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ミッション3 心の癒し

 その日の夢もまた、悪夢だった。それも、うなされていたらしい。朝、起きてダイニングに行くと兄がいて、

「昨日、うなされてたけど大丈夫か?」

と、聞いてきたので、はじめて、自分がうなされていたことに気づいた。そのうえ、兄が心配をしてくることにも私は驚いていた。


「ちょっと2日間、変な夢を立て続けに見て…」

兄にそう答えていると、母がキッチンからやってきて、

「あなた…、5月の終わりに、駅の階段の上から落ちたって本当?」

と、いきなり聞いてきた。


「え?何それ…」

 兄が驚いて、

「それで、怪我は?」

と聞いてきた。


「ないよ。頭にたんこぶ作ったくらいで」

「でも、ちゃんと病院に行ったほうが…」

 兄がそう言いかけたが、

「もう、診てもらった。異常はなかったから」

と、言って私は、黙々とご飯を食べた。


「なんでおふくろは、それを知ってるんだ。誰かに聞いたのか?」

「ばったり、ひかりの中学の同級生のお母さんに、昨日スーパーで会って…。あなたが階段から落ちたところを目撃したらしくて、しばらく気を失ってたけど、ひかりちゃんは大丈夫だった?って聞かれたのよ」


「ふうん」

 私は、まったく感情を込めずそう答えた。


「こっち、知らないから、でも、話をあわせてもう大丈夫ですって言ったけど…。まさか、母親が知らないなんて恥ずかしいでしょ」

「……」


 結局はそこか。私の怪我なんて関係ない。

「夢でうなされてるのは、関係あるのか?もう一回きちんと診てもらったら」

 兄がそう言った。


「大丈夫だから」

 私はそう言って、2階に上がった。後ろから、母が愛想のない子ねって言ってるのが聞こえた。兄は、それに対して何も答えていなかった。


 情けない。体の心配より、体裁の方が気になるのか…。落ち込んだまま、私はバイトに出た。


 昨日も夢に昴くんは出てこなかったけど、また、私の悪夢を一緒に体験していたんだろうか。だとしたら、申し訳ない気すらする。これは、私の苦しみなのに…。あ、ああ…。私ってことは、昴くんでもあるのか…。


 バイトをしてても、その日は身が入らず、何回も間違えたりしてしまった。

 昼に、地下の喫茶店で一人で、ランチを食べていた。すると、葉月ちゃんがやってきた。


「あれ?休憩時間、一緒?」

「はい。ひかりさんのあと、追っかけてきちゃいました」

「そう…」


「私、昨日の出来事、ノエルさんに言うかどうか迷ってて…。でも昴くんが、ノエルさんのリーディングすら、必要ないようなことを言ってたから、少しこのままにしておこうって思ったんです」

「そうだね。その方がいいかもね」


「あの…、舞台を観てて、どうやって相手が昴くんだってわかったんですか?」

「エネルギーかな…。宇宙船で会ってから、エネルギーだけはわかってたから…。昴くんから出てるエネルギーっていうかオーラっていうか、それが、宇宙船で会った人と一緒だったんだ」


「エネルギーって、わかるんですか?」

「うん。葉月ちゃんは声が聞こえたとき、何か感じなかった?」

「う~~ん。何も…」


「そっか。声がしただけ?」

「はい。体の中から聞こえてきて…」

「あ、一緒だ。私もだよ。昴くんの声、体の中から聞こえるよ」


「え?宇宙船で会ってからも、聞こえてたんですか?」

「うん。たいていが夢の中で。一回また幽体離脱しちゃって、そのときには、昴くんの魂と会話してたみたい」


「幽体離脱って、どうしたらできますか?」

「わかんないな。一回目は、頭を打ったとき、2回目は、ただぼ~~ってしてたら、体から離れてたんだよね。それ以来ないけど」


「へ~~」

 頼んだホットサンドとコーヒーがきて、黙々と葉月ちゃんは食べだした。しばらくすると、口を開いた。


「なんか、聞いてても、ときどきちんぷんかんぷんで、ついていけないときがあって…。そういうときには、考えてもわからないから、何も考えないように最近してるんです」

「ああ、それ、いいかも。思考は邪魔をするって昴くんよく言うし」


「そんなによく、会っているんですか?」

「ううん。あまり会ってないよ」

「じゃ、電話とかメールで?」


「ううん。電話番号もメアドも知らない」

「え?じゃあ、どうやって連絡取り合ってるんですか?」

「うん、だから、心で会話する…」


「え?!どうやって?」

「いきなり、昴くんが話しかけてくることが多いかな。こっちからは、昴くんのエネルギーを感じてそこに、集中する。そうすると、呼んだ?って昴くんが答える…。あれ?なんで呼んだかどうかわかるのかな。不思議だな…」


