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ミッション4 光で浄化

 お風呂にゆったりとつかり、思い切りリラックスをした。すると、

『ひかりさん…』

と、昴くんの声が聞こえた。


『あ、昴くん』

『ああ、よかった。ずっと話しかけてたんだ。何かに没頭かなんかしてた?じゃなきゃ、考え事とか?なんか、ずっとひかりさんのエネルギー感じ取れなかったよ』


 もしかして、さっきシャッターを下ろしたからかな?

『心に?美里さんからのエネルギー遮断したの?』

『え?なんでわかったの?』


『今、その時のこと思い出したでしょ?』

『うん…。光を出してみようとしたの。悟くんが教えてくれたみたいに。悟くんや昴くんは、負のエネルギーも光で包んじゃうんでしょ?』


『うん。そういうことを俺は、無意識にしてるみたい。でも、悟さんは意識的にしてるね。俺はまだまだだよ。さっきだって、美里さんに負の方を発信しちゃった。ひかりさんのことを傷つけるようなことをして、美里さんに頭きちゃって…』

『見えた…。黒のもやもやしたの…。悟くんが光でそれを消してた』


『見えるの?』

『うん…』

『そっか…。俺も見えるんだ。だから、俺から出ちゃったら、慌てて光の方を出すようにしてる』


『どうやったら、光が出るの?』

『う~~ん。口で言うのは難しい。でも、出てるよ。ひかりさんからも』

『え?いつ?』


『舞台観に来てたときも…。あと、たまに、俺すごい光に包まれるよ』

『え?そうなの?』

『自分じゃ意識してないか…』


『うん…。どうやったんだっけな?』

『ひかりさん、俺のこと好きでしょ?』

『え?!な、何?いきなり…』


 何を言いだすの~~?

『隠してもわかるよ。それに俺もひかりさん好きだし。その好きだっていう感覚、こう、心の奥から沸いてくるようなあったかいエネルギーってわかる?』


『なんとなく…。溢れてくるような感じ?』

『そうそれ…。それを他の人に対しても、感じてみるんだ。そうすると、光がふわって出る』

『…なんか難しい』


『そう?うん、そうかもね。本当に好きな相手なら、意識しなくても出るし、好きでもないと難しいよね。俺もだ。悟さんはすごいよ。誰に対してもそれができるみたいだ。って言っても、ここ最近しか見てないけど、誰に対しても光で包んでるみたい』


『なんでそんなこと出来るの?』

『なんでかな?でも、俺らがいたプレアデスより、ずっと高次元の星から来てるんだ。俺らよりもずっとお兄さんだよ』


『え?そうなの?』

『うん。そうみたい』

『じゃ、葉月ちゃんも?』


『だろうね。でも、葉月ちゃんにはまだまだ浄化しないとならない感情が、心の奥にあるみたいだよ』

『私みたいに?』

『うん、子どもの頃の辛い記憶みたい。俺もよくは知らないけど…。でも、悟さんがいるから大丈夫だろうけど』


『あ、それ、私も昴くんがいるから大丈夫だって、悟くんが言ってた。浄化できるって』

『うん…。だから、俺といるときには心閉じないでね』

『うん…。わかった』


『俺はまだまだだな…。修行が足りんよね』

『え?なんの?』


『1番に思っちゃうんだ、ひかりさんのこと…。そりゃ大事な存在だけど、周りの人も、同じように大事なんだ。なんてったって、みんな一つなんだし…。でも、ひかりさんのことだけを守ろうとしちゃってる』

『……』


『それ、今嬉しいって思った?』

『え?思ってたかな?私』

『うん。ひかりさんのことは、本当にいつでも大事に思ってるよ。思い切り大事』


『……』

『あ、思いっきり嬉しいって思った?』

『もう、いいよ~~。私の心の中解説しなくても…』


『あ…。俺のことも思い切り大事だって思ってる…?』

『だから、解説しなくてもわかっちゃうんでしょ?全部』


『そう、わかっちゃうよ。だから、必死で隠そうとしても無駄だよ』

『隠してないよ』

『隠そうとしてたよ。それに、恥ずかしがってるし。でも、どんなことも恥ずかしくないからね』


『うん…』

『あれ?なんか、ボ~~ってしてない?』

『のぼせたかも…』


『え?ごめん、お風呂に入ってた?もう話しかけるのやめるよ。じゃあね。おやすみ』

『うん、おやすみ』


 お風呂から出て、リビングで扇風機に当たっていた。そこに、兄がやってきた。

「ひかり…」

「何?」


「バイトどうだ」

「どうって?」

「しっかりとやれてるのか?」

「うん」


「そうか…」

「なんで?」

 私は、美里が兄と話したらどうだっていうアドバイスを思い出し、ちょっと話をしてみようって思った。


「いや…、離婚して家に戻ってきてからのお前は変だったから…。バイトしだして大丈夫なのかってちょっと思っていたけど、だいぶ回復したんだな」

「心配してたの?」


「当たり前だ」

「でも、何も話しかけてくれなかった…」


「友達で、鬱のやつがいたんだ。家にひきこもっているときにあれこれ声をかけて、頑張れって言ってたら、ますます悪化しちゃって、入院しちゃったことがあって…。鬱状態のとき、頑張れって言ったり、周りでとやかく言うのは、駄目なんだってあとで知った。だからお前のことも、何も言わないほうがいいんだろうって思ってさ」


「それで、今まで黙ってたの?」

「うん。だけど、外に行くようになったし、家ではまだしゃべりもしないし、笑いもしないけど、でも、バイトができるってことは、そうとう回復したのかって思ってね」


「そうなんだ…。うん、もうだいぶいいよ。友達や他にも、励ましてくれる人がいるし」

「うちは親がああだからな。まったく逆効果だ。でも、しかたないかな」


「え?」

「頭の固い、世間体を気にして生きてる連中だから。ほっとくしかないよ」

「お兄ちゃんもそう思ってたんだ」


「そうだよ。俺だって、いろんなこと言われてるさ。この年で独身で、まだ家にいてとかさ…。ま、そろそろ家から出ようとは思ってたけど。そこにお前が帰ってきたから、この状態で家を出るわけにはいかないって思ってさ」

