ミッション2 仲間に出会う
翌日、バイトが終わり葉月ちゃんと共に、あのプレアデス星人だったという人のもとを尋ねた。その人の名前は、白河ノエル。ハーフで、すごく美しい人だった。年齢は、私よりも3~4歳上かな。とても、グラマラスな、セクシーな女性だ。
その人のマンションの一室で、セッションを行うらしいが、部屋にはいってみると、いたるところに水晶や他の石が並んでいて、お香もたいてあり、かなり怪しい雰囲気だ。
「リーディングもしてみますよ。初回でしたら30分で、3000円で受けられますけど」
30分、3000円?それも、初回だから、安いってことかな?じゃ、いつもならいくらなんだ…。と、思ったけど、まあ、3000円なら払えないこともないと思い、見てもらうことにした。
「じゃあ、葉月ちゃんは、あっちの部屋で待っててくれる?それとも、一緒にいても平気かしらね?」
「ああ、はい。別に…」
リーディングというものが、何かはわからなかったが、特に一緒にいてもらっても問題はない気がしたし、逆にちょっとこの部屋の雰囲気になれなくて、一緒にいて欲しいと思ってしまった。
ノエルさんは電気を消して、キャンドルに火を灯した。ますます、怪しくなってきた。そして私の名前と、誕生日と、何を聞きたいかを聞かれた。
「えっと…」
特になかったので、
「これから起きる未来…」
と聞いてみた。
ノエルさんは目を閉じて、なにやらぶつぶつ言い出した。そして、
「あ、見えてきました。ビジョンが…」
と話し始めた。
「あなた、大恋愛するわね」
「え?!」
驚くような答えが返ってきた。
「それと…、なんだろう、これ…。本、1冊の本。小説か何か…。本を出してる」
「え?!」
これまた予想外というか、そんなこと思ったこともなかったし、逆に私は昔から文章を書くのが、苦手だった。
「そうね…。それがどうも、役割のようよ。今生の目的…」
「じゃ、過去生も見れますか?」
私は思わず、聞いてしまった。あ、知ってることだったっけ。
「じゃ、ちょっと見てみるわね」
また、ノエルさんはぶつぶつ小さく何かをつぶやき出し、
「過去生は…、あ、面白いビジョンね。宇宙船だわ、大きな…。そこにいるみたいよ」
と、目を閉じたまま言った。
「一人で?」
「他にもあなた以外にいるみたいだけど…。あ、あなたプレアデス星人ね。私と一緒だわ。あ…。すぐ隣にあなたと同じ波動の人がいる。う~~ん。ツインソウルかしら。もしかして、大恋愛するのは、その人…」
「え?!!!!!」
また、私は思わず叫んでいた。それって、昴くんじゃないのか?!
「その人、誰ですか?」
隣から、葉月ちゃんが聞いてきた。
「う~~ん、わからないわ。宇宙船の中のその人と、地球では姿形が違うし、さっき見たビジョンによれば、そうね。若そうだったわね」
ああ、やっぱり?
「ありがとうございます」
「そうとう、ショックなことばかりだった?まあ、受け入れられないわよね。いきなり、あなた宇宙人でしたって言っても…」
「は…はい。」
それは、もう知ってたこと。それより大恋愛っていうのと、本を出すっていうのが驚きで…。本当だろうか?
「じゃ、次は、葉月ちゃん。葉月ちゃんは、星野さんがここにいてもいいのかしら?」
「はい。いろんな私の体験話してるし、平気です」
「そう。じゃ、今日は何を見てみる?」
「チャネリングしてくる宇宙人について。なんの目的があって、話してくるかがわからなくて」
「わかったわ」
また、ノエルさんは目を閉じて、ぶつぶつ言い出した。
「う~~ん。今回、そのチャネリングしてくる宇宙人のことを聞いたんだけどね。どうも、その人、あなたと同じ時代に地球人として、生まれ変わってきてるようよ」
「え…?」
「あ、さっきの星野さんもそうね。宇宙船にいた人も、地球で地球人になっているように…」
「じゃ、もしかして、会える?」
「……あ!」
「え?」
「あなた、もう会ってるみたい」
「え?!」
「未来じゃないわ、この映像…。ここ最近、誰かに会ったでしょ?」
「男性ですか?」
「そう」
「え?誰かな…」
「新しい出会いなかった?本当にここ数日」
「え?え?バイト先?違う?」
「う~~ん…。一瞬って感じ…。ああ…、ぼやけちゃって見えないけど」
「一瞬?じゃ、すれ違っただけとか?」
「会話はしてる。何かびんと感じた人いない?あったかさや、懐かしさや、優しさや…」
「話していて、あったかいって?」
「そう、何かこう、惹かれたとか、感動したとか」
「感動か~~。最近じゃ、昴くんかな」
え?!