「テレパシー?」

「テレパシーっていうか…。よくわからないや、私も」

「すごいですね…。ちょっとびっくり」


「でも、葉月ちゃんだって、声聞こえたんでしょ?」

「はい。いっとき…。最近は全然」

「もしかしたら、向こうはコンタクト取ってるのかも。思考が邪魔すると、聞こえなかったりするみたい」


「え?じゃあ、あれこれ考えない方がいいってことですよね」

「うん」

「あ~~、もうやめよう。考えるの…」

 葉月ちゃんはそう言って、コーヒーをすすった。


「あ…、ねえ、葉月ちゃん」

「え?」

「今、お店にはいってきた人、似てる…。でも、ここにいるわけないか」


「誰にですか?」

「悟くん」

「え?!」


 葉月ちゃんが、振り返ったその時、私たちのテーブルの横をその彼は素通りしていった。それを私も、葉月ちゃんも目で追った。

「ほ、ほ…星野さん」


 葉月ちゃんは、驚きの様子を隠せない感じで私を見た。

「絶対、悟くんですよ~~」

 ささやき声で私に言って、目を輝かせた。


「なんで、ここにいるのかな…」

 葉月ちゃんは、どうやら、私の後ろの席に座った、悟くんをじっと見つめているようだった。


『悟くんが、この前の喫茶店にいる!』

 私は、昴くんに心の中で話しかけた。


『ああ、昨日俺が行った、取材の場所、今日は悟さんが取材受けるって言ってた』

 昴くんは驚くこともなく、普通に言葉を返してきた。


『舞台は?』

『今日は、夜だけだから』

『昴くんは何してるの?』


『これからCMの撮影』

『忙しいね…。ゆっくりする暇ないんじゃないの?』

『そんなことないよ。今日、10時までぐーすか寝ていられたし』


『夢でうなされることなく?』

『あ…。悪夢っていうか、かなり苦しんでる夢は見た。ひかりさんの夢だよね?うなされちゃったの?大丈夫だった?』

『うん。昴くんは?』


『うなされてたかどうかは、一人暮らしだし、わからないや』

『一人暮らしなの?大変じゃない?自炊や掃除、洗濯』


『やってるよ~~。洗濯はコインランドリーに行くことも多いけど。でも、掃除が苦手。たま~にになっちゃう。今度ひかりさん、掃除しに来て』

『ええ?』


「星野さん…。どうしましょう?」

「え?何が?」

「聞いてませんでしたか?私の話」


「ごめん…。あ、ちょっと待って」

『葉月ちゃんが、話しがあるみたい。じゃ、仕事頑張ってね』

『は~~い。またね~~!』


 う~~ん。明るい返事だな~~…。

「ごめんね、ぼ~ってしてたよね?私」

「はい、ちょっと…。一点見てぼ~~って」


「昴くんと話してた。あ、悟くんは取材で新宿来たみたい」

「え?今、心で昴くんと、会話していたんですか?!」

「し~~。声大きい」


「す、すみません。でも、びっくりして。昴くんは今、何してるんですか?」

「今?どうだろ。これからCMの撮影って言ってたけど。舞台は夜だけなんだって」

「へ~~。そんな会話を今、してたんですか。すご~~~~い。羨ましい!」


「昴と、会話してたって?」

 いきなり、後ろの席にいた悟くんが私に聞いてきた。

「え?」


 今の話、聞かれてたんだ。うわ~~~。かなりおかしな奴だって思われたかも…。

「君、心で会話できるの…?」

「え、えっと…」


「そうなんです」

 私でなく、葉月ちゃんが答えた。


「君には聞いてないから、黙っててくれる?」

「すみません…」

 葉月ちゃんが黙った。


「ちょっと、隣いい?」

 悟くんは、私の隣の席に移ってきた。


「今の話…、ちょっと詳しく聞いてもいい?」

「なんでですか?」

「興味あって…」


「じゃ、今日昴くんに会ったとき、聞いてみてください」

「昴にも、話は聞いてみる。でも、君の話も聞きたいんだけど。それ、いつぐらいから?」

「…つい、最近です」


「はじめは何がきっかけ?」

「私が階段から落ちて、意識失って…」

「それから、声が聞こえるとか?」


「…はい」

「…で、どうして昴だってわかったの?」

「舞台を観に行って…。昴くんの方は、私のこと知ってたし」


「……。どうして、昴は君のことを知ってたの?」

「それは、私もよくわからないから、昴くんに聞いてください」


「…まいったな。こんなに近くにいたとは…」

「え?何がですか?」

「いや…。ちょっと変なこと聞いてもいいかな。その…。声が聞こえる前に、UFOとか、見なかった?」


「いいえ…。なんでですか?」

「いや、ちょっと…」

「UFOは見てません。でも頭打って、その瞬間幽体離脱して、宇宙船に魂が飛んでいってました」

「え?」


「そこで、昴くんと会いました。っていっても、昴くんの魂で、それが昴くんだとは、わからなかったですけど」

「昴、宇宙船にいたの?何の宇宙船?」

「わかりません」


「君、どこの星の人?」

「プレアデス…って昴くんは言ってました」

「そっか~~。じゃ、星は違うんだ」


「はい?」

「あの…」

 葉月ちゃんが、口をはさんだ。


「黙っててって言われたから、黙ってましたけど…。ちょっといいですか?」

「何?」

 かなりぶっきらぼうに、悟くんは聞いた。


「私、UFO見ました。UFOから光がど~~って私の方に向かってきて、一瞬包まれて。怖くて逃げました。そのあとしばらくの間、声が聞こえるようになって…」

「いつ?」


「去年の秋」

「その声は今もする?」

「いいえ、今年にはいってから、まったく…」


「何かした?」

「何かって?」

「あれこれ調べたり…」


