72 新技2
「とりあえず今は足止めし、あわよくば倒すことです。私の部下たちもまだ散らしておりましたゆえ、集結してきます」
微笑んでヨギラスが告げる。
「思うところがあるのは訊いていて分かりましたが、ご存知なかったのなら、仕方ないと割り切りましょう。そのうえで害悪を駆除するのです」
優しげだったヨギラスの顔が厳しいものに変わる。
「では、話は終わり!」
更にはスラリと剣を抜き放つ。
部下の騎兵たちも槍を構える。
「総員っ!クイッド君を助けるのだ!かかれっ!」
10人の騎兵が槍を構えて突撃していく。整然とした並びに馬の速さも申し分ない。
「ゴアアッ」
ギガンヒッポスが左後ろ脚を10本の槍で刺され、苦悶の声をあげる。だが、効果的には見えない。
「だめ、勝てる相手じゃ」
エストは告げずにはいられない。ギガンヒッポスの巨体に対して、騎士たちの槍があまりに細く見えた。
「では、トドメをお願い致します。我らが敵の注意を引きつけますゆえ」
悠然とヨギラスが告げる。
「聖女様は女王陛下が見込んだ、素質ある御方ですから。今度こそ力を存分に練り上げて、会心の一撃を見舞ってください」
抜き身の剣を握ったままヨギラスが言う。
騎士たちの援護を得て、クイッドがギガンヒッポスの脚に斬りつけていた。
(役割分担って、こういうことなのね)
倒せなくとも当たり前のように、敵に向かっていく騎士たちを見てエストは理解した。
(これが、私の加わりたかった、戦いの輪)
大聖女の連珠をキリリと握りしめる。
「分かったわ。今度こそ出し惜しみはなしよ。ぶっつけ本番だろうと、やってあげる」
決然とエストは告げる。
「使ったことのない技だから、不発が怖かったけど。怖がってなんていられない」
更にエストは加えて自分を叱咤する。
「人生、そういう試しの連続ですよ。素質豊かながら、実戦経験に乏しいと。ならば、いま、積めば良いのです」
ヨギラスの言うとおりだ。
エストは目を瞑る。魔力を大聖女の連珠に流し込んでいく。そうすると頭の中に知識が流れ込んできた。
答えも浮かんでくる。
なぜギガンヒッポスかあらわれたのか。そしてクイッド如きに手こずっていたのか。余分ごとの答えまでも。
「私は光の罠を張る。聖空機雷」
エストは両腕を広げて目を見開く。
光の球がふよふよと宙に浮かぶ。
次から次へと光の球が増えていき、空間を埋め尽くしていく。
空の上を風船のように流れて、ギガンヒッポスの周りにも漂い始めた。
「何ですかっ、これはっ?!」
逃げ惑うクイッドが叫ぶ。泥だらけの円盾を手にしたままだ。
今のところ、騎士もクイッドも光の球には触れていない。エストなりに頑張って、気持ち上めを漂わせているからだ。だが、あまり動かせないらしく、勝手に宙をあっちへふわふわ、こっちへふわふわしている。
「それ、触ると爆発するから」
エストは端的に効能を説明してやった。
「え?」
ヨギラスの部下が一人、槍で触れてしまった。
ドゴンッ、と重苦しい音ともに槍の穂先が消えてなくなる。
全員が沈黙した。
「なんて威力だ。全員、伏せろっ!這って光球から逃れるのだ」
ヨギラスがすかさず指示を飛ばす。
味方である自分の技になんて言い草か。束の間、エストは思うも無差別に爆発するのだから仕方が無いとも思う。
騎兵たちが下馬して愛馬を逃がした上で、這って逃げてきた。クイッドも地面に張り付くようにしている。
「ゴアアアッア」
聖空機雷を気にかけることもなく、ギガンヒッポスが動こうとして触れてしまっていた。
爆発が連続して、その度にギガンヒッポスの身体が欠損していく。
エストは膝立ちになって、機雷を1つずつ増やすことに腐心していた。
「もう十分ですよ」
クイッドが自分の手を握っていた。
ギガンヒッポスが倒されている。横倒しのまま動かない。今度こそ仕留めたのだ。
「倒したの?私、あれを?」
驚いてエストは尋ねる。
信じられない気持ちだ。バール帝国ではアーノルドでも苦労していた強敵ではないかと。
それを自分の新技が仕留めたのだ。
「ええ、でも」
クイッドが険しい顔をして、言葉を切った。
「どう考えても、エスト様がそれを手にしたことで
あれは現れたんだと思います。それは、分からなかったから、今回は仕方が無いにしても」
言葉を選びながらクイッドが説明してくる。
言いたいことは分かった。エストも頷く。
「聖女様、お見事でした」
言葉を発する前に、ヨギラスが部下たちとともに近づいてきていた。
「部下を結集させて、決死隊をするつもりでしたが、それには及ばずに済んで何よりでしたが」
クイッドの言葉が聞こえていたらしく、気不味そうにエストをヨギラスが見た。
「ごめん、私も分かった。あれは母様が遺してくれた遺品でもあり、封印でもあったみたい。なんで、倒さないで封印していたのかは分からないけど」
エストは2人に向けて告げる。
ランパートの森でも自分は同じ事をしようとしていた。そこでも首飾りを回収していたら、何らかの魔獣に襲われていたかもしれない。
「ヨギラス様、あたしは、いったん、陛下に報告します。ちょっと迂闊には回収しないほうが良さそうなので」




