ミッション4 命の大事さを知る
私が目を覚ますと、昴くんも同時に目を覚ました。
「ひかり、どう?調子は」
「うん…。あ、もう声が出る…」
「でも、かすれてるね。すごいハスキーだ。そんな声もいいね」
「ええ…?」
『もう、昴くんたら…』
『医者か看護士さん、呼んでくる?』
『ううん。まだ、昴くんとこうしていたいな』
『夢の中でも抱き合ってたのに?』
『そ、そうだけど…』
その時、病室のドアをノックする音がした。
「漆原だけど、入っても大丈夫?」
「はい」
昴くんが答えてくれた。ガチャ…。ドアを開けて、漆原さんとその後ろから、父と兄が入ってきた。
「ひかり、漆原さんと白河さんから事情を聞いた」
「え?」
「父さんにはまだ、次元というものがよくわかっていないが、お前のことを助けるために、いろんな人が次元を超えてここに来たこと、そして、お前が人を助けるために犠牲になったこと、そんなことを聞いた」
「……」
「お前は、父さんが知ってるひかりじゃないのか?」
「ううん。私は、私…」
私は、もう混ざり合っていた。そしてすぐにこの次元の私になった。
「声、辛そうだな」
「でも、さっきよりは平気…」
「高い次元のお前が、この次元のお前を助けに来たと、白河さんから聞いた。そうなのか?」
「うん。私だけじゃない。高い次元の白河さんも、流音さんも、漆原さんも、そして昴くんも…」
「天宮昴…、君はこの次元の…」
「あ、今は違います。高い次元の俺です」
「君は、ひかりを助けに来たのか?」
「はい」
「そうか…。この次元の君なら、私のことを憎んでいるから、こんな穏やかじゃないだろうな」
「そんなことないです。この次元の俺は、もう星野さんのこと許しています」
「許す…?」
「はい、ひかりのおかげです。」
「ひかりのおかげだって?」
「ひかりが、ものすごい光でこの次元の俺を包んでくれて…」
「光で…か。それも白河さんから聞いたが…。ひかりの体が回復したのは、君が光で包んでいたからだと言っていた。そうなのか?」
「俺だけじゃないです。白河さんや、流音さん、それに悟さんも…。それから星野さんやひかりのお兄さん、お母さんも光を出していました」
「私がか?」
「ひかりが助かるよう、祈ってましたよね?あの時、すごい光が出ていました」
「そうか…。私からも光が出るのか…」
「はい」
「…私を許していると言ったね?」
「はい」
「そうか…。今回のことはどうだ?ひかりをこんな目にあわせた犯人や、海藤玄のことは…。私は腹が煮えくりかえっている」
「海藤玄に光を送ったのは、ひかりですよ」
「え?」
「海藤玄は、もう無差別殺人などしないでしょう」
昴くんの言葉に続き、私も口を開いた。
「お父さん…」
「なんだ?ひかり…」
「恨んだりしないで。恨んでも何も生まれないから」
「え?」
「私は、光で包み込むために来たの。昴くんのことも、海藤玄のことも…」
「…だが、ひかり、それで命を落としそうになったんだぞ」
「だけど、みんなが助けてくれた。守ってくれた」
「だが…」
「お父さん。恨むより、許す…。憎むより、愛する…。その方がずっと難しいかもしれないけど、でも、その方がずっと自分のためにも、みんなのためにもなるの」
「ああ、ひかり…。お前の言うことはわかってる。頭では理解できるが…」
「私、お父さんのことも大好き」
「私もだ、ひかり」
