第6話 ミサキの告白と、世界の綻び
「あんた……何をしたの?」
夕暮れの村の外れ、祠から戻ったレントにミサキが駆け寄ってきた。
彼女の瞳は強い不安と、少しの恐怖を湛えていた。
「どういう意味だ?」
「村の子どもたちが言ってたの。祠から“光”が溢れたって。で、そのあと……“空気が止まった”って」
ミサキは言葉を選びながら口にする。
「空気が……止まった?」
「なんていうか……あの瞬間だけ、村中が静かになったって。風も音も……時間さえ止まったような」
レントの胸に、あの瞬間の“無音の風”が蘇る。
フードの男が現れたとき、確かにこの世界が一瞬止まったように感じた。
「俺……たぶん何かを“使った”んだ。自覚はないけど」
「それって、あんたの力? “ステータスに出ない”やつ……?」
レントは答えなかった。代わりに、ポケットからあの古文書の紙片を取り出す。
文字はすでに消えていたが、微かな熱と、確かに“何かを伝えた”痕跡が残っている。
「これを見つけてから、全部おかしくなった。
俺の中に、何かが目覚めようとしてる。だけど……それが世界にとっていいものなのか、俺にもわからない」
ミサキはしばらく黙っていたが、やがて小さくつぶやいた。
「……あたし、小さい頃に“夢”を見たの」
「夢?」
「火の中に浮かぶ、でっかい門。
その前に立ってる人の顔が、あんたに……そっくりだった」
レントの目がわずかに揺れる。
「その門が開くと、空が割れて、地面が光って、世界が……泣いたの」
あまりにも具体的な夢。
それはまるで、“誰かの記憶”を見ていたかのような――
「ごめん、ただの夢だと思ってた。でも今、あんたを見て……夢じゃなかったんじゃないかって思った」
レントはその場に立ち尽くした。
神にさえ制御されない“観測外”。
そして、古文書に記されていた「門」と「真実」。
「俺は……何者なんだ?」
その問いは、もはやレント一人の問題ではなくなっていた。
彼が動き出せば、世界そのものが、揺らぐかもしれない――
その夜、村の空に一瞬だけ、赤い閃光が走った。
それを見たのは、空を見上げていたほんの数人だけだった。
だが、その“兆し”を見逃さなかった者が、村の外にもう一人いた。
──観測者。
──そしてもう一人、彼らに敵対する“異端の者”が、静かに笑っていた。