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ミッション5 相手の光を見る

 4時、お店に出た。すると、今日は早番の葉月ちゃんがやってきて、

「これ、見ましたか?」

と、例の私と昴くんの写真が載ってる雑誌を、持ってきた。


「見たよ」

「星野さんですよね。ちょっと写真ぼけてるし、わかりにくいですけど…」

「うん。そう」


「他に気づいてる人はいないみたいですけど…、昴くんが深夜に女性とデートなんて見出しがあったから、私びっくりして中見たら、星野さんだったから…。でも、ちょっと安心した」

「え?なんで?」


「他の人だったら、嫌ですもん…」

「……」

 葉月ちゃんから、黒のもやもやが出た。と同時くらいに、自分からも出ていることに気づいた。葉月ちゃんに言われて、私も昴くんが他の子と深夜にデートとかしてて、写真が載ってたら嫌だなって思ってしまったからだ。


 嫉妬だ…。いけない…。どうしよう。自分から出た黒の霧と、葉月ちゃんから出た黒の霧が混ざり合い、辺りを覆い出した…。


 こんなときには、光を出して消す…。どうやって?誰かを好きだって思うこと?葉月ちゃんを?でも駄目だ。私から発せられるこの黒のもやもやは、葉月ちゃんを好きだって思ってみても、消えないんじゃないの?


『葉月ちゃんに愛を送るのも、一つの方法。もう一つは、自分のことを愛することだよ』

 突然昴くんの声がした。私の声聞いてた?


『昴くん、どうしようって呼んだでしょ?』

『私が?無意識に呼んじゃったかな…。ごめん』


『大丈夫、これから出るところだったし。それより、自分をね、愛するといいんだよ』

『自分のことを?』

『そう。嫉妬しちゃってる自分も、受け入れて、愛しちゃうの』


『え?そんなこと出来ないよ』

『嫉妬する自分を醜いって思わなくてもいいんだよ。俺も、嫉妬したじゃん。緒方って人に。そんな俺のこと、愛しいって思ってくれたでしょ?一緒だよ』


『一緒?』

『いいんだよ。どんな感情も、持っちゃいけないってことはないんだ。出たら、その感情を愛しちゃうの。それが、自分から出た負のエネルギーを浄化するやりかた…。思ってみて。嫉妬してる自分も可愛いってさ』


『可愛くないから、思えないよ』

『可愛いよ。俺、嬉しかったし』

『独占って、だって、執着で本当の愛じゃないんでしょ?』


『そうだよ。でも、そんな感情を持ってるひかりも、可愛いって思うよ。俺』

『え~~~~?』


 なんだか、いきなり恥ずかしくなった。それから、そんなことを言ってくれることが嬉しくなり、そんなことを言ってくれる昴くんが、愛しくなった。


 ふわ…。光がいきなり私から飛び出た。それがどんどんと広がり、黒の霧を包み込み、消してしまった。

『あ、消えた…。昴くんのことが好きだって思ったら、消えちゃった』


『ああ、そっか。俺は、ひかりだもんね』

『ふふ…。変なの』


『じゃね。これから劇場行ってくるから』

『うん。頑張ってね』

 昴くんの声が消えた。私は、落ち着きを取り戻し、仕事に打ち込みだした。


 仕事が終わり、家に帰った。遅い夕飯を食べ、そしてゆったりとお風呂に入った。

 思えば、遅いバイトの時間でも、母はあったかいご飯を用意してくれた。今までそれが、当たり前のことのように思ってたけど、これも私を思ってのこと。愛情だったんだ。


「いつも遅くまで、待っててくれて、ありがとうね」

 お風呂からあがると、母はキッチンで片づけをしていて、その後姿に私はお礼を言った。驚いた表情で母が、振り返って私を見た。


「いいわよ。そんなの…。当たり前でしょ」

 母が驚いた表情のまま、そう言った。そして、またあったかい光を放った。私はその光に包まれ、幸せを感じ、そして自分の部屋に行った。


 夜寝る前に、昴くんのエネルギーを感じてみた。でも、感じられなかった。寝ちゃったのかな…?

 私も、夢で会えるかなって思って、眠りに着いた。


 なんだか、怖い夢を見た。何かに追いかけられている夢だ。不安や心配が心の中から、どんどん溢れてくる。たくさんの顔と声に、追い立てられた。


 あ…。これ、昴くんの夢だ。誰かに問い詰められてる感じだ。そして、私のことを心配してる。ひかり、大丈夫か…。ひかりに手を出すな…。ひかりを守らないと…。そんな思いでいっぱいになってる。


 不安や心配は、黒い霧をどんどん出す。昴くんの夢は重苦しく、黒い霧で覆われていく…。私は昴くんと同化していた。重苦しい気持ちがどっと、私の心の中にも入り込み、息苦しくなった。ああ…。昴くんは今、苦しんでいる。それも私を心配して…。


 原因はなんなのかわからなかった。緒方さんのこと…?私は昴くんの中で、昴くんに光を送ろうとした。昴くんのことを愛しい…、愛してるって心から思って…。


 ふわ…。昴くんの内側から、光が出て行く。私から発せられた光だ。それから、私は昴くんを優しく包み込むようなイメージをした。大丈夫。私なら、大丈夫。そう言いながら…。


 昴くんの夢の中の霧が晴れていく。どんどん晴れていき、夢の中にたたずんでいる昴くんの周りを、大きな光が包み込んだ。


 目が覚めた。朝の7時だった。今日は昴くんは、休演日だ。ゆっくりと寝ているだろうか…。もう、悪夢も消えて、気持ちいい眠りの中にいたらいいな…。


 私は起きて、しばらくのんびりとした。一階に降りると朝食を母が作り出し、それを食べてから、リビングでテレビをつけた。


 テレビはふだんは、あまり観ない。とっとと自分の部屋に行ってしまうからだ。DVDはもっぱら、パソコンで観ていたし、だから、テレビからの情報にはうとかった。


 朝、のんびり、コーヒーを飲みながらテレビを観ていると、ワイドショーが始まった。


「あ…。こういうのは、あまり好きじゃないな…」

と他のチャンネルに回すと、やっぱりワイドショー。朝は、こんな番組ばかりか~。と思いつつ、また違う番組に回してみると、そこにいきなり昴くんが映されて、たくさんの報道陣がつめよってる映像が流れた。