「昴?どんな人?」
「俳優さんです。若いイケメンの。最近その人の舞台観に行って、帰りがけばったり会えちゃって」
「…ばったり?」
「そうなんです。びっくりしちゃった。優しくて、あったかい人でした」
「その人かも。なんか若い感じだし、雰囲気かっこいい感じもするし、私最近の若手の俳優さんって、まったくわからないから、名前も顔も一致しないけど」
「ええ?!ほんとうですか?」
「う~~ん。もし、彼なら、また会えるようになってるんじゃないかな」
「わ~。嬉しい。え?でも、じゃ、その彼から、私話しかけられてたってことですか?テレパシーで」
「それは、わからないわ。ややこしくなると思うけど、宇宙とここ、地球だと、時間が違ってるの。正確に言うと、宇宙には時間がないって言った方がいいかな。つまり、今この瞬間に、無数の次元のあなたがいて、無数の次元の彼がいる。だから、高い次元の彼からのコンタクトだってことも、ありえる」
「難しいです~~」
「そうよね。ま、どっちにしろ、多分この地球にいる彼も、そのうちに目覚めるかもね」
「何にですか?」
「使命よ」
「え?じゃ、私も、使命が?」
「そうよ。私と一緒の…」
「私もプレアデス?」
「ああ、違うわね。でも、違う星だけど、やっぱり地球を助けるために来てるわね」
「え?でも、未来の私が宇宙人…」
「宇宙に時間はないの。未来も過去も正確に言うとない。ただ、地球上で説明するには、時間って言うのかな、過去だの未来だの言った方がぴんとくるでしょ?だから、未来のあなたであり、過去のあなたでもある」
「ええ?ますますわからない。星野さん、わかります?」
「え?ううん。初めて知った」
「そうですよね。あ、でも、嬉しい!私、昴くんともしや、ソウルメイト?」
「そうかもね」
ノエルさんがそう言った。
私は、ショックを隠しきれなかった。
ええ?ええ?ええ?なんで?頭の中はパニックだ。
そうか…。えっと…。昴くんは私であって、葉月ちゃんでもあるのか。あれ?でも、昴くんは、プレアデス星人。
ああ。混乱する!!!!!!!
