ミッション8 一緒に暮らす
翌朝早くに、目を覚まし、朝食を作っていると母が起きてきた。
「あら、早いのね」
「うん、いきなり山梨の昴くんの実家に、行くことになって」
「え?!」
母がものすごく驚いていた。
「昴くん、今日実家に行ってくるんだって。それで、ご両親に会って欲しいって言うから」
「あ。あらまあ。じゃ、あなた、何か手土産でも持っていかなくちゃね!」
「ああいいよ。新宿駅で何か買うから」
「そう?何時の電車?」
「8時。新宿駅のホームで待ち合わせ」
「それじゃ、早くに食べて出ないとね」
「うん」
母は、コーヒーを淹れてくれた。私は朝ごはんを済ませると、すぐに支度をして家を出た。
駅の待ち合わせ場所に着くと、そこに全身黒づくめの昴くんが、悠然と歩いてやってきた。
「おはよ、ひかり」
昴くんは、小声でそう声をかけた。
「おはよう」
私も小声で答えた。
「免許取ったら、車で行くのにね…って、車がないか」
昴くんはそう言いながら、自販機で缶コーヒーを2本買った。それから、来ていた電車に乗り込んだ。
「8時ちょうどのあずさなんだね…」
と私がそう言うと、
「うん、それが?」
と、昴くんはぼけっとした顔で聞いてきた。
「あ、いいの。知らなかったらいいの、いいの」
と言いつつも、私の頭の中は「狩人」の「あずさ2号」が流れていた。
「これ、5号だよ」
昴くんが言ってきた。
「だからいいってば…」
そう言ってもまだ、昴くんはきょとんとした顔をしていた。
8時ちょうどに、電車が動き出した。
「なんかさ、ひかりと電車で旅って言うのもいいね」
昴くんは嬉しそうだった。
窓の外の景色を見たり、缶コーヒーを飲みながら話をしたりして、あっという間に山梨についた。
改札を出ると、
「昴!」
と、手を振っている人がいた。
「あれ、俺の母さん」
昴くんが教えてくれた。わあ。ご対面だ~~。
「朝早くから、迎えに来てもらっちゃって悪いね~」
と昴くんが言うと、
「何言ってるのよ~~。みずくさいわね」
と、お母さんは笑った。それから私を見ると、
「この人があんたの彼女…?」
と聞いてきた。
「うん。星野ひかりさん」
昴くんがそう言うと、
「ひかりさん、よろしくね」
と昴くんのお母さんは、にこって笑った。
「はい。よろしくお願いします」
私はカチンコチンに固まり、お辞儀をした。
「そんなに緊張しないで~~。ささ、車に乗ってね」
「はい」
昴くんのお母さんは明るい人だ。昴くんの無邪気で明るいところは、お母さん似なのかな?顔も似ていた。
『うん、俺どっちかっていったら、母さん似だってよく言われる』
『やっぱり?』
「父さんは元気にしてた?」
昴くんはお母さんに聞いた。
「父さんね~~」
「え?どうしたの?何かあった?」
「変な夢を見たって言ってね…。とにかく今日、あんたが帰ってくるって知ってから、話があったからちょうど良かったって言って。変って言えば、変ね…」
「どんなふうに?」
「だから、変な夢を見たとか、その夢の昴は彼女と一緒にいて光を出すんだとか、わけのわからないことを言うのよね…」
「え?」
私と昴くんは、同時に驚いていた。その夢って、まさか、低い次元で起きたこと…?私も昴くんも、お父さんに会うのが、ドキドキしてきていた。
15分くらい車を走らせただろうか。昴くんの家に到着した。
車を降りて家に入ると、
「ただいま~~!」
と昴くんは大きな声を出した。その声で猫が2匹飛んできた。あ、夢で見た、にー坊とかっちゃん。か、可愛い~~!!!昴くんの足にかっちゃんがじゃれつき、にー坊は私の足のそばで、くんくんしていた。
にー坊を昴くんはひょいと抱き上げ、ほほずりをすると、
「ただいま!」
と、にー坊に嬉しそうに言っていた。
「にゃ~~」
にー坊も嬉しそうに鳴いた。
「さ、ひかりさん、上がって、上がって」
お母さんにそう言われて、私は家に上がった。
「お邪魔します」
歩き出すと、今度はかっちゃんが私の足にじゃれついてきた。
「あれ?さすが、かっちゃん。ひかりの足にじゃれつくとは…」
『どういうこと?』
『こいつ、知らない人にはなつかないし、寄り付かないんだよね。でも、ひかりから俺と同じ波動感じてるんじゃないの?やっぱ、動物って敏感なのかもな』
『そうか…』
「お父さん、昴、帰って来たわよ」
とお母さんは、奥の方に向かってそう叫んだ。
「やあ、やあ、おかえり、昴」
奥の襖が開き、お父さんが顔を出した。すごく優しそうな、温厚そうな顔つきだった。
「あ…、ただいま…」
昴くんは一瞬言葉を失い、それから声を出したっていう感じだった。
『なんか、ちょっと、嬉しい』
『え?』
