66 領地巡回2
同性として女王リオナに同情する余地もティスてしてはあるのだが。だからといって、カートと気持ちを通じさせようという女性を片端から睨みを利かせて強制的に排除してきたのはいただけない。
(で、今回は私ってだけなのかもしれないけど。陛下やカート様からしたら)
ティスはため息をつく。
「カート様にとっては、私もこれまで女王陛下に排除されてきた女性たちのなかの一人なのかしら?」
ティスは零すのだった。元より女王が相手では盤石の立場など無い。それでも不安定な立場というのは、どうしても不安なのだ。
「そんなことはないと思います。旦那さまと恋仲とは言っても、今までは旦那様に言い寄る方が、旦那様が好き嫌いの判断をする前に排除されてたんです。旦那様の方がイケイケで、おまけにこのお屋敷にまで連れ込んでくるなんて、ティス様が初めてですよ」
頑張ってルルが言葉を絞り出して並べる。
「お二人のいないところでは、裏で使用人たちは大騒ぎしてたんですから。あの御方はどちら様だろうって。どうやって女王陛下を掻い潜ったんだろうって」
更に笑ってルルが加える。
ふとノックの音が響く。
「ティス殿、私です。朝早くから申し訳ありません。少々よろしいですか?」
カートの声だ。朝早くというほど早くもない。
寝坊したわけでもないのだが、エストの屋敷にいる頃よりはすべてが少しずつのんびりとしていた。
「まだ身繕い中です。少し待ってあげてください」
代わりにルルが大声で応じた。
「そうか。今日は一緒に。私の外回りに付き合って頂こうかと。屋敷にばかりいては気が滅入るでしょう」
カートが扉の外から、事も無げに言う。
ここ二日ほどは屋敷の中や周辺を見て回っていた。
「ええっ、恋人を?お仕事みたいなものに連れ回すんですかぁ?」
無防備に大声でルルが言う。呆れ果てているようで、聞こえても構わないという声だ。
「ティス殿は腕利きだ。人間性も考慮すれば、こういった見回りでは、俺よりも有能なぐらいだ。サカドゴミムシダマシも容易く仕留めていたし、ブラックバック数頭も相手取る。なかなかの豪傑だぞ」
カートが手放しで自分を褒め称えてくれる。若干、女性として褒められているかどうか微妙なのは気にしないこととした。
「分かりました。私などで良ければ、いくらでもお手伝い致します」
ティスはルルに微笑みかけて、反論を封じた。
「豪傑って、好きな女性に使う言葉じゃありませんから。後で執事様に伝えて、注意してもらいます」
ルルがひそひそと自分の雇用主を批判している。
「そうですね。そこは後で、私も文句を言います」
勿論、ティスとても一生『豪傑』と紹介されるのは御免だ。
「でも、行くのは確定、と。また、あの戦闘装束とかいうのを、お召しになるんですか?せっかく、ティス様はお綺麗なのに」
ルルがしかし、不服げだ。
「そもそも自分の目と髪の色だからって、恋人を真っ黒の格好でパーティーに普通、連れていきます?女王陛下がデートもさせなかった、弊害なんです、まったくもう」
ブツブツこぼしながらも、ルルが衣装棚からティスの戦闘装束を取り出してくれる。独特の、家に伝わる服装だから、他人に用意してもらうと変な感じだ。
「でも、自らお誘いいただくのは、とても嬉しいですし。能力を買ってもらえるのも、嬉しいことですよ」
ティスは笑顔のまま応じた。
チラリと衣装棚の中を見ると、様々な色味のドレスが並んでいる。袖を通してみたい欲求と分不相応ではないかという気持ちが同時に襲ってきた。
「それに、動くっていうことなら、これが一番ですから」
不承不承ながら、ルルが着替えを手伝ってくれる。
改めて自分の腕や脚を見ると肌艶がいつになく良くなっていた。きちんと身繕いをすれば、自分などですら、変われば変わるものなのだと思わせられる。
「完全に密偵の人の服装ですねぇ」
仕上がってからルルがため息をつく。
ティスは腰に短剣を2振り差した。治安が悪いというからには、自分も武器を使うときがあるのかもしれない。
「そうですね、でも、これが私ですから」
女王リオナと揉めても、それを気にかける必要もない。
ティスは軽い足取りで扉に近づき開け放つ。
「お待たせしました」
結果的にはいつも通りの格好で、カートの前に姿をさらしたのだが。
カートが驚いたように息を呑む。
「いや、何度目にしても慣れませんね。本当に、俺を魅了するのが上手な御方だ」
手放しで褒めてくれるのだった。
「とても嬉しいですけど。この格好をあまり褒められると、私、お洒落をどうしていいか、分からなくなりそうですわ」
どうしても色味の豊かだった衣装棚を思い返してしまう。ティスにだって、いろいろ袖を通してしまいたい欲求はある。
「本当にその通りです。ティス様、とても良い指摘です」
そしてルルの呟きを背にして、ティスはカート共に見回りへ出掛けるのであった。