頭がぐわんぐわんする中、その部屋を出た。隣の部屋に移動して、ノエルさんが冷たいお茶を出してくれた。
「星野さん、今日みたいなセッションは初めて?」
「はい」
「でも、精神世界は興味ある?」
「あ…はい。」
「そう…。どうして?」
私は、ちょっとだけ、自分の体験を話してみることにした。
「5月に私、駅の階段から落ちて、幽体離脱したことがあるんです」
「え?」
そのことは、葉月ちゃんに言ってなかったから驚かれた。
「その時に、光の中に入ったっていうか、すべての存在と一つになったっていうか。ものすごい開放感と、自由さを味わって」
「人間の体は窮屈なのよね、魂にとっては…。魂はもっともっと大きくて、広くて…」
「知ってるんですか?」
「私、子どもの頃から、しょっちゅう幽体離脱してるのよ。そこである光に会って、それがプレアデス星の人だったわけ。私のふるさとの…」
「その人、地球に…」
「来てないわ。でも、私がチャネリングするときには、その人とコンタクトを取り、いろいろと見せてもらってるの」
「そうなんだ…」
葉月ちゃんが、また驚いていた。
「そんなすごい体験をしているのね~~。そうか~~」
ノエルさんは、私を見ながら微笑んだ。
「あなたのソウルメイト、会えるの楽しみね」
あれ?もう会ってるけど、見えなかったのかな。あ、未来を見せてくれって言ったからかな。
「さて…。そろそろ遅いし、今日はこのへんで終わろうかしら。いい?」
「はい。ありがとうございました」
セッションの料金を払って、私たちはマンションを出た。駅まで葉月ちゃんは、うきうきした感じで話をしていた。
「そういえば、昴くんと会ったとき、ほんとうにあったかい光に包まれてる気がしたんですよ」
ああ、確かに。光で包んでたからな~~。
「会うの、運命だったんだ。きっと」
私は、何も言えなくなっていた。
その夜、寝る前に昴くんを呼んでみたが返事はなく、じゃあ、昴くんが何を感じて考えてるかを感じてみた。あ…。どうやら、寝ているようだ。
私も、じゃ、夢の中で会うとするかなって思い、眠ることにした。だけど、寝ても昴くんのエネルギーを感じられず、変な夢を見ただけだった。
その夢には、ノエルさんが出てきて、葉月ちゃんも出てきた。そのうえ、そこにいきなりもと旦那も現れて、ノエルさんがこの人が大恋愛をする人だと言うのだ。
私は、夢の中でものすごいショックを感じ、真っ暗になっていた。それから、ぐるぐると走馬灯のように、彼と暮らして苦しんだ記憶がよみがえり、ものすごい苦痛を感じて、汗だくになって目が覚めた。
全身に冷たい汗を掻いていた。ああ…、私は、まだまだ昴くんが言っていたように、辛いという感情を閉じ込めたままでいるのか…。
ぐったりしながら、もう寝ることができなくなり、起きてシャワーを浴びた。外は、明るくなり始めていたが、まだ5時半だった。
私は、自分の部屋に戻りベランダに出た。そして、ぼ~~っと、明るくなる空をただただ見ていた。
6時になり、朝ごはんを食べにダイニングに行った。まだ誰も起きていなくて、私はさっさと朝食を済ませ、着替えをして化粧をして、散歩に出ることにした。
家を出て、近くの公園に行った。ベンチに座り、ため息をした。私はいまだに、自分の家では自分の部屋しか居場所がなかった。
ベンチにぼ~~ってしながら、昴くんのエネルギーを感じてみた。どうして、昨日は夢の中に現れなかったんだろうか。
『おはよう。早いね』
昴くんの声がした。
『おはよう』
携帯の時計を見たら、7時を少し回ったところ。
『起こしちゃった?』
『ううん。今、目覚ましで起きたところ』
『そうなんだ。いつもこの時間?』
『うん。舞台があるときはね』
『そう…』
私は昴くんに話しかけるでもなく、何かをぼんやりと考えていた。自分でも無意識のうちに。
『昨日は夢に、俺が出てこなかったって思ってるの?』
あれ?私そんなこと、今考えたかな…。
『俺いたよ。っていうか、一緒に苦しんでた』