『低い次元では、もう、父さんの姿も見れないじゃんか。でも、ここじゃ会えるんだもん。嬉しいよ』
『そうだよね』
『めっちゃ、抱きつきたいくらいだ』
『抱きついちゃえば?』
『ま、まさか!』
昴くんは心でそう言うと、黙ってリビングの方に入っていった。昴くんの家は、外から見ても大きいが中も広かった。
「ゆっくりできるのか?昴」
昴くんのお父さんが聞いてきた。
「ううん。夜仕事だから、とんぼ帰りするよ」
「なんだ、泊まらないの?」
お母さんががっかりしていた。
「でも、昼ごはんは食べていって。たくさん作ったから」
「うん」
お母さんは、リビングを出て行った。
「父さん、母さんから聞いたけど、変な夢を見たって?」
「ああ。それがな、お前とひかりさんが出てきて、お父さんに向かって光を出してくるんだ。そりゃもう、まぶしい光でな…。その光を浴びたら、すんごい気持ちが良くなって、ふわふわ宙を浮くような気持ちになって、父さん、そのまま成仏しちゃったっていう変な夢だよ」
「そうなんだ…。あ、でも父さんはこうして生きてるわけだし…」
「ああ、ああ。そりゃそうだ…。だけど、やたらとリアルな夢だった」
「へえ…」
昴くんは、それ以上何も言わなかった。
お昼になり、みんなでご飯を食べた。それまでは、昴くんの部屋に二人でいた。昴くんの部屋は、勉強机や本棚、ベッドが置いてあり、昴くんがここで暮らしていたままになっているようだ。
昴くんの部屋も、昴くんの匂いがした。本棚にはマンガが並んでいて、それからゲームやDVDも並んでいた。それらを見てると、ついこの前まで普通の男の子だったんだなって、そんなことを感じた。
それから、子供の頃からのアルバムを見せてもらった。どれもこれも可愛くて、全部をもらっていきたくなった。
『やばいな~~、もう』
「何が?」
昴くんが心の声を聞き、聞いてきた。
「だって、赤ちゃんの頃から、めちゃ可愛い!」
「俺?」
「うん」
「そうかな」
「中学生の頃、もてなかった?」
「どうかな。もう芸能界にいたから、それでちょっともててた時期もあったけど」
「へ~~」
「でも、やっかむやつもいて、いじめにあったんだ。それで気づいた。俺、有頂天になってるっていうか、天狗になってたかなって。それからは、勉強も運動も部活もやったし、委員会も参加した。仕事の量は減らしたんだ」
「なんで?」
「う~~ん。中学生を満喫したいってのと、もっと友達欲しくなって…。それから、やっかむやつとも仲良くなった」
「すごいね~~」
私が感心してそう言うと、
「え?何が?」
昴くんは、きょとんとしていた。
「だって、昴くんて前向き。プラス思考だよね」
「そうかな?」
「自覚無し?」
「能天気なんでしょ?どうせ」
「ふふ。そういうところもあるけど、でも、ちゃんと自分に起きたことを受け止めて、自分のためにしてるところがすごいって思うよ」
「そりゃそうだよ。自分のために、すべてのためになるようなことしか、起きないんだから」
「そういうの、子どもの頃からわかってたの?」
「いいや、まさか!そんなふうに思えるようになったのは、宇宙船に行ってからだよ」
「ふうん…」
「でも、なんとなくは知ってたのかもね」
「そうだよね」
アルバムをめくると、昴くんが女の子と二人で写っていた。
「あ、これ、女の子とツーショット」
『やべ…』
心の声が聞こえちゃった。別にやばいことないのに。
「あ、聞こえた?」
「うん。彼女?」
「うん。初めて付き合った子」
「奇麗な子だね。大人っぽい」
「そう?」
「今、どうしてるの?」
「さあ?」
「中学の同級生でしょ?この辺に住んでるんじゃないの?」
「高校卒業してすぐ、東京出たようなことは聞いた。でも、詳しくは知らないよ」
「ふうん」
昴くんと付き合ってたなんて、今頃自慢してたりして。
「それはないかな」
「え?なんで?」
「俺、ふられたし」
「え~~~?昴くんが?!」
「うん…。女の子とどう付き合っていいかわからなかったから、部活ばっかりやってたら、なんか怒っちゃって、3ヶ月でふられた」
「たったの?」
「うん」
「……」
「今、呆れた?」
「ううん…。そのあとは?誰かと付き合わなかったの?」
「芸能人と…」
「え?!」
「映画で、相手役だった子と…」
「そうなの?いつ?」
「高2の時だよ」
どの映画だろう…。
「いいじゃん、もう過去の話しだし」
「それは長く続いたの?」
「半年くらい」
「そんなもの?」
「うん。お互い忙しかったし、あんまり会えなくて、向こうに俺以外に好きな人できて…」
「また、ふられたの?」
「う~~ん。俺もその頃、他にいいなって人がいて」
…昴くん、実は、ほれっぽい?