「私、その気持ち、誰にでも持っていたいんだ」
「……。ひかり、お前はすごいな…」
「ううん。お父さんだって私のこと、本当に愛してくれてるでしょう?」
「……」
父は黙ってうなづいた。
「それと同じ…。それをどんな人に対しても、同じ気持ちでいたい、それだけ…」
「そうか…」
父は黙って、しばらくうつむいていたが、
「わかった。お前がそう言うなら、恨むのも憎むのもやめよう。昴くん…」
父は昴くんの方を向き、
「ひかりのことを頼んだぞ」
と真剣な表情で言った。
「はい」
「私は、これから記者会見がある」
「記者会見?」
「今回のことが報道された。星野建設の娘の命が危ないということも…。犯人に対して、どう対処するかなど、いろんなことを聞かれている。それに対しての会見だ」
「……」
「心配するな。お前がテロを止めたことを話そう。たくさんの命を救ったことや、お前のことを助ける人たちがいたこと…。そして、犯人に対しての処置は何も、考えていないことも」
「お父さん…」
「お前の命が助かった、それだけでもう父さんは満足だ。それは、お前が家出をしたときも同じだった。お前の命がどれだけ大切か、お前の存在が父さんにとって、どれだけ大事だったか、それがわかったんだよ」
「すみません」
いきなり、昴くんがあやまった。
「え?」
「あ!いえ…。なんでもないです」
昴くんは慌てて、首を横に振った。
「もしかして、ひかりの家出に君も何か、関わっていたのか?」
「ずっと一緒にいてくれたの。それで、昴くんは守ってくれてた」
昴くんの変わりに、私が答えると、
「そうか…」
父はそれ以上何も言わなかった。
「じゃあ、父さんは行くよ。広輝は母さんのことを送っていった」
「お母さん、体大丈夫?」
「大丈夫だ…。お前は自分の体を回復させることだけ、考えなさい」
「うん」
「徹郎くんも、もう帰ったよ。ひかりのそばにずっと昴くんが寄り添って、ひかりが安心してるのを見て帰っていった。彼はどうやら、ひかりのことを好きだったようだがな…」
「え?」
私と昴くんは、同時に驚いた。
「いや、結婚のことは断った。彼もちゃんとそれを、わかってくれた」
「それで、会社は?」
「大丈夫だ。結婚とは関係なく合併する。安心しなさい。それじゃあ、ひかり、また夜にでも見に来るから」
「うん。ありがとう」
父は静かに病室を出て行った。
『ひかり、良かったね』
『うん』
『疲れた?』
『ううん、大丈夫…』
昴くんは、手を握って思い切り光を送ってくれた。手から昴くんのエネルギーが注ぎ込まれた。あったかかった。
「ひかり、記者会見の様子、見る?」
「え?」
「テレビ、どっかから借りてこようか?」
「うん。見たいな」
「待ってて」
昴くんはそう言うと、病室を出て行った。
この次元の父は本当に変わった。高い次元の父と同じような、穏やかさがあった。こうやって、どの次元の人も、だんだんと変わっていくんだな。愛の波動へと変わっていくんだ…。
「ひかり」
しばらくして、昴くんが戻ってきた。手には、片手で持てるくらいの大きさのテレビを持っていた。
「これ、小さいテレビ、白河さんが貸してくれた」
そう言って、昴くんはベッドの脇の小さなテーブルにテレビを置いた。
「葉月ちゃんと珠代ちゃんが、すごく心配してたみたい。ひかりもう、本当に良くなったって言ったら、安心して泣いてたよ」
葉月ちゃんと、珠代ちゃんが?
