67 領地巡回3
2人でルルに見送られながら屋敷の玄関を出る。
「では参りましょう」
カートが脚を引きずって先導してくれる。なぜだか中肉中背のはずの背中を大きく感じられた。
この街はエフローという、カートの領地で言えば州都に当たるらしい。城壁なども無いのだが、住宅や商店が多く密集している。
乾燥気味の気候であり、ティスとしては風通しの良い、戦闘装束でちょうど良かったとも思う。
「あの男」
おもむろにカートが杖で少し離れたところを歩く男性を指し示した。
通行人が多いなかで、ティスも気にはなっている。なぜだかは分からないのだが。
「確かに何か、変でしたわね」
ティスもゆえに頷くのだった。
「視線をこちらに向けて、私の服装に気付いてすぐに逸らしました。そして、俺たちを気にするまい、とする気配が強過ぎる」
カートが淡々と違和感の原因を説明してくれた。
あまりに感覚的な物言いではないかとも思うのだが。
スタスタとカートが男に歩み寄っていく。脚を引きずっているのに、異様に速いのだった。
「おい」
背後から声をかけて、カートが杖を一閃させる。
分かっていたから、辛うじてティスの目でも追えた。足払いのような、横薙ぎの一閃だ。
「ぎゃあ」
無様に男性が尻餅をつく。どうせ打ち倒すのなら、何のために声をかけたのだろうか。
それだけはティスにもさっぱり分からないのだが。
懐から飛び出した手から、燻製肉の包みが転がり出てきた。
「食うに困って、窃盗を犯したか。気の毒だが裁きは受けてもらう」
這うようにして逃げ出そうとした男の背中に、カートが容赦なく杖を突き立てる。
「ぐええっ」
急所を押さえつけられて、走れなくなった窃盗犯が悲鳴を漏らす。
更にカートがもう一突きすると、ぐったり動かなくなった。
「殺したのですか?」
ティスはそっと尋ねる。
「いえ、気絶させました」
表情1つ変えず、カートが答えるのだった。
後は倒れた男性を警邏隊に任せるつもりらしい。見向きもせずにティスの方を向く。
「さてと、次へ向かいましょう」
淡々とカートが告げる。
「は、はい」
ティスは頷くより他なかった。勝手の知らない、見知らぬ土地である。まだ目新しさの方が強いぐらいなのだ。
足を引き摺っているのに、カートの歩く速さは異様に速い。ともすれば自分ですら置いていかれそうになるほどだ。
「ふむ」
カートが鋭い視線を左へ向ける。そのままそちらに歩みを向けた。
「てめぇ、どこに目ぇつけてんだよっ、よぉっ!」
怒鳴り声が聞こえてきた。
喧嘩だ。諍いの原因は分からないが、往来の真ん中で2人の男が怒鳴りあっている。
スタスタとカートがまた2人に近付いていく。
「うるさい」
カートがまた杖を一閃させた。2人の腰をほぼ同時に一撃で打ったようだ。
「ぎゃあぁ」
2人とも地面をのた打ち回る羽目になっている。
「カート様っ?」
喧嘩両成敗にして問答無用である。あまりに一方的な攻撃にティスは声を上げた。
「とりあえず、分かりやすい罪状の者は現認するなり打ち倒すこととしているのです」
カートが淡々と告げる。
ラデン王国内にもバール帝国同様、私闘での暴行は禁じているらしい。
(隣国だし、似通った法制度みたいだけれど)
それだけに逮捕や立件までに煩雑な手続きがあるのではないだろうか。
「こ、こんな理不尽が」
喧嘩していた男の片割れが呻く。
「嫌なら愚かなことをするな」
カートが冷淡に告げて、杖をその背中に突き立てる。
「その、よく、ちょうど、この現場に居合わせられましたね」
一方でティスは感心もしていた。
先の窃盗といい、この暴行事件といい、まるであらかじめ起こると察知していたかのようだ。
「なんとなく、ですね。俺は人よりも感覚が鋭いのですよ」
柔らかく微笑んでカートが告げる。
(こうやって、犯罪行為を片っ端から見つけてはやっつけているから、王都は平和なのね。ルルさんの言うことがよく分かるわ)
何より容赦が一切無い、というのも恐ろしいだろう。
「後で警邏隊が来るから、貴様らはここで寝ていろ」
カートが暴漢たちに告げているところだった。
「まったく、まずはティス殿とデートをするにしても、街の治安を保つところから始めねばならんとは、な」
カートがボヤくのも聞こえた。
「女王陛下とは、こういう外出をされたことはあるんですか?」
ティスはカートに尋ねる。ふと、湧き上がってきた疑問だった。
自分のために治安維持、という点から何となく気になったのである。
その後も犯罪者を見つけるたび、カートが打ち倒すことの連続だった。
(確かにカート様がいれば、治安は安泰、というのもよくわかるわ)
休むことなく動き回り、犯罪者を片端から摘発していくのだ。
日が中天に差し掛かる。
「今日はこれぐらいで、そろそろ昼食としましょう」
微笑むカートに対して、ティスはただ目を細めるのだった。




