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死者の口より愛を込めて!  作者: tttttight!
2章 王都奪還作戦
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闇の果てしなきを

この世界に太陽は存在しない。

私は穴の向こう側、本来の世界に存在する太陽を覗く。

あの星は地球ではない。封印を目的に用意された世界、その一つの惑星に過ぎない。


だから守人が必要だった。


『穿ち手』シャルマ

二片(ふたかた)』カル


神話の時代より生きる存在。星々の頭蓋と世界の守人。


「初めまして。私はラキオラ。異なる未来を望む者。」

無尽の剣戟と突きの驟雨が浴びせられる。空を封じているのは彼らだ。地表より数光年の彼方。この穿孔に近付く者の一切を、星に近付く者の全てに死を齎す存在だ。

剣と槍。ただの一振りの極致はこうも凄まじいものか。

虚空に浮かぶ二柱は感情の一切を見せず、腕の振り足の運び一切を省略し私の殺戮を試みる。

とてもじゃないが何も用意が無ければ既に宇宙の藻屑へとなっていただろう。


「ラキオラ。確認した。マーレ王は呪いに呑まれていた。」

レキオラがラキオラの隣へ現れる。ロスローの遺骨だ。一人の不死者だったモノを投げ捨てる。


「了解です。さて、仕事ですよ。」

王都奪還作戦の裏、宇宙の彼方で極秘裏に作戦が進行していた。

二対二。剣神と槍神に相対するは英雄の系譜。

レクテナがここにたどり着くまでに片を付けよう。神殺しの時間だ。


----------


「おめでとう諸君。人類史最初の宇宙魔法戦へ、ようこそ。」

レキオラさんは全体にそう告げた。

「教典違反のため戦闘は公表されません。」

空への接近はアクレア神教の教典により禁止されている。世界第四位の国力を誇る神聖国を敵に回すことに等しい。この決定は当然だ。俺たちはここにいないことになっている。

「しかしこれから百年続く宇宙魔法戦の歴史、その最初の一ページとなるでしょう。」

宇宙の暗闇に兵士が飛び込む。

「人類に栄光を。目標は敵勢力の撃滅です。頑張って。」

中央管制室が宇宙航行のためその仕様を切り替える。球状の壁内に周囲の船外環境が投影された。

王都の大結界が再展開されたようだ。


レキオラ隊長による提言が認められ、戦闘に使用されるあらゆる装備が改造を施された。わずか数週間で完全な配備を終えることが出来たのは、帝国軍技術班とレクテナらによる突貫作業の賜物だ。

帝国海軍の艦隊そしてブロードセレストは宇宙戦闘艦へと拡張された。歩兵装備は船外宇宙服と同等の機能を発揮する魔術回路を刻まれた。

やがて全ての勢力が大気圏の外へと脱する。魔王軍の特殊強襲部隊もまた魔王による支援魔術が作用し船外での活動を始めた。


「王都の大結界はマーレ王を閉じ込める檻として働きます。ここは私と彼女の二人きりにしてくれませんか。また会いましょう。護衛してくださりありがとうございました。」

突如船外に放り出された。自動で船外活動用の魔術が起動する。空気がないはずだが息ができる。そして練習した『浮遊(フライ)』と同様の感覚でもって移動できる。レキオラさんが仕様そのままに内部の魔術をすり替えたのだろう。部隊との合流を急ぐ。


「Rookie, be careful! I won't help you next time, maybe!」

浮遊する王都の直下、先行するジョン先輩を追ってブロードセレストへ向かう。


----------


メオ・ワーグは王都城門を守護するオルド王国現最強の戦士だ。

先の魔王軍侵攻にあたっては二百万の軍勢を前に五日間に渡って屍山血河を築き上げたという。

彼は今も城門の前に在った。


しかし肉体は引き裂かれ、肉が少し残る頭蓋と上半身の骨格だけが路傍に転がっていた。鉄扉には彼のものであろう血が張り付き、辺り一面に肉がばら撒かれている。


死んでいる。


だが彼はそこに在る。

「がははっ!見事な死に様よ、ワーグの子!次はその生き様を見せてみろ!」


アララト皇帝は惨状を前にして豪胆に笑い飛ばす。

すると飛散した血肉が動き出した。肉が沸き上がり、門の前に一人の男が復活する。

「これは陛下...見苦しいものをお見せしました。」

「よい!血生臭さまで父親譲りとはな!貴様らは我を退屈させぬ!素晴らしい!」

皇帝は恭しく一礼するメオの肩を叩きながら言った。


「ありがたき御言葉...」

「その様子だと我が娘に敗れたようだな!不死の呪いも貰いおって!」

「…左様でございます、陛下。」

「ははは!よい、よい!貴様の忠誠と強さは変わらぬだろう。どうだ、退屈していたところだ。久しぶりに稽古をつけてやる。」


----------


「ふふ、久しぶりですね。私のレクテナ。」

「師よ。あなたほどの魔術師が呪いに呑まれるとは...失望しました。」

「それは残念。それで、これは全てあなたの作品ですね?素晴らしい。綺麗で、不完全。まるであなたのよう。」

中央管制室に二人はいた。師弟の再会とは言え朗らかさは皆無だった。レクテナはマーレを真正面に見据える。その警戒を意に介さず、マーレはふらふらとコンソールに向かった。


「ほら、ここなんてこうすれば完璧。」

浮遊都市(レクテナ)の自動航行システムを構成するプログラムを一目見て更に最適化するマーレを前にレクテナは特段驚かなかった。


「その程度師なら気付いて当然です。」

「ありがとう。その私は今いないけど、きっと喜んでくれていると思うわ。ふふ、ありがとう。」

マーレは口元を隠して笑う。その様子がひどく不気味に映った。レクテナは今彼女だけの戦場に立っている。


地上から隔離したマーレの扱うことのできる魔力は極限まで減少した。しかしその運用効率は常人の比でない。レクテナが指先ほどの火を起こす魔力で彼女は軽く星を砕くだろう。


レクテナは師の消滅を望んでいた。これ以上自分の中に在る『師』を穢されてたまるか。


「師よ。ここにあなたを構成する魔術回路の終了プログラムがあります。」

「ふふ、考えることは同じですね。とても仲が良かったんでしょうね。ふふふ。」

中空に数多のコンソールが浮かび上がる。同時に浮遊都市の航行プログラムが攻撃を受け、その高度を下げ始めた。その後すぐ修正が当てられ状態制御が正常に遷移する。


後の世に情報魔術戦と称された、人類未知の空間における戦いが始まった。

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