「ここに呼んでも大丈夫?」
「うん」
「じゃ、呼んでくる」
昴くんが病室を出ると、すぐに葉月ちゃんたちと戻ってきた。
「星野さん…」
葉月ちゃんは泣いていた。それから、珠代ちゃんも。
「良くなったって聞いて…」
「うん。もうだいぶ良くなったよ」
「良かった…」
「ありがとう。みんなが光で包んでくれたから…」
私も涙ぐんだ。そうしたら葉月ちゃんは、もっと泣き出してしまった。
「私、信じてました。絶対大丈夫って…」
「ありがとう…」
私も、泣いてしまった。昴くんが言うように、私は生きることを選択して本当に良かった。私の命をこんなにも、大事に思ってくれてる人がたくさんいるんだ。
『そうだよ、ひかり…』
昴くんも、涙ぐんでいた。
『昴くん、私ってすごい幸せなんだね』
『え?』
『だって、こんなにみんなに愛されてる』
『ひかりはいつだって、愛されてるよ?』
『そうだね』
『それに、ひかりはいつだって、みんなのことを愛してるでしょ?』
『うん。だって、それが宇宙そのものだから』
『うん』
「ひかりさん、昴。会見始まったようだよ」
悟くんも病室にやってきて、そう言った。
「え?早くつけなくちゃ…」
昴くんは慌てて、テレビをつけた。父が、記者に囲まれ、座っていた。その横には、白河さん、それから私のことを診てくれていた医師もいた。そして、兄も父のすぐそばにいた。
「星野さん、まず娘さんの容態を教えてもらえますか?」
「それは私の方から、説明します」
医師が話し出した。ウイルスは感染力が弱いこと。空気中では生きられないこと。それから、私と原田さんはもう抗生剤を打ち、安定してきたということ。
「今回のテロの犯人は、やはり海藤玄の教団員ですか?」
それに対しては、白河さんが説明をした。
「ホテルに警察も潜入し、捜査していたと伺いましたが…」
「テロの予定は、1月3日でした。ところが計画を断念し、原田氏が自害をする覚悟でエレベーター内で散布して、そのエレベーターに乗り合わせた星野ひかりさんが、ウイルスに感染しました」
白河さんが説明をした。
「星野さん、娘さんは今日ホテルに泊まっていたと言うことですが…。たまたまホテルに泊まっていて、このような目にあわれて、今の心境は?」
「……」
父はしばらく黙っていた。
「星野さん。コメントをお願いできますか?」
「大事な妹を、こんなめに合わせられたんです。父も、そりゃ言葉に出来ないくらいの思いを抱えていますよ」
兄が横からそう言った。だが、父はとても穏やかな表情で、マイクに向かって話し出した。
「さきほど、ひかりに会いました。すっかり体の方も良くなってきているようです」
写真がいっせいに撮られ、画面がフラッシュで光っていた。
「ひかりは、確かに犠牲になりましたが、でも、多くの人の命を救ったことになります。最初の計画通りにテロが起きていたら、きっともっと多くの犠牲が出ていたと思いますから」
父は、本当に穏やかに話していた。横で兄が、驚いていたが…。
「私は…、犯人を恨みましたし、教団も憎みました。でも、ひかりはまったく憎んでも恨んでもいませんでした。そんなことをしても何も始まらないと、そう言われました」
「ひかりさんがそう、おっしゃったんですか?」
一人の記者が、手を挙げたと同時にそう発言した。
「そうです。ひかりがです。ひかりは、憎むことよりも愛すること、恨むことよりも許すことの方が、難しいけれども、その方が、自分のためにも多くの人のためにもなると、そう言いました」
「……」
みんな、黙って静かに聞いていた。
「頭では理解できます。でも、そんなの理想でしかないとも思いました。ですが…」
しばらく、また父は黙り込んだ。
「星野さん。天宮建設の社長の自殺をどう思いますか?」
一人の記者が手を挙げずに、そう発言した。
「発言するときには、手を挙げていただけますか?」
司会がそう言うと、
「はい!」
ある記者が手を挙げた。
「はい。どうぞ」
指されて、その記者が質問を始めた。
「天宮建設の社長は、あなたが死に追い込んだと、天宮建設の社員が言っていますが…。あなたも結局は、恨まれるようなことをなさっていたんですよね?」
