表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/89

78 臆病者2

 アニスの婚約者デズモンドの腹心、騎士団長のアーノルドがエルニス公爵邸に訪れていた。

 ラマールからの報告にアニスは唇を吊り上げて笑う。少なくとも婚約者デズモンドの前では絶対に見せない、皮肉な表情である。

「会います」

 それでもアニスはラマールに答えていた。見苦しくないよう、服装を整えてから。

(お義姉様がいる時に、貴方は一度だって、この屋敷を訪れなかった。そのせいで、こんなことになった)

 戦いの場ではとても頼りになる戦友なのだが。アニスはデズモンド以上に、アーノルドには厳しい目を内心では向けていた。

「よろしいのですか?お嬢様、無理に会うような間柄では」

 客間へ先導するラマールの言うとおりだ。

 アニスは皇太子デズモンドの婚約者なのだから、騎士団長が訪問してくるなど異様である。

「思惑を探って置きたいじゃありませんか」

 笑ってアニスは応じた。

 肩に感じる、仄かな疲労を思うにつけて、休憩の時間自体は名残惜しくもあるのだが。

(さて、と。何のお話かしら?)

 客間へと辿り着く。

「急な来訪、申し訳ありません」

 まっていました、とばかりにアーノルドが立ち上がって頭を下げる。

 どこぞの戦場から直接、ここに来たらしい。薄汚れた白銀の鎧姿ままだ。

「本日はどういう用件で?騎士団長閣下が、父エルニス公爵の、この居宅を自ら訪れるだなんて、かなりの異例かと思いますが?」

 気を使おうともアニスは思わない。

 力量については高く評価している。

「いえ」 

 アーノルドが言葉に詰まる。

 お互いに戦場では連携を取ってきた間柄だ。アニスがどうの、ということではなく、何か聞きづらいことを聞きに来たのだろう。

(察しはつくけど。私の方から水は向けてあげない)

 笑顔の裏で、アニスは心を硬くした。

 自分はかなりの変わり者だろう、と自覚はしていた。

 義姉エストのことは敬愛しているが、その婚約者デズモンドを奪った格好だ。世間的には略奪愛に見えているのだろうが、自分はデズモンドよりもエストの方が好きなのである。

(多分、お義姉様が殿下に惚れていたら、あっさり身を引いたんじゃないかしら)

 アーノルドのことも、戦友としてならともかく、人としては好きではない。むしろ嫌いなぐらいだと思う。

 それでも表向きは微笑みを顔に貼り付けて、続くアーノルドの言葉を待つ。

「いえ、アニス様はこの状況を、どうお考えになりますか?聖女様が、エスト様が去られてから、この国は魔獣の出現が絶えません。黒騎士が力を増しただけでは、説明がつかないのではないかと」

 アーノルドが一気に述べ立てる。

 誰しもが思い至る結論だ。

「関連があったとして、なぜそれを私に?」

 冷笑を浮かべたまま、アニスは訊き返す。

「アニス様は義理のお姉様にあたるエスト様と、仲睦まじかった記憶があるので」

 自分の対応を、アーノルドが予測出来なかったらしく、露骨にたじろいでいた。

 ただ答えるに値しない言葉になど、アニスもいちいち答えない。

「その、この国にお戻りいただくよう、依頼を出来ないかと、愚考しまして」

 アーノルドが考えを白状した。

(本当に愚考。愚かな男)

 内心でアニスは吐き捨てる。

「それで?この国では殿下のせいで、経歴に傷をつけられたお義姉様に、なんと言って戻って頂くんです?口さがない連中の悪口からどう守るおつもりなのです?」

 アニスは試すつもりで問うてみる。

「それは」

 言葉に詰まるアーノルドを、アニスは心底軽蔑した。

(この、臆病者が)

 アーノルドが淡い感情をエストに向けていたことに、アニスは気づいていた。大したことではない。美しくて気立ての良いエストなのだから。器が小さ過ぎて破談にしたデズモンドの方が異様なのだ。

(でも、殿下はそれが一貫してて、分かりやすいから、私は好きなのよね)

 アニスにとっては、エストに惚れていて、何もしなかったアーノルドの方が憎たらしい。

「また、私のいる位置に、皇太子殿下の婚約者として戻って頂くの?あんなことがあったのに?」

 アニスは更に言葉を突きつける。 

 居並ぶ廷臣や貴族子弟の前で、手切れ金まで払ってエストを追い出したのだ。

 その時、アーノルドもエストの味方をしなかった。ただ木偶の如く立っていただけだ。

「確かにアニス様の仰る通りですが、背に腹は代えられません」

 つまり、自身の都合で、我が身可愛さのため、戻ってもらいたいということだ。

(そんなのは、ダメよ。お義姉様なら、それでも戻ってくださるかもしれないけど。だからこそ、尚の事、絶対にだめ)

 エストが幸せになれるわけもない。また、肩身の狭い思いをさせることとなる。

「特に、デズモンド殿下にはどうお話になるおつもり?頭を下げて戻ってもらっておいて、その説得までお義姉様にさせるのです?」

 硬い声のままアニスは問うていた。

「それは」

 アーノルドが言葉に詰まる。

(自分が娶って、すべての責任を取るぐらいのことを言えないの?この男は)

 だから臆病者だと言うのだ。

「お帰りください。そして、私から都合の良い言葉を引き出そうとしないでください」

 アニスは苛立ちのままアーノルドを追い返すのであった。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