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忌々しきその形

作者: 小雨川蛙

 

「これにしようかしら」

 ペットショップを一周した老婦人が一つの檻の前で立ち止まってそう言うと店員はにっこりと笑う。

「この子が一番良かったですか?」

「そうね。この子、昔の友達にそっくりだもの」

「あぁ、そうでしたか」

 そう言って店員は檻のカギを開ける。

 中に入っていた命は這うようにして四つ足で歩いて老婦人の下へやって来た。

「足で立てるのよね?」

「もちろんです」

 店員が口笛を吹くとそれは二本足で立ち上がる。

「言葉を話せるの?」

 店員が頷くとそれは深々と一礼して言った。

「もちろんです」

「あぁ」

 その声を聞いて老婦人は感嘆の声を漏らす。

「すごい。本当にすごい。人間にしか見えないのに、これが人間じゃないなんて!」

 そう。

 それは人間そのものにしか見えない命だった。

 料金を支払って老婦人は店員に礼を言って店を出ていった。

 その隣には老婦人の荷物を持つ彼女のペットが歩いている。

 店員は特にその光景に何か思うことはなかった。

 何せ、それが仕事であるのだから。

 あえて、言葉にするのであれば「老婦人があれだけ幸せそうなのだから良いことをしたなぁ」だろうか。


 老後の寂しさを紛らわせるのに犬や猫を飼う人がいる。

 そんな犬や猫が喋れたらどうだろうか?

 いや、それを造るならばいっそのこと人間の形を持たせてはどうだろうか?

 顧客は例外なく寂しさからペットを求めるのだから、きっとこれは売れるに違いない。

 そんなあまりにも業深き考えの下に造られた命は犬や猫と同じく十数年程度の寿命しか持たないが、それ以外は街中で見かける人間となんら変わりない。

 いや、あるいはこれは品種改良をされた人間そのものだったのかもしれない。

 いずれにせよ品種が出来た当初は多くの非難や批判があったものだが、少なくとも今この時代においてはそんな的外れの指摘なんかより、犬や猫よりも簡単に世話が出来ておまけに寿命の短いペットは広く深く受け入れられている。


「ねぇ、あなた」

 老婦人のはしゃぐ声に命は微笑み返す。

「はい」

「これから私達は家族なの」

「ありがとうございます」

「だから、まず敬語をやめて」

「わかった」

「それから、名前をつけなきゃね」

 ペットは意図の読めない一礼をしたが新しい家族に夢中な老婦人は気づかなかったようだ。

「あなたの名前は……」



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