「私のために?」


「そりゃそうだ。大事な妹だからな」

 私はそれを聞いて、ボロボロ涙を流した。


「泣くやつがあるか…。あ…いや、泣いてもいいんだ。泣きたいときは泣けばいいさ」

 兄の言葉が、身にしみていく。本当だ。話してみないとわからないんだ。


 兄からはあったかい光が出ていた。それが私を包んでいく。今までもこの光を、私に向けてくれてただろう。見えなかっただけで…。

「ありがとう」


 私がそう言うと、

「なんかあったら言えよ。辛いでも悲しいでもいいからさ…」

と、また優しく言ってくれた。その言葉と一緒に兄から光が溢れ出てくるのを感じた。


 自分の部屋に戻り、美里に、

>兄と話をしたら、兄はずっと私の心配をしてくれてたのがわかったよ。そして、私のために家に残っててくれたんだとそう言ってくれた…。

と、メールした。美里が、良かったね。ってすぐに返事をくれた。


 不思議なことに、そのメールの文字からも光が見えた。メールからも光はやってくるのか…。じゃ、美里が本当に今、喜んでくれてるんだな…。



 翌日は休み。ゆっくりしようと思っていたら、朝から携帯が鳴った。

「ひかり?あんた今日デート断ったの?」

 薫だった。


「私のところに昨日、緒方さんから電話があったよ。ね?映画はいいから会うだけあったら?それで、付き合えないならはっきり断ったら?」

「え?」


「今の状態は、やっぱりお互いよくないかも。このままじゃ、二人とも前に進めないじゃん」

「うん」

「会うだけ会いなよ。用事なんて本当はないんでしょ」


 するどい…。

「わかった」

 私は、今日ではっきりと断ることにしようと思って、緒方さんにメールをして、時間を決め家を出た。


 待ち合わせの場所に行くと、もう緒方さんは来ていた。

 それから、二人でランチをしにお店に入った。


「すみません。用事があるなんて言って…。私まだ、二人で会うのに抵抗があって…っていうか、男の人と付き合うのがだめなんです」

「…まだ、傷が癒えてない?」


「はい」

「それを、僕が癒していこうと思ってるけど…」

 一瞬、緒方さんから光が出た。ふわって出たけど、すぐに消えてしまった。


「癒してくれる友人がいるから、大丈夫です」

「薫さん?」

「いえ、薫もですけど、学生のときの友人や、他にも」


「…結婚はもうしないつもり?」

「わかりません。でも、今は考えられません。でも、緒方さんは、結婚考えてますよね?」

「まあ、この年だから」


「だったらなおさら、他の人を探してください」

「一目惚れだったんだよ」

「え?」


「君に惹かれて…食事にいけるようになって、嬉しくて」

 え…?

「僕は、結婚が出来なくてもかまわない。このまま、君のそばにいられたら」


 ゾク…。言葉は嬉しい言葉なはずだ。でも、緒方さんから出てくるのは、黒いもやもや…。

 やばい。光を出そうとしても出ないし、心を閉じるのも遅かった。その黒の霧に包まれて、体が冷たくなった。それに、重苦しいし、息苦しい…。


「その友達の中に、男の人はいるのかい?」

「え?」

「いるの…?」


 ますます、エネルギーは重くなる。ぐるぐるに巻きついて離れない。何?これ…。

 どうしよう…。どうしよう……。

 昴くん…。昴くん…!今、舞台をしてる?…返事がない。


「ご、ごめんなさい。ちょっと具合が悪くて…。気持ち悪い。私帰ります」

 出てきた料理にほとんど手をつけず、席を立った。頭がぐるぐるして、立ちくらみもする。


 ふらつくと、緒方さんが、

「大丈夫?送っていくよ。車で来てるから」

と言って、私の肩を抱いた。


 グラ…。重い…。駄目だ…。苦しい…。

「車、乗れません。電車で帰ります」


 ますます、黒の霧が立ち込めた。

「じゃあ、車はおいていく。安心して。電車で帰ろう」  

 優しい言葉とはうらはらに、緒方さんから黒い霧がどんどん溢れ出るのがわかる。怖い…。


 レジまで行くと、

「そこに座ってて。お金払ってくるから」

と私から、緒方さんは離れた。


 今だ!私はふらつく足で店を出て、なるべく緒方さんから離れようとした。だけど、体はガタガタ震えるし、気持ちは悪いしで、なかなかうまいように歩けない…。


 でもどうにか、トイレに逃げ込むことが出来た。

「どうしよう…。外できっと待ってる…」


 私は、誰かに助けの電話をしようと思った。1番近くにいるのは、葉月ちゃんだ。私のバイト先はすぐ近くのビル。でも、今バイトの時間…?それでも望みをかけて、葉月ちゃんに電話した。

「もしもし?」


「葉月ちゃん?今、お店?」

「いいえ。今日は遅番で、のんびりと買い物してるところです」

「どこで?」


「新宿で…」

 ああ…、良かった。新宿にいるし、バイトじゃないんだ。

「今ね…。気持ちが悪くて、トイレから出られないの。私も新宿にいるんだけど」


「じゃ、今すぐに行きますよ。場所は?」

 私は、自分のいるビルの名前と階を教えて、じっとトイレの中で、葉月ちゃんを待っていた。


 しばらくして、葉月ちゃんが来てくれた。

「星野さん、大丈夫ですか~~?」

「葉月ちゃん。良かった…。ごめんね」


「いいえ。星野さん、真っ青ですよ…」

 葉月ちゃんは私が震えているのに気がつき、背中をさすってくれたり、手をさすってくれたりした。葉月ちゃんからは、すごい光が出てて、私はどんどん体があったまっていった。さすがだ。悟くんと同じエネルギーを感じる。