『え?どういうこと?』
『ひかりさんの苦しい思いと一緒にいた。かなり、辛そうだったね。変な夢っていうか、過去がよみがえってたのかな?』
『一緒に私の夢を見てたの?』
『みたいだね。多分、ひかりさんと同化してた。だから、いないように感じたんじゃないの?』
『そっか…』
『あの人、旦那さんだった人だよね?』
『うん…。徹郎って名前』
『あの人は誰?なんかハーフっぽい色っぽい女性』
『ノエルさん?ほら、プレアデス星人だった…』
『会ったの?』
『昨日…。なんか、いきなり私もリーディングしてくれて…。未来とか、過去とか。あ、私がプレアデス星人で、宇宙船にいたことも当てたよ』
『未来って?』
『……』
昴くんとの大恋愛は、言わない方がいいかな。
『聞こえてるから…。俺と大恋愛?!そう言ってたの?』
『あ、昴くんとは言ってない。でも、宇宙船で一緒だった人だって言ってた』
『俺じゃん…』
『そうなのかな…。やっぱり』
『でも、未来ってのは、変わる可能性があるんだよ。今何を選択するかで』
『え?』
『他には?何か言ってた?』
『私が本を出すって。それが使命だって』
『ふうん…。そうなる可能性もあるってことだし、そうならない可能性もあるってことだね』
『なんで?違うかもしれないの?』
『宇宙が、その時1番俺らにとっていいってことを起こす…。っていうか、なんて言えばいいかな。何通りも、何百通りもあるんだ。でも、結局何を選んでも、行き着くところは一緒。使命を達成するように宇宙は、流れてるから』
『ごめん、ちんぷんかんぷんだ』
『なんか、まだひっかっかてることあるね。何?ちょっとわかりづらい』
『え?何かな…』
あ…。葉月ちゃんのことかな。
『葉月ちゃん?俺とソウルメイト?』
『あれ…。私それ、考えてた?今。』
『うん。でも、それ多分、俺じゃないんじゃないかな。いや、はっきりとはわからないけど』
『なんで、はっきりとしないの?』
『これも、何ていったらいいのかな。俺って、たくさんの次元にいるから…。もしかすると、別の次元の俺が、コンタクトを取った可能性もあるし…。でも、今、この3次元にいる俺は俺だし…。う~~ん、もし今、3次元で会うようになってるとしたら、やっぱり、俺じゃないかな』
『???』
『わかんないよね?言ってる意味』
『さっぱり…』
『うん、いいよ。別に理解できなくても。それよか、やっぱり俺じゃないから、そう言っといて、葉月ちゃんに』
『ええ?なんて説明したらいいの?』
『そうだな~~。じゃ、一回俺会おうかな。このままうやむやにしてるのも、葉月ちゃんに悪いよね。それに、俺だって決め付けてたら、ほんとうの相手に出会っても気づけないことになるかも…』
『え?』
『人間の思い込みってすごいから、真実見えなくする。そのノエルさんって人も、もっと、しっかりとチャネリングしたら、俺じゃないことわかったんじゃない?』
『そうなの?』
『ま、いいや。そのうち、会えるようにセッティングするよ。あ、じゃ、顔洗ってそろそろ、朝めし食べるから。またね』
『うん。今日も舞台、頑張ってね』
『サンキュ!』
それから、昴くんの声が消えた。私は、どっと安心感がやってきて、いきなり眠くなってきた。バイトの時間まであるし、もう一眠りしようかな…。
そうか。昴くんじゃないのか…。そうか。夢の中で同化していたのか…。そして、苦しみを共有していたのか…。
自分だけじゃなく、いつも昴くんが、同じように感じててくれることが嬉しかった。私、一人じゃない。いつも、昴くんがいる…。
公園を出て、家に帰り部屋に行って、ベッドに寝転んだ。そして、すぐに眠りにつき、母の声で起こされた。時計を見たら9時過ぎてて、慌てて着替えをして家を飛び出した。10時前には店に行き、本を整頓しないとならないのに。
走って、走って、どうにかギリギリで本屋に着くことができた。息切れをしながら、着替えをして、店内に行った。
「おはようございます。もしかして、走ってきましたか?」
