っている姿をよく見ていたのだ。

それから時間があると村の外に出て、人間を観察するのが夜凪の密かな趣味になっていた。

一瞬周りが静まり返る。

長老は夜凪をじっと見つめた。

「......お前はまだわからんのか。人間は危険なのじゃ」

「それに昔お前に似たような人間好きな猫もいたが、その猫も人間の世界を見に行くと言って行方不明になっているのじゃ。きっと捕まったに違いない。」

「でも...」

夜凪は諦めない。

「私は人間のこと知りたい...どんな生活をしてるのか。人間も悪い人ばかりじゃないと思うし、ちゃんと話せば仲良くなれると思うんだ」

周りの猫たちがざわざわと騒ぎ始める。

「また変なこと言ってる」

「人間が好きだなんておかしいよ」

「長老の話聞いてなかったの?」

夜凪の耳がしょんぼりと垂れる。

長老は深いため息をついた。

「お前の気持ちはわからんでもない。じゃが人間はわしらとは違う生き物なのじゃ。それを忘れてはならん!」

「......はい」

夜凪は小さくうなずくしかなかった。

その日以降、夜凪は村の仲間たちからさらに変わり者として見られるようになった。

誰も夜凪の話を真剣に聞いてくれず、一緒に遊んでくれる友達もいつの間にか減っていった。

「どうしてみんなわかってくれないんだろう...」

夜凪は村外れの小さな丘で月を見上げることが多くなった。

「人間って本当に怖いだけの生き物なのかな...優しい人間だってきっといるはずなのに...」

でも村の掟は絶対だった。

長老の言葉は村の猫たち全員の心に深く刻まれている。

人間を警戒し、関わらず、ただ森の中で静かに暮らす。それが猫人族の生き方だった。

夜凪は満月を見上げる。

「でもいつかみんなにも知ってもらいたいな。良い人間もいることを。」

その願いはやがて大きな運命へと繋がっていく。


それから数日後、夜凪はお腹を空かせて村を出た。

そして海辺で運命の出会いを果たすことになる。

優しいお婆さんとのあの出会いを——。

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