「え?」

 どうやら、昨日の劇場に入る前の映像らしい。


「昴くん、深夜のデートのお相手は誰ですか?」

「お付き合いしてる方ですか?」

「今日のお昼も一緒に食事をしていたという、情報が入っていますが」


 ええ!?何これ…。

 昴くんは、黙っていた。周りには昴くんのマネージャーや、スタッフらしき人がいて、

「もう、舞台のリハーサルが始まるので、また今度にしてください」

と言い、昴くんを劇場内に入れようとしていた。でも、レポーターは昴くんのまわりから、離れなかった。


 昴くんから、黒いもやもやが発せられた。それが辺り1面を覆う。昴くんは、それに自分で気がついたようで、慌てて光を出していた。そして、一気にレポーターを振り払って、劇場の中に飛び込んでいった。


 ああ…、これが原因で昨日、あんな夢を見たの?こんなことがあったから?


 そのあと、ワイドショーのコメンテーターが、あれこれ話を勝手にしだし、私と昴くんの写真が思い切り、映された。そして、

「年上のようですね」

とか、

「どんな関係なんでしょうね?ずいぶんと親しいようですが…」

とか、話をしていた。


 それを見ている私の横で母が、

「これ、あんたじゃないの?!」

と仰天していた。


「え?」

「あんたでしょ?この服だってこの前着てたのでしょ?何やってんの?あんた…」

 もう、目が点になったり見開いたり、母はそうとう驚いたようだ。


「……」

 隠せないか…と思い、素直に白状した。

「うん…。でも美里も一緒だったし、このとき気持ちが悪くて、ぐったりしてて…。それで、昴くんはお店まで付き添ってくれてたの。それだけだよ」


「……」

 母の口が開いたままになった。

「な…なんで、天宮昴と知り合いなの?」


「う~ん…」

 どう説明したらいいものか…。母は、私の説明を待っていた。

「えっと…。舞台を観に行ったとき、最後まで会場に美里といたら、たまたま昴くんが舞台から降りてきて、その、それで話をして…」


「ええ?!」

「このときも、美里と赤坂で飲んでて、私それで、気持ちが悪くなっていたところで、ばったり会って…」

「それで…?」


「うん」

「…」

 母は、納得いかないような顔をした。そりゃそうだよね。


「本当のことを言うと、美里とバーで飲んでたとき、声をかけてきた男の人の誘いに乗って、一緒にビリヤードしてたら、その一人がしつこく言い寄ってきて、それで、私、ものすごく気分が悪くなって…。寒気と吐き気がしてたんだ。そこに昴くんと悟くんが助けに来てくれたの…。それで、あったまった方がいいって言って、近くのカフェに連れていってくれて…」


「悟って、結城悟?」

「そうだよ」

「……」


 ますます母は、固まっていた。

「それ、ほんと?」

「本当だよ」


「ただ、それだけ?」

「うん」

「そう…。そうよね。だって、10歳くらい下でしょ?そんな子と付き合うわけないわよね」


「うん…。そりゃそうだよ。だいたい私まだ、男の人と付き合えるような、そんな状態まで回復してないし」

「え?」

「だから、なんでもないから…」


 それだけ言うと、私は2階に上がった。何度も何度も、母から心配する黒い霧と、私を信じる光が、交互に出ているのが見えた。心配は、黒い霧になるのか。でも、それも私を思ってのことだよね…。


 昴くんのエネルギーを感じてみた。心を穏やかにして、静かに目を閉じて…。呼吸を深くして、何も考えないようにする…。昴くんのエネルギーだけを感じるよう、感じ取れるようにしてみた。


『こんなおおごとになるのか』

 昴くんの声がした。

『ひかり、大丈夫かな。向こうまで、レポーター行ってないよな…』


 私の心配をしている。どうやら、テレビを観て考えているようだ。

『大丈夫だよ』

 昴くんに声をかけたが、返事がない。あれ?聞こえていないみたいだ。


 その時携帯が鳴り、思わず昴くんかと思い、出てしまった。

「もしもし!」

「もしもし、ひかりさん?」


 あ、緒方さん…。そうだ。昴くんは私の携帯の番号もメアドも知らなかったんだ。

「テレビを今朝、観た。雑誌も売店で買った。これ、天宮昴と写ってるの…、君?」

「……」


 やばい。電話から黒い霧がもれてくる。その霧に思い切り包まれてしまった。

「あの…」

 私は何も言えなくなった。


 霧は私を包み、そこには嫉妬や執着や憎らしい、妬ましい、いろんな感情が混ざり合っていて、それが私に思い切り重たくのしかかってくる…。

 どうしよう…。光を出せない。苦しい……。


『ひかり!ひかり!』

 昴くんの声がした。

『昴くん…』


 心が少しだけ、あったかくなった。

『電話、切って。今すぐ』

『でも…』


『いいから』

 私は言われたとおりに、電話を切った。

『目を閉じて。俺のエネルギーに集中して。今、そっちに行くから』


 目を閉じて、昴くんのエネルギーだけを感じた。

 ふわ…。昴くんのあったかい、優しいエネルギーに包まれた。それから、宙を浮いた。あ…。昴くんと同化してそのまま、幽体離脱してる。


 光に包まれて、次の瞬間宇宙船にいた。それから、私と昴くんは離れた。

 昴くんも私も、光の人型になっていた。前のスクリーンには、地球が映し出された。それから、昴くんが、

「緒方さん、映すよ」

と言った。


 スクリーンには、緒方さんの姿が映された。どうやら、会社の屋上にいるようだった。そこで、煙草を吸いながら、携帯を耳に当てていた。


 私が幽体離脱をしているのは、ほんの一瞬だ。宇宙船にいくら長く居るような気がしても、地球に戻ると、一瞬だけ離れていただけなのがわかる。だから、私が電話を切ってすぐの映像が映されているのかもしれない。


