ミッション1 感情を共有する
本屋でアルバイトをしていると、いろんな本に出あえる。私は最近、スピリチュアルの本を、何冊も購入し読んでいる。もしかしたら、私と似たような体験をしている人はいないのか。そんな本はないのか…。
「神との対話」これも、とても興味深い本だった。でも、幽体離脱や、光と同化した、宇宙船に行っちゃったなんて本はなかなか、なかった。
インターネットでもあれこれ、調べてみた。
いろんなブログも読んだ中、「小さな宇宙人アミ」という本を知り、それもすぐに購入して読んでみた。これは、宇宙船に乗ってやっきた宇宙人との遭遇を書いた本で、私の体験とは、ずれているものの、興味深いものだった。
そんなスピリチュアル系ばかりを買っていたので、一緒にバイトをしている女の子が、話しかけてきた。今までは、ほとんど話をしたことのない子だったが…。
その日は、そのバイトの子、神野葉月ちゃんと仕事があがる時間が一緒で、更衣室で話しかけられた。
「星野さんは、スピリチュアルに興味あるんですか?」
一瞬、びくってした。何?興味持っちゃいけない?みたいな…。
「私も大好きなんです。でも、そういうのを話せる相手がいなくて…」
「え?」
「ちょっと話したら、ドン引きされて…。あ、オーラの泉とか、霊の話とか、守護霊とか、そういうのは、みんな好きなんですよね。でも、宇宙とか、そんな話をしだすと、宗教じゃないかって引かれちゃうんです」
「宇宙?」
「バシャールって知ってます?宇宙人の…」
「う、宇宙人?」
「あれ?興味ないですか?」
「ううん。けっこう興味ある」
「このあと、時間ありますか?もし良かったら夕飯一緒に…」
「いいよ」
二人で本屋を出て、そのビルの地下にあるレストラン街に行った。
ご飯を食べながら、葉月ちゃんは、話し出した。葉月ちゃんは、まだ19歳。あ、昴くんと同じ年か…。とてもまじめそうな、女の子だ。
「なかなか、こういう話が出来る人、いなかったんですよ。友達でもいなくって」
「じゃ、なんで、スピリチュアルが好きになったの?」
「実は変な体験をしちゃって…」
「変な?どんな体験?」
「UFOを見たことがあって…」
「UFOを?」
「その時、すごい光がそのUFOから出てて、それに包まれて…」
「それで?」
「怖くて、走って逃げました」
「…」
「それから、ちょっとずつ変なことが起き出して」
「どんな?」
「声が聞こえたり…」
「声?どんな?」
「なんか自分の中から。それで、いろんなスピリチュアルのセッションを受けたりし始めて」
「うん。それで?」
「それは、チャネリングだって…」
「チャ…?」
「多分、宇宙人とチャネリングできてるんだって…」
「?????ご、ごめん。葉月ちゃん、ちょっと理解不能。う、宇宙人と?宇宙人って?だれ?」
「バシャールとチャネリングしている人は、バシャールの過去生なんだって。だから、私にアクセスしてきた宇宙人は、私の未来からなんじゃないかって、そんなことをこの前言われました」
「……」
「やっぱり、星野さんもこんな話、受け入れられないですか?」
「ううん。そんなことない」
いやいや、受け入れられないどころか、思い切り興味がある。
「ところで…、そういうチャネリングをできる人が、他にもいるの?」
「はい。私のことを見てくれた人も、宇宙人とチャネリングできる人です」
「その、宇宙人もその人の、未来の…?」
「いえ、未来じゃなくて、過去生って言ってました。プレアデス人で、地球を助けるために来てるとか…」
「ええ?地球を?」
「はい。2012年のアセンションのために」
「アセンションって?」
「次元上昇です」
「次元上昇って?」
「つまり…、3次元から4次元、5次元に地球が変わる…」
「…!それか!」
「え?」
「あ、なんでもない。その…、もとプレアデス人だったって人に会ってみたいな」