「外に誰かいた?」

「え?」

「男の人」


「そういえば、誰かを待ってる感じだった」

「私のことを待ってるの。でも…、私」

「どうしたんですか?」


「ちょっと、具合悪くて…。先に帰ってもらうよう伝えてくれない?」

「いいですけど…。送ってもらわなくていいんですか?」

「いいの…。本当は、お付き合いを断りにきたし…」


「え?」

「お願い…」

「はい、わかりました」


 葉月ちゃんは化粧室から出て、しばらくして帰ってきた。

「言ってきましたよ。私が送っていくから大丈夫だって伝えました」

「ありがとう」


「でも、これから私仕事あるし、どうしますか?」

「うん、だいぶ楽になったし、一人で帰れると思う」

「…昴くんには?」


「え?」

「心で会話出来るんですよね?来てもらったら…」

「だめだよ。舞台があるもん」


「今日2回公演でしたっけ?」

「うん。多分、昼の部もあるから、今ちょうど本番中だよ」

「…じゃあ、私ちょっと時間あるし、どこかでお茶しながら休みましょうよ」


「ありがとう、そうする」

 私と葉月ちゃんは、そのビルから出て駅の近くに行き、カフェに入った。そこで、あったかい紅茶を頼み、あったまった。


「あれから、会話してるの?悟くんと…」

「はい、何度か…。でも、私が、ゆったりと呼吸して、気持ちを落ち着かせないと、声がしないんです。もっといつでも、会話が出来たらいいのに…」


「そうなんだ」

「星野さんと昴くんは、よく会話してますよね。どうして出来るんですか?」

「わからないけど…。でも、他のことに集中したり、心閉じてると無理みたい」


「心を閉じる?」

「うん、今は私開いてるんだって…」

「え~~?じゃ、私閉じてるのかな。どうやって、開けるんですか?」


「ごめんね、意識してないからわからないや」

「そうなんですか。私もそのうち出来るようになるかな~」

「何時から仕事?」


「4時です」

「そう…。じゃ、あと1時間くらい」

「はい。ゆっくりとしていられますから、星野さんもそれまで一緒にここで、ゆっくりしていってください」


 にこって葉月ちゃんが笑うと、あったかい光がくるくると葉月ちゃんから放たれた。その光に包まれ、また、私はあったかくなった。


 二人でのんびりとしていると、

『ひかりさん…』

と、昴くんの声が聞こえた。


『昴くん?お芝居は?』

『今さっき終わった。今、楽屋にいる。どうしたの?何かあった?』

『え?』


『さっき、舞台の合間の休憩のとき、すごい冷たいエネルギー感じたから。ひかりさんでしょ?大丈夫なの?』

『大丈夫。今、葉月ちゃんといる』


『ごめんね。夜の部もあるし、俺今、ぬけられない…。もし辛かったら、劇場まで来て。楽屋に来れるよう、手配しておくよ』

『大丈夫。もう、だいぶあったまったし…』


『ほんと?でもまだ、いつものエネルギーと違ってるよ。あ…。ちょっと今、目を瞑ってて。ほんの一瞬、何も考えないで』

『うん…』


 ふわ…。一気に体の中に昴くんのエネルギーが流れこんだ。あ…、今同化している…。しばらく、あったかいエネルギーに包まれていた。

『すごい怖い思い、した?』


『え?』

『今、同化した時に感じた…。緒方さん?』

『わかるの?』


『ひかりさんの記憶を読み取った…』

『……』

『そんなことがあったの?』


『え?』

『今、回想してたでしょ?』

『うん。そうか、そういうのもわかるんだね』


『独占欲だ。悪く言うとストーカーみたいな…』

『え?』


『緒方さんって人、ひかりさんを自分のものにしたくて、しかたないんだ。そういうエネルギーも、重くって暗い…。執着って感じかな』

『どうしたらいいの?とてもじゃないけど、光で包み込むなんて、私出来そうにない…』


『俺が一緒になんとかする。でも、ごめん、今日は無理だ。明日なら夜の部だけだ。明日の昼間会おうよ。バイトはいってる?』

『遅番で4時からだから、昼間はあいてる。昴くん、仕事は?』


『明日は何も入ってないよ。そっちに行こうか?』

『ううん、悪いもの。昴くんの家の方まで行くよ』

『あ、じゃ、うちに来て、うちの掃除手伝って…。なんて無理なお願いか』


『いいよ。でも、女性が行ったりして平気なの?』

『平気だよ。管理人さんには、お姉さんってことにしとく』

『お姉さんなんていないくせに』


『いるよ。もう、結婚して子供もいる…。あ、ごめん。これからみんなで集まるみたい。またね』

『うん』

 私は目を開けた。すると、葉月ちゃんがじっと私の顔を見てた。


「もしかして、昴くんと交信してました?」

「うん。同化もしてた」

「同化ってなんですか?」


「うん、あのね。魂が一緒になるっていうか、どっちかの体に入るっていうか」

「え?そんなことも出来るんですか?」

「うん…。今は、私のところに来てた。ほんの一瞬だけ」


「幽体離脱してってことですか?」

「ああ、うん。そう…」

「わ~~、すご~~い!」


「それで、昴くんのエネルギーで充電してくれたから、もう大丈夫」

「こんなに離れてても、すぐ来てくれるんですね。愛されてますね~~」

「葉月ちゃんも、悟くんに愛されてるでしょう」


「え~~?そうかな。なんか冷たいけど」

「クールなだけだよ。ただ…」

「ただなんですか?」


「悟くんの場合は、他の人も愛してるっていうか…」

「他に愛してる女性がいるんですか?」

「ううん…。そうじゃなくて、博愛ってこと」


「ああ。みんなを愛してる…?そうかも。なんか、そんなこと言ってました。私が特別ってわけじゃないんですよね」

「でも、悟くんは葉月ちゃんなわけだし、やっぱり他の人とは違うよ」


「…そうですか?私は昴くんと星野さんが羨ましいです。私も昴くんだったらよかった」

 ブワ…。黒いもやもやが、葉月ちゃんから出てきた。

 ああ…。羨ましいって感情は、重いのか…。それって妬みになるのか…。