 緒方さんは、大きなため息をして、携帯をポケットにしまい、煙草をゆっくりとふかした。遠くを見つめながら、ふう…って長く煙を吐き出す。その顔は、沈み込んでいた。


「何を考えているんだと思う?」

 昴くんが言った。


「わからない。聞くことができるの?」

「いや…、それは無理だ。でも、感じ取ることならできるかもしれない」

「どうやって?」


「緒方さんのエネルギーを、ここで感じ取る」

「ここで?出来るの?」


「地上じゃ、ひかりのいろんな感情が邪魔をするでしょ?俺もそうだ。緒方さんのことを、客観的には見れない。どうも、敵みたいに意識してしまう」

「魂の今なら、まったく影響されないね」

「うん」


「やってみるね」

 私は目を閉じて、緒方さんのエネルギーに焦点を合わせた。そこには、いろんな感情があったが、1番深く感じたのは孤独感だった。誰からも愛されていないという孤独感…。


 その孤独感は、私が家に引きこもっていた時の、孤独感と同じだった。寂しく、暗く、冷たく、重苦しい。どうして自分は、愛されないのか…。愛を求め、結局得られず、みんなを恨んだあのときのような…。


 私や、昴くんに対しての恨みの感情も感じられた。

「一緒だ…」

「え?」


「私が、引きこもってしまったときと、同じ感覚だ」

「今、光を送れる?」

「手伝ってくれる?昴くん」


「もちろん」

 昴くんのエネルギーと同化して、光のエネルギーを緒方さんに送った。それはすぐに緒方さんのもとに到達して、緒方さんをあっという間に、包み込んだ。


 と、同時に緒方さんのエネルギーが、こっちに向かってやってきた。それは、優しさや思いやり、愛、たくさんの光だった。それを感じて、昴くんと私は、自分の体に戻った。


『今の、わかった?』

 昴くんが聞いてきた。

『うん。緒方さんの黒の霧が晴れたら、ものすごい光のエネルギーが溢れ出した』


『あれが本来の、緒方さんなんだ』

『うん、そうだね』


『レポーターの人も、緒方さんも、本来は光の存在だ。でも、そこにはなかなか俺ら、意識を向けられない。もやもやしたマイナスの方に向けてしまうと、こっちのマイナスな面と、リンクしちゃうんだ』

『引き合っちゃうの?』


『うん。この人はこうだって思い込みだったり、こっち側が相手を嫌ってたり、嫌がってると、どうしても負のエネルギーを出しちゃうでしょ?向こうの負のエネルギーが、来ちゃうんだよ』

『じゃ、もし私が緒方さんのことを愛したら、緒方さんから光が来るの?』


『うん。だろうね』

『私、親は嫌ってたよ?』

『親のこともお兄さんのことも、愛してたよ、ひかりは…。心の奥でね』


『そうか…』

『薫さんや、美里さんに対してもそうだ。ひかりが信頼し、感謝してるから、二人からはそんなにマイナスの波動を感じないですんでる』


『みんな、マイナスの面もプラスの面もあるんだね』

『うん。こっちがその人をどう思うかで、変わっちゃうんだね』

『うん…』


『レポーター、昨日劇場に入る前にとっつかまったんだけど、すごい黒い霧出してて…。でも、その前に俺のほうが、なんだよ、こいつらって、かなりマイナスのエネルギー出しちゃってた。それに、ひかりのこともあれこれ聞くからかなり、俺、頭にきちゃって…。自分からすごい黒い霧が出てるの見えてさ』


『どうやって、光を出したの?』

『いつものやり方だよ。相手のことはそうそう好きになれない。だから、自分にある感情を、愛した。あと、ひかりのことを愛してるってことだけ、集中して感じてみたり…』


『……』

『あ、そんなに照れなくても…』

『わ、わかってるよ。でも、いいじゃん。まだ慣れないんだもん、そういう言葉に』


『はは…。そういうひかりも可愛いけどね』

『…。それで…。緒方さんはこれから、何か変わるのかな?』

『こっち側次第だよね。今までみたいに嫌がってたら、また向こうからもマイナスのエネルギーが来るかもしれない』


『うん』

『俺、昨日の夜、悟さんに聞いたんだ。レポーターにものすごい負のエネルギーだしちゃったから、いったいどうしたら、そういうの出さなくて済むようになるか…。いつも悟さんは、どうやってるのかって』


『うん…』

『そうしたら、みんな人間は本来愛なんだ。光の存在なんだ。そこに着目するんだって…。その人の本来の姿をきちんと、見るようにしたらいいってそう言われた』


『難しいね』

『だよね。こっち側の観念とか、思い込みとか入っちゃうもんね。でも、そのへんを外して、この人も光の存在だって思うようにして、心を落ち着けたらいいらしいんだけどね』


『昴くんもそういうの、まだ、出来ないの?』

『できないよ。難しい…』

『でも、たくさんの人の心を癒しているし、光で包んでると思うけどな』


『うん。だけど、まだまだなんだよ。きっと、それはひかりとしていくんだろうね。これからの課題だ』

『ミッション…?』

『うん、そう』


『でも、なんだか見えてきたね。これからの課題というか、私たちのすべきことが』

『うん、そうだね。なかなか人間でやっていくのは大変だろうけど…』

『うん。魂ならたやすいよね』


『ああ、だから悟さんもたまに、宇宙船に戻ってるみたい。じゃないと、地球でずっといると、感情に左右されすぎて、なかなか愛と光を発することに、集中できなくなるって言ってた。だから、ひかりと一緒に、時々宇宙船に行くといいって言われたよ』


