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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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83 牛鷲を倒す5

 初撃を止められたのは久しぶりだ。

 パターガーにならば、躱されたことがある。クイッドの方はだめだった。エイトンの素質はかなり良い。

「ぐうっ」

 エイトンが苦悶のうめき声をあげる。

 何度も杖を目まぐるしく打ち付ける度に、斧の刃がこぼれて砕けていく。

 攻撃に転じることなどさせない。

 カートは一方的に攻撃し続けて、大斧をただの棒切れにしてやった。

「な、なんて」

 エイトンが驚愕して目を見張る。

「こんな生き方をしていれば、誰でもこれぐらいは出来る」

 カートは呟いて、エイトンを睨みつける。

「ひっ」

 エイトンが腰を抜かす。

「一度、バールに戻ってから、正規の手続きで入国しろ。戻ってこなかったら、バールまで追いかけて打ち殺す」

 カートは低い声で脅す。

 普通はここまでしない。エイトンの巨躯も気に入った。自分がどう努力してもさせても、身長だけは伸ばせない。

「捕縛しないのか?」

 エイトンが腰を抜かしたまま尋ねてくる。

 その爪先をカートは杖で突いた。

「ぐっ」

 相当痛むはずだが、見苦しい悲鳴をあげずにエイトンが耐える。

 そんな根性があるから、不法入国者のくせに、自分に気に入られてしまうのだ。

「お前は俺について部下をする。それは、違法入国者というわけにはいかない」

 淡々とカートは説明する。

 人手が足りない。だから今も一人で動く羽目になっている。腕利きがパターガーとクイッドのみというのでは苦しい。

(人手不足など、俺の上司は考慮してくれないときてるんだからな)

 カートはため息をつく。

「お、おれは正規の手続きで入国しています」

 エイトンが思わぬことを言う。

「じゃぁ、なんでこんなところで山賊をしている?」

 ただ疑問に感じてカートは問う。

「山賊では。略奪はしてません。仕事が無くて集まってしまった。だから、魔獣や盗賊相手の用心棒稼業でも、と」

 エイトンが生意気にも口をへの字に曲げる。

 穴だらけの論理だった。

「他に不法移民を巻き込んで、税も納めずに武装していれば、そんな言い分は容易く崩れる」

 カートはもう一度、エイトンの爪先を杖で小突く。

 エイトン自身にそんなつもりがなくとも、いずれ配下には自分より弱いものから奪ったほうが楽だと考える者が絶対に出てくる。

「まぁ、いい。そうなる前に、俺自ら蹴散らしてやったんだからな」

 カートは首を横に振る。

「仕事が無いのが不満なら、俺が酷使してやるから、ついてこい」

 カートはエイトンに背中を向けた。

(さて、と)

 空を見上げる。

 煩わしい巨大な鳥の影が見えた。

「俺を赦すというのですか?」

 背後からエイトンが尋ねてくる。

「赦すも何もない。使うと言っている」

 空に視線を向けたままカートは答えた。

 山の中ほどに一本だけ背の高い木が生えている。

「少し待っていろ。野暮用を済ませてくる」

 カートは小走りに駆けてそのまま跳躍して、枝から枝へと上がっていく。

 エイトンの返事など待たない。逃げるようならどこまででも追跡する。

(まだ、ラデンに未練があるのか。しつこい奴め)

 内心でカートは毒づく。

 やがて木の枝、最上部に至った。そこから見ると先の鳥が近くに見える。あまりに速く動いたので、自分を見失ったのだろう。

(黒騎士のやつはまだ、ラデンで何か悪さをするつもりでいて、俺の動向が気になってしょうがないらしい)

 カートは杖を握ったまま、相手を観察する。

 牛鷲、ホーンイーグルだ。赤褐色の羽毛に、2本の角が生えている。首がかなり太い。

 気流に乗って滑空し、旋回していた。

 生意気にも自分を監視していたのだから、当然、許すつもりはない。

 カートは木の幹を蹴って、無造作に空中へ身を投げ出した。

 ぐんぐんと真っ直ぐにホーンイーグルへと迫っていく。危機を察したのか、ホーンイーグルがこちらを向いた。

 反応する暇も与えない。

 カートは杖を一閃させた。

「グエエエ」

 喉を潰されて不自然に首を曲げたホーンイーグルが墜落する。

 当然に自分も墜落することとなった。

 一瞬のことでカートは全身に膨大な魔力を巡らせる。筋繊維の一本一本を想像して強化した。

 轟音とともにカートは着地する。地面が割れて砂ぼこりと土欠片が飛ぶ。

「な、なんだったんですか?」

 着地点近くにエイトンがいた。

 逃げなかったのは、素直に評価に値する。

「鳥を空で打ち倒してやった」

 カートは顔色1つ自分は変えていない。

 体を思ったとおりに動かせる。感覚も常人よりも並外れて発揮させることも可能だ。

(だが、いつやってもどうにもならんな)

 カートは無傷の身体を見てうんざりする。

 激痛に苛まれていた。上空から地面に落ちたのである。痛くないわけがない。

(本気を出すともっと痛い)

 だからカートは優秀な手足を得て、全力を出さずに生きていきたいのであった。

 


 

 

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