「はい。ある人にリーディングしてもらって。あ、それからかも…聞こえないの」

「ふうん…」

「何か関係があるんでしょうか?」


「そのリーディングしてくれた人、怪しい人じゃない?」

「いいえ。その人もプレアデス星人だったって…」

「……ふうん」


「あの…、なんでですか?」

「いや、本人はわかってないかもしれないけど、いんちきもいるから」

「いんちき?」


「そういうの名乗って、邪魔をする」

「なんの邪魔を?」

「真実を知る邪魔」


「どうしてですか?」


「はっきり言うと、地球のアセンションを邪魔するって感じかな」

「ノエルさんは、そんなことないですよ。ね?ひかりさんも一緒だったけど、全然、そんなことないですよね?」


「ごめん、私にはわからない。でも、葉月ちゃんのソウルメイトが、昴くんだって言ってみたりしたし…。どうだろう?未来の話だって、昴くんが言うには変わるって言うから、そういうのをリーディングするのも、どうかなって思う」


「でも、何回も幽体離脱して、プレアデスの人と交信もしてて…」

「昴と君が、ソウルメイトってその人言ったの?」

「はい。でも、確信してじゃないですよ。多分そうかなって感じで」


「そんなにあやふやなことを言うの?」

「……」

 悟くんはずっと、クールに表情も変えずに話をしていた。だが、葉月ちゃんは、だんだんと不安げな表情になっていた。


「ね。葉月ちゃんだっけ?今、ちょっと目をつぶって、心の中静かにできる?」

「え?」

「頭で何かを考えない。っていうか考えてもいいけど、その考えを通り過ぎていくまで待つ」


「通り過ぎる?」

「禅を組んだときと同じ感じで…。したことあるでしょ?そういうの、興味持って、やってたよね?そのリーディングしてもらう前」


「禅はしていません。でも、ヨガをならってました。それで、ゆっくりと呼吸してると、声がはっきり聞こえてきていました」

「じゃ、そのときの呼吸を思い出だして」

「はい…」


 どうしたんだろう?いきなり…。っていうか、なんで葉月ちゃんに禅をしていたでしょ?なんて、悟くんは言ったのかな?


 しばらく、目を閉じて、葉月ちゃんは深く呼吸をしていた。すると、

「え?」

といきなり、目を開けて、ものすごいびっくりした顔をして悟くんのことを見た。


「……」

 目を真ん丸くして、悟くんを凝視してる。悟くんも黙って、葉月ちゃんを見ていた。


「さ、悟くんだったの…?」

「え?え?何が?」

 私は何がなんだかわからなくて、聞いてしまった。


「わ、私のソウルメイト…」

「え?」

「今、体の中から声がしてきて…。それで…」


「そう。ようやく聞こえた?この前劇場で会ったときにも、俺、心の中で話しかけてたよ」

「え?」

「さっきも、心の中でコンタクトとってたけど、まったく聞こえていないようだったから、何かあるなって…」


「じゃ、ノエルさんが、邪魔を?」

「いや、直接的にじゃないよ。多分、あれこれ言って、葉月ちゃんが混乱したり、考え込んだりさせるためだと思う。そうしたら、俺の声、もう聞こえなくなるからね」


「なんのために?」

「だから、アセンションをさせないために」

「ど、どうしてそんなことを?」


「光とは逆のエネルギーを好んでるからかな。地球が上昇しちゃうと、きっと、生きていけないんだ。まあ、そうしたら、また3次元の星に移住するのかもしれないけど…」

「でも、でもノエルさん、過去生プレアデス星人だって…。嘘だったの?」


「本当だろうね」

「え?」

 私が、それを聞いて驚いてしまった。


「君と昴は、かなり波動の高いプレアデス人だったろうね。もしかして、光の体してなかった?」

 悟くんは私に聞いてきた。

「うん。してた。光の人型だった」


「うん。プレアデスも、地球のように3次元から、だんだんとアセンションしていった星だ。次元をあげる人たちと、そのまま3次元にいすわるプレアデス人がいた。でも、プレアデス星自体が次元上昇して、そこにいられなくなったプレアデス人が、新たに3次元の星をめがけて、やってきた。ま、移住してきたようなものかな。それが地球」


「……」

 私と葉月ちゃんは目を合わせた。葉月ちゃんは目が点になっていた。多分、私もだ。


「そのなかにも、今回、地球と一緒にアセンションするプレアデス星人もいるだろう。でも、まだまだ、3次元で遊んでいたい人たちもいるんだよ」

「だったら、邪魔なんてしないでも…」


 思わず私がそう言うと、

「そうだよね。でも、しちゃうんだろうね。それを見抜いて、邪魔されないようにするのも、俺らの役目」

と悟くんは答えた。


「え?」

「それを昴と、君、えっと名前は?」

「星野ひかり」


「星野さんか…。昴と星野さんとで、やっていく。そして、俺は葉月ちゃんと」

「私と、悟くんとで?」

「そう…」


 悟くんはとても、クールにそう言った。なんだか、昴くんとは正反対のタイプ。沈着冷静。とってもクール。

「驚いたね。本当に、こんなに近くに仲間がいたとは…。でも、そんな時期に入ってるってことだな」


「時期って?」

「いよいよ、アセンションのために、俺らが動き出す。仲間集めて、結束して」

「どうして、集まるの?何をこれからするの?」

 葉月ちゃんが聞いた。


「今回みたいに、邪魔をする存在から邪魔をされないよう、みんなで注意深く観察したり、みんなを守ったりってこともあるし…。あとはそうだな。俺にも今は、わからない。その時期が来たらわかる。これは、俺らが詮索する必要はない。なるようになってるから、目の前のことをしていくだけだ」