『それで、さっきも?』

『うん。二人して、感情がぐらついてたから…』

『…ありがとう』


『こっちこそ…。昨日夢の中で、包んでくれたでしょ?すげえあったかかった』

『わかった?』

『そりゃね…』


『これからも、大丈夫だよ。ね?心配は要らないんだよね?』

『うん。ひかりと一緒なら大丈夫だ』

『私も。昴くんとなら、大丈夫って確信してる』


『サンキュー』

『そろそろ支度して、バイトに行くね』

『うん。仕事頑張って』


『昴くんは今日休演日でしょ?』

『うん。でも、事務所に呼び出されちゃった。これから行ってくるよ』

『私とのことで?』


『うん…。ま、なるようになるさ』

『そうだね』

 私たちは、それで交信を終わらせて、お互いのするべきことを始めた。私は着替えをして、化粧をしてバイトに向かった。


 お店の更衣室につくと、

「テレビ観たけど、昴くんと写真に写ってたの、星野さんに似てたわ~~」

という話で盛り上がっていた。


「わ…。入りにくい」

「おはようございます」

 後ろから葉月ちゃんが来て、一緒に更衣室に入ってくれた。


「あら、おはよう星野さん」

 みんな、いっせいに話をするのをやめた。私と葉月ちゃんは、さっさと着替えて、お店の方に向かった。


「ああいうのは、無視ですよ、無視。何か聞かれても、知りませんとか言って、右の耳から左の耳でいいんです」

「うん。ありがとう。葉月ちゃんがいてくれて、心強いよ」


「そんな~~。いつでも、言ってください。悟くんとも話したんです。今、昴くんも動揺してるみたいだから、悟くんと私とで、なるべくフォローしようねって」

「そうなの?」


「はい」

 にこって葉月ちゃんが笑うと、きらきらとまぶしい光が出た。なんだか、自信がみなぎっている光だった。


「ありがとうね」

 私は、本当に嬉しくて、そう言うと、私からも光が出た。優しい穏やかな光だった。感謝の光かな…?


 レジに入り、仕事を始めた。もう、特に何かを言ってくる人もいなくて、その日は何事もなく過ぎていった。


 バイトが終わり、ちょっとお茶でもしていこうかってことになり、葉月ちゃんと地下の喫茶店に入った。そこで、二人でゆっくりと話をした。


 いろんなことを悟くんから聞いているらしく、最近は光が見えてくるようになったとも言った。まだ悟くんから発信される光しか見えないらしいが…。その光を感じると、ものすごく落ち着くんだそうだ。私が、昴くんの光を感じて、気持ちがいいのと一緒だろうな…。


 しばらく話をしていると、携帯が鳴った。見ると、緒方さんからだった。

「あ…」

 出るのを戸惑った。でも、思い切って出てみることにした。


「もしもし?」

「ひかりさん。今朝はすみませんでした」

「いいえ…」


 不思議ともう、緒方さんからは、黒いもやもやしたエネルギーを感じなくなっていた。

「仕事終わりましたか?もし、よかったらこれから会えないですか?」

「え?」


「食事でも、どうですか?」

「今、バイトの友達とお茶してて、少し食べたから、あまりお腹すいてなくて…」

「じゃ、会って話をするだけでも…」


「…はい」

「今、もう新宿にいるんです。そちらに向かいます」

「じゃ、地下の喫茶店に来てください」


「わかりました」

 そう言って、緒方さんは電話を切った。


「誰ですか?」

 葉月ちゃんが聞いてきた。

「緒方さん。前に葉月ちゃんに、先に帰るよう言ってもらった、あの人」


「お付き合いを断ったっていう人ですよね?なんでまた、会うんですか?もしかして、しつこく付きまとわれているんですか?」

「ううん…。そういうわけじゃ…」


「私、そばにいて、守ってますからね!」

 そう言うと、黒い霧が葉月ちゃんから出てきた。あ、多分、心配をしてる。


「ありがとう。でも心配はいらないからね。大丈夫だから…」

 そう言うと、葉月ちゃんは、

「本当ですか?でも、別れ話しても、こうやって会いに来るってやばくないですか?」

とまだ、黒い霧を出しながら聞いてきた。


「でも、それがどうやら、ミッションの一つみたいでさ…」

「え?」

「ここをクリアーしないと、いけないみたい…」


「そ、そうなんですか…。そんなところまで、いってるんですね」

「え?」

「私は何がミッションかもわからないし、何をしていけばいいのかも、まだわからないし。その辺は、なかなか悟くんも言ってくれなくて」


「そうなの?」

「ただ、今回のお二人をフォローしていくのは、ミッションの一つなんだろうなってそう思ってます」

「そう…。じゃ、心配しないで、できたらいつでもあったかい優しい光を出してくれると嬉しいな」


「え?」

「大丈夫って、そう思っててくれればそれでいいんだ」

「わかりました。隣で、大丈夫って思うようにします」


「うん。お願いね」

「はい」

 そのときちょうど、緒方さんがお店に入ってきた。すごく落ち着いた、穏やかな表情だった。


「こんにちは。あ、バイトの友達ですか?すみません、いきなりお邪魔して…」

 すごく丁寧にそう言って、葉月ちゃんに挨拶をした。


「あ、どうも…」

 葉月ちゃんは、あっけにとられた感じでお辞儀をした。


「ごめんね。ひかりさん…」

 そう言うと、緒方さんは私の隣の席に座り、コーヒーを注文した。


「話って言うのは、例の俳優のことなんだ」

「昴くん?」

「ああ。そう…。お付き合いをしてるのかな?」


 私は、どう答えたらいいか悩んでしまったが、

「付き合ってるっていうのとは、少し違うかもしれないけど…。とても大事に思ってるし、大事に思ってくれてる」


「そういうのを、付き合ってると言うんじゃないのかい?」

 緒方さんが穏やかに言った。そして、

「そうか…。大事に思ってくれてるのか…」

と、小さな声で言った。


「はい。すごく…」

 私は、もう一回そう言った。

「じゃ、安心かな。まだ、ひかりさんは傷が癒えてないし、ちょっと心配だったんだ」


「え?」

「自分も、以前愛してる人を失って、何年か辛くて、死のうとまでしたことがあったから」

「愛する人を、失った?」


「…突然の事故だった」

「え?!」

「もう8年も前のことだ。立ち直るのに、何年もかかった」


「……」

 そうだったんだ…。あのものすごい孤独感って、そういうことだったの?愛するものを失った、私と同じ…。ああ、それも夫じゃなくて、子供を失ったときの私の気持ちと一緒だったんだ。


「ちょっと、ひかりさんに雰囲気が似ている…。それでなんだか、彼女が僕のもとに帰ってきたような気がして…。絶対に今度は、手放しちゃいけないってそう思い込んだ」

 それが、執着に変わったの…?


