ミッション6 愛の力を示す
翌朝目が覚めた。隣を見ると、まだ昴くんはすやすや寝息を立てて、眠っていた。私は、自分の足を動かそうとしてみたが、何も感じられなかった。
「……」
一瞬、いろんな不安がよぎった。でも、もうよそう…。起きたことを受け入れる、そして、前を向いて歩いていく。昴くんが一緒にいてくれるんだ。私は、一人じゃないんだ…。
その時に、なんとなくトイレに行きたくなった。すぐにナースコールをして、看護士さんを呼んだ。
「どうしました?」
看護士さんはすぐに来てくれた。
「あの…、トイレ行きたくて…」
と静かに言ったが、昴くんがいきなり飛び起きた。
「俺!俺つれてくよ」
だけど、看護士さんは、
「いえ、大丈夫ですよ。今、車椅子持ってきますね」
と、一回病室を出ると、すごい早さで戻ってきた。
「さあ、こちらに移って下さいね」
肩を貸してくれたが、下半身がまったく動かず、どうにか腕の力だけで動こうとすると、昴くんが来てひょいって抱き上げ、車椅子に乗せてくれた。
「あら…。意外と力あるんですね」
看護士さんが、昴くんに驚いていた。
『意外は余計…』
昴くんは、心の中でぼそって言うと、
「だから、俺に任せてくれて大丈夫です」
と看護士さんに言ったが、
「いいえ、トイレでは、やはり女性がついていないと…。ここで待っててください」
と言って、看護士さんは車椅子を押して、病室を出た。
「トイレに行きたいって感覚が、戻ってきたんですね。よかったです」
そう言いながらトイレに着くと、また、せいの!で便座に座らせてくれた。こういうのも、自分の力だけでできるようにならないと…。私はそんなことを思っていた。
トイレから病室に戻る廊下で、看護士さんは、
「あの若い方は、弟さんですか?」
と聞いてきた。
「いいえ…」
「もしかして、恋人…?」
「はい」
看護士さんはその答えに、
「そうなんですか!素敵な優しい方ですね」
と羨ましそうに、そう言った。
病室に戻ると、昴くんはぽつんと椅子に座っていた。それからすぐに立ち上がり、私を抱きかかえ、ベッドに寝かせてくれた。
そのあと、しばらくするとまた看護士さんが来て、熱を測ったり脈を取ったりして、点滴を打たれた。
「今日は検査をして、調子がいいようなら、お粥をお昼に持ってきますね」
「はい」
看護士さんは病室を出て行った。
「昴くんもおなかすいたんじゃない?朝ご飯食べに行ったら?」
「うん…。まだいいや…」
昴くんはまだ、ぼ~ってしていた。眠いのかな?
「あ~~。顔洗ってくる…。なんか、まだ目、覚めてないかも、俺…」
そう言うと、病室を出て行った。昴くんも、疲れているんじゃないかな…。一回、自分のマンションに戻って、休んだ方が良くないかな?
『ひかりのそばにいたいから…』
昴くんの声が聞こえた。それから昴くんは、すっきりした顔で戻ってくると、手に、缶コーヒーを持っていた。それを一気に飲んで、
「あ~~。目、覚めた!」
とにこっと笑った。
その日の午前中は、いろんな検査があった。昴くんや、途中で来てくれた悟くんと葉月ちゃんは、私にずっと光を送ってくれていた。
午後、お粥を食べ、なんだか調子がよくなってきた私は、病室で昴くんや、悟くん、葉月ちゃんと話をしていた。
「あ…」
またトイレに行きたくなり、すぐに看護士さんを呼んだ。
「俺がついていくのに」
昴くんに言われたが、やっぱりトイレでいろいろと手伝ってもらうのには抵抗があって、そんなことを思っていると、
『わかったよ。でも、そんなことで恥ずかしがったりしなくていいよ?もし、一緒に暮らすようになったら、俺がサポートしていくことになるんだから』
と、昴くんは心でそう言ってきた。
『うん…』
昴くんは車椅子にまた、私をひょいと乗せてくれた。軽々と抱き上げるので、また驚いていると、
「ひかり、すごく軽いよ。痩せたんじゃない?」
と言ってきた。ああ、そうかもしれないな…。
看護士さんに押してもらって、病室を出た。
昴くんは、もういろんなことを背負う覚悟をしてるのかな…。私の方が、全然そういう自覚がないのかもしれない。そんなことを思いながらトイレに着き、またせいの!で便座に座らせてもらおうとしたとき、私の足が勝手に動いた。いや、勝手じゃない。私の意思で…。
