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悲涙の雨が上がるとき

聖女アラクアは彼女の母、時間の神アレンにより地上へ堕とされた。

彼女が父を殺したから。

アレンと空間の神ロスローの間に生まれたアラクアはあらゆる創造の力を有していた。

親である二柱を除くあらゆる神もあらゆる祝福の力も彼女が創造した。

ロスローは彼女の子らの頭を全て落とした。落とされた頭は星となり、夜空に輝いている。

罪と罰が暗く輝いている。


----------


魔力の正体は呪いだ。アラクアによる封印によって希釈された悪意が只人へ寄生する。自身の消滅を恐れた悪意がその芽を他者へ植え付ける。その報いとして魔女だけが扱えた秘法に手をかけることが出来る。

根源である全ての呪いが魔女と共に生きている今、魔術は彼女しか扱うことは出来ない。

カルという肉体に無双の一振りと、マーレのあらゆる魔術の知識を以ても一度たりとも彼女には勝てたことはなかった。子供のようにあしらわれる。実際子供なのだが。


過ちの一つ目を正す試みは諦観されつつあった。

魔女エンデの凶行を止める試みは今の俺には少々荷が重い。だが諦めるにはまだ早い。何か、何かないか。


「カル。何を考え込んでいる。時間の無駄だろうに。」

「あーっ。お前だ!少し手伝え。」

一人がだめなら二人で。試みる価値は十分にある。


「何を言うかと思えば...誰が好き好んで人の母親を襲うんだ」

予想通り断られた。ここから数週間動きを封じるだけでいいのだが。

仕方ない。


----------


呪いが大陸を覆わんとした時、オルドの王は追放された。西方の大陸へアラクアによって導かれた。

彼は何を思っただろうか。伴侶を失い、子を残し、父たる運命に背いた。

ただただ強くあった。世界の誰よりも強くあった。地を割り空を裂き、理さえも歪ませてみせた。

空っぽの強さだった。愛する者を守ろうと手に入れた力は何もかも救わなかった。


彼は笑う。戦いは終わっていないから。

彼は知っている。いつかその高笑いは本物になる。


かつて、オルドの王は魔女を一度倒している。呪いに呑まれたエンデを救ったのは彼だ。馴れ初めでもあったという。


「がはは!カルよ!何を迷っている!」

「父上。母上の弱点を教えてください。」

いつものことだ。どこからともなく現れる彼なら知っているだろう。呪いの攻略方法を。


----------


レクテナは過去に渡るイツキへいくつかの手土産を持たせた。これはその内の一つ。最も実際はその保管場所だが。

神性存在を害する手段は決して多くない。

かつてロスローに対しアラクアが使用した聖遺物。『継ぎの刃(イモータルアベル)』。

アラクアと共にアレンが地上に打ち捨てた最初の聖遺物。ロスロー自身の手によって用意された神殺しの刃。


「それを使えぃ。我にはもう必要ない。」

少し驚いた。今まさに俺が探していたものだったから。アララト王から差し出されたそれを受け取る。


「呪いは厄介だ。我の拳でさえ未だ完全に越えられない。そいつでエンデの呪いを俺に移しているが...兎に角あいつは恐ろしい女よ。」


「我はエンデを愛しているが、お前たちを更に愛している。お前が正しいと思う選択なら我もそれを選ぶだろう。」


「愛しているぜ、息子よ。」

恐らく全てを見透かすアララト王、いや父はそう言い残し消えた。その日の空はやけに晴れていた。


----------


結論から言おう。この時代の過ちは俺による修正の全てを受け付けなかった。あらゆる工作が妨害され、成功したかに思えば突然すべてが台無しになる。どうしようもなかった。


全てを無かったことにすることが目標だ。この永遠の繰り返しも悲劇も何もかもを無かったことにする。呪い無き世界へ導く。レクテナさんとラキオラ局長から託された唯一の希望。


しかし過去とは繊細だ。

もし俺がアラクアを殺害し、時間を遡行、ロスローの凶行を全て阻止したとする。その瞬間俺たちは存在を失う。誰かが犠牲にならなければ、俺たちは生きられない。頭蓋の上に俺たちは生きていたから。


これは予測だが、空間の神ロスローは呪いに呑まれている。彼が死亡したことで、魔女エンデが発生したのだろう。よって呪い無き世界のため、俺が取ることのできる選択肢は一つだけだ。


アレンとロスローの両方を殺害する。そしてロスローから呪いを取り除き、自身に移す。未来の俺たちが生きるための頭蓋は用意される。簡単ではないが、やるしかない。

呪いは不滅だ。だが対処のしようがない訳ではない。かつてアラクアがそうしたように。


----------


修正すべき真の過ちは更に過去に潜む。そのために、聖女アラクアにこの刃を突き立てる。

だからこれが最後の悲劇だ。


友よ。シャルマよ。我が凶行をどうか恨んでほしい。いつかお前たちが笑っていてほしいからこの刃を握るのだ。


肌に刃はすんなりと沈んだ。柔らかな白さに眼を焼くようなまでの赤さが湧いた。


どうして。


彼女はいつもそう言う。とくんとくんと鼓動が小さくなり、やがて止まる。命から能力から何もかもを継いで、俺は彼女を無言で見送った。そして背後に男が叫ぶ。

シャルマは俺が用意した妨害の一切を跳ね除け、エンデの寝殿に至る。


妹であるエトーレは聖女アラクアの依り代となっていた。見た目は違えど、自身の母の神性をシャルマはエトーレの中に感じ取っていた。

母を宿していた亡骸と血を滴らせる刃を握る俺。一瞬で状況を理解したシャルマは激情に駆られる。

その神槍が俺の頭蓋を穿つ。

眼には涙を浮かべていた。恐らくそれは俺も同じ。


「またいつか。」


景色が切り替わる。あんな顔はもう二度と見たくない。

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