「はい。いつでも連絡取れますよ。星野さんもリーディングしてもらいますか?過去生だったり、これから先のことだったり、見てもらえますよ」
「う~ん…、見てもらうより、話がしたいな」
「じゃ、来週の水曜の夜、バイト終わってからどうですか?私がリーディングしてもらう日です。一緒に来ませんか?」
「ほんと?じゃ、一緒に行こうかな」
「はい」
ご飯を食べ終わり、コーヒーをゆっくりと飲んでいると、メールが入った。
私が、ぱっと携帯を開けると、
「あ!待ちうけ、彼氏さんですか?」
と葉月ちゃんが、聞いてきた。
「え?ううん。違う違う」
「でも、男の人っぽかった」
「これは…。私が好きな俳優さんだよ」
「ええ?誰ですか?」
昴くんだとは恥ずかしくて、見せるかどうかちょっと悩んだけど、まあ、いいかって見せてみた。
「昴くんだ~~。私も好きです!かっこいいですよね。今、舞台してるの知ってますか?私、今度観に行くんです」
「私も観にいったよ。この前」
「本当ですか?どうでしたか?」
「うん。すごく良かったよ」
「昴くんはかっこよかったですか?」
「うん、かっこよかった」
「楽しみです。でも、星野さんが、昴くんのファンだってびっくりですよ~~」
「う~~ん、この年でなんだか恥ずかしいよね。友達が悟くんのファンで、影響されちゃって」
「私、悟くんも好きです。かっこいいですよね。二人が出てるお芝居だから絶対に行かなくちゃって、友達とチケット取って。すごくいい席取れたんです」
「どこどこ?」
「前から4番目です」
「わあ。すごい。私は、ほとんど後ろから数えた方が、早いくらい後ろだったから。オペラグラスで見てたんだ」
「そうなんですか?前から4番目なら、オペラグラスいらないですよね」
「うん。いらないよ~~。わあ、いいな。もう一回見に行きたいな」
もう一回、昴くんの美しい歌声も聞きたいし、かっこいいサムライ姿も見たい。
「当日券もあるの知ってました?」
私が目を輝かせてたのか、葉月ちゃんはそう教えてくれた。
「え?そうなの?」
「行きませんか?開演の1時間前に、整理券が配られるそうですよ」
「いいな~~。いつなの?」
「あさってです」
「あ~~!私バイト休みの日だ。行こうかな~~」
「行きましょうよ。もしかしたらいい席が取れるかもしれないし」
「そうなの?うん、じゃ、行っちゃおうかな」
私たちは、二日後、劇場の前で会う約束をして、その日は別れた。
最近は昴くんと話をしていなかった。いつ、話しかけていいかがわからなかった。
ただ、夢では毎日のように会っていた。会っていたっていう言い方は変かな。ただ、昴くんが、いる。昴くんのエネルギーを感じる…そんな感じだった。
二日後、葉月ちゃんと劇場の前で会った。葉月ちゃんのお友達も、葉月ちゃんのようにまじめそうな女の子だった。
私のことを紹介してくれて、私たちはそのまま、当日券の売り場に行き、だいぶ早い時間に行ったので、1番目に並ぶことが出来、整理番号1番だった。
整理番号をもらうまでも、葉月ちゃんとそのお友達の、真知子ちゃんは一緒にいてくれて、あれこれ昴くんの話で盛り上がっていた。
映画も二人は観に行ったらしい。葉月ちゃんは昨年のサイン会で、昴くんに会ってから、こんなに綺麗でかっこいい人が、この世にいるのかって感激して、それ以来のファンだって言ってた。
それも、その時の昴くんは、一人一人に声をかけ、優しくて、手伝った本屋の店員やバイトの子にまで、お礼を言っていたらしく、それにも感動したらしい。
そうか~~~。聞いていて、私まで嬉しくなった。その時、真知子ちゃんも、サイン会に来て、ますますファンになったとか…。
いいな~~。サイン会…って、そうか。別にサイン会がなくても、会おうと思えば会えるのか。ん?本当に会おうと思えば、会えるのかな?
