ジャングルジム
深夜の公園のカラフルなジャングルジムの柵にもたれて、平蔵は、財布の中身を改めていた。彼は、腕利きの一流のスリである。先刻も、繁華街の街角で、通勤帰りの若い会社員から、この財布を頂戴したところである。
「へへへ、8万4千円、と。こいつは、悪くない仕事だ。また稼がしてもらうとして、ひと休みしますかな?」
そう言うと、平蔵は、ジャングルジムを離れて、近くの自販機で、コーラを買った。地べたに座り込んで、コーラを飲みながら、辺りをボンヤリと見渡す。月の綺麗な夜である。ふと気づくと、さっきまで平蔵の居たジャングルジムのそばに、ひとりの女が、長い髪に白装束で、しゃがんで、こちらを向いている。女の顔はよく見えない。こんな夜更けに、誰だろう?
変に思って、平蔵が近づくと、女が、顔を上げた。
目も鼻もない、のっぺらぼうだった。
「ひ、ひえー、出たー!お化けだー!」
平蔵は、財布をばらまきながら、一目散に公園から逃げていく。
その後ろ姿を見送って、女は、白いマスクと、鬘の長い髪を頭から取り外して、
「男を騙すなんて、チョロいもんね。こんなメイクで騙されるなんてー」
「あたしの真似、しないでよ」
女の背後で声がした。驚いて、女が振り向くと、ジャングルジムのそばに、長い髪で、白装束の女が、しゃがんでいる。彼女には、足が消えて、なかった...............。