「だけど、君は彼女じゃない…」

「……」

 私も葉月ちゃんも、黙って緒方さんの話を聞いていた。


「でも、ずいぶん君といて心が癒された…。ありがとう。君も、昴くんだっけ?彼といて、心が癒されるというならそれが1番なんだ」

「え?」


「僕じゃなくて、君を癒すのは彼なんだろうな…」

 驚いた。今日の緒方さんはどうしたというのだろうか。穏やかに話す緒方さんからは、優しいエネルギーが溢れ出ていた。


 ああ。そうか、昨日昴くんが言ってた、こっち側の気持ちなんだ。私が今日は緒方さんに対して、マイナスのことを思ってないんだな…。


「じゃ、これで失礼するよ」

「はい」

 コーヒー代をテーブルに置き、緒方さんは席を立った。


 私は緒方さんに、光を放った。大好きとかそういうものではない。感謝と、これからどうか幸せにいう願いをこめた、そんなエネルギーだ。その光が緒方さんを包みこむと、緒方さんからも奇麗な光が発せられた。店中に光が充満して、その中を緒方さんはゆっくりと歩いて、お店を出て行った。


「なんだか、拍子抜けしました」

 隣でそうとう緊張していたのか、葉月ちゃんがだらんと体を椅子にあずけていた。


「あ…、脱力。力が抜けてく~~」

 ああ。光に包まれたから、リラックスしたんだろうな…。


「緒方さん、穏やかでしたね」

「うん、本当に…。なんかびっくりしちゃったけど、こういうことだったんだな」

「え?何がですか?」


「う~~ん。ごめん、言葉でなかなか説明できない。きっと葉月ちゃんも、体験すると思うよ」

「ええ?今はまだおあずけってことですか~~?」

「ううん。そうじゃないけど。あ、もしかしたら、私と別のミッションがあるかも知れないから、先のことはわからないよね」


「そうですね。今、目の前のことですよね」

「うん」

 私と葉月ちゃんは、お店を出た。それから、駅に向かって歩き出し、駅で別れた。電車に乗り、ぼ~~ってしていると、昴くんの声がした。


『ひかり。聞こえる?』

『うん。聞こえてるよ。どうだった?今日…。事務所で何か言われた?』

『あんまり、人前でああいうのはしないよう、自粛してってさ』


『それだけ?』

『いいや。どういう関係かとか、けっこううるさかった』

『どう説明したの?』


『ウ~~~~~~~~~~~~ン…』

 あれ?言いづらいのかな?昴くんにエネルギーを集中してみた。


『恋人かって聞かれて、はいって言っちゃったんだよな~~』

『ええ?!恋人~~~?』


『あ、読めた?俺の考えてること…』

『うん、今…』


『ごめん。でも、どう説明していいかわかんなくてさ。はじめは、大事に思ってる人だから、あまり騒がれても困るって言ったんだけど、じゃ、恋人ってことかって言われたから、ついそうですって…』

 恋人?恋人って、なんだ?えっと…、何?


『恋人ってなんだって言われても、なんだろうね?』

 そういえば、緒方さんにも言われたな。大事に思ってるって言ったら、それが付き合ってることだって…。


『会ったの?緒方さんに…』

『うん。今さっき…。あ、その記憶思い返すね』

 私は、さっき緒方さんと会ったときのことを、一部始終思い出した。


『へ~。そうだったんだ』

『うん。昴くんが言うように、こっち側がどう思うかで全然違うんだね』

『そうだね』


 そうか…。付き合ってるっていうのはそういうことか…。昴くんの漠然とした思いが伝わってきた。

『あ…、今俺が思ったこと、伝わった?』

『うん』


『もし、大事に思いあうことが、付き合ってるとか恋人になるなら、俺らってそういう関係なのかな』

『どうかな?同じ魂だって言っても、周りにはわからないだろうから…』

『ああ、そうだよね…』


 ……。あ、また何か漠然としたことを、昴くんは感じている…。

『恋とは違うんだけどな…。ね?』

『え?』


『と、思うけど…。ほら、一緒にいてときめいたりっていうのはないし』

『……』

『え?あるの?』


『へ、変だよね。自分だもんね』

『うん。まだ、俺とひかりは別ってどっかで、思ってるとか?』

『…そうなのかな?』


 だから、昴くんが他の人ともし付き合うようになったら、私は嫌だって思っちゃうのかな…。

『う~~ん』

 昴くんがうなった。


『それ、ちょっと俺もあるし…。いや、これは人間のときの俺であって、魂じゃそうは思わない。当たり前か…』

『そうだね。嫉妬なんて感情もないもんね。これも、植えつけられてるものだよね』

『うん』


『そうだよね…』

『でも、ま、いいじゃん。そんな感情を持ってる自分もOKなんだし』

『うん…』


『……』

 今、また昴くんは、漠然と何かを思っているみたいだった。


『ときめくってどんな感じ?』

『え?ときめいたこと、ないの?』

『あるよ。今までだって、好きになった子いたし。ただ、俺にときめくってどんな感じかなって…』


『同じ感覚を持つんじゃなかったの?』

『うん。そのはずなんだけど…』

『じゃ、どうして?私だけがときめいてるの?』


『さあ?』

 ……。また、漠然と何かを昴くんは、考えてる。


『ひかりが俺だってことを、意識しすぎてるのかな?そう思い込もうとしてるところもあるかも。確かに魂の俺らは一つだけど、3次元の地球じゃ別の肉体を持ってるわけだし…。それをちゃんと味わって、体験したらいいのにね』