いや、今日会えるじゃないか。そばで会えなくても、しっかりと昴くんのエネルギーは感じられる。それが嬉しい。
整理番号をもらい、3人で、劇場の近くにあるカフェでお茶をした。すっかり昴くんトークで、私たちは仲良くなっていた。
真知子ちゃんは、スピリチュアルでも、オーラの泉のような、守護霊の話は大好きなようで、そんな話でも盛り上がった。でも、葉月ちゃんは、宇宙人の話はいっさいしなかった。
私は、自分の体験を葉月ちゃんにも、美里にもしていなかった。どう話していいか、まだ、自分の中で整理がついていないのもあるが、なんだか話したくないっていうのもあった。
開演前、15分となり私たちは移動した。整理番号とチケットを交換すると、なんと前から5列目。それも、葉月ちゃんの真後ろの席だった。
「すごいですね~~」
と、葉月ちゃんも喜んでくれて、私も大喜びした。
昴くんには、今日くることを話していない。でも、どこかで感づいているかもしれない。なんて思いながら、席に着いた。
葉月ちゃんと真知子ちゃんは、二人とも始まるまでパンフレットをじっくりと見ているようだった。
私は、目を閉じた。そして、昴くんのエネルギーを感じてみた。それはすぐに感じ取れた。一瞬、同化した。緊張が走り心臓がどきどきしている。あ、昴くん、緊張してるんだと思った瞬間、自分の体に帰ってきた。
開演のブザーが鳴り、幕が開き、昴くんが登場した。ほんの数分ですぐにはける。そしてまた、登場して、その時には、ステージの前の方まで来て演技をした。
前に座っている葉月ちゃんが、身を乗り出して見ていた。きっと、うっとりとしながら、見ているんだろうな。
私も、今日はオペラグラスなしに見ても、昴くんの顔も表情もすべてがわかるくらい間近で、ドキドキしながら見ていた。
なんて、綺麗なんだろう。動作も、踊りも、すべてが…。
前半を終了して、15分の休憩に入った。葉月ちゃんがくるりと後ろを向き、
「かっこよかったですね~~。こんなに前で、昴くんがはっきりと見えて、感動です」
と、目をとろんとさせて言った。
「うん。そうだね~~」
ってにこやかに答えた次の瞬間、声が聞こえた。
『ひかりさん、来てたんですか?客席見たらいるから、驚きました』
『うん。当日券で観に来た』
『来るなら来るって、言ってくれたら良かったのに』
『来るってわからなかった?』
『そこまでは、わからないですよ。あ、本番前に同化してましたか?』
『うん、ほんの数秒。すごい緊張してたね』
『やっぱり、ひかりさんのエネルギーに包まれたから、そうかなって。あれで、一気に気持ちが落ち着きました』
『そうだったの?』
『ひかりさんが、遠くから俺にエネルギーを送ってくれたかと思ったら、こんなに近くにいたからびっくりしましたよ~~』
『後半も、頑張ってね』
『はい!ありがとうございます』
それから、昴くんの声がしなくなった。
前を見ると、二人ともいなくて、どうやらトイレに行ってるらしかった。二人が戻ってきてすぐに、開演のブザーがなり、後半が始まった。
後半は、涙、涙。昴くんも舞台の上で、泣いていた。そしてラストの、昴くんの歌。また、光に会場が包まれていた。
一瞬、私はまた、昴くんと同化した。昴くんの体中が愛で満たされていて、感動の渦がそこにはあった。あまりにものすごい感動で、私は昴くんと一緒に泣いていた。
心の奥からどんどん愛が、溢れ出てくるのを感じた。それが体からどんどん広がり、会場を超え、空に、天に、宇宙へと流れ出していくのを感じた。
地球が見えた。地球がその光で覆われているのも見えた。感動だった。昴くんと同化して、そんな感動をしばし味わった。
自分の体に戻ったときには、もう、アンコールの声がまわりから聞こえていた。
幕があがり、役者さんが並んでお辞儀をして、昴くんが話し出した。昴くんは、感極まって泣き出してしまい、隣の役者さんが、昴くんの背中をぽんぽんってしていた。
昴くんは、私の方を見て目を細め、
『ありがとう、ひかりさん』
と、心で話しかけてきた。そして、会場全体に手を振り、また深くお辞儀をし幕が下りた。
感動して、しばらく呆然としていた。それは、前に座っていた真知子ちゃんや、葉月ちゃんも同じだった。
人が減っていく中、葉月ちゃんと真知子ちゃんは、アンケートを必死で書いていた。感想を書く欄に二人ともぎっしりと書き込み、夢中になっていた。
私は後ろで、その二人を見ながら、ぼ~~ってした。昴くんのエネルギーがそこら中にあり、それをずっと感じ取っていた。
歌のときの、あのすごい光…。昴くんから発せられていたあのエネルギー、すごかったな…。それに、どうして、地球が見えちゃったんだろうか。一瞬、あの宇宙船に魂が行ってたのかな。そうかもしれないな…。
ぼ~ってしていると、また係りの人に、追い出されるはめになった。
「廊下に椅子があったから、そこで、続きを書けば?」
そう言うと、二人はアンケート用紙を持ち、廊下に移動した。すごいな…。用紙の裏まで、書いている。
廊下で3人で座っていると、辺りに人がまったくいなくなった。
だいぶたってから、
「すみません。書き終わったから、行きますか?」