 でも…。なんだかわかる気がする。自分だけを愛して欲しいって思っちゃうよね。大事に思われたら、嬉しいもの。そう思うと、葉月ちゃんのことが愛しく感じられた。


 フワ…。私から光が放たれた。くるくる円を描きながら、葉月ちゃんを包み込み、葉月ちゃんから出た黒の霧がすうって消えた。

 あれ…。ああ!これ…?!相手を愛しいと思う感情。それが光になって放たれるのかな…。


「そろそろ行きますね。私…」

「うん。本当にありがとう。助かった」

「はい…。それじゃ」


 葉月ちゃんは、にこって笑って店を出て行った。葉月ちゃんからはまた、奇麗な光が飛び出していた。


 …昴くんが、緒方さんの黒い霧は、独占欲だって言ってたな。自分のものにしたいという欲望、執着…。


 怖いって思ったけど、私にだってある。好きな人が出来ると、私のことを好きになって欲しいと思い、他の誰かと仲良くしてたら、すごい嫉妬もする。自分のことを特別だって思ってほしいとも思う。それって、誰にでもある感情じゃないのか。相手が好きなら…。


 昴くんにだって、そう思って欲しい。ううん。本当に今、ものすごく大事に思われてるのがわかるから、嬉しくてしかたがない。


 すっかり元気になり、私は自分の家に帰った。兄がいてくれるという心強さがあり、自分の家が、そんなに嫌じゃなくなっていた。

 そういえば、母からも父からも、そうとうな負のエネルギーを感じていたはずだ。ちょっと前まで、エネルギーが見えなかったし、心も閉じていたからわからなかったのか…。


 家に帰ると、父も母もリビングにいた。私は、リビングからキッチンに行き、水を飲み、すぐにその場を去ろうとしたが、兄がダイニングに来て私に向かい、

「出かけてたの?」

と聞いてきた。


「うん。ちょっとね」

「そう、日曜はバイト休みだったよね。友達と?」

「うん…。バイトの友達と、お茶してた」


「そうなんだ」

 私と兄が会話をしてるのを見て、母と父はこっちをじっと見ていた。多分、驚いていたのだろう。何しろ私はこの家で、ほとんど口をきいていなかったから。


「ひかりはいつまで、本屋でバイトをしている気だ?そろそろきちんと働いたらどうだ」

 父が私に言ってきた。あ…。やばい。また、黒い霧に覆われる。

 と、警戒をして、心にシャッターを下ろそうとした瞬間、父からものすごいあったかい光が出ているのが見えた。


 え…?なんで、光…?


「そうね。バイトなんかしてないで、きちんと就職して、一人立ちしてくれないと…。いつまでも家にいられたらこっちが迷惑するのよね」

 母はいつものように、きついことを言いだした。でも、そんな母からも、光がどんどんと溢れ出てくる…。それは混ざり合い、私のことを大きく包んだ。驚いた。めちゃくちゃあったかい…。


 そして、私はまるで母のお腹にはいったように、胎児のような安心感を覚えた。何重にも何重にも、あったかい光で包んでくる。家全体を包み、兄までも包んでいた。


 私はしばらく、呆けていた。いったい何が起きたんだろう…。知らない間に、涙も溢れていた。


「いい加減にしろよ!親父もおふくろも、ひかりのことなんだと思ってるんだよ?」

 兄が、いきなり怒り出した。私が泣いたのを勘違いしたのだろう。


 兄を見ると、ものすごい黒い霧が兄から放出されていた。私のことを思っての怒りだ。でも、怒りは怒りだ…。黒い霧が母と父をめがけて、飛んで行く…。


 あ!母と父が霧に覆われちゃう!

 そう思った瞬間…。母と父からものすごい光が飛び出て、あっという間に黒い霧を消してしまった。その光はどんどん大きく広がり、兄を包み込んだ。


 ところが、父は、

「お前も人のことは言えないぞ。早くに結婚して、独立したらどうだ」

と、低い声で兄にそう言った。


「そうよ。家も出るはずだったでしょ?それなのに、いったいいつ出てくつもりなの?」

 母も、きつい口調で言った。でも二人が話すたびに、奇麗なあったかい光が放たれる。そして兄を包む。


 驚いた。言葉とは裏腹に、彼らは、私たちのことを思い切り、愛している。それは間違いなく、無償の愛だ…。言葉はこんなにきつくても、思いのエネルギーは、ものすごい愛だ……。


 感動して、言葉が出なかった。常に常に、彼らは私と兄にこんなにも愛を注いでくれてたのか…。世間体じゃなかったのか…。これが親の愛か…。子を思う、無償の愛なのか…。


 彼らももしかしたら、無意識なのかもしれない。でも、いつも無意識だとしても私たちを愛していたのか。根底に流れるものは、変わることのない愛だったのか…。


「ごめんなさい」

 私は思わず、謝っていた。

「どうしたんだ?ひかり」

 兄が驚いていた。


「私、心配をいっぱいかけてたんだ…。ちゃんと仕事も探す。家も出て自立する。結婚はまだ傷が癒えてなくて、できるかどうかはわからない。だけどもう、心配かけないように私、頑張るから…」

 私からも、ものすごい勢いで光が二人に向かって放出された。


「わ、わかればいいんだ。わかれば…」

 父がそう言うと、父からも光が放たれた。母は何も言わなかったが、母からも光が放たれて、二人の光がまた、混ざり合い私を包み込んだ。


「ありがとう…」

 思わず、わたしはその光に御礼を言っていた。父と母は、驚いて私を見たが、でもすぐに視線を違う場所に向け、何かをし始めていた。でも、あたり1面には光が立ち込めていて、心地が良くてあったかかった。


 ああ、なんで気づかなかったんだろうか。この家はいつも光で満ち溢れていた。こんなにも…。


 私は自分の部屋に戻った。そこにも光は溢れていた。二人がいつも、家を光でいっぱいにしててくれたんだな…。

 今まで、家では心を知らぬ間に閉じてて、気づけなかった。


お 風呂に入っているときと、自分の部屋でだけリラックスをしていたから、自分の部屋が唯一の、心休まる場所だって、勝手に思い込んでただけだった。この部屋が心地いいのも、父と母の光で包まれていたからだったんだ。


