81 牛鷲を倒す3
「一応、執事をこの屋敷には置いていて。私の代官としての役割も担わせておりました。歴代、この土地はそうやって治められてきたのですね。ただ、執事では限界があったのも事実ですな」
カートは更に告げるのだった。
まだ、女主人の方が上手く治められたのかもしれない。
(無論、意欲があれば、だが)
内心でカートはため息をつく。
どうしても腕力の必要になる土地柄だ。一方で人を治めるのには腕力ばかりでもいけないときている。
カートは自分の杖を見て思う。今は、椅子に立てかけていた。
「私はお客様扱いで、押しかけてきたくせに。恥ずかしいばかりですわ」
ティスが縮こまって呟く。
それからカートは朝食中もティスとの会話を楽しむ。
だが、楽しんでばかりもいられないのだった。
朝食を終えて、書斎に戻ると、代官も兼ねる執事のオルドリッジが待ち構えている。自分が先代からここを受け継ぐにあたり、見出して雇った男だ。
有能だが武力に乏しく、最後の最後までこの土地を突き詰められない。
(パターガーの頭にこいつの頭が入っていれば、ちょうど良かったんだがな)
カートはかねてからそう考えていた。むろん、カート自身の頭でも構わない。知能の面ではいつも羨ましかった。
「旦那様が戻られて、だいぶ良くなりました。粗暴犯は目に見えて減りましたからな」
今年で35歳になるという。痩せて角張った顔をしている。妻子とともにエフローの町中で暮らしていた。
「俺自身が粗暴犯なんだけどな」
ボソッとカートは返す。
ひたすら犯罪を現認するなり杖で叩きのめしてきた。そんな捌き方で捌けるのは分かりやすい罪状だけだ。
「悪いことは出来ない。まず、そう思わせることには成功した。そういうことではありませんか?」
微笑んでオルドリッジが告げる。自分には甘いと思うことも一切ではなかった。だが、聞く限りでも自分は先代よりも領主としては良いのだと言う。
「少なくとも閣下以外でこのように治安維持に腐心していた方はいらっしゃらなかったようですから」
更にダメ押しでオルドリッジが加えるのだった。
「そんなこともないと思うが、まぁいい。何か報せは来ていないか?」
カートは尋ねて、オルドリッジから手紙の束を受け取る。ほとんどが女王リオナからのものであり、ティスを連れて戻ってこいとのものだ。
「ちょうどレイダマン山を賊徒が勝手に占拠したようです」
さらりとオルドリッジが告げる。
カートに賊徒討伐の用事が出来た。王都へ戻らなくてもいい理由が出来たということだ。
「なら、俺が行く」
当然にカートは告げる。
さほど高い山ではないが灌木と岩池が多く、人が隠れるのには程よい場所ではあった。昔からの猟師の小屋なども点在していたはずだ。
「閣下が都市部から不法移民を叩き出しましたので、あぶれた者共が山に逃げ込んだようですな」
肩をすくめてオルドリッジが言う。
(よくもまぁ、情報を集めてきてくれるものだ)
カートは内心で称賛する。
自分が倒さなくてはならない標的をさりげなく示してくれるのだった。
一度、その話をしたところ、これまでの領主は興味も示さなかったとのこと。
「どこに逃げても同じだ。パターガーのやつではないが。追いかけて叩く。しばらくはこっちも強攻策だ」
カートは杖を手にして告げる。一応、紫の包みも肩にかけた。
「旦那様は歴代とは違います。いて下されば、良い領主です。それこそパターガー様もいて下されば、この地方は安泰でしたが」
苦笑いでオルドリッジが言う。
「一時は女王陛下と、と噂もありましたので。パターガー様でないにせよ、武力の面で抑えられる方がいて下されば、と思っておりました」
カート留守中の平穏、というのが頭の痛い問題だった。結局、カートが王都へ出頭する際にパターガーの同行も求められるのだ。
「あいつも強いし、人探しや何かは俺よりも優秀だからな」
弓の弟子なども取っていて、女王リオナの護衛や他国の腕利きに育て上げたらしい。その面でもパターガーの貢献は大きい。
「ただ陛下とのことはあくまで噂だ。この場はともかく、場合によっては不敬になるから気をつけろ」
カートとしても便利なオルドリッジを下らないことで失いたくないのだった。
「弁えております。しかし、閣下であれば、不敬には当たりますまい」
そこは破顔してオルドリッジが言い返してくるのだった。
エフロー近郊の人間、という意味では自分よりもはるかに経歴が長い。もう40年近くはこの屋敷を執事として切り盛りしてきたという。
(難しい土地だ。だが、ティス殿の言う通りか。本当にそうする事ができれば。バールの隣接地というのは、利点なのかもしれないな)
領主がまずはきちんとすることだ。カートはオルドリッジを置いて屋敷を後にするのであった。