『え?』

『ちょっと、ちゃんと受け止めようってしてなかったかな。同じ魂なのに、恋をすること自体が変だって思いこんでいたかもしれない』


『そうなの?』

『ああ。やば…。考え込みすぎてるね?俺ら…。もっと、流れに任せてみよう。うん。じゃ、俺、これからラジオに出るから、行ってくるよ』


『え?そうなの?頑張ってね』

『うん。10時からの生放送だから、聞いてね』

『うん。わかった』


 ちょうど私も駅に着き、電車を降りた。

 家に帰りご飯を食べ、お風呂に入り、10時5分前からラジオをつけた。生放送って、いったいどんな話をするのだろうか。でも、もうあれこれ考えず、起きてくる事をただ受け止めよう…ってそう思っていた。


 10時。ラジオ番組がスタート。10分が過ぎて、ようやくパーソナリティの人がゲストを紹介した。

「今日のゲストは、素敵な若手俳優。今、ホットな話題も出てますね。天宮昴さんです!」


 紹介され、昴くんは、

「どうも、こんばんは。天宮昴です」

と、挨拶をした。わ~~~~~。昴くんの声だ…って、ついさっきも自分の体の中から聞こえてたじゃないか…。


「ゲストできていただくのは、初めてですね~~。私すっごく嬉しくて、昨日から緊張して寝れませんでした」

「え?そうなんですか?」

「はい。もう、ラジオを聴いてるみなさん。昴くん、美しいですよ~~~~。本当に間近で見ても奇麗です」


「ありがとうございます」

「あ…。奇麗って言われるのと、かっこいいって言われるのとどっちがいいですか?」

「もう、どちらでも嬉しいです」


「そうなんですか~~?今、19歳でしたっけ?」

「はい」

「若いですね~~。ついこの前まで高校生ですね」


「はい、そうです」

「は~~。それでもう、こんなに色気があるのはすごいですね」

「え?色気ありますか?」


「ありますとも。舞台の方も、観させていただきましたけど」

「あ、ありがとうございます」

「迫力もあって、歌もお上手で…。素晴らしかったです。感動しました」


「ありがとうございます」

「初めての舞台ですよね?でも、堂々としていましたが、どうですか?緊張とかするんですか?」

「はい。毎回しています。でも、お客さんからの拍手がエネルギーになって、すごいパワーになるんです」


「やっぱり?私もじかにラジオだと感じられないけど、メールや電話でお話しするとリスナーの方とつながって、力をもらえますね」

「あ、そうなんですか?」


「いろいろと、昴くんに質問が来てるんですよ。いいですか?聞いても…」

「はい。かまいません」


「まず、これは東京にお住まいの、昴くん大好きさんから…。昴くんの好きなタイプはどんな人ですか?」

「好きなタイプですか?う~~ん、そうだな…。決まってないですよ。なんか、好きになった人が、タイプって感じですかね…」


「性格とか、外見とか、こんな人がいいなってないんですか?」

「そうですね~~。どうかな…。なんかフィーリングがあえば、それでいいですね」


「そうなんだ~~。じゃ、次の質問。千葉県にお住まいの、舞台観たよ~~さんから。好きになったら、自分から告白する方ですか?あ…。今、草食男子か肉食かって言いますもんね。どっちですか?」

「え~~?そうだな。自分からかな…。でも、あまり積極的にいけないほうかもしれない。あ~~どうだろ?恋愛の数があまりないから、わからないですね」


「あまりないの?」

「はい…。少ないと思います」

「でも、もてるでしょう?」


「もてるかどうかも…?どうも、恋愛の対象としてみてもらえないみたいで…」

「え?そう?昴くんに告白されたら、誰でもOKだと思うけど。多分、相手になんかされないだろうって、思われちゃうんじゃない?」


「そうですかね?」

「うん。思っちゃうよ。きっと」

「そうかな~~」


「次の質問は、神奈川県の、みっちゃんさん。え~…。あ、今話題になってる、写真で写っている彼女は、恋人ですか?ああ!ものすごくストレートな質問ですね。でも、みなさん気になってるところだと思いますけど。どうですか?ここで真相を…なんていうのは…」


「ああ…。はい。そうですね…。今日も事務所で、同じこと聞かれて…」

「え?そうだったの?」


「はい。でも、今って恋愛OKなんですよね。僕の周りの俳優さんも、お付き合いしてますって、どうどうと宣言するし、若いのに結婚した俳優さんもいましたよね」

「はいはい。最近ね」


「だから、別に隠さなくてもいいけど、あまり堂々と人前でいちゃつくなって注意されました。はは…」

「え?じゃあ、やっぱりお付き合いしてるってことかな?」

「はい。してます」


 う~~わ~~~~~!昴くん言っちゃったよ~~。生放送で、言っちゃったよ?!!!!


「おお!真相を話してくれましたね!すごい!今頃ラジオの向こうで、ショックを受けてる人もいれば、記事にしている記者も多いかと思いますけど…。お相手の人のことを、伺っても大丈夫かしら?」

「あ、すみません。一般の方なので、あまり…」


「あ。そうなんですね~~。じゃ、その辺は触れない方がいいのかな…。最近のお付き合いなのかな?それとも、もう長いの?」

「あ。触れないって言っておいて、聞くんですか~~?」


「相手には、触れないですよ…」

「そうか~~。う~~ん…。うまいですね。えっと、けっこう最近かな?」

「どっちが告白?やっぱり昴くんの方?」


「告白ですか?どっちかな?えっと…。あれ?えっと…」

「知らないうちに、付き合ってたとか?」

「ああ。そんな感じですね」


「へ~~。デートとか、よくしてるんですか?」

「え~~。どうですかね?」

「忙しいからなかなか、会えないかな?」


「そうですね。毎日舞台があるし…」

「でも、いいですね~~。若いっていいな~~。恋したいな~~」

「恋してないんですか?」


「今はね~。寂しいことに。若いってだけでも、未来があってときめきがあっていいよね。一緒にいて、ドキドキしたりするでしょ?」

「いえ、あまりそういうのは…」


「え?でも最近お付き合い始めたんでしょ?」

「ああ…はい」

「ときめきないの?ドキドキしたり…」


「そうですね…。あまり」

「ええ?じゃ、どんな感じなの?一緒にいて…」

「う~~ん。あったかい感じですかね?」


「あったかい?」

「癒されるっていうか…」

「優しい人なんだ」


「はい」

「ふうん。若いのにめずらしいね。私くらいの年ならね、もう、一緒にいて楽な人とか、落ち着くのがいいとかあるけどね」


「おいくつなんですか?」

「私~~?聞いちゃう~~?女性に年齢、ま、いっか。昴くんよりも11歳上。ジャスト30ですよ」

「え?そうなんですか?まだ、若いじゃないですか」


「そんなことないよ。もう、三十路だもの」

「え?でも、僕が付き合ってる人も29ですよ」

「え?!!!!」


 あ~~~~~~~~~~。年齢までばらしてる~~~~~~!!!!!