「は~~~~~~~~」

 私はベッドにねっころがって、大きく深呼吸した。


「気持ちいい……」

 あったかくって、すっきりしてて、ものすごい居心地のいい部屋で、私は思い切りリラックスをした。


 しばらくして眠気が襲ってきて、私は眠ってしまい、夢の中でふわふわと、昴くんの近くを浮遊していた。ああ、多分、幽体離脱してるな、私…。


 どうやら、私のエネルギーに気づいたらしく、昴くんが話しかけてきたが、私は黙って昴くんと同化した。あったかくって、愛しくて、広がっていくなんとも言えないエネルギーだ。


 ふって気がつくと、私は自分の体に戻ってて、目が覚めた。

『サンキュー、ひかりさん。これから舞台なんだ。緊張してたけど、落ち着いた』


 昴くんが話しかけてきた。

『うん…。頑張ってね』

『うん!』

 昴くんの元気な明るい声が返ってきた。


 ああ…。昴くんが大好きだな…。ものすごく愛しい…。そう思うと、

『俺も!ひかりさん大好きだよ』

と昴くんの声がした。あ、まだ聞いていたのか…。


 少し恥ずかしくなったが、でも、恥ずかしがらなくてもいいって昴くんは言ってたし、大好きだって思うことはけして、恥ずかしいことじゃないって思って、そのまま、昴くんから来るあったかいエネルギーを感じていた。



 翌日、朝10時に、昴くんの住んでる町に着いた。ドキドキする…。改札を抜けたところで待ってると、

『今いく。ごめん。5分待って!』

と、声がした。


『いいよ。慌てなくても…』

 5分後、髪がぼさついてて、太いふちのあるメガネにTシャツ、たくさん穴があいてるジーンズを着た昴くんが現れた。昴くんは走ってきたのか、息を切らしていた。


「ハア……。ごめん…。寝坊した。15分前に起きた」

「え?そうだったの?」

「ごめん…。昨日、遅くまで起きちゃってて…」


「いいよ~。それよりメガネなの?いつも…」

「ああ、これは度なしレンズ」

「変装用?でも、どっから見ても…」


「わかってるって…。でも、わからない人には、わかならいからいいんだよ」

とぶつくさ言いながら、歩き出した。


『こっちだよ』

 昴くんのあとを、とぼとぼとついていった。なんだか、隣で歩くのに気がひけた。


『大丈夫だよ。誰も気にしない。お姉さんかな?くらいにしか思わないって』

『そうだよね。もう、私年だし…』

『また、そういうこと言ってすねる…』


『す、すねてないよ』

『はいはい』

 う~~…。なんかいつもと違わない?寝起きで、機嫌悪いとか?


 そう思ったけど、何も返ってこなかった。昴くんはその代わりに、大きなあくびをした。

 マンションの一階に、コンビニがあり、昴くんはそこに入っていった。


『ちょっと、食料買わせて』

『うん、いいよ』

 私は、本をぺらぺらとめくった。心の中で会話をしているので、一見私たちはまったく赤の他人のように、見えただろうな。


 サンドイッチと牛乳を買って、雑誌も1冊買い、昴くんは、

『いっくよ~~』

と、私に心で話しかけた。


『うん…。私も雑誌買ってから出る。先に店から出てて』

『はいはい』

 私はレジに行き、雑誌を買った。ふと外を見るとコンビニの前で、昴くんは、雑誌を広げて待っていた。


『うわ!!!!!!』

 昴くんが、雑誌を見ながら心で叫んだ。

『ど、どうした?』


『あ…。俺、先、部屋行ってる。そこのエントランスで、306を押して。俺の部屋番号だから』

『うん』

 なんだろう…。なんでいきなり?何かへんなものでも、載ってた?


 私はお店を出て、エントランスに行き、306を押した。しばらくして、

「開けるよ!」

って声がして、マンションの入り口が開いた。


 中に入り、306の部屋に向かった。私がチャイムをならそうとすると、中からドアが開き、

『はいって』

と、心の声で、昴くんが言った。


『うん』

 こっちも、心で返事をした。入ると、カギを昴くんは閉めた。一瞬、私はドキってした。


「あ。誰か変なやつが入ってこないようにカギ、しただけだから」

 その、ドキっていうのが、昴くんに伝わっちゃったらしい。

「わかってるよ」


 なんだかにくらしくなって、そう言った。

「それより、どうしたの?さっき…」

と、昴くんに聞くと、

「ああ…。これ見て」

 昴くんが、見ていた雑誌を見せてくれた。


「え?!!!!!」

 そこには、私と昴くんが写っていた。あれだ。赤坂のカフェで夜、悟くんや美里といたときのだ。美里と悟くんは写ってなくて、私の肩を抱いている昴くんの姿がしっかりと、写っている。


「これ…!いつの間に?」

「ああ…。撮られちゃったね」

「…私だって、わかるかな?これ…」


「知ってる人が見たら、わかるかもね。顔はちょっと隠れてはいるけど」

「うん…」

 両親が見たら、わかるかも…。あ、もしかして、緒方さんも…。ゾク…。また寒気がした。


「大丈夫?」

 昴くんがそれに気がつき、心配してくれた。

「うん…」


 なんだろう…。緒方さんのことを思い出しただけで、ぞっとする。

 ぎゅ…。昴くんが私を抱きしめた。わあ…。あったかいエネルギーが溶け込んでくる。


「大丈夫だよ」

「うん…」

 しばらく目を閉じて、昴くんのエネルギーを感じていた。


「きっと、緒方さんのことを思うと、波長があっちゃうんだね?」

「え?」

「どうやら、いつも思ってるみたいだよ。ひかりさんのこと」


「なんでわかるの?」

「同化した時に、感じたから」

「いつ?」


「今もちょっと…。この前もかな」

「いつも、思われてるの…?」


 ますますぞっとした。でも、いつも思ってくれてるなら、昴くんだって同じだ。昴くんだったら嬉しくて、緒方さんだったらぞっとするって、緒方さんに悪いことなのかな…。


「ああ、それは違うよ。エネルギーがまったく異質なんだ。俺からは、まあ、もともと俺とひかりさんはエネルギーが一緒だからさ、心地いいのは当たり前だけど。それに俺からのエネルギーは、光、愛。それも無償のね。見返りを求めていない。わかる?」