「それは、今の事件と関係ないことです」
兄がそう言ったが、記者は、
「星野さん。質問に答えてくれますか?」
と、兄のことはまったく無視をしていた。
「天宮社長の家族には、申し訳ないことをしたと思っています」
「では、死に追い込んだ…、そのことを認めるんですね」
「それは今回のテロとは、無関係ですよ」
白河さんも、大きな声でそう言ったが、
「天宮昴くんという、天宮建設の社長の息子さんに会いました」
と父は、話し出した。
「星野さん?」
白河さんが、少し動揺している。
「彼は今、ひかりのそばにいます」
「え?」
会場全体が、驚いていた。
「彼が、私に言いましたよ。私のことはもう恨んでいないし、許したと…」
「……」
会場が、ざわめきたった。
「彼の表情は穏やかでした。目も純粋で…。本心を言ってるのがわかりました。彼は、ひかりのことを守ってくれ、救ってくれました」
まだ、会場はざわついていた。
「だけど、彼は憎き敵の娘の星野ひかりを、どうして守ったり救ったりしたんですか?」
ある記者がそう聞いたが、
「話をテロの方に、戻しませんか?」
と白河さんが中断させた。
「しかし、さっきからつじつまの合わないことばかり言ってますよ」
その記者は、引き下がらなかった。
「ひかりも、彼も、どんな命も大切だとそう言っています。私も、ひかりの命が危ないとわかったとき、本気でひかりの命の尊さを感じました。それはどんな親だろうと、きっと感じることです。原田という男にも、両親がいるかもしれない。その両親にとっては、大事な命ですよ」
「人殺しですよ?」
「そうです。でも、命です」
父は、ひるまなかった。
「では、原田氏や海藤玄氏のことを、星野社長は訴えるつもりはないと?」
「警察に任せますよ」
「しかし、大事な娘さんの命をですね」
記者はまた、反論してきて、ひるむ様子はなかった。
「それよりも、天宮昴くんにも話が聞きたいですね。本当は星野ひかりさんの話も、じかに聞きたい。状況や、今の体の状態や…。それは可能ですか?」
他の記者がそう言うと、
「まだ病室から出るのは無理ですね」
と、医師は固い表情でそう述べた。
「では、いつか可能ですか?」
と記者が聞いた。
「ひかりをこんな場に、出させるつもりはないですよ。話でしたら、私がしましょう」
父は、断固として譲らないという態度で、そう言った。
『ひかり、俺、行ってくるよ』
『え?』
昴くんはテレビを見ながら、心で話しかけてきた。
『そうしたら、記者も納得するだろ?』
『でも』
『大丈夫。この会見、病院の一階でやってるんだ。すぐに行けるから』
『うん…』
昴くんは、すぐに病室を出て行った。
「昴くん、どこに行ったの?」
葉月ちゃんが聞いてきた。
「記者会見の会場」
「え?」
葉月ちゃんも珠代ちゃんも驚いていたが、悟くんは冷静だった。
「昴なら、大丈夫だよ」
悟くんは、葉月ちゃんと珠代ちゃんにそう言った。
しばらくテレビを観ていると、白河さんと記者のやり取りが行なわれていた。そこに、いきなり昴くんが現れ、白河さんは驚いていた。
「昴くん?」
父も驚いていた。
「あ、すみません。テレビ観てて、俺、いえ僕も行った方がいいかと思いまして…」
「誰ですか?」
一人の記者が、手を挙げて聞いた。
「僕は、天宮昴です」
会場がまた、ざわめきたった。
「天宮建設の社長の息子さんですよ」
父が、穏やかにそう言った。
「あの…、さっき、星野さんが言ってたこと、本当です。僕はもう、父のことで恨んでもいないし、憎んでもいません」
「……」
いきなり昴くんがそう言い出したので、記者の人たちはあっけにとられていた。
「それに、僕がひかりさんのそばにいて、ひかりさんのことを守っていたのも事実です。ひかりさんは僕にとって、大事な存在ですから」
「え?どういうことですか?」
一人の記者が手を挙げながら聞いた。
「ひかりさんは、俺が、あ、いえ、僕が、星野さんのことを許せるように、サポートしてくれました」
「サポート?」
何人かの記者が、聞き返した。