「あ!動く!」
私も看護士さんも、びっくりしてしまった。
「戻ってきてるんじゃないですか?」
看護士さんがそう言った。
「え?」
「足の感覚です。ちょっと軽くたたいてもいいですか?」
ももや膝を、看護士さんがたたいてきた。
「あ。あります、感覚!」
軽くたたかれただけだから、痛みはなかった。それから自分でも、たたいてみた。ああ…。感覚がある!もう一回、動かしてみた。動かせた。
『昴くん!』
『え?』
『足、動いたよ!』
『本当に?』
『うん!』
嬉しくて思わず、昴くんに報告した。
病室に戻ると、私は自力でどうにかベッドの方に動こうとしたが、そこまで足に力が入らなかった。
「無理はしないでくださいね。これからゆっくりと、リハビリをしていきましょう」
看護士さんは優しくそう言ってくれて、それから病室を出て行った。
「ひかりさん、足、動かせなかったの?」
悟くんが聞いてきた。
「うん…。感覚もなかったの」
そう言うと、葉月ちゃんは驚いていた。
「後遺症が出るかもって言われてたんだ…」
「だけど、もう、感覚あるんですよね?」
葉月ちゃんが聞いてきた。
「うん、徐々に戻ってきてる…」
「そうですか。良かった…」
どこまで戻るかもわからないし、やっぱり何かの後遺症が出るかもしれないが、それでも、少しずつ感覚が戻ってきてるのが嬉しかった。
「そういえば、記者会見のことだけど、明日の予定をずらしてもらった方がよくないかな?」
悟くんがそう言ったが、
「私なら大丈夫。車椅子で行くことになるけど…」
と私は、答えた。
『無理はしないんだよ。ひかり…』
『うん、わかってるよ』
それから、葉月ちゃんと悟くんは、マンションに帰っていった。
その日は、夕方に父と兄と母がお見舞いに来てくれた。すっかり顔色も良くなった私を見て、3人ともほっとしていた。
「足も動くようになったから、明日からリハビリをするの」
と言うと、さらに喜んでいた。
明日の会見は11時になるらしい。その時には、兄も父も横にいれくれるし、昴くんも一緒にいてくれるって言ってくれた。会見ではどんなことを聞かれるかわからないが、私はただただ、光を出していようと決めていた。昴くんがそうしていたように…。
夜は昴くんに車椅子を押してもらい、トイレに行ってみた。便座に座るのは自分ではまだ無理で、昴くんに手伝ってもらったが、そのあとは自力で全部出来た。
「なんだ。全部手伝ってあげたのに」
と、昴くんは帰り道にそんなことを言った。
「エッチ」
と言うと、
『え~~!なんで?!なんでそうなるんだよ~~!!!ちぇ~~!』
と、心で思い切り、すねてしまった。
病室に戻ると、またベッドに抱きかかえて寝かせてもらった。
「私、こんなに甘えてていいのかな」
「え?」
「昴くんにずっと、甘えてる…」
「甘えてる?違うでしょ」
「え?どういうこと?」
「支えあってる…」
支えあってる?だけど私、何も昴くんにしていないよ…。
「でもね、ひかり…。俺はひかりのそばでこうして、ひかりのために何か役立ってること、嬉しいんだよ」
「…え?」
「嬉しいの。これって与え合ってるんだよね」
「何を…?」
「何をかな…。わかんない。うまく言えないけど…、愛をかな?」
「愛を…?」
「ひかりばかりが、俺に甘えてるとか、俺が大変な思いをしてるとか、ちょっとそんなこと感じてたでしょう?」
「え?うん…。そうかな」
「でも、それ、そんなことないからね。俺、ひかりのそばで、こうしてひかりのために何かしていられるの、嬉しいんだ。喜びになってるんだ」
「……」
私は、胸がいっぱいになって、泣きそうになった。
「支えあったり、与えあったりしてるんだよ?けして、一方通行のものじゃない。だから、安心して俺に、いろんなこと助けてって言っていいんだ」
昴くん…。昴くんの愛を本当に感じる。ものすごく感じる…。優しくて大きくて、私のことを丸ごとすっぽりと包み込むような、そんな大きな愛を…。
「昴くんは宇宙だ」
「え?」
「だって、広いし大きいし、あったかいし、安心するし…」
「うん」
「昴くんの愛を感じると、胸がいっぱいになる。嬉しくて感動する」
