58 川沿いに進んで源泉へ
急遽、メグリス村から北上して、聖流ハトメアを目指すこととなった。更には流れを辿って源泉を目指すのだという。そこにも大聖女の遺物があるのだ、と。だが、情報としては不確実だ。
(俺ならまず、有ると分かってる方から済ませたいけど)
クイッドは藪を手斧で切り開きながら思う。
元より、エストの目的でそもそもすることとなった、この冒険である。まずはエストの意向に任せるのが優先事項ではあるのだが。
(理解出来るか出来ないか、は別だ)
クイッドとしては村長に噂を聞かされただけで、もう有るのが当然、というエストの感覚は理解出来ないのだった。
「道を作るって、便利だけど、大変な事業なのね。ようやくお父様の苦労が分かったわ」
そのエストが息を切らして後ろから告げる。
貴族令嬢でもあったから、父親が領土に道を作ったことでもあるのだろう。
「いったん、作っちゃえば皆が楽なのに、それまでが大変」
重ねてエストが告げる。
「大変だから、どこに作るかって判断が難しいんじゃないですか?あまり人が通らないところに作っても人とお金と労力の無駄なんですから」
今まさに道を切り開いているクイッドは苦笑いでふりむく。
一応、遠回しにあまり通らない無駄なところに道を作らせているのはエストだ、と嫌味を混ぜ込んでつもりである。
「ラデンって、狂戦士の拓いた国って言われるから、バールじゃ野蛮な国って、偏見もあるんだけど。来てみたら、意外とちゃんとしてて。でも、やっぱりこういうところは人の手が入ってないんだなって感じ」
小まめに言葉を切りながらエストが言う。
無論、エストも歩くのが楽、ということはないだろう。時折、振り向いて無事を確認すると、息を切らせていて、額には汗も滲んでいる。
「そうですね。この辺りはまだ、他国との国境も近くて入り組んでて。街道の整備もあまり進んでないって、カート隊長が言ってました」
クイッドは上司とのやり取りを思い出す。
大変な任務ではある。上に誰もいない。いざとなれば自分に責任が及ぶ。それでいて、エストの希望にも応じなくてはならないし、成果もあげなくてはならないのだから。
(もうちょっと、マシな道はなかったかな)
細い道のような、人が時折、歩いているらしい痕跡はあるのだが。メグリス村に至るまでの間に通っていた街道とはわけが違う。
(意外としっかりしてて、泣き言もこぼさないのは偉いけど)
なんの実力向上にもつながらない、ただの移動で負傷もさせられない。
「そうなんだ」
クイッドの気持ちを知ってか知らずにか。呑気にエストが相槌を打つ。
見れば見るほど整った顔立ちであり、華奢な体型も庇護欲を誘う。
(はずなんだけど、なんでか、そんな気になれない)
クイッドは首を傾げるのだった。よって自分も道を開くことや歩くことに集中できている。
カートなどは出立前にいろいろ心配もしていた口振りなのだが、杞憂に終わりそうだ。あまり浮いた気持ちになれないのである。
(本人が強くなりたいってことに、集中してるからかなぁ)
なんとなくクイッドは思うのだった。
歩くこと自体は苦ではない。一度は通ったことのある道だ。
クイッドはカートやパターガーとともに、ラデン王国全土を一周している。今、思えば英才教育の一環だったのだろう。ほかの若い歩兵にはさせていない経験を多く積ませてもらっている。
(実際に歩いてみないと分からないこともあるって、2人とも言っていたなぁ。自分でも行動してみるんだって。そのくせ、未熟だからって、あんまり外に出してもくれなくて)
クイッドとしては無理な注文と思えてならない。甘やかされているのだか、厳しくされているのだか、判断がつかなかった。
そういった意味では、自分の立場もエストに近いのかもしれない。本当に大変な相手と戦う前には自分も、カートやパターガーが強敵を倒してもらえていたのだから。
(勝てないかもって、いや、勝てなかった相手は黒騎士が初めてだった)
いつしか自分自身でもカートやパターガー以外には負けない、という驕りはなかっただろうか。
「探知するような神聖魔術があると便利なんだけどね。それは、根本的に無いみたいなのよ」
エストが嘆息して告げる。
道の先に目当ての物があるかは分からない。そう思った様子だ。
「何でもかんでも、無いものねだりしてたら、きりがありませんよ。あるものでなんとかしないと」
クイッドは苦笑いして告げる。自分なりに信念のようなものだ。例えばクイッドの場合、手斧が槍に変わることはないのである。手斧で出来ることをするしかない。
「近いことは出来るわけですよ、俺が。耳とか目とか。あと鼻もかな。普通の人よりは多分、遥かに敏感なんですよ。妙なのが近付けば分かるようにはなってます」
少しエスト向けには説明を変えた。
カートやパターガーに、ぼけっとしているのどやされるから順応しただけなのかもしれないのだが。
クイッドは思うのであった。




