55 大聖女の連珠
エストが澄ましている。
シンリンコヨーテの駆除を終え、その報告にクイッド達はメグリス村へ戻ったところだった。倒した場所やシンリンコヨーテの数を報せておく。
すぐに村長が大喜びで何人かの若者を駆除現場に走らせたのである。
「いや、凄いですよ。シンリンコヨーテの死体が何匹も転がってましたから」
そして戻ってきた若者が村長に報告している。
「おおっ、そうかっ!さすがは聖女様とそのお付きの方だ」
村長が手を叩いて喜んでくれている。安心して暮らせる、ということが何より嬉しいのだろう。
(しかも傭兵やら何やらを雇うより遥かに安上がりなんだろうから)
皮肉なこともクイッドは考えるのだった。
「ほとんど、クイッドが倒したんですよね。斧使いとお付きの聖女ってほうが正確かも?」
エストがひねたようなことを言う。
役割や立ち回りというものがある。今回はたまたまクイッドの方が数を倒すべき戦闘だったというだけだ。
「そういう戦闘の流れだったって、だけじゃないですか。それに俺はエスト様が戦うっていうから、行動に出たんですよ?」
現場でもした話である。
クイッドの言葉にエストが曖昧に頷く。
「分かっちゃいるんだけどね、村長さんみたいに手放しで褒められると、ちょっと言いたくなっちゃう」
エストが可愛らしく肩をすくめる。
報告に出ていた若者が目を奪われていた。このエストというのは可愛らしいのである。
「いずれにせよ、これでしばらくは安心して暮らせます。私の言い方がよくありませんでしたな。お二人のおかげです、感謝しております」
改めて村長が頭を下げてくれた。
「一時は軍に救難の要請をして、出動してもらおうかと、検討していたぐらいですから」
更に村長が加える。
厳密には軍人の自分が戦っていたのだから、軍が出動したようなものだ。何かが変わるわけでもないので、いちいちクイッドも説明しようとは思わないのだが。
(確かに俺もちょっとやりづらいな)
クイッドは苦笑するのだった。
「しかし、どう御礼をしたものか。代金を支払うべきなのか」
村長が頭を抱える。安上がりですんだから御礼をしない、というつもりにはなれないらしい。根本のところでは良い人のようだ。
「私は聖女ですから、御礼なんていいんです。魔獣との実戦経験を積みたいっていう、こっちの都合も実はあったので」
気を取り直したエストが微笑んで告げる。
「御礼なんていいんです。大聖女だった私の母も同じことをきっと言うでしょう」
クイッドも同様である。カートやパターガーならば絶対に私行中に魔獣駆除をしても礼など絶対に受け取らない。
「そうですか、しかし、困りましたな。それではこちらの気がすみません」
村長が困った顔をする。
(じゃあ、軍に出動を要請した時に支払うはずだった額面のお金をください、なんて言ったら意地が悪いんだろうな)
なんとなくクイッドは思うのだった。
「では、例えば歓待の証として宴会の場でも。村総出でおもてなしを」
村長が困った挙句、提案してきた。
「うーん、私たち、これからランパートの森へ急いでて。大聖女だった母の首飾りを回収しなくちゃなんです」
無防備にエストが言い放つ。
(今後はそれ、誰にでもホイホイ言わないで下さいよ)
情報が漏れて不逞の輩に待ち伏せなどは絶対にされたくない。当然に警戒するべきところである。
「ほう、大聖女様の」
村長が考え込むような顔をする。何か思うところでもあるのだろうか。
「御礼になるかは分かりませんが、ここから北へ行くと聖流ハトメアの源流があります。そこを大聖女様が訪れて祈りを捧げたことがあるのです」
高齢の村長からすれば、つい数カ年前のことだろう。
「え、お母様が?」
エストが軽く驚いている。
「うん、どっかの泉に奉納品を置いてきた、って日記にはあったけど。ここなんだ」
エストがストン、と納得した顔で言う。
いかにも腑に落ちた、という顔がなんとなく可愛らしい。
「じゃ、ランパートの森の前に、そこへ行かなきゃ」
唐突にエストが決定してしまった。
「ええっ」
クイッドは思わず声を上げた。
街道を行くのとは違う。聖流ハトメアの源泉へ至るには森や林を川沿いに抜けていかなくてはならないのだ。
「別に、ランパートの森じゃなくちゃいけないことはないの。とにかく、あたしが強くなればいいんだから」
事も無げにエストが言う。あながち間違いではないのだが。
「だから、今日も良かったのよ。役立たずだったかもしれないけどさ。初めてちゃんと魔獣討伐の場にいられた。反省もあるし、口だけって言われてきた理由も分かった。でもさ、繰り返すけど、本当に良かった。まずは第一歩。そして次は第二歩よ」
熱を込めてエストが言う。
前向きなことを言われると、クイッドとしても反対しづらい。
「お役に立てることを伝えられたなら、少しは恩返しになりましたかな。この度は本当にありがとうございました。聖女様のご多幸を祈ります」
最後に村長が穏やかにほほ笑んで礼を告げてくれた。
本当はクイッドとしては、それで十分なのである。




