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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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14 女王リオナの胸の内

「まさか、侍女の方に行くなんて思わない」

 リオナは自室でポツリと呟く。

 幼い頃から一緒に育ってきたカート・シュルーダーが美少女と名高い聖女エストではなく、ティスという侍女に惹かれてしまった。

 初めてのことだ。

「今まで、どんな相手にだって心を動かしたことがなかったのに」

 もしかしたら自分にさえも。

 自嘲気味にリオナは加えた。

 何がいけなかったのか。束の間、リオナは思案する。

 ラデン王国では伝統的に、王家の姫と時の歩兵隊長とが婚姻関係を結んできた。建国当初から続く、ある種の政略結婚だ。

(ここは狂戦士の拓いた国。だけど、狂戦士に政治や統治なんて出来ようはずもない。だから、政治家と狂戦士とが婚姻関係を結んだことが、この政略結婚の始まり)

 だから同年代であり、王族である自分と将来的に歩兵隊長として内定していたカートとの婚姻は既定路線だったのだが。

「本当は分かってる。誰も悪くはなくって、強いて言えば、私のお父様とお母様が男児に恵まれなかったことが悪い」

 リオナは1人で酒を少しずつ飲んでいた。

 一人酒である。本当はもう、夫となる人物と酌み交わしていてもおかしくない年齢だというのに。

 自分がいつしか姫ではなく、女王になることが確定的となるにつれて、カートの心が離れた。

(そんなわけないのに。別に、私が女王になるにしたって、受け入れてくれたって良かったじゃないのよ)

 何度も振られてきた。

 事あるごとに女王であることを理由に拒まれてきたのである。

「カートは私を好きだった。何歳かまでは、絶対にそう」

 他の女性と会わせてみて、カートの心が動かないことを確認し続けてきた。やはりカートには自分しかいないのだとその度に安心してきたのだが。

 国内の貴族令嬢はもちろんのこと、今回のエストのように、他国で美人と評判だった者のこともある。

(単純に結婚願望が無いだけ?そんな感じもしないけど)

 ただ、リオナにも靡いてくれなかった。時にはかなり直接的なことを言ってみたこともあるのだが。女王であること、然るべき血筋の婿を貰い受けるべきだという理由で拒まれている。

 もう何度になるだろうか。

「でも、私は独身を貫いて、そして、この国だってもう、私がどことも政略結婚なんかしなくたって、揺らがないぐらいに安定はしているのに」

 リオナは恨めしさのまま独り言を呟く。

 聞かせる相手もいない。聞いてほしいのはカートだけだ。

 いつしか貴族令嬢の大半も自分の隣りにあるべきはカート・シュルーダーだけ、という見方をしてくれていた。

 だから、リオナに何も言われずともティスを囲うような真似をしたのだ。本来、褒められるべきことではないのだが、リオナもつい黙認してしまった。

「カート、なぜ」

 女王リオナは呟く。

 20代半ばか30代前半か。いずれかの段階で受け入れてくれると思っていた。本当に情熱的にプロポーズをされたい。

(ううん。私から申し入れてもいい)

 ラデン王国の歩兵隊長としては珍しく、落ち着いた性格で優しいのがカート・シュルーダーだ。頼りがいのある軍人でもあった。

 結婚はしてくれなくとも、政務や軍事の面では一途に支え続けてくれている。

 酔った頭でリオナはこれまでの半生を思い返す。ほとんどがカートの顔で占められる。

「本当に、あの生意気な小娘をどうしてくれようかしら」

 リオナは心のままを口に出す。

 つまらない小細工は出来ない。当のカートが連日、廃屋敷を訪れては守っているのだから。

「私、あの娘に負けているところなんて、1つもない」

 更にリオナは呟く。

 気づけば酒瓶を半分ほど空けていた。あまり酒に強い方ではないので、酔が思考に幕をかけたようになっている。

「見た目だって。身分だって、当たり前だけど私の方が上なのよ。それに私は魔術が使えるわ。魔術師でもあるんだから、魔術の面でも勝ってる」

 リオナはグダグダと1人で自分の勝るところを並べ始めた。

 何も負けていない相手に、意中の男性を奪われかけている。或いは奪われてしまったというべきなのかもしれない。

 地味な娘だった。黒髪黒眼に黒いドレスを身に着けていたので、カラスか何かだと思ったほどだ。

「例えば、エストさんのところへは、行儀見習いで仕えているのだから、バールにありそうな、あの娘の実家から困らせる?」

 リオナは呟く。

「別な男との縁談?それはだめね。カートが自分で紹介に連れてきちゃったんだから」

 どんな男性もカートが相手では二の足を踏むだろう。ちょっと手詰まりかもしれない。

「はぁぁぁぁっ、カートぉっ、なんで?なんでなの?」

 リオナはテーブルに突っ伏して声を上げる。

 友達のようになってしまった。婚約などするまでもないから、お互いに自由でいたのも仇になっている。とっとと父母に頼み込んで自分に縛り付ければ良かったのだ。

 このままでは、とうとう長年の努力が報われることなく、自分は失恋してカートとティスの結婚式で祝辞を述べることとなりかねない。

(どうにかしなくちゃ。リオナ、どうにかして、カートを取り戻すのよ)

 女王リオナは自分を鼓舞するのであった。

 

 

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