死者の口より愛を込めて
「この作戦の鍵はあなたにあります。」
「あなたは未来から来た。時間遡行の能力がイツキさん、あなた本来の能力で、この遺骨はその肉体の持ち主の所有物だった。私はそう推論します。」
ロスローの遺骨を返却する彼女は端的にそう告げた。黙り込む俺を前に続ける。
「聖遺物、不死継ぎの痕跡、死に対する姿勢、そして何より局長たちを知っていた。間違いありませんね?」
あの日、契約を前にしたあなたは取り乱さなかった。これが疑いの種だった、と。
神妙な空気に置かれ、自然と責められているように感じた。
「...驚きました。ただ誓って、俺は本当に罪を犯していません。それは信じてほしい。」
「心配に及びません。あなたはこの戦場で何者の命も奪わなかった。あなたはただのビビりです。」
「バカにしてます?」
レクテナさんは手元の資料で口を隠して軽く笑った。なんなんだこの人は。
だが自分でも把握しきれていなかった出来事の詳細に彼女は迷いなく答えてみせた。
情けない話だが俺が置かれた状況を彼女は俺より深く理解している。俺はただ元の世界へ戻りたい。彼女ならその方法を知っているのではないか。
「我々は帰還の手立てを用意することが出来ます。ここから先はラキオラ局長直接の伝令です。くれぐれも、他言無用で。」
返答は決まっていた。
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ラキオラとレキオラは死亡した。
存在の一切を刻まれ、そして穿たれ、次元の狭間に打ち捨てられた。
そしてレクテナの用意した航行システムの真価が発揮される。
カルとシャルマは星に近付く一切を撃墜する。
その対策が必要だった。浮遊都市に搭載された防衛装置の一つ。大結界は王城を中心とした球状の次元断層を構築し、あらゆる干渉を無効化する。ロスローの遺骨の解析を経た成果だった。
局長と隊長により一時的に停止されたその警戒網は彼らの死亡を皮切りに再開された。レクテナは結界の負荷が急激に上昇したことをモニターから確認し、正常に動作したことを喜んだ。そして彼らを偲んだ。
座標跳躍を経た浮遊都市は陽を臨む穿孔へ辿り着いた。
部隊の全員が番人を目の当たりにする。星空の真実を目の当たりにして、怯える者もいた。
そしてレクテナはイツキへと告げる。
「不死者は自分が殺した相手・自分を殺した相手の肉体と記憶を乗っ取ります。あなたの場合は自分が殺した相手を乗っ取り、時間を巻き戻す。具体的にはその人がこの世に発生した瞬間まで。」
「イツキさん。あなたには我が師マーレ王の能力を継ぎ、呪い無き未来へ私たちを導いて頂きます。幼き『穿ち手』シャルマまたは『二片』カルとして、混沌の一切をその起源から消し去ってもらう。」
「これがラキオラ局長の提言した作戦。『神話の再演』。」
「作戦の詳細を説明します。」
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マーレ王は停止した。しかし死亡していない。
彼女は自身の力を弟子へと遺した。魔術師にとって弟子への贈り物は永遠の別れを意味する。
彼女の不死性と膨大な魔術の知識がただその義体に残置された。
レクテナはイツキの人格を義体へ保存する。霞のように漂っていたマーレ王の不死性がイツキの元に統合される。ただこの瞬間もマーレ王は死亡していない。システムの全域を覆う霧のように漂いながら生きている。
そしてイツキはマーレ王の義体でもって、番人の一方を殺害しなければならない。
「マーレ王は彼らにとっての妹にあたります。朽ちた精神でもっても、彼らはあなたを殺せはしない。二度過ちを犯すほど彼らは愚かではない。だからこそ今のあなたは彼らを殺すことが出来る。」
どのみちこのままだと全員滅びるとレクテナさんは説明する。曰く全てが呪いに包まれるのだとか。
それにしても非道い話だ。肉親の姿で肉親を殺させるとは。だが覚悟は決まっている。俺はこれから明確な自分の意志で他者を殺す。
「それでは、過去で再び逢いましょう。」
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作戦は成功した。
『二片』カルは死亡し、世界が過去へ巻き戻る。
世界はかつて一つだった。呪いが興り、その封印のためにこの世界は用意された。
イツキの望む帰還は呪いの興りを止めることで叶う。
かつての過ちを正し、世界の分断が無かった未来へとすり替えれば全てがなかったことになる。
全員が望む未来へと変わる。
ラキオラは次元の狭間から呟く。
「死者の口は何よりも正直だ。だから彼らは口を噤む。私は全ての死者の声を聴くことが出来る。イツキ君、君はこれまで何回も死んでいった。私も何回も死んだ。運命に囚われた私たちは抗い続けることしかできない。そんな中君は私たちの救いだった。いつか来る救済を夢見て、祈っているよ。」
「死者の口より愛を込めて。」
第二章謎一覧
- アララト・オルド皇帝はどうして王国を去り、皇帝となっているのか
- 隊員たちが見た星空の正体とは
- どうして浮遊都市が必要だったのか
- どうしてカルが死んだのか
- ラキオラはどうして生きているのか
- どうして主人公はビビりなのにカルを殺せたのか
- カルとシャルマが過去に犯した過ちとは
- ラキオラの目的とは
- どうして王城が(世界で最も)高いのか