「憎んだり、恨むよりも大事なことがあるということ、恨みは自分自身を苦しめるだけだということ、それを教えてくれました」
「……」
みんな黙っていた。
「ひかりは…、本当に誰であろうと大事に思い、愛することが出来る、そんな心の広い人です。だから、今回の事件も、原田氏のことも海藤玄のことも、許しています」
『昴くん、それは昴くんもなのに…』
そう心で言ったが、何も返事はなかった。昴くんは緊張もしていたし、すごくその場に集中しているようだった。
「ひかりは、今、まだ完全に回復したわけではないんです。話すことがやっとできるようになりました。でも、体を起こすことも、もちろん立ち上がることもまだできません」
「何か、後遺症が残るようなこともありえるんですか?」
「それはまだ、わかりません。でも徐々に回復はしています。ただ、今は絶対に安静が必要です。もし、会見をしてもいいと彼女が思うなら、彼女の体が、本当に回復するまで待ってください」
「昴くん、ひかりが会見をだと?」
『うん、いいよ。出来るようになったらしてもいいよ』
私がそう言うと、昴くんにそれは聞こえていたようだ。
「はい、してもいいって言ってます」
昴くんはすごく小声で、父にそう言った。昴くんはまた、記者の方を向いた。そうすると、ものすごい光を放った。白河さんもそれを見て、すぐに光を放ち、会場全体が光で包まれた。
「では、ひかりさんが回復をしたら、もう一回記者会見をするということで、今回はこれでお開きにさせていただきます」
司会を担当していた人がそう言った。また会場がざわめいた。
「まだ、質問があったのに…」
と記者が言ったが、まず白河さんがさっさと立ち上がった。それから昴くんの肩にぽんと手を置き、白河さんは昴くんに何か、耳打ちした。そして、さっさと会場から、父も兄も昴くんも姿を消した。
10分もしないうちに、昴くんは病室に戻ってきた。みんな昴くんが戻ってきたので、ほっとした。
「昴くん」
「ひかり、テレビ観てた?」
「うん」
「会見、本当に平気だった?俺、勝手なこと言っちゃったかなって、あとから思ったけど」
「うん、大丈夫」
「そのときには、俺もいるからね」
「うん。ね…、最後、白河さん、なんて昴くんに耳打ちしたの?」
「ああ…。来てくれて助かったって」
「そうなんだ…」
「はあ…。緊張した。どうも記者会見とか、ああいう記者に囲まれるのは苦手…。あ、あれだ。ひかりと写真撮られて、囲まれてからのこれ、トラウマかな」
「でも、光を思い切り出してたね」
「うん。記者のみんなが、黒い霧を出してたから。あれはなんだろうな、疑いの黒い霧かな?」
「記者会見の場では、いつもあんなだよ」
悟くんはずっと黙っていたが、そう昴くんに話しかけた。
「そうなんだ…」
昴くんは悟くんの方を見た。
「昴くん、いきなり記者会見に出ちゃうから、びっくりしちゃったよ」
葉月ちゃんが、ちょっと笑ってそう言うと、昴くんは今度は葉月ちゃんの方を向き答えた。
「ああ…。うん。なんか、いてもたってもいられなくなって…。星野さん、困っていたから」
「でも…、昴くんのお父さんの敵なのに、よく行けたよね?」
珠代ちゃんが昴くんに聞いた。
「こっちの次元じゃそうだけど、高い次元では、俺、ひかりの家で一緒にご飯食べたりしたんだよ。すごくあったかい優しい人でさ…。ね?ひかり」
昴くんは珠代ちゃんに笑顔でそう答え、私に向かって聞いてきた。
「うん。父も母も兄も、すぐに昴くんと打ち解けてたよね」
「この次元でだって、そうなれるって思うよ。ひかり、この次元でお父さんに光を送って、闇のエネルギー浄化したよね?」
「うん」
「あれでもう、ひかりのお父さん、かなり波動あがってると思う」
「そうだな…」
悟くんが静かにうなづいた。
「これから、海藤玄や夏樹くんたち、どうなるのかな?」
葉月ちゃんがそう言うと、悟くんがそれに答えた。
「心配はしなくてもいいよ。警察に捕まるようなことになるかもしれないけど、ちゃんと全部がうまくいくようになってるから」
「うん。そうだよね。ね、悟くん、この次元でのミッションは、もうすぐ終わるのかな?」