葉月ちゃんが、声をかけてきた。
「うん。寝坊しちゃった」
「夜、寝れなかったとか?」
「そうなの」
「私もです。興奮しちゃって。だって、ソウルメイトが、昴くんだってわかって驚いて」
「それ…、そのことなんだけど」
「星野さん、レジの3番に入ってくれる?」
「はい。」
店長に言われて、レジに入った。息がまだ上がっていたが、どうにかお客さんには笑顔で接することが出来た。
昼休憩の時、昴くんの声がした。
『今日、昼の部だけなんだ。そのあと、6時から取材が入ってるんだけど、新宿での取材だから、本屋に寄るね』
『え?!』
『取材の前の…5時くらいかな。いる?』
『5時まで仕事…』
『あ、じゃあちょうどいいかも、お茶でもしようよ』
『うん、いいけど…』
『えっと、なんていったっけ?あ!葉月ちゃん…。今日バイト?』
『うん、同じ時間だよ。あがるのも一緒』
『すごいグッドタイミング。じゃ、葉月ちゃんも一緒に』
『え?』
葉月ちゃんも?でも、そんなことしたら、ますます勘違い…。
『それを、きちんと説明するために行くから』
『わ、わかった。お茶していこうって誘ってみる』
『うん、よろしく。んじゃね』
『うん』
あ、頭の中真っ白だ。いきなりで、葉月ちゃん、驚くだろうな…。
私の休憩が終わり、葉月ちゃんと交代した。そして、葉月ちゃんが休憩から戻り、私は、
「葉月ちゃん、今日帰り、お茶していかない?」
と誘ってみた。
「はい。いいですよ~~」
葉月ちゃんは、にこって微笑んだ。
ああ…。なんだか、申し訳ない気もする。だって、昴くんがソウルメイトだって喜んでいたのに…。でも、真実を言った方がいいんだっていう、昴くんの言葉を信じることにした。
5時になり、まだ、本の整頓が終わらず私は店にいた。
『終わった?仕事』
いきなり、昴くんの声がした。
『まだ、本の整頓してる。葉月ちゃんもまだみたい』
『じゃ、本屋に行くよ』
『え?場所…』
『わかる。去年、サイン会で行ったから』
あ、そうか。また真っ黒ずくめなのかな…?
『ちゃうよ…』
すぐに昴くんが、返事をした。ああ、まだ私の心聞こえてたのか…。じゃ、この漠然とした不安も感じてたり…?
『な~~んも、心配することないって』
『やっぱり、感じてた?』
『うん。でも、大丈夫だから』
『わかった』
昴くんが、私だっていうことが、まだわからない。だって、性格があまりにも違ってて…。
『思考は…』
『本来の私じゃないんだよね?』
『わかってるじゃん。性格なんてのも、もともとないんだよ』
『なるほど…』
じゃ、心配性もマイナス思考も、私じゃなくて、植え付けられた観念ってわけで…。
『そうそう。親の影響かな。あ、でも親もまた、その親の影響受けてたりするし』
『そっか…』
手は、作業を続けてはいるが、心で会話を続けていた。そして、やけに昴くんのエネルギーをじかに感じると思って振り返ると、そこに昴くんが立っていた。
「わ!」
いきなりいるので、びっくりしてしまった。
「あ、ごめん、驚かせた?」
「うん…」
昴くんは、今日はサングラスも外してて、黒の帽子と白のTシャツにグレイのベストを着てて、それに、黒のジーンズ。見た目、どう見ても昴くんだとまるわかり。
『変装してないの?大丈夫?』
『外では、サングラスしてた。でも、本屋じゃ変でしょ?サングラス。それに、本が見れないし』
『でも、ばればれだよ~~~』
『いいよ。新宿だといつもの黒ずくめでも、ばれたりすんの。だから、もう隠さずそのままでいることにしてる』
『騒がれない?』
『意外とみんな、遠巻きにして見てるほうが多い』
すると、近くにいた女子高生が気がついたらしく、
「あ!うそ。昴くんだ」
と小声で、友達とこそこそしだした。隣の棚の整頓をしていた、バイトの子も気がつき、顔を赤らめていた。でも、だれも昴くんに話しかけてはこなかった。
昴くんは普通に、本を棚から引き抜き、ぺらぺらと眺めたりしていた。