「うん…」

「緒方さんの場合、思い切り見返りは求めてるし、独占欲はあるし…。愛とは違う。執着だ。どうにか振り向かせようとしてる…。そりゃ、いいエネルギーを感じないのは当たり前だよ」


「…昴くんは、見返り求めないの?」

「ひかりに?求めるわけないじゃん。だって、ひかりは俺だよ。俺が俺に見返り求めてどうすんのって話だよ」


「そっか…」

 あれ?今、呼び捨て…。

「いいじゃん…。駄目?呼び捨て」


「ううん。別に」

 ちょっと嬉しかったりして。

「でしょ?喜んでたもんね、今」


「もう、わかってるなら、聞かないで!」

「あはは…。いいじゃん」

「……」


「そ…。人を愛してるようで、愛してなかったりするんだよ。みんな…、感違いしていることが多い」

「え?」

「えって…。今、心の中で言ってたじゃん。求めるのは愛じゃないのかってさ」


「与えるのが愛?」

「うん。それとか、癒しだったり、信頼だったり、支えだったり…」

「求め合うのは違うの?」


「求める必要がないからさ」

「?」

「愛を求めなくても、自分から湧き出る愛で、十分なんだ。自分だって満たされる」


「ああ、それはなんかわかる。自分から溢れ出てくる愛が、すんごいってこと」

「心の中思い切り満たされて、幸せでしょ?」

「うん。無償の愛か…」


「そう」

「それ、昨日両親からも感じた…」

「ああ。なんか俺も感じた。すごい光に包まれてたのが…。すごい癒しの瞬間だったよね」


「癒しの?」

「うん。ものすごい勢いで、ひかりの怒りとか、悲しみとか、孤独とか、浄化されたよ。光に包まれて…」

「そうだったんだ」


「だいぶ、気持ちが軽くなったでしょ?」

「うん。本当に…」

「良かったね。家族はみんな、ひかりのこと愛してたでしょ?」


「うん…」

 私は嬉しくて、一気に心が満たされ、そのままその光は部屋中を覆った。部屋からも外に放出し、辺り1面に広がったと思う。


 昴くんは、しばらくそれを感じているようだった。それから、

「なんだ。俺がぎゅってしなくても、大丈夫そうだね」

って言って、笑った。


「じゃ、逆に俺のことぎゅってしてもらおうかな…」

「ええ?そんな必要あるの?いつも光で満たされてる昴くんが…」

「あるよ。これでもね、いろんな感情を持っちゃうんだよ。でもたいてい、外に出して浄化はしてるけど」


「え?」

「溜め込むとよくないんだ。浄化するには出して、光で覆う…」

「うん。なんとなくわかる気がする」


「じゃ、浄化してくれる?俺の中にあるもやもや、今から出すから」

「え?うん。…でも私に出来る?」

「出来る。昴のことが大好きって言って、ぎゅってしてくれたらいいから…」


「ええ?」

 なんだか照れくさかった。でも、昴くんのためにしてあげようって思った。


「うん…、そんな感じ」

 私からはもうすでに、昴くんに光が放たれて包み込んでいた。


「じゃ、行くよ。けっこう、マイナスのこと吐くからね」

「う、うん」

 どんなマイナスなことでも、包み込もうと覚悟を決めた。


「緒方のやろう!ひかりはお前のもんじゃねえ!ひかりのことを悪いエネルギーで覆ったりするな!独占できるなんて思ってんじゃねえよ!」


 ……?!驚いた。そんなこと思ってた?あれ?それを私は感じ取れていなかったな…。


 昴くんの中から黒いもやもやが飛び出た。ふわって辺りを覆っていく…。私は、ただただそんなことを思ってくれてたのが嬉しくて、昴くんがめちゃくちゃ愛しくなった。


 あ、抱きしめるんだっけ…。恥ずかしかったけど、ぎゅって昴くんを抱きしめた。ものすごく愛しくて、心の奥からこんこんと愛が溢れてくるのを、自分でも感じ取ることができた。


 ふわ~~~~。優しくてあったかい光が、私から放たれ、昴くんを包み込む。黒い霧はあっという間に消えていった。

「上出来…」


 昴くんがそう言った。でも、まだ私は昴くんに抱きついていた。とても、気持ちが良かった。光に溶け込み、どこからが昴くんで、どこからが私かわからなくなる。


 昴くんもぎゅって私を抱きしめた。あ…、同化した。ふわ…。魂だけ宙に浮いた。昴くんの魂と同化したまま…。 どんどん浮かび上がり、いつの間にか天井をつきぬけ、空に舞い上がり、それでもまだあがっていった。


