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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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68 異変

 女王リオナからの命により、騎士団長ヨギラスは王都リクロから出撃していた。麾下の200騎を率いている。

 任務の内容は遠巻きに聖女エストを守る事だ。

 それだけの価値があるのか。ヨギラスには甚だ疑問だったのだが。

『あの屋敷に入れて、大聖女の遺した資料も見つけられて、エストさんは本物よ。バールはもったいないことをしたわねぇ』

 女王リオナの言葉だ。

 ヨギラスには知る由もなかったが、エストの今、暮らしている屋敷には、かつて誰も入れなかったらしい。そして資料室の存在なども当然 誰も知らなかったのだが。

(とりあえず、本物である以上、国としてその成長を助けるというのなら、俺はそれに従うだけだ)

 ヨギラスは内心で呟いて馬上から辺りを見回す。

 装備は部下も含めて自分も充実している。ここ数世代では、ややもすればラデン王国開国以来、無かったことかもしれない。

 いつもどおりの白い鎧に、名工銀の剣を吊っている。ともに給金で賄ったものだが、なかなか高価なものだ。

「隊長、聖女様とクイッド卿は北へ向かったようです。聖流ハトメアを遡上しているのではないかと」

 腹心の部下ロバートが報告する。逐一、聖女エストとその護衛戦士クイッドの動静は確認させていた。

「しかし、本当に黒騎士へのここでの警戒は必要なのでしょうか?」

 更にロバートが質問を加えてきた。

 カート・シュルーダーとパターガーの2人が黒騎士を南へ駆逐している。この辺りは逆方向となるのだが。

(言いたいことは分かるが)

 ラデン王国において、個人としては最高位の2人を差し向けているのだ。本来なら叱責ものの疑問ではあるが、無理もないとはヨギラスでも思う。

 北部にいる聖女エストを黒騎士が襲うという想定は必要なのだろうか、と。

「現に一度はパターガー殿から逃れている。そして、狙いはもともと聖女様だったという情報もあるのだから、気を抜くわけにはいかん」

 ヨギラスは馬の頭を北に向けて告げる。部下がやる気を見せないのなら、自らエストの近くを遠巻きに警戒してみせるだけのことだ。

「申し訳ありません」

 弾かれたように姿勢を正してロバートが謝罪してきた。自分が軍令に異論を挟んだことにようやく気付いたらしい。

「今回はいい。特殊性が強過ぎる。だが、通常の任務では絶対に許さん」

 ヨギラスは一応、釘を差しておくのだった。

 歩兵に比べて、若くて経験の浅い人員が多い。ラデン王国では軍の中心が歩兵であり、そちらを目指すものの方が多かった。

(費用が高くて手間がかかるうえに馬糞臭い、と。まったく随分な言われようだが)

 いざという時、現場に急行出来るのは騎馬隊だ。歩兵部隊よりも広い面積を守ることが出来る。

 ヨギラス自身は自らの職責に誇りを持っていた。

(まぁ、だいぶ俺は恵まれている方だが)

 女王リオナや軍人の頂点であるカートの判断により、歴代よりも潤沢な、規定通りの予算をきちんと回してもらえている。

(かつては、馬上での武器の扱いすら訓練させてもらえず、後は歩兵の調練をしていた、なんて時代もあったらしいからな)

 カートの先代たちの中には、騎兵というだけで目の敵にして、理不尽を強いていた者もいたとのこと。何のわだかまりも見せないどころか、利便性を認めて協力的なカートには、ヨギラスも常々感謝をしていた。女王リオナも機動力を重視、というカートの進言を尊重している。

(本人からして、王都中をくまなく歩き回って、犯罪を撲滅しているような男だから、警らの重要性が分かるのだろうが)

 カートの仕事ぶりについては、ヨギラスも認めていたのである。

 問題は女性交際の方だ。

「まったく、あいつは。いつまでバールの小娘などと遊んでいるんだ」

 南へ連れ立って行った、という話を思い出してヨギラスはボヤく。女王リオナの心中は穏やかとは程遠いだろう。

 ヨギラスの中では、女王リオナの相手などカート以外にはあり得ないのである。歴史上もラデン王国では王族の女性と歩兵隊長が結ばれてきたのだから。

 なお、ヨギラス自身は既に妻帯していて、妻との間に娘が2人いる。5歳と3歳、可愛らしい盛りだ。当代としては、娘2人に胸を張って騎兵隊長だ、と名乗れる立場にしてくれていることにも、ヨギラスは感謝していた。そこの肩身が狭いのでは、あまりに悲しい。

「シュルーダー歩兵隊長も南だとよ」

 部下の誰かが話をしていた。ここには10名が待機している。分散しているうち、ヨギラス直下の班だ。

「パターガー殿はともかく、シュルーダー歩兵隊長の方は婚前旅行という話もあるらしいぜ。バール帝国の聖女様、ではなくて、その侍女殿に執心らしい」

 ロバートが笑って話をしていた。

 下らない噂話だ。カートがティスとやらに事実ぞっこんであること以外は外れている。

「聖女様は遠目に見たが、恐ろしいほどの美形だぞ。俺は痺れたようになったね」

 若い騎兵のホーマーが返している。

「それぐらいにしておけ、本人に聞かれたら、その場で打倒されるぞ」

 若い兵士の雑談まで規制はしたくないものの、ヨギラスはたしなめるのであった。

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