バイトの子が、すっといなくなり、しばらくすると、何人かの店員がちらちらとこちらを見出した。あれは、駄目だろう。他のお客さんにもばれちゃう…。
そして、すすすって私の横に来た子がいて、横を見たら葉月ちゃんだった。
「星野さん、気づいてます?すぐそこに、昴くんがいるんです」
ささやくように言って来たが、かなり興奮状態だ。
「なんか、また運命感じますよね!」
あ…、やっぱり変な誤解をしている…。
「何か、本お探しですかって聞いてきてみます。私のこと、覚えてるかもしれないし」
え?うわ…。積極的だな~~。大人しい感じに見えるんだけど…。
葉月ちゃんは、そっと昴くんに近づき、そのへんの本を片付けながら、
「何か、本をお探しですか?」
と本当に聞いていた。でも、どう見ても不自然だ。だって、昴くんは、本を探している様子がまったくなかったから…。
一瞬、昴くんが驚いているのがわかった。そして、
『え?なんて言ったらいいの?俺』
と私に聞いてきた。
『大丈夫ですって言って、断れば?』
『でも、変じゃない?あとで、お茶するんだよ?』
『じゃ、こんにちはって挨拶するとか?』
半分、冗談で言ったのに、
「こんにちは」
って本当に挨拶をしてしまっていた。もう、葉月ちゃんの顔は、喜び一色。
「も、もしかして、覚えてます?」
「え?あ…はい。舞台観に来てた…」
「やっぱり~~?」
わあ!葉月ちゃん、声でかい!私はそっと横に行き、
「葉月ちゃん、声大きくて、他のお客さん驚いてる」
と耳打ちした。葉月ちゃんはすぐに、
「あ!すみません」
と謝った。
…さて、このあとどうしたらいいものか…。
『ひかりさんから、一緒にお茶って誘ったら?』
『もう、葉月ちゃんには誘った』
『違うよ。俺に…』
『え?不自然でしょ?』
『…しょうがないな』
「えっと…神野さん?」
昴くんが、葉月ちゃんに向かってそう言うと、
「え?なんで名前?」
と、葉月ちゃんが驚いてて、
「あ、ネームプレート…」
と胸のネームプレートを、昴くんが指差した。
「あ、そうか…」
葉月ちゃんは、一回嬉しそうにした顔が、ちょっと曇った。
「…もう、仕事あがるんだよね?」
昴くんがそう聞くと、また、ぱあっと明るくなり、
「はい!」
と元気よく、答えてしまった。
「し~…」
私は思わす、葉月ちゃんにそう言った。
「あ…」
葉月ちゃんは、体を小さくまるめて、申し訳ないという顔をした。
「えっと…、え~と…。このあと、お茶…」
昴くんが、なんて言ったら、いいのかわからないながらにも、そんなことを言うと、
「え?」
葉月ちゃんは、ささやき声だけど、ものすごく驚いて一瞬その場を飛び上がった。
「お茶をする予定なんだけど…。あの…、ひかりさんと…。それで、一緒にどう?」
「…え?」
今度は、葉月ちゃんは私の顔を見て、また、昴くんの顔を見て目を丸くした。
「し、知り合いなんですか?」
「うん。まあ、そのことは、あとでゆっくり話すよ」
「え?」
「もう、終わるでしょ?俺、先に店に行ってるよ。確か地下にカフェあったよね?」
「うん」
私がうなづくと、昴くんは、さっさと本屋を出て行った。
「…知り合い?いつ?いつの間に?」
「えっと…、あとで、話す。とにかく終わらせようよ、仕事」
私は黙々と、仕事を終わらせたが、葉月ちゃんはなかなか、はかどらず、私が手伝いをしてようやく終わった。
それから急いで着替えて、地下に行った。
「どこの店だか、わかりますか?カフェって3箇所くらいありますよね」
「えっと~~」
心の中で、聞いてみた。
『どこのお店にいるの?』
『なんとかコーヒー店。1番奥にある…』
『わかった』
私は、まっすぐに昴くんがいる店に行った。あとから、葉月ちゃんもついてきた。
席も1番奥の席にいた。この店は、奥まったところにあるのと、ちょっとおじさんがたむろしやすい店なので、ここにいるだろうなって、予想はだいたいついていた。
葉月ちゃんは、すごく不思議そうな顔をしたまま、席に着いた。
「あの…、知り合いって?」