「…俺だってひかりの愛を感じると、感動するよ」
「……」
「それが愛なんだよね」
「うん…」
昴くんと指を絡めた。
「ひかり。それがきっと、俺ら、人間の本来の姿なんだよね…」
「私たち、光の人型にならなくても、本来の愛の姿になっちゃってるんだね?」
「うん。もう、この地球で…。人間の姿で…」
「……」
私たちは、しばらく感動していた。すべてと溶け合い、自分が消えていた。そこにあるのは、大きなあったかい愛だった…。
『人って、素晴らしいね』
『え?』
『支えあったり、愛しあったり、与えあうって、なんか、すごいなって思ってさ』
昴くんが心で言ってきた。
『うん』
『これを、すべての人に体験してもらいたいな…。あ、体験も何も、実はみんな愛そのものだから、思い出して欲しいなって言うほうがぴったりくるかな…』
『うん、そうだね』
『俺らが光を送ることで、みんな思い出すよね?きっと』
『うん』
『それが、ミッションだもんね』
『うん…。これからもしていこう、昴くん』
『…ね?言ったでしょ?俺』
『え?』
『ひかりとこうやって、愛し合ってること、それはもう、ミッションなんだ。ひかりと一緒にしていくことなんだ。だから、俺ら、離れちゃ駄目なんだよ』
……。本当だ…。
二人でしていくミッションだから、この生で出会った。二人でしていくことだから、この地球には、半分に分かれてやってきたんだね。
『そうだよ』
『うん、そうだね…』
私たちは同化した。そのまま、宇宙船に飛んでいった。二人の光の人型になり、しばらく黙って、地球を見ていた。
「俺とひかり、いろんな苦しみや悲しみを味わったけど、でも、その代わり多くの愛を知ることが出来たよね…」
「うん。いっぱいね」
「今までの苦しみも、愛を知るためだった。無償の愛を…」
「愛の存在で在ることを思い出して、感動したかったのかな」
「うん…。自分ってなんだろうかって、それを思い出す旅だった。長く感じたけど、でも一瞬だった。いつも今しかなくて、今ここで起きていたこと…」
「うん」
「永遠にね…」
「地球に住むすべての存在、すべてが、愛…」
「うん」
「愛しいね」
「うん…」
地球を昴くんと、光で包んだ。どんな存在も愛しく感じられた。昴くんが愛しいのと一緒で、どの存在も愛しく、かけがえのない存在だってそう感じた。
そしてまた、体に戻ってきた。
「ひかり、明日の会見は、絶対に大丈夫だね?」
「うん。もう大丈夫。ずっと光を出すことが出来るよ」
「うん…。隣で俺も光を出すよ」
「二人で、地球を光で包もうね」
「うん…」
昴くんと愛をいっぱい感じながら、その日は眠りについた。
翌朝、早くに目を覚ました。私は顔を洗って、髪をきちんととかし、化粧もした。それから、着替えを父が持ってきてくれたので、着替えもして車椅子に座り、11時になるちょっと前に会場に向かった。
父と兄、昴くん、そして白河さんと一緒だった。昴くんは心でずっと、
『ひかり、大丈夫だよ。愛してるよ』
と言いながら、光を送ってくれていた。
会場の後ろには、漆原さん、流音さんも、葉月ちゃんと、悟くんもいてくれてて、光で私を包んでくれたり、会場に光を送ったりしていた。
記者会見が始まった。
「星野ひかりさん、車椅子ですが、まだ立ち上がることや歩行は、困難なんでしょうか?」
「はい。今日、これからリハビリがあります。少しずつ足を動かせるようにはなっているので、あとはリハビリをしていく予定です」
私は、光に包まれているからか、すごく穏やかな気持ちのまま、答えることができた。
「犯人の原田も回復に向かっているんですか?」
「はい。ひかりさんほどではありませんが、意識もはっきりとして、話すこともできます」
医師がそう答えた。
「原田はこの事件のことについて、どのようなことを言っているんでしょうか?」
「そのことに関しては、また、別の時に…」
司会がそう答えた。
「それよりも、星野ひかりさんに質問はありませんか?」
「はい!」
一人の記者が手を挙げた。
「長田建設の御曹司との婚約を破棄したと聞きましたが、今回の事件での後遺症が原因ですか?」
「いいえ。今回の事件の前から、婚約は破棄していました」