 ひゅ~~~。光があたり1面広がり、気がつくと宇宙船に二人でいた。そこで、二人は離れると、二人とも光の人型になっていた。

「あ…。ここまで来ちゃったよ」

と昴くんは笑った。それから二人で、スクリーンに映ってる地球を見た。


「ズームアップさせてみる?」

「え?そんなこと出来るの?」

「出来るよ。俺のマンションの俺の部屋…」


 いきなり地球が迫ってきて、大気圏を抜け、日本が見えて、さらに東京、さらにもっともっとズームアップされ、あっという間に私と昴くんの頭上の絵が見えた。


「あ~~。いっちゃった顔して、抱きついてるな。ちょっとエロチックだね」

 あれ?今、ものすごく変なことを昴くんが言ったのに、恥ずかしいとか、そういう感情がわかない。


「魂だからね。恥ずかしいって感情がないんだ。今のひかりには…」

「そうか…。悲しいも、苦しいもない?」

「ないよ。感じてる?」


「ううん、全然」

「痛みもないでしょ?」

「うん。ただ、開放感…。すごく気持ちがいい」


「うん」

「…時々ここに来てるの?」

「うん、時々ね」


「どうやって?」

「ここのエネルギーを感じる。一瞬で来れるよ。今日みたいに」

「ここを感じたの?昴くん。」


「いや、ここを思い出したのは、ひかりじゃない?」

「そうかも…」

 無意識のうちに、昴くんを抱きしめてたら、ここの気持ちのいいエネルギーを思い出したのかもしれない。


「……」

 昴くんの考えてることが消えた。ぼ~~ってして、ほとんど空白。昴くんはただ、スクリーンを観ていた。スクリーンは、また地球が映し出されていた。


 昴くんからは、ものすごい光のうねが出ていて、それが地球に向かって発信されていた。ものすごい愛だ…。私は昴くんと同化した。そして、一緒に光を地球に向けて発信した。地球はまるごとその光で、包まれた。


 心の奥からこんこんと湧き出る愛…。愛…。愛……。


 そして…。ふっと気がつくと、自分の体に戻っていて、昴くんがぎゅって抱きしめてるその感覚を、感じていた。

「あ…」

 昴くんを見ると、涙を流していた。気がつくと、私の頬も涙が流れていた。


「あれ?」

「感動して泣いちゃったんだ。俺ら…」

「え?」


「魂じゃわかんないけど、戻ってきて、心が感じて泣いちゃったんだ」

「何に…?」

「愛に…。地球はものすごい愛を返してた。感じた?」


「うん。なんか、大きな愛で包まれた…」

「地球の愛の力だよ。一体化してたんだ。俺らと…」

「すごいね…。ものすごい愛だったね」


「うん…。地球も生命体なんだ。地球にいる存在全部を愛してるんだよ。俺らのこともね」

「今も?」

「もちろん。今も…」


「…すごいね、感動だ…」

「うん…」

 しばらく泣きたいだけ、私たちは泣いていた。二人で、抱き合いながら…。


 それから、昴くんがサンドイッチを食べた。私は洗濯をし始め、サンドイッチを食べ終わると、昴くんも一緒に手伝い出し、部屋の掃除をした。


 部屋が奇麗になってから、昴くんは髪を整え、今度はサングラスをして帽子もかぶり、Tシャツの上からグレイのベストを着て、めちゃかっこよくなって、

「昼飯、食べに行こう」

と言い出した。


「え?でも、外出ても平気?」

「ああ、もういいじゃん。写真に撮られても…。そんときゃそんときだ。第一、宇宙は完璧だから、いい方に流れるってことだよ」


 そう言うと、私の手を引き玄関の外に出た。

 鼻歌まで歌っている…。う~~ん、さすがだ。大物になるわ、この人。


「え?そう思う?実は自分でもそう思う」

「ええ?」

「あはは…。なんつってね」


 くす…。それが鼻にかけてる言葉でなく、可愛い冗談だというのがわかるから、めちゃ可愛くなる。

 でも、もし鼻にかけてたとしても、許しているだろう。どんな昴くんも、私はきっと愛していくと思うって、そういう確信がある。


 昴くんは私がそう思ったと同時に、こっちをぐるりと見た。エレベーターの横の非常階段から、降りようとして、非常階段を降りかけたところだった。


『それ…、俺も同じだよ』

と、心で話しかけてきて、いきなりキスをしてきた。


「え?!」

 思い切りびっくりしてしまうと、

『だって、今、キスしたくなったから』

と、昴くんは心で言った。そして、


『それに、ひかりも思ってたよ。同じこと…』

と、言われてしまった。うわ…。そうだ、そのとおりだ。昴くんが振り返って私を見たとたん、昴くんの方が1段下にいて、目線があって、今キスしたいなって思ってたもん…。


『同じことを感じてるんだ。しょうがないよね。だって、俺はひかりで、ひかりは俺だから…』

 じゃあ。じゃあ…。キス以上を求めてしまったら、どうなっちゃうの?


『求めなくても、きっと、そういうときがきたら、そういうことになるよ』

『それも、宇宙に任せておくってこと?』

『そういうこと。くるかもしれないし、こないかもしれないし…』


『そっか…』

 今じゃないんだ…。それだけはなぜか、確信できる。今は、昴くんと抱きしめあったり、こうやって手をつないでたりするだけでも、幸せで、満足しているし…。エネルギーを体中で感じられ、同化もできるから、わざわざ抱き合いたいとも思わない。