「あ…。役でさ、恋人役するとどうしても、もしかして好きかな~~って勘違いをお互いしちゃうんだよね」
「え?」
「そのあとに好きになった子も、ドラマで恋人役だったの。で、お互い、好きあってるかもって、デートしたりして…。だけど、ドラマ終わって二ヶ月もすると、あれ?なんか違うかなって…」
「そんなものなの?」
「うん」
「ふうん…」
中学の卒業式の写真、まだまだ幼い感じがした。
「昴くんって、ここ最近だよね。ぐっと大人っぽくなったの…」
「ええ?いつもガキ扱いしてるじゃんか」
「そんなことないよ。大人っぽいし、セクシーだし…。まだ、この頃は少年らしさが混じってるって感じだよね」
「中学生だもんな~」
「高校の写真はないの?」
「ああ。俺のマンションだ」
「なんだ~。じゃ、今度遊びに行ったとき、見せて」
「遊びに?もう、俺んち来るんでしょ?」
「え?」
「一緒に暮らすじゃんか」
「あ、そっか」
「ベッド、もともとセミダブルにしておいて良かった」
「なんで、セミダブルにしてたの?こういうのを予想してたとか?」
「ちげえよ。シングルってすごく小さいから、あんまり寝返りとかうてないかなって思ってさ」
「私と寝たら、狭くなるよ。いいの?」
「いいの!べったりくっついて寝るのがいいんじゃん!」
昴くんは思いっきり、嬉しそうに笑った。いや、にやけた…。
「え?にやけてた?俺…」
「うん…」
昴くんとそんな会話をしながら、アルバムを見てて、お母さんからご飯よって呼ばれた。ダイニングに行くと、たくさんのご馳走が並んでいた。
「さ、食べてね」
「いただきます!」
昴くんは嬉しそうに食べだした。
「これ、どれも俺の好物」
と、口にいっぱいほおばりながら、そう言った。お母さんの作ったご飯は本当に美味しくて、やばいって思った。
『何が?』
『私、こんなに料理できないよ?』
『いいよ。別に』
でも、一緒に暮らしても、こんなに美味しいもの食べさせてあげられない。
『いいって。ひかりが作るものならなんでも、美味しいって』
……。昴くんの方が上手かもしれない。
『なら、俺が作ってあげるよ』
あ~~もう、そうやって、優しい言葉を言うから私…。
『何?』
『甘えちゃうんだよね…』
『甘えてもいいのに?』
『……。そっか』
『そうだよ。甘えてもいいんだよ?』
『うん』
心でそんな会話をしながら、ご飯を食べた。
お腹いっぱいになり、二人でしばらくお父さんとリビングで話をした。昴くんは、お父さんを見る目が、嬉しそうだった。そうだよね…。低い次元では、悲しい思いをしたんだもんね。
お父さんは、昴くんのドラマの話や、今度の映画の話を聞きながら、時々助言をしていた。きっといつも、こんななのかな…。
そして3時になり、またお母さんに車で送ってもらった。
「ひかりさん、またいつでも遊びに来てね」
お母さんがそう言って、にっこりと笑った。
「はい…。ありがとうございます」
「じゃ、昴、体に気をつけて。仕事頑張ってね」
「うん。じゃね…」
昴くんは、そう言ってその場を去ろうとしてから、また、すぐにお母さんのもとに駆け寄り、
「あ、言い忘れてたけど、これからは、急に俺んちにやってくるのはやめてね」
と小声で言った。
「あら、なんで?いないときがあるから?」
「いや、俺、ひかりと暮らすことにしたからさ、一応来る前には連絡いれて」
「あら、まあ、そうなの?」
お母さんはかなり驚いていたが、
「そ、それは事務所の人には?」
「内緒…」
「あら…。わかったわ。じゃ、私も誰にも言わないでおくわ」
お母さんは目配せをしながら、そう言った。
「サンキュー。そんじゃ、また、そのうち休みができたら来るね」
「はいはい。じゃあね。ひかりさん、昴をよろしくね」
「はい…」
お母さんは、にこにこしながらしばらく私たちに手を振ってくれていた。
帰りの電車では、昴くんはなんとなく静かだった。
「いいお母さんとお父さんだね」
「うん」
「仲いいんだね」
「うん」
「?」
昴くんに集中してみると、なんだか感動しているようだった。
「あ…。父さんに会えて、なんか嬉しかったのと…」
「うん」
「ひかりと暮らすこと、あっさり認めてくれて嬉しかったのと…」
「うん」
「家族っていいな…ってなんだか今、そんなこと感じてたんだ」
「私も…。昨日の夜、みんなで夕飯食べててそう思ってた」
「やっぱり?」
「また、うちにも来てね。お母さんもお父さんも喜ぶと思うよ」