「そうなの?10歳も上?」

「はい」


「そうか~~。じゃ、優しいよね~~。年上が好みなんだ」

「いえ…。好みってわけじゃないですけど。たまたま、10歳上だっただけで…」

「え?そうなの?でも、甘えさせてくれるでしょう?わがままも言わないんじゃない?」


「ああ。そうですね。全然…」

「でも、大人な女性で、ドキドキしたりしないの?」

「えっと……。う~~ん……。どうかな…?」


「いや~~。ちょっと驚いちゃった。じゃ、私も年下の子と付き合えたりするかもしれないかな」

「ああ、全然大丈夫じゃないですか?」

「そう~~?でも、昴くんの場合は、大人っぽいからね」


「そんなことないですよ。子供っぽいところもありますよ」

「そうなの~?相手は、やっぱり大人の人かな」

「そうですね。でも、けっこう可愛いところもあって…。あ…ってだから、相手のことは、ノーコメントです」


「でも、自分でいろいろと暴露してるよ?年とか…」

「え?ああ、そうですよね。駄目ですよね。嘘とか、ごまかすの苦手なんですよね」

「じゃ、もっと聞いちゃったら、話してくれちゃうかな?出会いとか…」


「出会いですか?う~~ん。ノーコメントです」

「あれれ~~?じゃ、第1印象は?」

「奇麗だって思いました」


「え?!すごいな~。そうだったんだ~~。のろけてくれるな~~。あははは…。じゃ、どこが好きなのかな?」

「…全部ですね」

「え?全部?嫌いなところってないの?」


「ないです」

 わ~~~~~~。そんなことラジオで言ってるし…。


「でも、お付き合いして間もなかったらそうだよね~~。あばたもえくぼになるよね~~。あははは。じゃ、今めちゃくちゃ幸せなんじゃない?」

「はい、そうですね。毎日が充実してますね」


「そうだよね~~。舞台やって、恋もしてて、最高だよね?」

「はい」

「舞台は観に来てくれたの?」


「ああ、はい。2回観に来てくれました」

「そういうときって、照れるの?それとも嬉しいものなの?」

「嬉しいですね。倍パワーが出ます」


「あ。そうなんだ。もう、のろけっぱなしだよね~」

「え?そうですか?」

「そうだよ~。もう、羨ましいわ、聞いてて。その彼女…」


「ああ…、でも…」

「え?」

「ちょっと占いって言うか、ある人に見てもらったんですけど…」


 ?何を言いだす気かな?占い?

「え?何を見てもらったの?彼女とのことかな?」

「はい。なんかいろいろとわかる人がいて…。そうしたら、同じ魂だったとかって言われました」


 げ~~~~!そんなこと言ってるし…。ばらしてるし?ドン引きされちゃうよ?!

「え?彼女と?本当~~?わ~~~。すごいロマンチック。もう、出会うべくして会ったっていうか、会うのが必然だったのかな?」


「そうですね。運命なんじゃないですか?」

「え~~~。そこまで言う?それって、自分でも感じるの?」


「はい。感じますよ…。だから、僕の彼女を羨ましがらないで、自分の相手が絶対にいるはずなので、自分の相手と巡り会うことを、1番に思ったほうがいいと思います」

「あ…何?私のこと?」


「いえ…。一般的に。リスナーの方も含めての話です」

「ああ…。昴くんの彼女羨ましいっていうことじゃなくて、みんな、自分の相手を見つけようってことかな?」


「はい。あ、でも、見つけようって言っても、必死に探すんじゃなくて…」

「うん、必死だと、顔に出ちゃうもんね。みっともないよね」


「あはは…。そういうことじゃなくて…。絶対に、自分の相手なら現れるから、探そうとしなくても、出会えるようになってるので、今、目の前のことを、ちゃんと取り組んでいたらいいと思います」

「へ~~。なるほどね。そうしているうちに、出会えるんだ。昴くんもそうだったの?」


「はい。そうですね。僕はなんでも、いつでもそうです。この芝居も、出たかったですけど、前から、今目の前にあることを、ただしてきたって感じです。そうしたら、この舞台に誘われたり、他にもいろんなことが叶ってますね」


「なるほどね~~。先の心配をするよりも、今、目の前のことを一生懸命取り組めば、未来はきちんとやってくる…」

「はい」


「わかる!私も同じ考えだな。そうか。じゃ、私の運命の相手も現れるね」

「はい」

「よし、なんか元気でた~。ってゲストの人から元気もらっちゃった。じゃ、昴くんは、その彼女と運命的に出会えたってことで、私はお祝いをしたいと思います。おめでとう」


「え?はい…。ありがとうございます」

「そんな昴くんに、私から歌のプレゼントを…。うん。ぴったりの歌だよね~~。私が大好きな歌。こんなことを言って欲しい~~。あ、これはもしかしたら、彼女の方へのプレゼントになっっちゃうかも?GReeeeNで『愛唄』どうぞ!」


