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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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73 新技1

 おかしいとエストは首を傾げた。自分はなぜ光爆を連打したのだろうか。

「クイッド!ごめんね!ちょっと粘ってて」

 自分でも無茶な注文をつけていると分かる。

 既にクイッドにはかなりの時間を稼いでもらっていた。結果として、かなりの距離をクイッドも敵も移動してしまったから、エストも走る羽目になったのだが。

(そんなのは些細なこと。倒せてれば笑い話)

 エストはもう一度、分厚い肉のおかげで無傷のギガンヒッポスを眺める。

(あの光爆、全力で撃って、この間よりもかなり強かったはずなのに)

 エストは『大聖女の連珠』を見つめて思案した。

 光爆では黒騎士はおろかギガンヒッポスも倒せない。つまり他の術を考えないと駄目なのだ。

 結論づけてエストは顔を上げた。

「急いでくださいっ!」

 どうやらクイッドにやられたと思い込んでいるらしいギガンヒッポスが執拗に追いかけている。

「分かってる!本当にごめん!」

 とにかくエストは大声で叫ぶ。

(でもどうしよう?どうしたらいい?)

 新技を使うのだ。分かっているが内心では焦ってしまう。

 初めてのことだ。

 解決策が出てこない。このままでは仲間が死ぬ。

 ギガンヒッポスの走りのせいで地面が揺れている。この揺れも気持ちを焦らせるのだ。

 グズグズしているとクイッドが潰されてしまう。

「ぐわっ」

 泥の塊を円盾で受けて、クイッドがふっとばされる。ふっ飛ばされて距離を稼げたことで、またクイッドが生きながらえた。

(でも、あの泥は瘴気を帯びてるから、生身で直撃されると死んじゃうかも)

 エストは冷や汗をかいていた。なお、あの泥球はクイッドからは見えないものの、尻尾で打って射出している。

「うおおおおっ」

 クイッドがただ走る。思えば最初の斬撃から攻撃はほとんど出来ていない。

 防戦一方どころか逃げ回る一方なのだ。

 エストは深呼吸を1つした。攻撃するのは自分だ。

「私は、この連珠を手に入れたけれど、まだ、何の試しもしていなくて。新技が出来るようになったって、知識では知っているけど。当然、使ったことはない。使えばどうなるのか、私は知らない」

 エストは考えをまとめるために呟く。

 知らずに使う事は怖い。だから無意識に使った事のある光爆を頼ったのだ。

『大聖女の連珠』を見つめる。美しく磨き上げられた純白の聖光石が12個連なっていた。1つ1つが聖なる魔力を倍加させ蓄蔵する。

(これに込められた魔術がギガンヒッポスを倒せるものなら御の字だけど)

 エストは目を瞑る。攻撃魔術でないならば、どうなってしまうのか。最初から素直に応援を求めるべきだったのかもしれない。

(でも、ギガンヒッポスを人里にいれたら。それこそ、こないだ助けたメグリス村の人たちだって)

 クイッドに告げた内容は間違いない。農地をだめにする。瘴気のことがなくとも、現に巨体だけで森を荒らしてしまう。

「聖女様っ!」

 新しい声が割り込んできて、視界に10騎が飛び込んできた。

 咄嗟には誰だか分からない。

「言葉を交わすのは初めてかもしれませんね。私はヨギラス、ラデン王国にて騎士団長の任を賜っております」

 見覚えはあった。女王リオナの近くにいつもいた騎士団長のヨギラスである。端正な容姿の若者だ。

 ティスのことを物凄い目で睨んでいた人でもあるのだが。

(まぁ、私とは特に何のわだかまりもない)

 エストは思いつつ、なぜ姿を見せたのかおおよそを察する。

「女王陛下が、こっそりと護衛をつけてくれてたのね?」

 それも自分に気付かれないよう、遠巻きに、だ。

 かなり大変な任務だったのではないかとも思うが、それだけ聖女としてのエストに、女王リオナが期待をしてくれているということの、あらわれでもあった。

「はい。万が一があっては大変ですから。女王陛下は聖女様を真に妹君のごとく、思っておいでですから」

 そこはヨギラスにとって、微笑ましいことらしく、柔らかい表情を浮かべる。

「助けにきてくださったと?」

 エストは確認する。

「はい。遠目にもあの巨体は見えましたので、疾駆して参りました」

 ヨギラスがクイッドを追いかけるギガンヒッポスを眺める。

 助けは嬉しいのだが、10騎では正直足りない。単純に敵が大き過ぎる。槍を持つ騎兵であっても太刀打ちできないのではないか。

「私のせいかもしれません。私が母の形見を回収したから。予兆みたいなものはあったんです。不吉な気配というか。でも、私は自分の力が欲しくて、抑えられませんでした」

 反省とともにエストは吐露する。

 ランパートの森ではカート・シュルーダーが制止してくれたから、事なきを得たのだ。ここでもクイッドが警句を発してくれていた気がするのだが、自分は聞き入れなかった。

(感覚の訴えるものの大切さを私は知らなかった)

 実戦経験があまりにも乏しいせいだ。エストは自身について、そう、結論づけるのだった。


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