「うん…」
昴くんは私の顔を優しく見てそう言うと、
「低い次元でも、家族と幸せにやってるんだろうな…」
とつぶやいた。
「うん、きっとね…。私ね、どの次元にいても、家族を愛してたよ」
「ああ。俺も…」
そう言って、私たちはしばらく黙った。私は昴くんの肩にもたれてみた。昴くんは優しいエネルギーで思い切り包んでくれて、あったかかった。
新宿に着いた。昴くんはそのまま仕事場に直行をして、私は家に帰った。家に入ると、母が玄関に飛んできて聞いてきた。
「ひかり!どうだった?昴くんのご両親」
「うん、お母さんは明るくて、お父さんは優しい人だったよ」
「そう…。あんた、嫌われたりしてないでしょうね」
「う、うん。多分大丈夫だと思うよ」
「良かったわ~~」
そんな、お母さんが心配したり、ほっとしなくても…。
「これでもう、大丈夫ね」
「何が?」
「いつ籍を入れても」
「い、入れないから」
「結婚する気はまったくないの?」
「今のところはね」
「昴くんは?」
「まだ、19歳なんだよ?」
「そうよね~~。若すぎだわよね…」
そうだよ。ほんとにもう…。結婚なんて、関係ない。ただ一緒にいたい。それだけだもの。結婚とか、入籍とか、そういうものに縛られたくない、そんなことすら思ってしまう。
その日、昴くんは仕事で相当、集中しているようだった。お風呂に入り、私は低い次元の私にコンタクトしてみた。
『高い次元の私?』
『そう…。声聞こえた?』
『うん』
『どう?そっちの次元』
『今日、昴くんが実家に行くって言うから、一緒に行ったの』
『え?同じだ』
『本当?じゃ、結婚の話も出た?』
『け、結婚?』
『出ない?』
『うん』
『そうか~~。あ、昴くんのお父さんに会って、なんだか二人で感動した』
『え?』
『もっと低い次元では、昴くんのお父さんは亡くなっていたから』
『うん。この次元の昴くんも、感激してたよ。お父さんに会えたこと』
『うん。もっと家族を大事にするって、昴くん言ってたよ。それで結婚の話になったの。結婚したら、ひかりも俺の家族なんだなって…』
『そうか…』
『だけど、20歳の誕生日を迎えてから考えるって。今は、一緒に暮らそうって言われた』
『あ、そっちの次元でも?』
『うん』
『そっか…。あ、もっと低い次元の私ともコンタクト取れるのかな?』
『わからないけど、試してみたら?』
『うん、やってみるよ』
私は、そのまま少し派動を下げて、私を呼んだ。
『誰?』
声がした。
『高い次元の私!』
と言うと、相当驚いていた。
『こんなふうに、話ができるの?』
『うん。出来るのよ。どう?その後』
『本山で、ノエルさんから瞑想を教わったの』
『そう。昴くんも一緒?』
『うん…。しばらくは、ここで泊まることになると思うけど、そのうち、昴くん仕事見つけて、二人で暮らそうって』
『そう…』
『高い次元の海藤玄さん、元気になったの?』
『なったよ。すごく元気に…』
『良かった』
『昴くんのね、お父さんに今日会ったよ』
『え?どこで?幽体離脱して、魂で会ったの?』
『ううん。こっちの次元のお父さんは生きてるから…』
『あ、そうか…。昴くん、どうしてた?』
『感激してた。嬉しそうだったよ』
『そう…。良かった』
『昴くんは、元気?』
『うん。あ、高い次元の私も、足、ひきずってるの?』
『ううん。なんの後遺症もないよ』
『そう…』
私は複雑だった。
『あ、私のこと、気にしないでね。昴くんが本当に優しくて、自分の足が不自由なことも、時々忘れちゃうの』
『…うん。昴くん、本当に優しいもんね』
『うん、だからね、私は今、すごく幸せ』
『そうだよね』
『これからも、時々コンタクトとってね』
『うん。わかった。じゃあね。お風呂だから、もう出るね』
『うん』
私は低い次元の私と、交信を終えた。お風呂を出て、ベッドにドスンと横になった。これから、私はゲラ刷りが待っている。それから、本が出版されたら映画化だ。
忙しくなるのかな…?だけど、いつもやっぱり未来ではなく、いまここにいよう。今この瞬間をしっかりと受け止め、味わっていこう…。
その日の夢の中では、昴くんは猫とじゃれていた。そのあとお父さんも出てきて、昴くんに光を送っていた。このお父さんは、もしかしたら低い次元のお父さんの魂かもしれない。
私は昴くんの夢の中で、昴くんと同化していた。
「ひかり!?」