 歌が流れ出した…。私の心には、あったかい優しいエネルギーが広がった。

 素敵な歌詞だ…。涙が思わず流れ落ちた。

 歌が終わり、昴くんが言った。


「素敵な歌詞ですね。ありがとうございます。まさに、今の僕の気持ちと合ってました」

「あ、やっぱり?こんな気持ちでいましたか?いいですね~~。彼女へのプレゼントになりましたね。今、聞いてて、喜んでくれたかな?」


「はい。感動して、泣いてると思います」

 あ…。わかってるっていうか、私のエネルギー感じ取ってる?もしかして…。


「そうですか~~。もう、最後までのろけっぱなしですね~~。もう、ご馳走様でした。おなかいっぱいです。では、これからも舞台頑張ってください。今日のゲストは、天宮昴くんでした~~」

「ありがとうございました」


 それから、CMが流れた。

 私は、しばらくぼ~~ってしていた。さっきの歌が何回も、頭の中を廻っている…。その時いきなり、携帯が鳴った。美里からのメールだった。


>ラジオ聞いてたよ!恋人って、ひかりのことでしょ?もう~~付き合ってたんじゃないの~~!!!!何もないようなこと言っちゃってさ~~。

>何もなかったんだけどね。なんか急展開なんだ。自分でも何が起きたのか、よくわかってないし…。


>そうなの~~?ま、いいや。今度ゆっくりと聞かせてね。じゃ、おやすみ!

 また、メールが来た。薫からだ。


>天宮昴と写真出てたの、ひかりなの~~?ラジオで付き合ってるって言ってたけど、ひかりなの~~~???

>そうみたい。

>何そのあやふやな返事は!いったい何がどうなってるの?今度詳しく聞かせてね。

>うん。


 ああ…。いろんなことろからメールが来る。また、もう1件来た。葉月ちゃんだ。

>聞きましたよ。ラジオ。やっぱり昴くんと大恋愛!ノエルさんの言ってた未来、当たっちゃいましたね!

>大恋愛?そうかどうかは、自分でもわからないよ。


>そんなことないですよ~。だって、昴くんが運命の相手だって言ってたじゃないですか~。もう、聞いてて、こっちが恥ずかしくなりました。のろけっぱなしなんですもん。いいな~~~!!私も言われたい。悟くんから言われたいです。

>そうなの?


>ま、夢のまた夢ですけどね。じゃ、おやすみなさ~~い。

 そうか…。昴くんのファンだったけど、今は悟くんが好きなんだな~~。


 は~~~~~~~~。それにしても昴くん、正直すぎる…。結局ほとんどしゃべっちゃったじゃないか…。

 ああ…。明日バイトに出るのがちょっと、怖い気もする…。


 ベッドに入っても、なかなか寝れなかった。昴くんの言葉を思い出しては、ドキドキしていた。あ、おかしいよね。昴くんは私なんだし…。


 幽体離脱をすると、私なんだってことを、思い切り感じる。魂というかエネルギーが一緒になると、本当にどこから昴くんで私かもわからなくなるし…。だけど、やっぱり3次元にいると、私はこうやって、ときめいてしまう…。


『ひかり?まだ起きてる?』

『起きてるよ』

『今、家に着いた』


『お疲れ様でした』

『なんか、ごめん…。いい気になって、べらべらしゃべってたよ、俺』

『うん。聞いてて超恥ずかしかった…』


『やっぱり…?俺もラジオ終わってから、なんか恥ずかしくなった』

『へえ…。めずらしい。恥ずかしいって思うこともあるの?』

『俺?そりゃ、人間だから』


『ふうん…』

『ラジオからなんか、エネルギー出てた?』

『うん。昴くんのいつもの、優しいあったかいエネルギー出てた』


『あ…。それは多分、ひかりを思ってたから…。そうじゃなくってさ、司会してた人の方』

『一瞬、黒いもやもや出たよ。あれ、嫉妬かな?』

『うん。そう思って、いきなり一緒の魂だったなんて話をしちゃった』


『あ、それでなの?そういえば、そのあともう黒いもやもや、出なくなってたね』

『うん』

『最後の方は、きらきらした光が混ざり合ってたよ』


『うん。あの人からも出てたよね』

『うん…。ああ、こうやって、ラジオからも昴くんの光が、たくさんの人のもとに送られるんだね』


『公共の電波の影響は、大きいからね。ニュースなんて怖い情報しか流さないけど、かなりの黒い霧出してるんだよ。みんなに不安や恐怖を与えてる…。あれも、アセンションを邪魔する人たちの作戦だろうね。メディアには多いんだ。1番手っ取り早いしね。たくさんの負のエネルギーを、世界中に広められる』


『わ…。なんかウイルスみたいだね』

『ああ…。そういう負のエネルギーで、本当にウイルスが発生したりもするんだよ。みんなが怖がると、創造されちゃうんだ…。怖い事件のあとに似たような事件が続くのも、飛行機事故が立て続けに続くのも、地震もそうだね。みんなの中に恐怖が住み着いて、怖いイメージをしちゃうからそれが現実化しちゃう…』


『それを変えていくには、どうしたらいいの?』

『そういうのをしていくのが、俺らのミッションになるのかな』

『そっか…。昴くんは、もうたくさんの人を癒しているし、大きい存在だよね』


『俺だけじゃないよ。ひかりも一緒にしていくんだよ』

『うん……』

『あれ?なんか釈然としていない感じ?』


『……。いったい、何をするのかなって、ちょっと思っただけ。最近の私、いろんなことが起きてるから、どうなるのかなって…』

『怖い?』

『ちょっとね…』


『うん、そっか…。怖くなったり不安になったら、宇宙船行くんだよ?もう、多分一人でも行けるよ』

『一緒に行ってくれないの?』


『行ける時には行く。でも、俺が行けないときでも、ひかり一人で行ってもいいからね』

『うん…。わかった』


『じゃ、俺これから風呂はいってくる…。風呂の中でも話しててもいいけど…』

『ううん。私、もう寝るよ』


『そっか。じゃ、おやすみ…』

『おやすみなさい』

 ふって、昴くんのエネルギーが途切れた。


「は~~~~~~~~」

 大きなため息をしてみた。明日は何が起きるかわからない。これからのことも、想像つかない。でも、何がきても大丈夫。昴くんとなら大丈夫だよ!そう思いながら、私は眠りについた。


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