 あ、昴くんと同じことを言ってる。

「目の前のこと?」

 葉月ちゃんが不思議そうに聞いた。


「そう。あれこれ考える必要はない。流れに任せて、やってくることを受け止めてみたらいい。それだけだ」

「それだけ?」

「そう、あ。今の舞台だって、かなりアセンションに役立っている。昴の歌声なんて、ものすごい光を放って地球が浄化する手伝いをしているよ」


「浄化?」

 葉月ちゃんはずっと、目を丸くしながら、聞き返していた。


「いろんな人の感情を、浄化させている。心を癒している。人を憎む思いだったり、羨む思いいだったり、悲しみや苦しみは、愛や光とまったく反対に、ベクトルが向くからね。アセンションのとき、かなりそういう感情があると、上昇しにくいんだよね」


「あの歌声で、地球が光に包まれるのを、私見ました」

 私がそう言うと、

「え?」

と、葉月ちゃんが驚いていた。


「すごかったです」

「うん…。それが、昴の使命。俺はその補助をしている。今回の舞台ではね。反戦の物語で、ちょっと捉え方を間違えると、戦争を憎んだり、悪者にするところがある。でも、そもそも憎む行為や感情は、マイナスに働くから、そうじゃなくて、プラスに働くように、役者や客席の気持ちのベクトルを見守って、手伝っているのが僕の役目」


「でも、どうやって?」

「光で、闇の感情を覆うのさ。包んじゃうとね、闇は消えるんだ。すごい光に照らされると影すらできなくなるんだよ」


「へえ~~~」

 なるほどって私は思ったが、前で聞いている葉月ちゃんの顔は、なんのことやらって感じだった。


「ヨガでもいいし、禅でもいい。なるべく、邪念とっぱらえることをしてくれる?葉月ちゃん。深い呼吸っていうのはいいんだよ、ものすごく。その時には、多分俺とつながりやすくなる。そうしたら、声が届くようになるから」


「はい…、わかりました」

「うん。さて、そろそろ行こうかな…。じゃ、またね」


 そう言うとレシートを持ち、悟くんはレジに行った。

 私と葉月ちゃんも、時計を見て、慌ててレジでお金を払いお店に戻った。休憩時間を何分か、過ぎていた。


 それにしても、驚きだった。葉月ちゃんのソウルメイトは、悟くんだったのか。

 このことを早くに昴くんに言いたかったが、CMの撮影を邪魔したくなくて、なるべく昴くんのことを考えず、エネルギーも感じないようにしていた。


 夜、お風呂につかってぼけ~~ってしていると、昴くんが話しかけてきた。

『葉月ちゃんのソウルメイト、悟さんなんだって?!』


『うん。驚きでしょ?葉月ちゃんも驚いてた』

『俺も、驚いたよ。今日舞台が終わってから、二人でご飯食べに行こうって悟さんから誘われて、で、ご飯食べてたら、いきなり、葉月ちゃんと交信してたのは、俺なんだとか、お前と星野さんは俺の仲間なんだなとか言い出すから、もう、びっくり!』


『ごめんね、べらべらとしゃべっちゃって』

『大丈夫だよ。悟さんは、本当の仲間だ。でも、ノエルさんは違ったみたいだね』

『うん。それもびっくりしちゃった。』


『これからはそういうの、気をつけないとね』

『うん』

『今、何してるの?ひかりさん』


『お風呂だよ』

『気持ちよさそう。俺、まだ、帰りの電車の中だよ』

『そうなの?』


 ……あれ?いきなり、昴くんの声が途切れた。と、思った次の瞬間、ものすごい昴くんのエネルギーを感じた。

 わあ。同化してるのがわかる…。え?同化…?!


『あ、一瞬だったけど、風呂、気持ちよかった』

『ええ?もう!信じられない。お風呂に入ってるときには、やめてってば。恥ずかしいよ!』


『大丈夫だよ、同化してて、自分の体に戻るのって、何か考えたときなんだ。今、風呂気持ちいいって思った瞬間、俺の体に戻ってた。だから、もしよこしまな気持ちで、同化したらすぐに、俺の体に戻っちゃう。っていうか、よこしまな気持ちがあったら、同化すること自体無理だろうけど』


『そ、そうなの?』

『そ。だから、安心して。さて、そろそろ降りる駅だ。じゃ、またね』


『うん。お疲れ様』

 昴くんの声が聞こえなくなった。


 部屋に戻ると、美里からメールが入っていた。

>明日の夜、ご飯食べない?


