53 ラデン王国南東部へ2
そもそもカートの本音としてはティスと二人で旅行をしている現状が夢のようでならない。まともな恋など、一度もしたことがなかった。
「あの、カート様と女王陛下は」
他ならぬティスが妙なことを尋ねてくる。
どう問いかけたものか判断がつかないらしく、口ごもってしまった。
「先代国王陛下と、私の師匠とが親しかったのです。まだ我々が幼少の時分からですね」
カートは笑って答えた。別にティスが気にかけることなど無いように思う。
もう十数年来の付き合いになるのだから、卑俗に言うなれば幼馴染というやつだ。何も後ろめたいことなど無いので、ティスにはしっかり伝えておきたい。
「つまり、幼馴染ということですね」
思わぬことにティスが顔をしかめる。
「そうとも言えますね。相手が陛下なので、妙な気もしますが」
カートは頷く。
当代の世継ぎがリオナ1人、女王になるということがなければ、自分たちの関係性は違ったものだったろうか。
好悪の情とは別に、ラデン王国での王位と歩兵隊長との繋がりは深い。
(だから、ティス殿と親しくなることは俺の立場が許さなかっただろう)
女王としてリオナが自身の結婚をも場合によっては政治・外交の道具とせざるを得なくなった。
結果、自分と女王リオナとは幼馴染となったのだ。女王リオナの側にも、わだかまりなどあろうはずもない。
「でも、女王陛下は」
ティスが何か言いづらそうにまた口ごもる。
カートの心が女王リオナに無いか。それを気にしてくれているのなら、男としては嬉しい。自分を気にかけてくれている証左だからだ。
「はたから見れば、陛下が私に気を許し過ぎているように見えますよね。しかし、良く言えば頼られていて、悪く言えば便利に使われているだけなのですよ」
苦笑いしてカートは言い切った。
他国の王族を婿入させるのが人質を取ることにもなって、カートとしては良いように思う。
「いえ、そういうのとはちょっと、違うと思うんですけど」
なぜだかティスが気まずそうだ。
(気持ちは分かりますよ。だが、後は御託を並べるよりも、俺が誠意を見せつけるべきことだ)
自分が誰よりもティスを大切にして慈しむことが出来ると。それは時間を重ねていくしかない。
今回のこの任務も無事に進められさせすれば、距離を縮めることともなるだろう。
(そして、陛下も俺に嫁ぐ女性は国政にも影響しかねんと。そう見て色々、ティス殿にも探りを入れているんだろう)
自分の知らないところで、女王リオナがティスに接触を図っている可能性は高い。そして自分が絡むと馴れ合いのせいで非常識な人だから、多少の非礼もあったのではないか。
「そうですね。陛下といえど、我々のことに手出し口出しをするのは非常識ですから。もし何かあれば遠慮なく俺に相談してください」
カートは一応、布石を打っておくのであった。
「はい。分かりました。のっぴきならなくなったら、本当に宜しくお願い致します」
強張った笑顔でティスが頷くのだった。
ティスからは嫌われていないと思う。初めて出会ったランパートの森から今日に至るまで、自分を拒むつもりなら、幾らでも拒めたのだから。
デートにも応じてくれた。問題は見え隠れする女王リオナの影なのだろう。今までにも女王リオナの『審査』によって、身を引いてしまった女性が幾人かいる。
(まったく、あの御方は)
カートはため息をつく。
「しかし、いいんでしょうか」
ティスがふと話題を変える。
「なにがです?」
カートは訊き返す。
「こんなのんびりと旅行まがいのことをしていて。パターガー様は先行して、単独で大変な思いをされているのでは?」
どこまでも生真面目なティスの物言いには本当に好感が持てる。
カートは口元を綻ばせた。
「奴ならば大丈夫ですよ。人探しも追跡も得意ですし、既に単独で黒騎士を圧倒した実績もありますから」
サカドゴミムシダマシの時に遭遇戦で圧倒したのだという。それがなければもう少し、自分も心配していたかもしれない。
(それに、パターガーの奴でダメなら、本当に俺でなければならんということだが。そんな猛者がそうそういるわけもない)
カートは思うのだった。
つまり、自分まで王都リクロから離して追跡に投入するのは余計ごとで短絡的すぎる、と。
パターガー自身も自分一人で十分だと判断しているのが定期報告のたびに伝わってくる。
「一応、私も腕に覚えがあって、お二人の助けになれると思ったから志願したんですけど」
仕事のないことが後ろめたいらしい。本当に好感の持てる真面目さだ。
(俺としては、連絡が来るまでただ待っていて、万が一の際にだけ出動すべきと思うんだが)
カートの見たてでは、黒騎士の行き先はバール帝国かその先の魔獣生息地だ。つまりこのまま追い立ててしまえば良い。
「そう、なんですね。分かりました。すいません、ああだこうだ、と生意気なことばかり聞いてしまって」
そしてティスという女性があまりにいじらしい。
カートはまたティスへの好意を深めてしまうのであった。