『そうだね…。それは俺も思うよ』

 やっぱり?ほんとうに同じことを思ってるんだな…。


 駐車場の方から外に出て、近くのレストランに向かった。と言っても、近くにあるのは、ファミレスらしい。


「ここ、行く事あるの?」

「夜中とかね。帰ってきて開いてるのって、ここか、焼肉屋で…。一人で焼肉屋ははいれないじゃん?」

「うん」


 ファミレスに入ると、店員さんが一回、あっていう顔をして顔を赤らめ、それから席に案内してくれた。

 もう、2時近くになっていて、店内は空いてはいたが、何人かの若いお母さんたちと学生がいて、みんな昴くんを見た瞬間に気がついていたらしい。


 変装用のサングラスも、帽子も意味がないじゃないか…。

『だって、この辺よく歩いてるし、この辺に住んでるってのも、知ってる人多いしばれるよ、そりゃ』


『じゃ、昴くんちの近くじゃない方がよかったんじゃないの?うちの方が良かった?』

『いいよ。もう、ばれてもなんでも…。だいたい隠し事ってのは苦手だよ』


「で?ひかりは何にする?」

 いきなりメニューを見て、昴くんは声を出した。


「え?ああ…。えっと、日替わりランチでいいや」

「んじゃ、俺もそれ。ご飯大盛りにしよう」

 店員が注文を聞きに来て、昴くんが注文した。


『でも、あんな雑誌に出ちゃったら、どうなっちゃうの?』

『さあ?載ったことないから知らない』

『え?』


『心配はしないでいいよ。そうだ。ねえ。この世界って、実は心が映されてるって話したっけ?』

『ううん』

『ちょい、黙ってんのも変だから、携帯見てるふりして話すよ。ひかりも何かしてて』


『え?わかった。文庫本持って歩いてるから、それ読むふりをする』

『うん』


 昴くんは携帯を開き、なにやら読んでるようなふりをした。私はかばんから文庫本を出し、開いて顔をそっちに向けた。

『あのね…。この物質世界っていうのは、幻想なんだ。スクリーンに映し出された映画みたいのもので』


『え?』


『何が、映し出されているかって言うと、俺らの思考だったり感情だったり、固定観念だったり…』

『…?』


『例えば、何かを怖いと思うと、怖い思いをしないとならないことが次々に、スクリーンに映される。こんなことが起きたらどうしようと思うと、そんなことが…。それに、これは絶対にこうじゃないといけないみたいに、思ってるとそれもね、映し出される』


『つまり、心の中のものが、外側に映されるってこと?』

『そう。だから、外側を見るよりも、心の中を見るほうが大事なんだ。わかる?みんなそれを知らないで、外側で起きたことに対して、右往左往している』


『じゃ、心が平和なら、平和な世界になる…』

『あ、さすが!ひかり、そこに行き着くのが早いね。そのとおりなんだ』


『心が愛で満たされていたら、愛で満たされた世界に』

『そう』

『そうか…。じゃ、今回、こんな雑誌に載っちゃったのは、そんな不安があったから?』


『う~~ん、どうかな。起きるべくして起きるから…。宇宙に任せておいても、え?なんでこんなことってことは起きるよ。でも、それが必要なことだったりするんだよ。これからの展開はまったく俺にもわからない。でも、いい方向に行くためのものなんだ。だから、心配する必要はない。宇宙は完璧。任せておけばいいんだ』


『それは、いつも昴くんが言ってる…』

『そう…。悪いことなんて起きないから』

『わかった。じゃ、隠そうとしたり、何かをどうにかしようとしないでも、起きて来た事をしっかりと受け止めたらいいんだよね?』


『そのとおり!パーフェクト!さすが~~!』

 心の中で昴くんは、ぱちぱちと拍手をしていた。


『じゃあ…、私はもう、何かの役に立ってるってことかな?』

『え?』

『こんな私でも…』


『…何も役に立ってないと思ってた?』

『うん。だって……』

 私は、漠然と感じていたことを、またその場で感じた。


『ああ…、そうか』

 それを昴くんは、感じてしばらく沈黙した。昴くんはいつも、私の何か微妙な感覚や感情も察知する。


 私はいまだに、昴くんが心で話しかけてくれないと、聞こえてこない。なんでかな?

『そのうちに、感じるようになるよ』

 あ。今のも聞こえてたんだ。


『うん…。それより、さっきの…。子どもが生まれてこなかったのは、別にひかりのせいじゃないよ。子どもも産めない役立たずなんて思わなくてもいい。そのうちに、それも必然だったことがわかるよ』

『必然…?』


『うん…。それと、仕事していないっていっても、そんなことも関係ない。どんな仕事をしてるか、してないか、そんなのも外側の世界で起きてるだけで、まったく君の存在価値とは、関係ないものだから…。あと、離婚だって、悪いことでも恥ずかしいことでもないよ。確かに親御さんはあれこれ言ったみたいだけど、それもなんとなくわかってるでしょ?』


『私のことを思ってのこと』

『自分たちが死んだあとが心配なんだ。仕事するなり、結婚するなり、ひかりがちゃんと生きていけるようになってて欲しいって思ってるんだよ。本当は結婚して子ども産んで幸せになってほしい、それがひかりのご両親の願いだ。それで、離婚して子どももいなくて仕事もしてなくて、このままだったら、自分らがもし万が一のことがあったらどうしようって思ってる。いつも、ひかりが幸せになること、考えてるんだよ』


『なんで、わかったの?それ…』

『ずっとわかってた。ひかりのことを見つけて何度か、幽体離脱して、ひかりの家にも行った。ひかりの家はいつでもすごい愛で満たされてた。ひかりの両親からは光が出てて、君を包み込んでたから』


『なんで、言ってくれなかったの?』

『ひかりが自分で感じ取らなくちゃ、意味がないから』

『そうだったの…』


 私は、まったく読んでない文庫本を、たまにぺらってめくった。そして、料理が運ばれてきて、いったん、心での会話をやめにした。


「わ、美味しそう。いただきます」

 昴くんは嬉しそうに、手をあわせて食べだした。私も、いただきますと言い、食べだした。周りにいる人がたまに、こっちを見た。でも、すぐに見るのをやめていた。


 私は目の前で美味しそうに食べている昴くんを見ながら、幸せに浸った。すると、昴くんはそれを感じ取ったらしく、私を見てにこって微笑んだ。昴くんから無数の光が飛び出し、くるくると混ざり合い、店全体に広がった。優しいあったかい光だ。


『これがもう、私たちのミッションかな?私たちはもう、ミッションを遂行してるのかな?』

『もちろん。だから役立たずどころか、すごい地球に貢献してるんだよ?』


『そうか…』

『うん。誰かを無償で愛するっていうのは、ものすごい力があるものなんだ。それ、もう俺らしてるんだ』

『そうか…。そうだね…』


 私は嬉しかった。自分のことが誇らしくも思えた。自分の存在をやっと、認められたようなそんな気もした。私の中からも、すごい輝きを持った光が放射され、店を覆った。きらきら光る、今までとはまた違う光だった。


『奇麗だね、この光…。なんか、歌ってるみたいだ。喜びの歌かな…?喜びってすごい光なんだよね』

『そうなんだ…』

『うん。他にも、感謝、笑い、信頼、許し…。これも奇麗な光だよ』

 なんとなくわかる気がした。


 昴くんと、しばらくそのあとは、普通に雑談をして笑いあった。笑うと、きらきらと光が嬉しそうにダンスをした。それは、楽しくて、軽やかなダンスだった。


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