いきなり昴くんが、猫と遊ぶのをやめて私を呼んだ。私は昴くんの体から離れた。
「なあに?」
「あ、良かった。いた!」
昴くんは嬉しそうに私に抱きついて、しっぽをぐるぐる振り回していた。
「このしっぽは、犬だよね?」
「ワン!」
「猫じゃないよね」
「ニャア…」
え?いきなり昴くんのしっぽは、猫のしっぽに変わった。面白いな~~。
「ひかり…」
「ん?」
「今日も昨日も、俺、一人でベッドで寝てるじゃんか」
「うん」
「低い次元では、10日間、まるごと一緒だったじゃんか」
「うん」
「二日間だけでも、寂しい…」
「え?」
「早くにうちに来て」
「うん。わかったよ」
昴くんは私がそう答えると、また、しっぽをぐるぐる振り回し、私に抱きつく…。
「愛してるよ。ひかり」
ってそうささやきながら。
朝起きると、ポストに分厚い封筒が入っていた。
「あ、来ちゃった」
ゲラ刷りの原稿だ。さあ、これを1週間でチェックしなくちゃ…。
それと同時進行で、私は昴くんの家に、自分の持ち物を運び始めた。と言っても、当面着る服や、化粧道具や、パソコンや、そんなものだけだったが…。
そして1週間後、昴くんとの生活が始まった。昴くんはドラマの出演が決まり、夜遅くに帰宅した。私はもう合鍵を作っていて、昴くんの部屋で待っていた。
『ひかり!いる?』
昴くんの声がした。
『うん、いるよ。昴くんはどこ?』
『タクシーでもう帰るところ』
『おなかはすいてない?』
『すいてる!』
『じゃ、何か食べる?雑炊か、おにぎりか…』
『おにぎり?』
『うん。あ、焼きおにぎりとか…』
『うまそう!』
『じゃ、作っておくね』
『うん!』
昴くんは、ものすごく嬉しそうなエネルギーを送ってきた。あ、本当にものすごく喜んでる…。
『ただいま!』
昴くんはどうやら、マンションについたらしい。そして、それからあっという間に、玄関にたどり着いた。走ってきたのかもしれない。
『ひかり!』
私が玄関を開けると、
『ただいま~~!』
と心で言って、抱きついてきた。
『おかえり』
私も心でそう答えて、ドアを閉めた。
「ひかり…」
昴くんはいきなりキスをしてきて、また抱きついた。
「す、昴くん、とりあえず、靴脱いで部屋入ったら?」
「うん!」
昴くんは慌てて靴を脱ぎ捨て、私に張り付いたまま、部屋に入ってきた。
「すげえ…。なんか、新婚みたいだ!」
「ええ?」
昴くんがいきなり、そんなことを言うから笑ってしまった。
「あ!焼きおにぎり!」
昴くんは、リビングのテーブルに置いてあった焼きおにぎりを、嬉しそうにほおばった。
「ああ。手も洗ってない~~」
「ほふほふ…。熱い」
「焼いたばっかりだもん。やけどしないでね」
『もう、やけどした…』
ええ?ほんとにもう…。そういうところは、子どもなんだから。
昴くんは満足すると、お風呂に入りにいった。一緒に入ろうと言われたが、もう、一人で入っちゃったよって言ったら、ものすごくがっくりしたらしい。肩を落としてバスルームに向かっていった。
だけど、すぐに機嫌が直ったらしく、バスルームから鼻歌まで聞こえた。
あいかわらず、やっぱりバスタオルで頭を拭きながら、バスルームからやってきた。口には歯ブラシをくわえてる。
そして歯を磨き、髪を乾かすと、横で昴くんをぼ~って眺めてた私に向かっていきなり、抱きついてきた。
「お待たせしました~~」
「お、お待たせ?」
「うん。待ってたでしょ?」
「え?」
「え?じゃなくって…。ひかり、ご飯を待てって言われた犬みたいだったよ」
「ええ?どういうこと?」
「俺のこと、ずっと、じ~~って見てたじゃん」
「ち、違うよ!それはただ、なんとなく、その…。昴くんと一緒に暮らせる喜びをかみしめてたんだよ」
「うん。それで~~、思い切り抱き合っちゃおうって思ってたでしょ?」
「え?思ってないよ」
「また~~。そうやって、すぐに隠す」
「え?」
「心の声、聞いてたよ。俺ずっと」
「え?な、何思ってた?私」
「昴くんの髪って、やわらかいんだよね…とか、昴くん、なんだかちょっと胸板厚くなったかな…とか」
う…。思ってたかも。
「昴くんの鎖骨奇麗だよね、とか。指も奇麗だな…とか。そりゃもう、聞いてて恥ずかしくなるようなことばかり…」
「え~~!そ、そんなの…。いつも思ってるし、前にも言ったじゃない。私」
「そう…。で、早く抱きしめて欲しいな…って」
「そ、それは思ってない!」
「……。思ってたよ…」