そりゃ、びっくりだよね。何も言ってなかったし。
「コーヒーでいい?頼んじゃうよ」
昴くんが店員さんを呼んで、頼んだ。
「あの…」
葉月ちゃんは、自分の質問に早く答えて欲しいようだった。
「えっと…」
昴くんは頭を、ポリって掻いて、話し出した。
「何から話そうかな。その…、ノエルさんって人から聞いた、ソウルメイトの話なんだけど…」
「え?!なんで知ってるの?昴くん」
葉月ちゃんが、びっくりして聞いた。
「ああ、ひかりさんに聞いたから」
「え?」
「それで、ちゃんとその誤解というか、間違いというか、それを訂正した方がいいと思って」
「え?!」
ますます葉月ちゃんの目は、丸くなった。
「あのね…、葉月ちゃんと俺、ソウルメイトとか、そういうんじゃないんだ」
葉月ちゃんは、なにげに私の方を見てから、また昴くんの方を向き話し出した。
「そういうの、信じないってことですか?っていうか、なんか、せっかく私が信じてたのに、それをわざわざ訂正なんてされたくありません。信じられないならそれはそれで、けっこうです。でも、二人して、私にわざわざ、そんなこと言いに来るのってどうかと思います」
…あれ?なんか、変な感じになってきちゃった。…っていうのは、昴くんも同じように感じたようだ。
「ひどいです。ひかりさん。なんで、昴くんにこんなこと言わせてるんですか?」
「え?」
「わかった。昴くんのソウルメイトが自分じゃないから、それでひがんでとかですか?」
「え?違うよ」
「ちょっと待って。まず、話を聞いて」
昴くんが、慌てて葉月ちゃんの話を止めに入った。
「あのさ、多分他にいるんだ…。俺じゃなくて…。ノエルさんって人も、確実に俺ってわかって言ってたわけじゃないと思う。う~~ん、なんて言ったらいいのかな」
葉月ちゃんは、暗い顔をして聞いていた。その表情を見て、昴くんはなんとか葉月ちゃんを、傷つけないよう言葉を選びながら話していた。
「もしね…、もし葉月ちゃんが、ソウルメイトとかそういうの、本気で探したいとか、君の使命を全うしたいと思ってるとしたら、本当の君の相手と出会うべきなんだ」
「え?」
葉月ちゃんの表情が、少し変わった。
「俺だって思いこんでたら、もし出会えてても、気づけないよ?いいの?」
「え…?どういうことですか?」
「ひかりさんから、話を聞いた限りだと、君、何か使命があるよね?」
「はい、そんなこと言われました」
「俺も、ひかりさんにもある。俺は、ひかりさんと一緒にその使命を達成するために、今、ここにいる。あ、聞いてたよね?ひかりさんが宇宙船で会った人…。それ、俺なんだ」
「え?!」
もう、葉月ちゃんの目はこれ以上大きくならないんじゃないかっていうくらい丸くなり、口も四角く開いたままになっていた。
「ひかりさん、宇宙船での話は?」
「してない。幽体離脱の話しか…」
「ああ、そっか…。じゃ、その幽体離脱をしたあと、宇宙船に来て俺とひかりさんは会ったんだ。そのへんは、理解できる?」
「…ノエルさんが、ひかりさんは宇宙船にいたって」
「うん。それで、使命を全うするために、地球に二人で来た。その辺もなんとなくわかる?」
「じゃ、私のソウルメイトは?」
「わからない。でも、出会うようになってるし、ちゃんと流れに任せていたら、それが誰かはわかるようになってるよ」
「……」
葉月ちゃんが、うつむいて何かを考えているようだ。そこで私は、
「チャネリングできるんでしょ?してみたらどうかな」
と提案してみた。
「駄目なんです。声が一方的に聞こえるだけで。でも、最近ずっと、聞こえないんですよね」
「あれこれ、考えすぎてない?思考が邪魔するんだよ」
昴くんがそう言った。
「思考が…?」
「何も考えない方がいい。誰なのかとか、いつ会えるのかとか、あれこれ考え出すと、コンタクト取れなくなるんだ。だから、こんなことを言うのはなんなんだけど、そのノエルさんって人にリーディングもしてもらう必要はないんだ。宇宙に任せていたら、ものすごいタイミングでちゃんと出会えるようになってるから。それが誰かなんて、詮索すると、今回みたいに的外れなことになるよ」