「え?どういうことですか?詳しく聞かせてもらえますか?」
「……」
私はちらりと父を見た。父は、
「ひかりの意思を尊重しました」
と静かに答えた。
「では、ひかりさんが、結婚を嫌がったと…」
「嫌がったと言うよりは、その…、私にはしたいこともありましたし、大事な人もいましたから」
私がそう答えると、
「大事な人?それはお付き合いをしている方がいるということですか?」
と他の記者が手を挙げて言った。
「はい。そうです」
私はきっぱりと答えた。
「その方と言うのは…。もしかすると、天宮昴さん?」
「はい。そうです」
もう一回私は、きっぱりと答えた。会場が一瞬、ざわついた。
「すみませんが、事件とは関係のないことですので、この件の質問は終了させていただきます」
司会がそう言ったが、
「関係ありますよ。天宮昴さんは、ずっとひかりさんのそばにいて、守っていると聞きましたが、お二人は恋人だってことですね。それでなんですね?」
「はい」
また、私はうなづいた。
「どこで、知り合ったんですか?」
…それは困った質問だ。
「そういったことは、関係ないことですから。他に質問は?」
司会の人は、助け舟をつねに出してくれる。それに光も出している。きっと、高い次元からきている仲間の人だ。
「では、犯人の原田、そして海藤玄について、ひかりさんはどのように思っていますか?」
他の記者が手を挙げて聞いてきた。
「恨みもありませんし、憎んでもいません…」
私はそう答えた。
「海藤玄が、警察に出頭したのはご存知ですか?」
「はい」
「自分の罪、過ちを認めたようですが、それについてはどのように思われますか?」
「良かったと思っています。お子さんたちが彼を説得して、気がつかれたと聞きました。お子さんたちは、本当にお父さんのことを愛していたんですよね…」
「警察にいろんな協力をしたり、情報を流していたのは、海藤玄のお子さんたちだったというのも、ご存知ですか?」
「はい」
「ひかりさんも警察に、協力していたというのは本当ですか?」
「はい」
「それで、自分の命が犠牲になるところでしたが、それはどう思われていますか?」
「多くの命が犠牲にならず、本当に良かったと思っています」
「ご自身が、死ぬところだったのかもしれないのにですか?」
「はい…」
「……」
一瞬、会場全体は静まり返った。
「でも、私の命のために、たくさんの人が動いてくれましたし、私は家族からものすごく愛されていたことも、それに昴くん…、あ、天宮昴さんからも大事に思われていたことも、友人からも大事に思われてたことを知り、自分の命の重みを感じました」
「…命の重みですか?」
「はい、私だけの命ではないとそう、痛切に感じました」
「と言いますと?」
「私の命は、多くの人に支えられ、守られ、生きてきたんだと実感したんです。だから、自分の命を粗末にしたり、軽々しく死を考えたりしてはいけないって、ものすごくそれを感じました」
「命の大切さですか?」
「はい…。今回のこの事件について、きっと多くの人がテレビの前でご覧になっていると思います。海藤玄さんも言ってたことだと思いますが、私も、地球は破滅などしないし、天が罰を与えることなんてないと思っています。それに、人が人の命を奪うことも、人が自分の命を絶つこともあってはならないと、そう思っています」
「……」
会場はまた、静まり返った。
「命って、ものすごく大事です。私たちの体も、命でできてます。命を食べて、生きてます。だから、自分だけの体でもないし、自分だけの命でもないんです。多くの命の結晶です。ものすごくそれは、大事にしなければならないものであって、尊重するべきものだと思います」
「……」
まだ、会場は静かだった。
「それと、私はものすごく愛を感じました」
「愛ですか?」
一人の記者が聞き返した。
「はい。愛です。家族からの愛、友人、それに、たくさんの人の…。自分は愛されているんだということを、感じました。それに、自分の死を身近に感じることで、私もまた、家族や周りの人をどれだけ大事に思ってて、愛していたかも知りました」
「それは、恋人の、天宮昴さんのこともですか?」
「もちろんです」