バイトが5時にはあがるので、

>いいよ~。

と返事をした。


 そういえば、緒方さんからはメールが来なくなったな。あ、そっか。返事をしていないからか。誘われた日曜日っていうのは、もうあさってだ。


>日曜日は、用事が入りました。すみません。

と、緒方さんにメールを送った。その日、緒方さんからメールは来なかった。


 翌日は、葉月ちゃんはシフトに入っていなかった。あのあと、悟くんと会話したのかな…。


 6時に、美里と待ち合わせをしていた場所に行った。昴くんが芝居をしている劇場の駅、赤坂で会おうと美里に言われて、地下鉄の改札の前で待っていた。


「ひかり!」

 美里が5分遅れてやってきた。

「ごめんね~~。遅れた」


「ううん、大丈夫。でも、なんで赤坂?」

「うん。この近くにしゃれたレストランがあるの」

「へえ。そうなんだ」


 さすが、いろんなところに遊びに行ってるだけあるな~~。


 レストランに移動すると、まだ6時半にもなっていないのに、けっこう席が埋まっていた。

「予約した篠崎です」

「はい、篠崎様、お二人ですね。ご案内します」

 美里、予約してくれてたんだ。


「すごい今、人気で予約しないと入れないって、昨日PCで見たら書いてあったんだ」

 席についてから、美里がそう言った。


「そうなんだ」

「ちょっと楽しみでしょ?どんな料理なんだろうね。あ、そうだ。今日はこのあとも、もう1軒付き合ってよ」

「うん、明日バイト休みだし、いいけど。どこ?」


「ちょっとしたバーなんだけど。ビリヤードがあるの。お洒落なところで、たまに舞台が終わると、来るらしいんだわ」

「誰が?」


「悟くんと、昴くん」

 知らなかった。そうなの?って今、昴くんに聞いてみたかったけど、舞台がもう始まるもんな…。


 ワインが運ばれてきて、美里と乾杯をした。

「例の緒方さん、どう?その後」

「明日もね、映画誘われててたけど、断っちゃった」


「なんで?」

「気分乗らなくて…」

「あまり、好みじゃなかったか」


「う~ん。そういうわけじゃないかもしれないけど…。なんだかね。まだ、男の人と付き合う気になれなくて」

「そうなの…?」

「うん…」


「そっか…。まじめに考えすぎてる?もっと、気軽に付き合えばいいのに」

「でも、私も29歳だし、相手は32歳だし…。結婚のこと考えると思ってるよ」

「う~ん、そうなのかな」


「…離婚してることは、緒方さん知ってるんだ。赤ちゃん流産したことも…でも」

「でも?」

「赤ちゃん、できにくいってことは知らないの」


「え?そうだったの?」

「うん。なんかそういうことを、知っちゃったら、結婚いやがるんじゃないかと思って…」

「そんなの…。子どもができなくてもいいって人かもしれないよ?聞いてみないと…」


「どうやって聞くの?」

「子どもが欲しいですかって」

「そんな単刀直入に?」


「それしかないでしょ」

「…やっぱり、やめた」

「え?なんで?」


「だって、別に緒方さんと結婚したいわけでもないし。そんなこと聞いたら、結婚したいって思ってるって思われるじゃん」

「したくないの?結婚」


「今はどうでもいい。それよりも、一人暮らしがしたいな。美里みたいに」

「う~~ん、気は楽だけど、大変は大変よ。私の場合は学生の頃、東京出てきたから、その延長だけど」


「…家にいるとね、息が詰まるんだ」

「そうなの?」

「バツ一は、実家にいると辛いよね。なんか、親がさ…、嫌がってるんだ」


「せっかく大事な娘が帰ってきたんだから、喜べばいいのにね~~」

「うちの親は世間体を何よりも、考えるから。私が駅の階段落ちたのを知っても、体の心配なんてしてくれないし…」


「ああ。そういえば、そのあと大丈夫だったの?」

「うん。たんこぶも1週間でひいたし」

「そう」


「兄が心配してくれてた。びっくりしちゃった。離婚して家に戻ったときには、何も話をしてくれなかったし、そのあとも、あまり口をきいてくれてなかったから」

「けっこう仲良かったじゃん。昔…」


「うん…」

「なんて声をかけたらいいのか、わからなかったんじゃないの?そっとしてただけかもよ?」

「そうかな…」


「ひかりから、話しかけたらどう?お兄さん話してくれるのを、待ってるのかも。そうしたら、家で一人は味方ができるじゃない。親はどこも一緒だよ。うちだってたまに帰ると、まだ結婚はしないのか、彼とはどうなってるんだって、うるさくて」


「そうなの?」

「そんなもんよ」


 料理が運ばれてきて、私たちはしばらく料理を堪能した。食後コーヒーが運ばれ、ゆっくりとまた、話をし出した。

「ね、昴くんとの話、聞かせてよ」

「あ、うん。そうだな…。なんて言ったらいいかな。昴くんとは、昔一緒の魂だったらしい」


「え?ツインソウル?」

「ツインソウルなのかな?」

「双子の魂だから、違うか。ツインフレームかな?」


「なあに?それ」

「一つの魂だったのが、二つに分かれた…。だったかな?あれ?違ったかな。ごめん、私もあまり詳しくは知らないんだ」

「ふうん。でも、そんな感じかな」


「すご~~い。じゃ、分かれた二人が出会うようになってたってわけ?」

「うん…」

「わ~~、ドラマチック!素敵!それが昴くんだなんて。それを昴くんも知ってるの?」


「うん」

「で?」

「え?」

「それで、何があったの?」


「別に、何も…」

「え~~?別れ別れになってたのが、出会って、何もないわけ~~?」

「ないよ。別に…」


「なんだ、つまらない~~」

 何を期待してたのか…。あ、恋愛とかそういうの?それは、きっとないだろうな~~。だって、大恋愛をするってノエルさん言ってたけど、あれもどうやらいんちきっぽいし。未来は決まってないって言うし。


