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死者の口より愛を込めて!  作者: tttttight!
2章 王都奪還作戦
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空中戦闘機動

「レクテナ部長!第三飛行ユニットが完全に沈黙。高度は継続して低下しています!」

「迎撃システムの約半数を破壊されました!隔壁によるダメージコントロール、追いつきません!」

「艦内魔力回路に未知の侵入形跡!航行システムが乗っ取られかけてます!」


「ぅるっさいですよ!変態共!機関部へ!外部区画から順に爆破信号を送信!取りついた敵勢力ごと吹き飛ばせ!操舵へ!海上へ全速力!戦域魔術リンクへの再接続を試行!航空能力の維持を最優先!」


魔王軍特殊強襲部隊は世界に残存する数少ない空軍の一つだ。そして絶対の制空権は彼らの代名詞。

地上戦力のほとんどは竜の爪と炎の前に無力であり、地対空制圧魔術の整備も満足に為されていない今となっては、無双の竜騎兵として君臨していた。


不死局の中央本部はその戦術的価値からほとんど要塞のように運用される。拠点への意図しない接敵に自動で応戦し戦闘行動の最適化を支援するようシステムは構築されていた。


「近づく敵の殆どは自動で撃墜される。そんな警戒網を突っ切ってこのサイレンを鳴らす連中は大抵厄介なくらい強い。そして、そういった連中をぶっ飛ばすのが今の俺たちの仕事だ。」

レキオラ隊長は鉄板の仕込まれた靴と床をごつごつと鳴らしながら歩いている。


「王国の空軍も正式には軍縮の限りが尽くされた。うちの立ち位置は少々特殊でな、しぶとく生き残っている。俺は別の畑出身だが、まあそれはどうでもいい。」

隊長はロッカーから取り出した物を俺に押し付けた。銃のような何かと弾だ。


「お前はそれを敵に向けて引き金を引け。これまでお前に仕込んだ技術を使えば牽制くらいにはなる。当たりはしないだろうがそれは向こうも同じだ。さて仕事だぞ、新入り。この船が落ちたら俺たちの首が飛ぶと思え。」


分厚い扉を開けると、強い風が吹き込んだ。初めて気付く。ここは空の遥か上だ。


オルド王国不死局中央本部は領土北東部のとある建造物内部に設置されている。

レクテナが設計から建造まで携わったとされ、その正体は『広遠たる天空』を名に冠する浮遊戦艦。正式登録艦型は『スカイローツェ級戦闘艦ブロードセレスト』。

搭載された火器のほとんどは彼女の作成した制御回路によって統率される。


魔術全盛には未だほど遠く、そして科学の廃れた現代に生まれた天才が生み出した一つの奇跡。


扉の向こうは薄暗い艦内とは対照的にひどく眩しかった。目を細めていると隊長が外へ落ちる。それを追いかけて下を覗くと隊長が風を切って上昇した。向こうでは黒い点が縦横無尽に飛び回り雲が割かれ爆音が轟いている。

「好きに動けー。行動開始。」と遠くから聞こえた気がした。


「ああくそ、やってやる!」

何もないそこに一枚の板を想像する。その板は自分の意志で上下する。この数か月何回も練習した成果を見せよう。


----------


ブロードセレストはまさに戦艦だった。あちこちに被弾し黒煙を上げながらも継戦している。空に浮かぶ異様の鉄塊は外に出た俺を置いてけぼりにする速度で東方へ突き進む。

戦場となる空域もそれに従って変化し、敵勢力の目的がこの船である以上想定を上回る魔術出力を求められた。あの練習が無ければきっともう戦場で迷子になっていただろう。


竜の存在は圧倒的だった。被弾面積は自陣のそれより大きいが描く軌道が異質だ。大きな両翼が風を掴み、急制動と滑空を自在に切り替える。全体的には多彩な攻撃手段に苦戦を強いられているようだ。

黒い竜は魔王国の固有種であるという。硬質の鱗は適切な角度以外からの攻撃を無効化する。


試しに一発無駄撃ちしてみた。反動はほぼ無い。青い炸裂光が銃口で弾け、遠くの雲に穴が開く。相当な射程距離が認められた。残りの弾数は五十発も無いだろう。無駄撃ちするなという意味だろうか。

先輩らが遠くで応戦している中艦橋の後ろに張り付いていると、黒い竜が一騎警戒網を通過して前方から接近してきた。

ふと艦橋に見えた珍しい金髪はレクテナさんのものだろう。役割として脳に等しい艦橋は当然それ相応の障壁に保護されている。だがその敵騎兵は何か雰囲気が違った。竜からも機兵からも血が零れている。そして何よりぞっとするほどの魔力を感じた。間違いなく、特攻だ。

汗が吹き出し、腰だめで引き金を絞り連発する。命中した一発が騎兵を落とした。一瞬竜が軌道を乱すも、莫大な魔力はそのままで前進は止まらない。

こんなものは豆鉄砲もいいところだ。何か。何か手段は無いか。

逡巡。

戦場における致命の一瞬だった。竜の牙が俺の胴を裂く。

しかしこの戦場を駆ける彼らにとって、その一瞬は慣れ親しんだものなのだろうか。

牙が外套に触れたと思った瞬間、突然現れた男が竜を蹴飛ばした。


「Nice to meet you, rookie! Take it eeeeasy! 」

彼方の爆炎を背負い、ジョン先輩が笑った。


----------


ブロードセレストは水中戦闘へ移行した。

この艦は不死者を幽閉する空中牢獄としても機能していた。落下死や溺死は自殺と見なされ、不死者への強力な牽制として働く。当然、艦は水中牢獄としても機能するよう設計された。

隔壁を閉鎖し潜航したブロードセレストは海水を盾に継戦する。竜騎兵と自陣共に半数の戦力を逓減させた。

そして動力のほとんどを失った艦は中央大陸東方の南中央湾海流により南方へ流される。

やがて、王国の領海を抜けた。


「がーはっは!我が帝国の領海へよく来た!歓迎しよう!そして滅びよ!」


戦場を覆いつくすような大声量。そして海を覆うような大艦隊。

瞬間、隊長の魔術だろう、全員に一斉撤退の指示が走る。

その後、真昼の明るい空がなお眩しい光に満たされた。一帯の空に鉄片がばら撒かれ、光が乱反射する。赤い血が追うように零れ、竜騎兵の大半が海に落ちた。

これを皮切りに魔王軍特殊強襲部隊は撤退を開始する。

そしてオルド王国不死局中央本部および構成戦力は南方を支配する世界二位の大国家、アララト帝国に鹵獲された。

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