私は大きくうなづいた。
「彼がいなかったら…、こうやって生きてるかどうか…」
そう言うと、私の目から思わず涙がこぼれ落ちた。
「生きることを選択できたのは、彼のおかげです」
「生きることを選択と言いますと?」
「彼が、私のことを本当に大事に思ってくれて、それに応えたいと思いました」
「……」
会場はまた、静まり返った。
私と昴くんからは、ものすごい光が出ていた。それに悟くんたちの光も混ざりあい、会場全体はずっと、光で満たされていた。
みんなの顔は、穏やかだった。
「それで、体もどんどん回復しているんですか?」
ある記者がそう言った。その人からも、光が出ていた。あ、仲間かもしれない。
「はい。そうです。彼の愛のおかげです」
「愛の力ですね。海藤玄が今回、テロをやめたのも、子どもたちの愛の力でですね。愛が、ウイルスも、そして、テロも消し去ってしまったわけですね」
「はい」
「戦うのではなく、愛することで、みな、いい方向に流れて行った…ということですか?」
その人は、明らかに仲間だ。その人が話すたびに、すごい光が飛び出してくる。
「はい、おっしゃるとおりです。負のエネルギーに戦いを挑んでも、負のエネルギーが大きくなるばかりです。でも、愛のエネルギーは、負のエネルギーを消してしまうくらい、大きくすごい力を持っているんです…」
「愛のエネルギーと負のエネルギーですか?そんなものは目に見えないものです。どう解釈すればいいですかね?」
一人の記者が黒い霧を出しながらそう言った。その霧を消しながら、
「人を心から愛し、信じたらきっとわかります。目に見えなくても感じられます」
と私が言うと、その記者は黙りこんだ。
「私は、いっぱい愛を感じました。愛の力ってすごいです」
「人を許すこともできます」
昴くんがいきなり、話に加わってきた。
「俺、いや、僕は本当は、父の遺体が見つかった時、ひかりのお父さん、星野さんを恨みました。どう復讐してやろうかって思ってました。でも、ひかりに会って、愛されて、憎みや恨みからは何も生まれないことも、愛や許すことは、自分を救ってくれることも知りました。だから、今は本当に穏やかな気持ちなんです」
「本当にその通りだな…。私はひかりが死ぬかもしれないとわかった時、どれだけひかりの存在が大事かを知りました。ひかりを失う前に、気づけて本当に良かった。それまで、会社の存続のため、成功のためにだけ生きてきたが、それよりもずっと大事なものが、この世にはあることを知りましたよ」
父も、話し出した。
「天宮昴くんが、本当に私のことを許しているのがわかります。彼はすごいと思いますよ。それに、ひかりも…。自分でも不思議ですが、はじめ、原田や海藤玄のことを許せなかった…。それが許せた瞬間から、自分の中の苦しみが消えてしまった…。救われてしまったんです。これが愛の力なんですね」
父の声は穏やかだった。
会場全体は、不思議な空気に包まれていた。あったかくて、優しくて、穏やかで…。みんなの顔は優しかった。優しい目で話を聞いていた。
「愛は地球を救うという、そんな文句がありましたね…。まさに、そうかもしれない。戦ったり、封じ込めたり、権力でもって、制したりすることではない…。従わせたり、奪ったり、罰を下したり、裁くことでもなく、ただ愛すること…。これだけがもしかしたら、地球を、人類を、すべての命、存在を救うことができるのかもしれないですね…」
白河さんが、すごく穏やかに優しくそう話した。また、会場は静まり返った。
「質問がないようですから、記者会見は終了します」
司会がそう言うと、私の車椅子を昴くんが押してくれ、他のみんなと会場から去った。どこからか、拍手が聞こえた。記者からだった。驚いたことにそのあとも拍手は続き、なかなかなりやまなかった。
午後、病室に戻ると、どのチャンネルでも私の記者会見を映していた。「異例の記者会見」とキャスターは紹介していた。
「すごい、ひかり、有名人じゃん!」
「ええ?有名人になんてなりたくないよ」
昴くん、悟くん、葉月ちゃんとでテレビを観ながら、そんな話をしていた。
父と兄、母は、会見が終わると、私にリハビリ頑張ってねと言って、帰っていった。