「……」
お、思ってたかも…。
「あはは!真っ赤だ、ひかり!」
そう言うと昴くんは、キスをしてきた。それから顔をあげると、
「ひかりってほんと、可愛いよね」
って、めちゃくちゃ、熱いまなざしで見ながら言ってきた。でもきっと、私も負けないくらい熱い目で昴くんを見てただろうな…。
昴くんはドラマの収録が始まり、すごく忙しくなりだした。他にも、写真集の仕事、CMの仕事など、続いて入るようになった。帰りも夜中だったり、朝がた近かったりする日もあった。
私は昴くんが遅い日は、寝ずに原稿をチェックしながら待っていた。昴くんは寝てていいのにって言ってくれたが、私は昴くんが帰って来るのを待っていて、「おかえり」って言いたかったし、それに同時にベッドに潜り込んで、眠りにつきたかった。
それに、先に寝てていいよって言いながらも、私が起きて待っていて玄関で出迎えると、昴くんは抱きついてきて、
「ただいま。ひかり~~」
って、いつも喜んでいた。そして、疲れきっていたとしても、やっぱりべたべたにくっついたまま、眠りにつく。私は、そんな昴くんをいつも、光で包み込んでいた。
昴くんは家にいても、台本を読んだり台詞を覚える時だけは、真剣そのもので、その時の集中力はものすごいので、話しかけられないほどだった。
「すごいね、その集中力」
と、ひと息ついてる時に言うと、
「ひかりもじゃんか。小説の原稿読んでる時のひかり、話しかけられないオーラ出てるよ」
と言われてしまった。ああ、自分のことは、気づけてなかったな。そういえば、私が原稿を読んでいる時、昴くんは絶対に話しかけてこなかったっけ。
そんな時、昴くんは黙ってコーヒーを淹れて、テーブルに置いてくれて、昴くんが台本読んでる時には、私がコーヒーを淹れ、そっと置いたりしていた。
だけど、台本を読んだり、原稿をチェックしたりしないですむ日は、めちゃくちゃいちゃついていた。
一緒にお風呂も入る。一緒にご飯も作る。べったりくっついてテレビも見るし、私は昴くんの足の爪を切ってあげたり、耳掃除もしてあげたり…。
昴くんは私の膝枕で、ぐっすり寝てしまった時もあった。しばらくその寝顔が可愛くて、そのままにして眺めていたが、さすがに足がしびれて、起きてもらった。
どんな昴くんも愛しくて、可愛くて、見逃したくないと思う。
昴くんの洗濯物を干したり、たたんだりしてて、それがめちゃくちゃ愛しくなり、ギュって抱きしめたりする。そんな私を見て、昴くんが後ろから抱きしめてきたことがあった。
『そういうの、めちゃ可愛いんだよね』
って心で言いながら。昴くんはほとんど心の中を全開にしてて、私はよく真っ赤になっていた。そのたびに笑われた。
だって、本当に、度肝を抜くようなそんなことを思ってるんだもの…。
「しょうがないじゃん。男なんだから、俺も…」
と言われるけど、聞こえるのがいいのか悪いのか、考えものだ。
「隠してたのずるいって言ってたの、ひかりでしょ?」
「そうだけど」
恥ずかしさで、どうしようってなると、また、昴くんに笑われるんだよね…。
「あはは。ひかり、可愛い~~!」
って…。私もなるべく全開にしてるけど、たまに、
『あ、これ聞かれてたら恥ずかしい』
って思っちゃうことがあって、でも、そんなのも聞かれてて、
『もう、聞こえちゃってるから』
って昴くんは心で言って、また笑う。あ~あ。まいっちゃう。全部ばれちゃうし、全部、昴くんに笑われてしまう。
だけど、昴くんが調子が悪い時や、無理をしてる時も、口であまり昴くんは言わないから、心を全開にしてくれてるおかげで、そういうのがわかり助かった。
そんな時は、いつもの倍光で包んだり、食事に気をつけたり、昴くんがゆっくりと休養ができるように配慮が出来る。それは、私が具合が悪い時も一緒で、昴くんがすぐに察知するから、
「あ。ひかり、今調子悪いんだね。ゆっくりしてていいよ」
って言ってくれる。
二人して、風邪気味でダウンした時は、早々と薬をのんで寝て、夢の中でじゃれあった。
「こういう時に、一緒の夢を見れるっていいよね」
昴くんは、夢の中ではしゃぎながら言ってきた。
「うん。夢の中じゃ、風邪も関係ないしね」
はしゃいでる昴くんはいつも、しっぽがはえている。そしてぐるんぐるん振りまわっている。
「ひかりもしっぽ、はやしてみたらいいのに」
ってにこにこしながら言ってくるけど、どうしたらしっぽなんてはえるんだか?
