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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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36 女王陛下の目論見2

 ティス放逐の決意を固めていたところ、執務室の扉が静かにノックされる。

「女王陛下、レビアです」

 高い少女の声が響く。

「ビアルです」

 更には声変わりしたばかりの少年の声も続く。

「お入りなさい」

 女王リオナは執務室の席に座ったまま告げる。

 扉が開いて、紫の髪色をした少年少女が1人ずつ入ってきた。少年がビアル、少女の方がレビアという。双子であり、ともに中性的な美しい容姿をしている。

まだ16歳だが、腕は立つ。

「どうしたんですか?女王陛下、とても、酷く悪いお顔をされてます」

 レビアが左手を自身の頬に当てて尋ねてくる。

「いや、悪い顔ってお前。不敬すぎるだろ」

 すかさずビアルに指摘されている。

「非公式な場だから、口調だけでいいかなって」

 レビアが悪びれずに告げる。

「いいのよ、ビアル。これがレビアの良いところなんだから」

 言動が自由な分、思考も発想も柔らかい。

「うふふ。女王陛下、大好きです」

 可愛らしく微笑んで、レビアが机を通り過ぎて抱きついてきた。

「まったく。お前は。シュルーダー卿の件でお悩みに決まってるだろう。陛下のお気持ちも知らず、他国の地味な女に思いを寄せているらしい」

 あまりに端的に、ビアルが状況を言い表した。

「まぁ。陛下が時間の猶予をあげていたら、まんまと裏目に出たってことですかぁ?」

 楽しそうにレビアが頓狂な声を上げる。わざとらしい驚き方だ。

「そんなあけすけに言うもんじゃない」

 ビアルが双子の妹をたしなめる。

 だが、どちらかというと傷ついたのは余りに端的なビアルの説明の方だ。

「いいのよ、ビアル。レビアの言うとおりだから」

 女王リオナは打ちひしがれつつ告げる。

「2人を呼んだのは、カートを南にやろうと思ってるからなのよ」

 公的にはパターガーだけでは黒騎士討伐に手こずるだろうということだ。

 私的にはカートを王都リクロから出す、つまりはティスから引き離すのである。

「ええ、陛下がカート卿を王都から出すなんて珍しいっ」

 レビアが大きな声を出す。

 対して双子の兄ビアルが考え込んでいる。

「恋敵の人を始末するってことですか?」

 しばらくしてからビアルが口を開いた。

「そこまではしないけど。各種説得にそれぐらい時間がかかりそうだから、カートには王都から出ていてもらおうと思ったのよ」

 女王リオナは首を横に振って説明する。

 ティス始末は大変に魅力的な提案であり、つい口元が緩んでしまうのだが。

「でもでも、シュルーダー卿の代わりなんて私たちには無理ですよ。あの人が怖くて犯罪者も寄りつかない町に、リクロがなってるぐらいなんですから」

 レビアが口を尖らせた。

 本当にそのとおりなのだが。女王リオナは頷く。

「そのとおりだけど。黒騎士をこの国から少なくとも確実に締め出すには、カートの力が必要でしょう?パターガーも腕は確かだけど、カートには及ばない」

 表向きにも重要なことなのだ。黒騎士暗躍を放置しては、民がおちおち生産にも専念できない。

 特に今は麦秋なのだ。カートに黒騎士を追わせれば、魔獣を呼ばれても即座に駆除することが出来る。そんな利点もあった。

「話は分かりましたけど。絶対、ティスって人も絡んでますよね?もう、愚図愚図してないで、その人は消して。女王陛下はきちんとシュルーダー卿とお話されるべきでは?」

 ビアルが正論を言う。だが、何事も正論通りにいくものではない。

 女王リオナは首を横に振る。

「だめよ。カートなら始末までしちゃえば、絶対に私が何かしたって気付く。自主的に帰国してもらうのでないと、幻滅されちゃうわ」

 嫌われてしまっては本末転倒なのだ。

「いや、大事なのはシュルーダー卿ときちんと話す方」

 ビアルが小声で呟く。

 聞かなかったことにする。そんなことが出来るなら最初からしているのだ。

「私も、そのティスって人にいなくなってもらったほうが確実だと思いますけど?」

 レビアも双子の兄に同調する。まだ恋心も知らない双子だからそんなことが言えるのだ。

「私はカートに好かれたまま、ティスって小娘に打ち勝って、そして求婚されたいのよ」

 固く決意して女王リオナは告げる。

「はいはい」

 双子が声を揃えて、気のない返事をする。さすがに不敬なので、どうにかした方がいいかもしれない。

「ヨギラス様も、ご出陣を?なにやら忙しそうにされてましたけど?」

 またレビアが口を開いた。軍営の何処かで見かけたのかもしれない。

 確かにヨギラスにも出陣を命じている。

「エストさんを手放したことで、バールには一波乱あるから。巻き込まれないように軍を展開しておくのよ」

 端的に女王リオナは答えた。

「そういう手腕はお見事だし、シュルーダー卿だって尊敬してると思いますよ」

 ビアルがうれしい言葉をくれる。

 だが、若干、違うのだ。

「私は尊敬されたいんじゃない。求婚されたいのよ」

 極めて高度な話なのだ。女王リオナは力を込めて言う。

「はいはい」

 しかし、生意気な双子からは気のない返事がまた返されるのであった。

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