「どうだろうね?」
と、悟くんが少し首をかしげて答えた。
「今日って元旦なのよね。なんだか、そんな気がしない」
そう珠代ちゃんが言った。
「珠代さんは、家、平気なの?帰らないでも」
と葉月ちゃんが聞いた。
「こっちの次元の私は、ほとんど家に帰ってないみたいで…」
「え?じゃあ、いつもどこに?」
「昴くんちとか…」
「え?!」
ちょっと葉月ちゃんが驚くと、
「この次元じゃ、恋人同士だったんだもんな~」
と悟くんがつぶやいた。
「あれ?そういえば、陽平くんは?」
葉月ちゃんが聞くと、
「一回家に帰ってから、また来るって。お母さんがテロもあって、心配して電話してきたんだ。顔見せにいって、安心させるからって言ってた」
珠代ちゃんがそう答えた。
「葉月ちゃんは、大丈夫なの?」
私が聞くと、葉月ちゃんはにっこりと笑った。
「うん。こっちの次元でも、旅行に行くって親には言ってあるから」
さすが、いつも葉月ちゃんはぬかりない…。
「昴、お前お母さんに連絡した方がいいぞ。さっきの記者会見を見たかもしれないけどさ、きっと心配してる」
「え?ああ…。うん。ちょっと電話してくる」
昴くんは少し慌ててそう言うと、病室を出て行った。
「悟くんは?」
「俺?もう親もまったく干渉してこない。どの次元でも一人で気楽に暮らしてるし」
「そうなんだ…」
「ひかりさん、だいぶ調子よくなってきたみたいだね?」
悟くんにそう言われて、
「うん。喉の痛みも消えたし、すごい早さで回復してるみたい」
と答えた。本当に自分でも驚くほど、元気になっていた。
「会見、その分なら早くにできそうだね」
悟くんは、ちょっと微笑みながらそう言った。
「うん…。それが済んだら、この次元でのミッションもクリアかな?」
「体がしっかりと回復したら…かな。どっちにしろ、7日までみんな、この次元にいられるんだし、ゆっくりしたらいいよ」
「うん、ありがとう。悟くん」
ガチャ…。昴くんが戻ってきた。
「どうだった?お母さん」
悟くんが聞いた。
「思い切り、泣かれました。俺が、この事件に関わってるんじゃないかとか、俺がひかりのこと、殺そうとしてた張本人じゃないかとか、もう、そんな悪いことばっかり思ってたらしくて」
「まあ、半分は当たってるけどな~」
「あ。そういえば、そうっすね。なんか、忘れてたけど、俺が誘拐したんだもんな…」
「昴くん?」
低い次元の昴くんになってる。お母さんと話すのに、エネルギー下げたのかな。
「え?下がってた?」
「うん、今…」
「あ。もう戻ったから」
昴くんはにこって笑った。
「よく、星野社長を許せたね。きっとお父さんも天国で喜んでるって、泣いてた…。おふくろも姉さんも、もう、星野社長のこと恨んでないってさ。俺が復讐しようとしてるんじゃないかとか、俺まで死んだんじゃないかとか、気が気じゃなかったみたいで、もう、恨みも何も消えちゃったって。とにかく俺が、無事ですんごい安心したって、もう大泣き…」
「そりゃ、そうだよね…。私のお父さんだって、命が無事だっただけでも、本当に良かったって泣いてたし…」
「命か…」
悟くんがそうつぶやくと、その場にいる全員がしばらく、黙り込んだ。
「俺ら、体は死んでも、魂は死なないよね…」
昴くんがぽつりと言った。
「でもさ、死ぬってどんななのか…。いや、生きるってどういうことかの方かな?死と生があって、初めて生きること体験できるのかなってそう思った」
「うん、それが知りたかったのかもな…」
悟くんが答えた。
「俺、この次元の親父が自殺して、すごく苦しかった。自分から命を絶つなんて、やっぱりしちゃいけないことなんだって、本当にそう感じたよ」
みんな、うなづいた。
「ひかりが死ぬかもしれないってときも、体がなくなったって、ひかりはすぐそばにいる。それどころか俺と魂一緒になっちゃうかもしれないって、それもわかってるんだけど、ひかりが死ぬのは嫌だった。理屈じゃないんだ。悲しくて、ひかりのこともっと、感じていたいって思ってて…」