「そっか。でも、知り合いってだけでもすごいわ」

 美里が、そう言って目を輝かせて、

「今度会うとき、私も紹介してよ~~」

って言ってきた。


「う、う~~ん。一緒にいるときに会えたらね?」

「会う約束とかしてないの?」

「別に…」


「なんだ~~~!もう。じゃ、本当になんでもないんじゃんか!」

「うん…」

 まさか、二人で使命を全うするのが、目的だなんて言えないしな。


「昴くんみたいな人なら、いいよね。もし言い寄られたら、ぐらってきちゃう」

「悟くんが好きなんじゃないの?」

「そうだけど、この前昴くんを間近で見て、ぐらってきちゃった~~。あんな子なら、浮気してもいいかな~~」


 え~~~?!

「なんで、もっと仲良くなろうってしなかったの~~?」

 そう言われても…。


「あれ?そもそもいつ、ツインフレームだってわかったの?」

「劇を観にいったあの日だよ。それまでは知らなかったよ」

「え?なんでわかったの?!」


「なんでって。昴くんが教えてくれて…」

「あのときに?そんな話をいつしたの?」

「う~~ん。説明するとややこしくなるから、ごめんね」


「ふうん。ま、いいけどさ~~。な~~んだ、これからの展開を楽しみにしていたのに」

 美里は本当に、残念そうにそう言った。


 それから私たちは、その店を出て、バーに移動した。ビリヤード台が2台おいてある、お洒落なバーだった。そこでまた、簡単なおつまみと、カクテルを飲んだ。ワインだけでも私はけっこう、酔っていた。


 二人で、ビリヤード台のすぐそばのテーブルで飲んでいると、

「ね。一緒にビリヤードしない?」

と、私たちよりも若めの、男性が話しかけてきた。


「二人できてるんでしょ?俺らも二人なんだ」

 美里がいいよって言って、4人でビリヤードをした。

 私は一回だけ、結婚前に徹郎とビリヤードをしたことがあったが、ほとんど素人。


 一人の人が、あれこれ教えてくれた。最初は言葉だけで教えてくれてたのが、だんだんと手を触ってきたり、べったりと体をくっつけてくるので、そのたびに私は寒気を感じていた。

 やだ…。男の人に触られるだけで、鳥肌が立つ。知らなかった。私、こんなにも男の人が苦手になってる。


「私、ちょっと酔ったから椅子に座って休む」

と言って、その男性から逃げた。


 座っていてもどんどん、具合が悪くなった。寒気がして気持ちが悪い。お酒のせいかもしれない。

 トイレに行ってみたが、吐きそうでも吐けず…。口だけゆすいで出た。すると、トイレの前にさっきの男の人が立っていた。


「大丈夫?」

と言って、私のそばによってくる。


「外の空気吸ったほうがいいんじゃない?」

と、私の腰に手を回す。どう見ても、顔は心配している顔じゃない。ますます私は、気持ちが悪くなった。


「だ、大丈夫」

と、その人から離れようとしたが、私からその人は離れようとしないで、出口から外に私を連れて出た。それから、人がいない暗い方へと、向かって歩いていく。


「離して」

と言っても、離してくれない。


「もう、大丈夫。店に戻る」

「まだ、顔色悪いよ」

「大丈夫!」


 でも、ぐいぐいと私を連れて行こうとする。

 やだ!昴くん!助けて!心の中で叫んだ。頭はぐるぐるする。目の前が暗くなる。息苦しくなる。気持ち悪い。


 ぐいっ!

