85 女王と聖女の雑談2
「同い年でしょう?あなたたちは。年頃で2人きりで旅をして、何も無し?」
そして女王リオナがいつもの上品で美しい顔のままま、下世話なことを訊いてくる。金色の瞳が面白がるような光を放つ。
この人は神々しい雰囲気のまま何を訊いているのだろうか。
(ほんと、変わんない。小さい時もこんな話ばっかりだったかも)
エストは内心で呆れ果てていた。
「えぇ、でも、なんか弟みたいな感じ。出来の良い弟。そういう気持ちにも雰囲気にもなりませんでしたよ」
肩をすくめてエストは応じた。
実際、何もならなかったのだから、嘘ではない。少なくともエストの方はそうだった。
「2人っきりの旅行だから、恋仲になって帰ってくると思っていたけど?」
遠慮のないことを女王リオナが言う。この女王はどういうつもりで自分とクイッドを送り出していたのだろうか。
「あたしに、そういうのはない」
エストはハッキリと断言した。
言われている内に、確かに誤解を招きかねない状況だったと気づく。
「別に、宿でも野宿でも離れてたし。あっちもあくまで仕事って感じだったし」
エスト自身、クイッドをそういう目で見たことが無かった。
「ま、貴女ならそうよね。それにヨギラスや密偵もつけてたから。知ってたんだけどね」
女王リオナが肩をすくめるのだった。
「良い修行にはなりましたよ。それに、これだって手に入ったし」
エストは『大聖女の連珠』を女王リオナに見せびらかしてやった。
「ギガンヒッポスが回収の時に出た。報告は受けているわよ」
女王リオナの表情が、真面目なものに切り替わる。
本当は手放しでは喜べない。
「ヨギラスさんから、報告は行ってますよね?大きな損害は出さなかったけど、かなり危ない状況を招きました。私がこれを回収したからあらわれた。お母様はこの連珠で封印をしてたんだと思う。なんで倒さず封印していたのかは分かんないけど」
エストは自分で思うところも含めて詳しく報告した。
都合が悪いことを黙っているのも、無視するのも自分の生き方ではない。
「未熟な私にも倒せる程度の魔獣をなぜ、お母様は倒さず封印って形で残してたのかしら?」
エストは首を傾げるのだった。それこそ、もう一度、日記でもなんでも読み直して調べるしかないのかもしれない。
「大事なのは貴女が強力な術を得て、自らの手で倒したってところだと、私は思うんだけどね。重要なのはそこよ。何度かこれを繰り返せば、貴女はより完成された聖女となる」
女王リオナが薄く笑う。凄みのある、政治家の笑い方だった。
(危険よりも利益を優先する、か)
エストは心の内で呟く。
自分にとっても都合の良い考え方ではあった。
「確かに聖空機雷は強力でした。溜めは必要だし、張り巡らせたところに突っ込んでくれるお馬鹿な敵にしか効果は薄いんですけどね」
ギガンヒッポスの巨体を跡形もなく消し飛ばしてしまう破壊力はあるものの。黒騎士のように知恵のある相手であれば、消えるまでどこぞに逃げてから、また襲ってくるのではないか。
(透明で隠しておけるとかならともかく、キラッキラに光ってんだもん)
余程の馬鹿でなければ逃げるだろう。
「でも、護りにはかなり有効ね。それに、強力な前衛がいれば。あっ、でもカートは駄目よ」
聞かれもしないのに、女王リオナが勝手に拒んできた。まるで隠せていない恋心である。
「うちの侍女でもあるまいし、陛下の想い人に色目は使いませんよ」
エストは手をひらひらと振って告げる。
後ろの護衛が余計なことを言わないでくれ、という顔をした。
「そう、貴女の侍女。カートとくっついていって、そのまま彼の領地に居着いちゃったのよ。どうにかしてくれる?わたしだって、招かれたこと、無いのに」
確かに余計ごとだった。一瞬で今度は剣呑な表情に切り替わって、女王リオナが無理難題を言う。
「無理です」
エストは即答した。なかなか怖いが無理なものは無理である。まして聖女の自分に、他人の恋路など邪魔も応援も出来はしない。
(せいぜい、義妹に婚約者を押しつけたぐらい、か。アニスもデズのどこが良かったのかしら。好きなら別にいいけどさ)
几帳面で頭の硬いデズモンド皇太子には、あまりエストは良い印象が無い。
「あ、でも、ティスがいないから、私、あの屋敷で1人ですか」
ふとエストは気づく。
「それは物騒だから、しばらく王宮で過ごしたら?私も話し相手が欲しいし」
女王リオナが申し出てくれた。
有り難い申し出ではある。
「いいんですか?」
エストはあまりの気安さに驚いて尋ねる。
「ええ、貴女なら大歓迎。本当はお母様の資料あさりがなければ、ずっといてほしいぐらいだったし」
女王リオナが微笑んで頷く。
一瞬だけ表情が暗いものに変わった。
「そもそも、王宮にあなたを据え置いていれば、カートと侍女の件も、こうはなってなかったんだろうし」
恨み言を繰り出されるも、エストは苦笑いでやり過ごし、王宮での宿泊を確約してもらえるのだった。