「会場全体を見ていたけど、すごい光だったな…」
悟くんがそう言った。
「うん…、すごかったよね」
葉月ちゃんも、うなづいた。
「記者の中にも光を出してる人がいたの」
私が言うと、
「ああ、仲間だね。白河さんが記者の中にも仲間がいるって言ってたよ」
と悟くんが教えてくれた。
「司会の人も?」
「うん。今日の司会の人は仲間だ」
「すごい…。いろんなところに仲間がいるんだ」
昴くんが驚くと、
「目覚めてる人が本当に増えてるんだ。高い次元でいきなり目覚めて、この次元にサポートしに来ている仲間、本当に多いんだよ」
「へえ…」
私も昴くんも驚いていた。
「高い次元に戻ったら、2012年を待たなくても、アセンションしちゃってるんじゃないの?」
昴くんがそう言うと、
「そうかもな…。目覚めの連鎖、起きてると思うから、2012年までには完璧に地球の波動は上がってるだろうね」
悟くんは穏やかにそう言った。
「そうしたら俺ら、すべてのミッションクリア?」
「うん」
昴くんの質問に、悟くんはうなづいた。
「それから、私たちどうなるの?」
葉月ちゃんが聞くと、
「どうなるのかな?選択できるのかな?」
と悟くんが言った。
「え?どういうこと?」
私が聞くと、
「光になるのもよし、高い次元の星に移行するもよし、もといた星に戻るのもよし…。このまま、地球にいるもよし…。それとか、もっと低い次元の星に行って、またアセンションのサポートをするのもよし…」
「……」
悟くんの話に、私も昴くんも黙り込んだ。でも、心で会話をしていた。
『そっか…。選択肢はいくつもあるんだ…』
『それも宇宙に任せてみる?』
『ひかりはどうしたいの?』
『このまま地球にいて、昴くんと一緒にいたいな』
『本心からそう思ってる?感じてる?』
『当たり前じゃない』
『やっぱり?そうだよね、俺もそう思ってたから…。そういうのって、同じこと思うようになってるよね』
『昴くんもそう思うんだね?』
『それに、高い次元になった愛と光の地球に、住んでみたいと思わない?』
『思う…。それを今度は体験してみたい』
『だよね?』
『うん!』
「私と悟くんは、このまま地球で楽しみたいよね?」
葉月ちゃんがいきなりそう言った。
「うん、高い次元の地球も面白そうだし」
「あ、俺らも、今そう心で話していたところ」
「じゃ、2012年後も、よろしくってことで」
悟くんがそう言うと、
「でもまだ、2年もあるよ!」
と昴くんが笑った。
「あはは…。そうだな。気が早いか!」
悟くんが珍しく、大笑いをした。みんなで笑いあうと、きらきらした光が飛び出しダンスをした。
「ひかりさん、リハビリの時間です」
看護士さんが呼びに来た。
「あ、じゃ俺ら、もう帰るよ」
悟くんと葉月ちゃんが、そう言うと病室を出て行った。
「車椅子、俺が押していきます」
昴くんは、ひょいとまた私を抱えて車椅子に乗せてから、そう言った。
「はい。じゃお願いしますね」
看護士さんはにこりと微笑みながら、そう答えた。
「会見見ていましたよ…。素晴らしかったです。お二人は本当に信頼しあってるし、愛し合ってるんですね」
看護士さんの言葉に、私たちは照れてしまった。
『なんだよ、ひかり。そこで照れるなよ!』
『昴くんも照れているじゃないよ!』
『照れてないって…』
もう、いつもそうやって、認めないんだから…。
昴くんが見守る中、リハビリが始まった。昴くんからは、すごい光が飛び出てて私を包み込んでいた。それに、時々同化した。
『きついね…。相当痛い。ひかり、大丈夫?』
私と同化したとき、感じ取ったようだ。
『うん。大丈夫…』
そう答えた。
その日から、毎日リハビリをした。そのおかげで、杖をついて歩けるほどまで回復できた。
会見の模様はYouTubeでも流され、世界中の人が見た。そして各国の報道番組でも、「愛の記者会見」と紹介された。YouTubeのコメン欄には、私に対して励ましの言葉や、感動したという感想が書かれていた。
私の記者会見の画像からは、いつもものすごい光が飛び出ていて、それはきっと、世界中でこの会見を見ている人たちを、包み込んだだろう。
そうして、この次元も、どんどん高い次元へと移行していくんだろう…。