表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/70

48 メグリス村2

 辿り着いたメグリス村の宿屋は、平屋で横に広く、木造で一見して2部屋から3部屋ほど客室があるように見えた。地方の村落ではよく見かける宿屋の造りである。

(王都ならともかく、田舎じゃ、こんなもんだよな)

 クイッドは思うのだった。せいぜいが遠くから来た親戚が時折、泊まる程度の商売なのではないか。

 隣ではエストが好奇心もあらわに、しげしげと宿屋を眺めていた。

「とりあえず宿泊の手続きをしないと」

 クイッドはエストに告げて、主人のいる帳場へと入った。

 初老の店主が暇そうに居眠りしている。

「すいません。今晩、泊めていただけませんか?」

 丁寧な口調でクイッドは尋ねる。

 目を覚ましてから自分を見て、主人が目を見張った。黒い軍服が名刺代わりなのだ。王都の精鋭歩兵部隊の隊員だとすぐに分かる。

「軍の人かい?しかも近衛なんじゃ?まだ若いようだが。そこのお嬢様は貴族さんかな。その護衛さんか、いやしかし」

 困った顔で老人が自分とエストとを見比べる。いかにも訳ありという組み合わせなのだった。実際はただ修行の付き添いなのだが。

「お金はきちんと払います」

 エストがずいと身を乗り出してきた。

「それは、心配していませんよ」

 穏やかに老人がエストにも応じる。

 どう取り繕っても貴族のお嬢様にエストが見えてしまうのだった。

(黒騎士が自由に動けるんなら、ひとたまりもないんだけど)

 目立つ容姿がクイッドとしては気になってしまうのだが、カートやパターガーが牽制してくれているはずだ。そう簡単に襲撃などされるわけもない、と思い直す。

「急にお貴族様が泊まるとなっても、ボロ宿屋なのはどうしょうもないのでね。失礼に当たらないか」

 不安そうに老人が言うのだった。

「こちらも目的地があって、旅の途中です。待遇で不満を述べることはありませんから」

 クイッドはさりげなく銀の粒を幾つか握らせた。

 他に宿屋が無いことぐらいは誰よりも店主が知っているはずだ。かといって、『選択の余地が無いから選ぶのだ』などと失礼なことをクイッドも言いたくない。

「分かりました」

 老人がため息をついた。

「部屋は分けておくが、隣同士だ。何かあれば壁が厚くないからすぐに気づくだろう」

 当然の気遣いを宿屋の主人がしてくれる。

「混んでたら、クイッドと相部屋ってこともあるのかしら?」

 何食わぬ顔で平然とエストが問う。

 クイッドは華奢な肩の線に目を走らせてしまう。大きめの瞳が無心に自分を見上げていた。

(まったく、人の気も知らないで)

 クイッドは苦笑いだ。

 あわよくば抱き締めたくなる。気持ちの上でもし受け入れてもらえたなら、エストのことだから、背中をポンポンとでも叩くのだろうか。

 親しみと愛おしさを隠すような人ではなさそうだ。

(そういう関係になりたくもなるけど)

 エストと婚約しておいて、義妹に乗り換えたという皇太子をクイッドは思う。余程、アニスという義妹が魅力的なのだろうか。

「そういうこともあるでしょうね。でも、とりあえず今晩ではないですよ」

 笑みを作ってクイッドは応じる。

 強気な物言いが気に入らなかったらしいとは、聞いていて分かった。

(それがかえって、良いんじゃないか)

 クイッドはエストの横顔を見つめて思う。

「そこは、ティスの方が便利だったのかもね。横にいて貰う分には。生活のこととか。でも、戦闘の時にはクイッドの方が頼りになるのよね」

 挙げ句、率直な評価をエストが披露するのだった。

(本当のところは、どうかな)

 頼られて嬉しいとも思うのだが、クイッドは首を傾げてしまう。

(カートさんは少なくとも、ティスさんの実力をかなり評価してたみたいなんだけど)

 現に組んで動こうとしているらしい。カートにしては珍しい行動だった。まして、異性が相手である。

 大概は自分を手足のように使うか、パターガーを頼っていることが多い。

「光栄ですよ」

 それでもクイッドは謝辞を述べた。

「ま、自分の事は自分でするから」

 エストが言い捨てて自身の部屋へと入っていく。

 クイッドも自室で荷物の整理をしていると、外からドタドタと足音が近づいてきた。

「お客さん」

 宿屋の主人が廊下から声をかけてきた。

「村長が来て、あんたらに話があると」

 廊下に出ると老人が一人増えていた。辛うじて服装が違うので村長だと分かる。

 一呼吸遅れて、ローブ姿のままエストも姿を見せた。

「あんたら、聖女様とその護衛さんだろう。ちょうど良かった」

 前置きもなく村長が切り出した。

「わしは先代の大聖女様を見たことがある。あんたと同じ桃色の髪に紫の目をしておった」

 どうやらエストの母親の話らしい。

「確かにあたしは聖女で、母も聖女よ。何か用件でもあるのかしら?」

 胸を張ってエストが尋ねる。

「シンリンコヨーテが群れであらわれて、この周辺は難儀している。助けてはいただけないかと。図々しい、唐突な要求なのは分かっているんじゃが」

 申し訳なさそうに、しかし、どこか狡猾な眼差しを村長が向けてくる。

(軍を待たなくて良くて。しかも金もかからないもんな。俺らが倒せちゃえれば)

 聞いていてクイッドは思った。

「いいわよ」

 あっさりとエストが了承してしまった。

 駆け引きも何も無い。口を挟もうとしてクイッドは口を噤む。

「あたしはそう、母と同じで聖女なんだから。困ってる人がいたら助けるのよ」

 誰にともなくエストが告げて、話が決まってしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