 いきなり後ろから、腕を掴まれた。そして、その掴まれた腕からあったかいエネルギーが注ぎ込まれた。


「ひかりさん、大丈夫?」

「昴くん!」

 後ろを振り返ると、真っ黒ずくめの昴くんがいた。


 昴くんは、その男の人から私をひっぺがし、私を引き寄せた。私は、そのとき自分がガタガタ震えていることに気づいた。夏だというのに、体中が冷たくなっている。


 ふわ…。その時、私にジャケットをかけてくれた人がいた。顔をあげると、悟くんだった。ジャケットから、すごくあったかいエネルギーが流れ込んできた。


「あんたたち、何?」

 男の人が、昴くんに聞いた。


「俺らひかりさんと、この店で会う約束してたんだ。そっちこそ誰だよ?」

「なんだよ。連れがいたのかよ…」

 そう言うと、その男の人は店に入っていった。


「大丈夫?」

 昴くんはそう言うと、ぎゅって私を抱きしめた。ものすごい勢いで、昴くんのあたたかいエネルギーが注がれてくる。


「こっから、離れてどっかで休もう。あったかいものでも飲んだらいいよ」

 悟くんが言った。


「美里がまだ、中にいるの」

「美里?ああ、前に舞台一緒に観に来てた…」


 昴くんはそう言うと、

「悟さん、ひかりさんのこと頼む。俺、美里さん連れてくるよ」

と言って、お店に入っていった。


悟くんは、ジャケットの上からそっと肩を抱いてきた。悟くんからもあたたかいエネルギーが、注がれてくるのがわかった。

「あ、だいぶあったまったね。さっきすごい冷たくなってたけど」


「え?」

「体、冷え切ってたでしょ?震えてたし…」

「うん…」


 そういえば、気持ちが悪いのも少し治っていた。

「あの男のエネルギーにやられたね。そうとう負のエネルギー出してたから…」

「負のエネルギー?」


「うん。吸収しちゃってたでしょ?多分、前よりもそういうの、入りやすくなってるよ。気をつけないと」

「どうして入りやすくなったの?」

「心を開いてるから。いつも開けている状態っていうのかな。いいんだけどね。そっちの方がたくさん愛や光のパワーを出せるから」


「…私が、開けてる?」

「うん。だから、今、昴と交信もしやすいでしょ?今、俺のエネルギーも受けやすいでしょ?」

「うん…。悟くんからは、昴くんがくれるみたいな、あったかいエネルギーがくる」


「光を注いでるからね」

「どうしたら、負のエネルギーの影響、受けなくてすむようになるの?」

「一つの方法は、閉じること。それか、ガードすること。人と会うときには、その人のエネルギーを感じないよう、影響を受けないようにするって方法がある」


「そうしてるの?悟くんは」

「いや、俺も、多分昴もしてないよ。いつも全開」

「じゃ、負のエネルギーが入ってきちゃう」


「来ないよ。心の奥からいつも、光を出すようにしてる。そうすると、逆に負のエネルギーを持ってる人、闇って言った方がいいかな…。それすら、俺から出す光で包んじゃう。そうしたら、俺はまったくその負のエネルギーに影響受けないし、相手を光で包むから、その人の闇も消すことができる」


「すごい!何それ…」

「君もできるようになるよ。いや、多分そういうのもう、してるはず。でも、今日は何か自分がマイナスのことを思わなかった?」


「え?」

「光を出すどころか、自分の中の光も消すようなこと、考えなかった?」

「うん。考えたかも。男の人が苦手で、嫌だって…」


「それだけじゃないかもしれないな。なんか、心の奥に負のエネルギーを飼ってない?」

「飼う?」

「住まわせてるでしょ?奥底に…。いつもは蓋をして、でもたまに、蓋が外れて出てくる」


「…うん。そうかも」

「そのエネルギー、他の人の負のエネルギーと同化しやすいよ。気をつけないと…」

「蓋して、鍵でもかけたらいいの?」


「いや、その逆。さっさと心から追い出した方がいい」

「どうやって?」

「浄化…。まあ、昴がいるから、浄化してくれると思うけど」


 その時、昴くんと美里がやってきた。

「ひかり、大丈夫?」

と、私のもとに来てから、

「わ!悟くんだ!」

と驚いていた。


「び、びっくりよ。もう、あんたはいきなりいなくなるし、トイレかと思って見にいってもいないし、そうかと思ったら、いきなり昴くんが目の前に現れるし。でも、なんで悟くんと昴くんが…」

「お助けマン参上ってとこ?」

 悟くんが言った。


「え?」

「舞台終わって着替えしてたら、いきなりこいつが、ひかりさんが危ないって言って、飛び出していって…。俺も慌てて追いかけてきた。」


「ええ?」

 美里は目を丸くして、驚いてた。

「危なかったの?さっきの男に、何かされそうになったとか?」


「いや、ぎりぎりセーフかな」

 悟くんが言った。

「なんだ。そうか~~。ちょっと、ひかりおおごとに捕らえすぎなんじゃない?もっと楽しめばいいのに。そんなに危ないやつらじゃなかったよ」


「美里さんだっけ?君はいいかもしんないけど、もうひかりさんを巻き込むのはやめてくんない?!」

「昴…」

 一瞬、昴くんから黒いもやもやしたものが、美里の方に向かって出たのが見えた。それをすぐに横にいた悟くんが、光で覆って消していた。


「あ…。ごめん」

 昴くんが、悟くんに謝った。


 昴くんは私の肩を抱き、

「あ、だいぶあったまったね。良かった」

って言って、ほっとしていた。


「でも、まだ芯からあったまってないみたいだから、どっかであったかいもんでも、飲んだ方がいいかもよ」

と悟くんが言った。


「あったまった方がいいって?どうしたの?ひかり…」

 美里が聞いてきた。


「そうとう具合が悪くなってたみたいだよ。俺らが駆けつけたときには、全身冷たくなって震えてたから」

 悟くんが、美里に答えた。


「え?大丈夫?お酒のせい?」

 美里が心配そうに聞いてきた。


「心の方…。まだ、いろんな傷が癒えてないんだ。それなのに、怖い思いをしたから」

 昴くんが、少し辛そうに言った。ああ、そうか。昴くんも私の恐怖を感じたんだろうな。


「ごめん、ひかり。私が勝手に、あの男の人たちの誘いにのったから」

「……」

 私は何も答えられなかった。ただただ、昴くんのエネルギーを体中で、吸収していた。


「その辺に、遅くまでやってるカフェ、あったよね?俺、腹減ってるし、入らない?」

 悟くんがそう言った。


「うん。確かこっちにありましたよね」

 昴くんは、私の肩をぎゅって抱きしめたまま、歩き出した。


 夜、だいぶ遅くになっているのに、土曜日だからか人がたくさんいた。カフェについても、けっこう人がいて、昴くんと悟くんのことをすぐに気がつく人もいた。でも、そんなのおかまいなしに、ずっと昴くんは私の肩を抱いていた。