「的外れなんですか?でも、私、昴くんに会ったとき、すごくあったかくて…」
「あ、それはきっと、俺から光が出てて、それに包まれたから。あ、でも言っとくけど、その光は、俺と、ひかりさんの光が同化したものなんだ」
「?」
葉月ちゃんの目が点になった。
「って、わからないか…。でも、とにかく俺は、そのソウルメイトって言い方をするなら、ひかりさんとが、ソウルメイトで葉月ちゃんとじゃないんだよ」
『でも、やっぱり葉月ちゃんとも、つながってるんじゃないの?』
心の中で昴くんに聞いてみると、
『みんな一つだからね。でも、今それ言ったら、こんがらがるだけだから』
と返ってきた。
『そっか…』
「なんか、すごく意地悪なことしているような気もしてきたけど…。でも、やっぱり、君は君の使命のために、ちゃんと出会うべきだと思うよ。その、君のソウルメイトに…」
「…二人は、ソウルメイトなんですか?」
「うん…。プレアデスでは、一つだった」
「え?ツインソウル?あ、それだったら、双子の魂か…」
「なんて言い方なのか、それはわからないけど…。一つでもあり、別でもあり…。この辺はまだ、理解できないよね?まあ、ひかりさんも理解していないみたいだけど」
「え?そうなんですか?」
葉月ちゃんは私の方を見て、聞いてきた。
「うん」
私はうなづいた。
「まあ、とにかく。ノエルさんといい、君といい、目的は一緒なわけだから仲間かな」
「え?」
「俺と、ひかりさん以外に、地球のアセンションのために、地球にやってきた宇宙人、初めて会ったや…。これからは、もっと、出会うようになっていくのかな」
「……」
私と葉月ちゃんは、目と目を合わせた。
「どうしたら、仲間だってわかるんですか?」
葉月ちゃんが聞いた。
「さあ?わかるときに、わかるようになってるんじゃないの?」
昴くんが答えた。
「あ、やばい。取材がこのあと、入ってるんだ。そろそろ行くよ」
「うん」
「はい」
私と、葉月ちゃんは、ほとんど同時にうなづいた。
「じゃ、あ、コーヒー代は払っておくから。ゆっくりしてって」
「え?駄目だよ。この前も、おごってもらった…」
私が慌てると、いい、いいって言って、昴くんは、とっととレジでお金を払い、出て行ってしまった。私はしかたなく席に戻り、まだ、半分残っていたコーヒーを飲んだ。もう、すっかり冷めていた。
「…昴くんじゃなかったら、誰?」
葉月ちゃんは、考え込んでしまっていた。
「わかるときが来ると思うよ。私もはじめ、誰だかわからなくて、知りたかったけど、思考が邪魔をするって言われて、頭の中、真っ白にして考えないようにしたんだ。そうしたら、わかちゃったんだよね。昴くんだってことが…」
「いつですか?」
「前に、友達と舞台を観に行ったとき」
「じゃ、私と一緒に見に行ったときは、もう…?」
「うん…。もう、知ってたあとだった」
葉月ちゃんは、黙っていた。
「でも、そんな話しても、誰も信じてくれないかなって思って。一緒に行った友達にも、まだしていないの」
「そうなんですか…。でも、そうですね。ドン引きされますよね」
「うん…」
「そうだったんだ…。じゃ、私もほっといてても、出会えるようになってますか?」
「うん。ほっておいた方がいいと思う」
「ええ?気になるのに…。ああ。でも、早くに会いたいし、ほっておくことにします」
「うん」
やっと葉月ちゃんの表情が、和らいだ。
「でも、すごいですね。昴くんがソウルメイトって…。あれ?ノエルさん、大恋愛をその人とするって言ってましたよね?」
「昴くんがね、未来は変わるかもしれないって…。今、何を選択するかで変わっていくから、わからないよって言ってた」
「え~~~~?そうなんですか?昴くんと大恋愛だったら、超嬉しいことなのにね!」
「……」
葉月ちゃんは笑ってそう言ったが、私はなんとなくうんと言えず、苦笑いをしただけだった。