「私は、昴くんのそんな思いや、お父さんやお母さんの思い、それに、みんなが必死で助けてくれた、そういうのをじかに感じて、自分だけの命じゃないって、すごく感じたんだ」
私がそう言うと、葉月ちゃんと珠代ちゃんは涙ぐんだ。
「私だって、ひかりさんに生きてて欲しかったです…」
葉月ちゃんは、泣くのをこらえながらそう言った。
「ありがとう。私一人の命じゃないよね…」
「うん…」
昴くんも、目を真っ赤にさせていた。
「それにさ、俺らの体って、多くの命でできてるしさ」
悟くんが、ふいにそんなことを言いだした。
「多くの命…」
昴くんがそのまま、繰り返した。
「肉も、魚も、米も野菜も、全部命だよ。それを食べて俺らは生きてるんだ。それらの命が、俺らの細胞になってる。だから命の結合体って言ってもいいかもしれない」
「そうだね…」
葉月ちゃんがうなづいた。
「それ、すごいね…。それに酸素や水や、俺ら、いろんなもののおかげで生きてるんだな…」
昴くんも、感動しながらそう言った。
「うん。全部、つながってる。俺らの命は俺らのものじゃない。全部のものなんだ。だから、命を粗末にしちゃいけないって思うし、もっと大事にしなくちゃいけないって、本当に最近思うよ」
悟くんが、こんな話をするのはめずらしかった。
「それにさ、ひかりがウイルスでやられてたとき、俺も、体おかしくなったじゃん。あれで思ったんだ。俺の体、俺だけのものじゃないし、俺が体調崩すと、同じ魂のひかりにもすごい影響出ちゃうんだなって…。だから、もっと自分の体いたわって、大事にしなくちゃいけないなってさ」
「ひかりさんにだけじゃない。色んな次元のお前にも影響出るだろうし、いや、みんなつながっているんだから、すべての命にも影響出るのかもな…」
「え?」
「だって、全部で一つの命だろ?」
悟くんが昴くんにそう言うと、
「あ。そうか。そうだよね…」
と昴くんもうなづいた。
「じゃあ、これからは、自分の命もすべての命も大事にするように、みんななっていくんじゃないかな?」
昴くんがそう言うと、みんなうなづいた。
「大事にしなくちゃね。それに命に感謝だね。そのおかげで、俺ら生きてるんだから」
悟くんの言葉が、身にしみた。私は、自分の命が消えたとしてもいいって、そんなふうにどこかで思っていた。でも、ちゃんと「生きる」ってこと、しっかりと考えなくちゃいけなかったんだな…。
『うん。それ、俺も思ったよ…』
『昴くんも?』
「俺さ、この次元に来て、思い切り生きるってことを考えさせられたよ。死ってものを身近に感じて、生きるってことがどれだけ素晴らしく、どれだけ大事かってさ…」
昴くんの言葉に私はうなづきながら、
「それに、すべての命がどれだけ、大事かも…ね?」
と付け加えた。
「本当だね…」
葉月ちゃんは深くうなづいた。その横で、珠代ちゃんは泣いていた。
「珠代ちゃん?」
私がびっくりして聞くと、
「こっちの次元の私が、泣いてるんです…。ひかりさんの命を大事にしようとしなかったこととか、自分のことも、全然大事にしていなかったこととか…。いろんなことを感じて、泣いてる…」
「そっか…。いろんな大事なことに気づけたんだよね。良かった」
昴くんが優しく微笑んだ。
「俺ら、ミッションを遂行しながら、本当にいろんなことを学んでるよね」
悟くんがぼそってそう言うと、
「え?高い次元の星から来てる悟さんでも、まだ学ぶことあるの?」
と昴くんが驚いていた。
「あるよ。そりゃあ、いろんなことを体験するために、この地球にいるんだしさ」
「そっか…」
昴くんはまだ、驚いた顔をしていた。
「こういうこと、元の次元に戻ったら、俺、ブログやインタビューとかで、言っていこうって思うんだ」
昴くんが、みんなに話しだした。
「そういうのも、ミッションの一つのような気がする」
「うん。私も、小説の中で書いていくよ」
私が言うと、悟くんも、
「俺もブログでも、書いてみるかな」
と、ぼそってつぶやいた。
「まだ、もとの次元に戻ってもやることはたくさんあるね」
昴くんは悟くんを見ながら、にこって笑いながらそう言うと、
「まだまだ、ミッションは続くだろうね」
と悟くんもにこって笑った。