「夢なんだから、なんだってできるじゃんか」
そうだけど…。ま、いっか。しっぽがはえてる昴くんが可愛いから、それはそれで。
季節が冬から春に変わりかけた頃、
「そろそろ出版だっけ?」
カレンダーを見ながら、昴くんが聞いてきた。
「うん。3月28日に出版だよ」
「映画の撮影も始まるよ。台本も出来上がったんだ」
「見たい!」
「いいよ。はい」
昴くんは鞄から、台本を出してきた。
「ラブシーン、けっこうあるんだよ」
「え?そうなの?」
「え?そうなの?じゃないよ。ひかりの小説を忠実に台本にしてるんだよ?ひかりの小説、けっこうラブシーン多いじゃん」
「そうだっけ?」
「うん。あ、キスシーンとか、そういうのだけどさ」
「そうだよね。ベッドシーンってなかった気がする。なんだか、書くのが恥ずかしかったし」
「え?それでなかったの?」
「うん」
「そっか。うん、ベッドシーンはないよ」
「昴くん、台本読んだの?」
「帰りの車で読んだだけ。今日もらったんだもん」
「そっか…」
「製作発表、もうすぐあるけどさ…。ひかりどうするの?」
「何が?」
「プロデューサーや、監督から何も聞いてない?」
「製作発表に出るかどうか聞かれた。でも、名前も顔もふせておいてもらうってことにしたから」
「そっか…」
「ペンネームの空野いのりで、ずっといくよ」
「うん、わかった」
「楽しみだな。製作発表。テレビで見れる?」
「どうかな。ワイドショーとかでやるかな」
「ワイドショーか…。苦手だな」
「ひかりテレビ見ないもんね」
「うん…。どうもね、暗い話題とか、駄目なんだ」
「黒い霧出るしね…。だけど、前よりかずっと減ってるよ。気づかない?」
「そうなの?」
「悟さんも言ってた。メディア関係者も、どんどん目覚めてるって。瞑想の本が今度出版されるって言ってたよ」
「瞑想の?」
「白河さんのこともその本に、載るらしいよ」
「え?すごいね!」
「うん」
そっか。目覚めてる人、本当に多いんだ…。
「俺のドラマは観たよね?」
「観たよ。もちろん。すんごい光だしてたよね」
「うん。また、内容もすごかったからさ」
そうなんだよね。昴くんが出演したドラマ、2時間の特番だったんだけど、けっこうすごい役柄だったんだよね。
内容は普通の、ヒューマンドラマなんだけど、昴くんは、交通事故で車椅子の生活をすることになった女の子のお兄さんの役。
主役はその女の子なんだけど、お兄さんが運転してた車で事故を起こして、女の子は足が不自由になっちゃう。その妹のために、懸命にお兄さんが尽くして、かたくなになってた、女の子の心がだんだんと開いていくっていう、そんなドラマで、家族愛がテーマになってるドラマなんだよね…。
「あれ、泣いたよ~~」
「え?ほんとに?」
「うん。ボロ泣きした」
「へへ…。俺の演技すごいしね…」
「主役の子、うまかったよね」
「そっち~~?俺じゃなくて~?」
「あはは。うそうそ。昴くんもすごくいい演技してたってば」
「なんだよ、ちぇ~~。とってつけたようなその褒め方…。まあ、いいけどさ~~。ほんとに歩美ちゃんは上手だから」
「歩美ちゃんって呼んでるの?」
「うん」
「今、高校生なの?あの子。」
「うん。高校1年生だっけな」
「ふ~~ん…」
「…やきもち?」
「ち、違うよ!」
「あれ?素直じゃないね。今、一瞬、俺が歩美ちゃんに惚れたらどうしようって思ってたじゃん」
「お、思ってない…よ。多分」
「あはは!無意識か~~」
「思ってた?私…」
「うん、聞こえたもん」
うそ~~…。
「でも、俺ほら年上好みだし、安心して。なんか、ほんとの妹みたいな感覚しかないから」
「う~~」
