12 女王リオナの生誕祭2
ティスはカートに先導されて、王宮の正門から会場である『白穏の間』へと向かう。
(まだ2回目だけど、本当に立派な庭園だわ)
ティスはキョロキョロと庭園を見回しながら思う。
「また、後日、ご案内しますよ。ここは俺の職場の時もありますから」
カートが笑顔で言う。
「す、すいません。はしたないですよね」
ティスは赤面して縮こまる。
「いえ、気楽に構えてください。無理を言って、来ていただいているわけですから」
笑ってカートが言い放つ。
上司や女王に睨まれれば不都合もあるだろうに、気にさせないようにしてくれるのだった。
先日、エストともに訪れた女王リオナの執務室がある本宮から離れ、別邸へと向かう。貴族らしき着飾った人が多く見られるようになってきた。
意にも介せずカートが足を引きずって進む。
白い屋根の荘厳な建物だ。
「あれが白穏の間ですよ。唯一と言っていい、応接用の建物ですな」
乾いた笑みでカートが告げる。
入口に至った。招待状を詰めていた衛兵に見せる。
「カート・シュルーダー様っ!並びにティス・メルンスト様が到着ですっ!」
とてつもない大声で紹介されてしまった。
既に会場入りしていた人々が一斉に自分の方を向く。
露骨な興味を自分に向けてきた。
(えええっ)
ティスは声にならない悲鳴をあげる。
「まったく、暇な連中ばかりだな。ティス殿が美しいから色目を使っている」
カートもひっそりと毒づく。ただし、こちらは男性がティスに向ける眼差ししか気にならないらしい。
「誰よ、あの女」
更に露骨な誹りを耳にする羽目となった。
「カート様の隣になんて、何を考えているの?」
貴族令嬢の噂話に早速晒されてしまう。
ティスは内心、カートにエスコートされて、女王リオナの生誕祭に出席したことを後悔する。
「女王陛下を差し置いて、カート様と?どういうつもりなの?」
聞き逃がせないような内容だ。なぜ、よりにもよって自分は女王リオナを引き合いに出されて謗られているのだろうか。
「どう見ても平民じゃないのよ」
身分まで持ち出している。
「まったく、聞き苦しい。誰のことを言っているのやら」
カートが眉をひそめる。悪口の方も聞こえていたらしいが、こういうことには鈍いらしい。ティスとは気づかないのだった。
(私以外に誰がいるんですか)
縮こまってティスは思う。
「少なくともティス殿のことではありますまい。身分のことを言うなら、俺の方こそ、ただの軍人なのだから」
クックッ、とカートが笑みをこぼす。
(いや、カート様、お言葉とは裏腹に、普通の軍人じゃないんでしょう、やっぱり)
おかしいとは思っていた。女王リオナの生誕祭に呼ばれるほどなのだから。
(でも、騎士でもなくて、ただ歩兵隊長ってだけなのに、なぜ?)
ただカートに連れられて会場を歩きつつティスは疑問を抱く。
どうやら高位の貴族ばかりが集められているようだ。一見して身なりが良過ぎる。
(てっきり、広く門戸を開いた、そんな行事なんだと思ってたんだけど)
大間違いだった。
値の張るドレス姿の女性や正装している男性ばかりである。
(それを言うなら、私も身に着けているものだけは、高価だけど、ううん、そんな問題じゃないわね)
無意識に、救いを求めてエストを探す。既に会場入りしているはずだ。
「あっはっは、注目を集めちゃって、まぁ」
向こうの方から見つけて大笑いしながら近づいてきた。宣言通り、聖女として金の縁取りをされたローブに身を包む。
(それでも、この会場で一番、可愛らしいぐらいなんだから、反則よ)
ティスは見た目の可憐な女主人を目の当たりにして思う。
「笑い事じゃありません。なんでこんなことに」
ティスはボヤく。
「そりゃ、カート・シュルーダーにエスコートされれば、この国じゃこうなるわよ」
涼しい顔で事も無げにエストが返す。どこで手に入れてきたのかジュースのグラスを持っている。
事情をちゃんと知っているのだ。
「どういうことですか?」
ティスは目を剥いて尋ねる。
「あぁ、ティス殿、お飲み物を取って参ります。しばしご歓談ください」
カートが離れていく。どうやら女性同士の話を邪魔してはならないと思ったらしい。
「この国はさ、『狂戦士が拓いた国』って言われてるわけ」
エストが中身はジュースであろう、オレンジ色の飲み物を少し飲んでから言う。
「だから、伝統的に騎兵より歩兵なのよ。他の国じゃ騎兵隊の隊長してる人が偉かったり、軍の総帥をしたりしてるけど」
ここでは歩兵がそれをするということだ。
つまりラデン王国では軍の頂点にいるのがカートなのではないか。
「ええっ」
ティスは絶句した。
「まぁ、あれだわね。バール帝国の感覚でいえばさ。あんた、あのアーノルドに見初められたようなもんだと思いなさいよ」
エストの説明がとても分かりやすい。
バール帝国指折りの軍人がアーノルドだ。爵位も持つ貴族令息でもある。女性人気も高かったものだ。
「あぁ、なるほど。そうなんですね」
ティスは納得、理解せざるを得ないのであった。