 席に座ると、ようやく昴くんが私から離れて、

「何がいい?ひかりさん。あったかいコーヒーにする?あ、カフェオレとかの方がいっかな?」

と、私に聞いてきた。


「うん…」

 私がうなづくと、昴くんは店のカウンターに注文しに歩いていった。


「美里さんの分、買ってこようか?」

 悟くんが美里に、聞いた。


「え?ありがとう!ホットコーヒーがいいな」

「じゃ、買ってくるから、ひかりさんのそばにいてね」

 悟くんがそう念をおして、カウンターの方に行った。


「なんだか、ひかり、大事にされてない?あの二人から」

 美里がそう言った。美里から少し冷たい空気が流れてきた。その空気に触れ、あったまっていた体が冷たくなっていくのがわかった。


「はい。カフェオレ」

 昴くんが私のカフェオレをテーブルに置き、私の隣に座った。そして、テーブルの下で私の手を、ぎゅってにぎってきた。


 片手で、ホットドッグを持ち、食べて、片手は私の手を握っている。

『あれ?また冷えた?』

『うん、ちょっと…』


 美里のことは、言えないって思っていたら、

『美里さんのエネルギー吸っちゃった?』

と、昴くんが聞いてきた。ああ、そうか…。全部わかっちゃうんだっけ。


 ぎゅうって握り締めてる手から、ものすごい勢いであったかいエネルギーが入ってきた。


 悟くんが席に戻ってきた。悟くんは黙って席に着き、クールな顔をしたまま、食べだした。でも、悟くんからもすごい光が出ているのが見えた。その光と、昴くんの光がぐるぐると混ざり合い、店全体を包み出した。


 あったかかった。そして優しくて、心地よくて…。気持ちの悪さもすっかり治っていた。体もほかほかと、あったまっていた。

『もう、大丈夫そうだね?』


『うん。ありがとう』

 昴くんは、そっと手を離して、がつがつとホットドッグを食べだした。


「は~~」

 いきなり、美里があくびをした。

「あ、ごめんなさい。なんか、体がほかほかして、眠くなっちゃって」


 美里もすごい光に包まれたから、無理はない。

 店の中にいる人も全員、なんだか安心したような、ゆったりとリラックスしているのがわかった。会話も少なく、店全体が、ゆるりとした時間の流れにいるようだった。


 今まで、昴くんのエネルギーしか見えていなかったけど、悟くんもこうやって、光を出していたんだな。


「それにしても…」

 美里が話をし始めた。

「昴くん、なんでひかりがピンチってわかったの?」


「え?」

「何か、メールでもしたの?」

 美里が、昴くんに聞いた。


「あ、うん。SOSのメールがきて、すっとんで来たってわけ」

 昴くんは、そう言ってごまかした。


「そうか、もしかしてトイレ行ったとき?」

「うん。そう…」

 私もごまかした。


「さ、もうそろそろ出る?」

 悟くんが、立ち上がりそう言った。


 店から出て、4人で駅に向かった。店の中でも道でも、悟くんと昴くんに気がつく人はいたけど、誰も何も言ってこなかった。

「じゃ、俺ら、車で帰るから」


「え?そうなの?」

「うん、俺の車で、昴は送ってく。近くに住んでるし…」

「そう…。悟くん、今日はいろいろとありがとう」


「うん。じゃあ、また…」

 悟くんはクールにそう言って、手を振った。昴くんも、

「気をつけてね」

と言って、また、あったかいエネルギーを送ってくれた。


「うん、ありがとう」

 昴くんは満面の笑顔で、手を振った。美里も二人に手を振り、

「あ~、なんだか信じられない」

と二人と別れたあとで、目をとろんとさせてため息をついた。


「あんなにかっこいい二人と、私たち、一緒に今までいたんだね。すごい~~。周りが見てたのわかった?私たち羨ましいって目で見てたよ」

 美里がそう言うと、美里から暗いもやもやが出てきた。


 え?何か今、変なことを言ったかな。マイナスなこと…。不思議に思いながら、私は光を出そうとした。でも、出てこない。その暗いもやもやがあわや、私の体を包み込もうとした瞬間、私はぎゅって心を閉じた。


 方法はよく、わからなかったが、でも、心にシャッターを閉めるようなそんなイメージをしてみた。そうすると、そのもやもやは、宙を浮き、そのうちに消えていった。


 あ、黒い霧は、私には入ってこなかった…。それがわかった。

 悟くんも、昴くんもいったいどうやって、光を出すのか…。やっぱり私には、心にマイナスの感情を飼ってるからできないのか…。


 隣で、美里があれこれ話していたが、私の耳にはあまり届いてこなかった。私は昴くんのエネルギーを感じてみようとした。でも感じられず、話かけても返事はなかった。少し寂しくなりながら、私は家に向かった。


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