「何?そのう~~って…」
なんだか、いつも私ばかりが妬いてるみたい。
「え?」
「なんでもない」
そう言って目をふせてると、昴くんは抱きついてきて、
「すねてるひかりも、めちゃ可愛い」
って言って、キスをしてきた。ああ…、もう。昴くんにはかなわないよ、ほんとうに…。昴くんのキスで、私はすぐにメロメロになっちゃう。
それも昴くんにみんなばれてる。私の表情を見て、私の心の声を聞いて、昴くんはにやけるんだよね、いつも。
『にやけてる?俺?』
『うん、思い切り』
『まじで~~?』
『まじで…』
『そ、そうか。気をつけよう、これから』
『なんで?』
『にやけ顔は、やばいっしょ?』
『ふふ、別に…』
『え?』
『どんな昴くんも、可愛いし』
昴くんは真っ赤になった。
そんなこんなで、一緒に暮らしだしてもうだいぶ立つのに、私たちはいまだに、いちゃいちゃしている。
それから4日後、製作発表が行なわれ、ワイドショーでその様子が流れた。昴くんは、めちゃかっこよかったし、相手役の菅原エリカはすごく奇麗だった。
昴くんはその日の夜中、家に帰ってくるなり、
「観た?ワイドショーでやってたでしょ?」
といきなり、聞いてきた。
「うん。かっこよかったよ。昴くん」
「ほんと?」
「うん。なんだかもう、圭介ぽかった」
「まじ?うん。ちょっとなりきってみた…。なんてね」
「菅原エリカ奇麗だったね」
「うん。なんか、何話していいかわかんないんだよね、いつも」
「そうなの?」
「うん。俺、すごい子ども扱いされてるし」
へえ。わかってるんだ。
「何を?」
「え?」
「俺はガキだってこと?」
「え?私そんなこと思ってた?」
「思ってたよ!今のは思い切り思ってたでしょ!」
「え?そうかな~。無意識だ」
『ずっこい、無意識って言えばすむと思ってる…』
「子どもっぽいところが、可愛いのに。その辺をわかってないんだよ、きっと」
「……」
昴くんはまだ、すねていた。
「昴くん!もしかして、菅原エリカに気に入られたいの?」
「別に!」
「じゃ、いいじゃない。子ども扱いされてもなんでも」
「いいけど!」
すねてる昴くんの背中を、思い切り抱きしめた。
「あ、そうだ。明日さ、俺、ラジオ出るんだよね。言ってたっけ?」
「ううん」
「エリカさん、ラジオ番組あるんだ。それにゲストで出る」
「生?」
「うん。だから聞いててね。いっぱいひかりに愛を送っちゃうから」
「うん」
「へっへ~~」
「何?そのへっへ~~って。あ、もしかして、エリカさんとラジオ出れて喜んでる?」
「え~?俺の心の声、聞いてないの?」
私は黙って、昴くんに集中した。そうしたら、
『また、ひかりのこといろいろ、ばらしちゃおう』
って言ってた。
「だ、駄目だよ!もう。誰が聞いてるかわからないんだよ?」
「べっつにいいじゃんか、誰が聞いてても」
「駄目。一緒に暮らしてることとか、ばらしちゃ駄目だからね」
そう、私たちが一緒に暮らしてることは、事務所の人にだってまだ、隠してるんだから。
「はいはい。そのへんはちゃんと内緒にしておきます」
昴くんは、そう言うとぐるりとこっちを向いて、抱きしめてきて、
「ひかりがずっと抱きしめてたから、その気になりました」
って言って、押し倒してきた。
ああ。それ、夢の中の昴くんじゃない…。
『いいの。夢でも現実でも、その気になるんだよ』
そして私たちは抱き合って、また魂で同化して、ものすごい光を出し地球を包み込んだ。そして体に魂が戻ると、昴くんはにっこりと笑って、
「今日のミッション、終了」
と言った。そうだね…。私たちが愛し合うとすごい光を放って、地球を包み込んじゃうもんね…。