と葉月ちゃんが言った。
「うん」
3人で、アンケート用紙を出そうと、出口付近に行くと、そこから少し離れたところに、スタッフらしき人と一緒にいる悟くんがいた。
「あ!」
それを、目ざとく葉月ちゃんが、見つけた。
「握手してもらいに行きますか?」
「え?でも、大丈夫かな?」
「行きましょうよ~~」
葉月ちゃんと、真知子ちゃんに連れられ、悟くんのすぐそばまで行った。すると、スタッフの人に、声をかけられてしまった。
「君たち、出口は向こうだよ」
でも、葉月ちゃんは、
「アンケート書いたんです。悟くんのこともたくさん。ぜひ読んで欲しくて」
と言って、悟くんに手渡していた。
「ああ。ありがとう」
悟くんがそう言って、アンケート用紙を受け取った。でも、ちょっと愛想がない感じ。その時、
「悟さん!早く来ないと、差し入れ全部食べちゃいますよ~~!」
と、昴くんが、こっちに走ってきた。
「昴くんだ!」
葉月ちゃんが喜んだ。そして、すかさず、
「あの!アンケートたくさん書いたので、読んでくださいね」
と昴くんにも、言った。
「え?あれ?」
昴くんはそこで私を見て、私がいるのに驚いている様子。
「アンケート、私のも読んでください」
後ろから、おずおずと真知子ちゃんが、昴くんに手渡した。
「はい。読みます。ありがとう!」
昴くんは、にこって微笑み受け取った。それから、私の方も見て、
「アンケートは?」
と聞いてきた。
「え?ごめん、書いてない」
と言うと、
「ええ?そうなんですか~~?」
とわざとらしく、がっかりした表情を見せた。
「この前来たときに、ちゃんと書いて出したよ」
と言うと、
「ああ、そうだったんですか。ありがとうございます」
と、昴くんは、ぺこりとお辞儀をした。
「昴、何?差し入れって」
悟くんが、昴くんに聞いた。
「あ、カツサンドですよ。すげえ美味しいの!」
「もう食ったの?お前」
「はい。3個一気に食べました。みんなもがっついてるから、残ってるかどうか…」
「まじで?」
「うそうそ。悟さんの分は、残してありますよ」
「なんだよ。5個くらい、残してある?」
「そこまでは、どうかな~~」
私たちは、そこにずっと立ちすくんだまま、二人を交互に眺めていた。
「さ、用がないなら、もう出てください。劇場閉めますから」
とスタッフの人に言われ、しかたなく、私たちは出口の方に向かおうとした。
すると、
「観に来てくださって、ありがとうございました!」
と、昴くんがぺこって、こっちに向かってお辞儀をした。葉月ちゃんと、真知子ちゃんは、そんな昴くんに感動してて、私は小さく二人に見えないよう、昴くんに手をふった。
昴くんからは、ものすごい光のエネルギーがまた出ていて、それを感じて、私は幸せな気持ちになった。
その光は、私だけでなく、葉月ちゃんも、真知子ちゃんも包んでいて、多分、彼女たちには見えなかったとしても、何かを感じただろう。
そうして、その光の中で愛を感じ、自分の中からもそれと同じエネルギーがあふれていることに気がつき、それをそのまま感じていると、私からも光が飛び出し、昴くんの光と混ざり合い、空高くへと放射されるのが見えた。そこから、四方八方へと光が飛んでいく。そのうちに、辺り1面その光で包まれていくのも見えた。
不思議だ。なんだろう、これ…。
帰り道も、葉月ちゃんと真知子ちゃんが二人で、きゃっきゃって話している横で、ぼ~~ってしていると、
『不思議ですよね。でも、きっと俺らのエネルギーが、地球を覆ってたんじゃないですか?』
と、声が体から聞こえた。昴くんが私がぼけっと考えてることを、察知したようだ。
『昴くんも感じてた?昴くんが歌ってたときにも、すごい光があふれてたよ。すごかった。私もそのとき同化したけど、地球が見えた。そして、光で包まれていた』
『俺も、見えました。すごかったですね』
『俺…?』
『ああ、僕…。もうどっちでもいいじゃないっすか。ちょっと、昴で話してもいいですか?昴だと、こんなですよ、いつも』
『いいよ。全然OK』
『歌ってたときに、同化してたのわかってました。それで、すんごい光をひかりさんと放っているのも気づいてたし…。自分の内側から、どんどん愛が溢れてるのも感じて、感動しちゃって、泣いちゃって…。』
『私も、一緒に泣いてたよ』
『うん。それも、わかってました。まだ、俺も自分のミッションってわかってないけど、もしかして、もう遂行してるんじゃないすかね?』
『ミッション?』
『あの光、すごかったですよ。これが俺たちのすることなんじゃないかって』
『……』
私にはぴんとこなくって、黙っていた。
『いつも、あの唄を歌うと、自分から光が放射されるのわかってました。でも、今日は特別すごくて、地球全体を覆ったのは初めてです。これ、絶対にひかりさんと同化したからできたことです』
『そうなのかな?じゃ、二人で、任務を遂行しないとならないってことかな?』
『きっと、そうですよ。っていうか、もうすでにしてるんですよ』
『そうか…』
「星野さん?星野さん、どうしたんですか?」
葉月ちゃんが、どうやら、私に話しかけていたようだ。
『ごめん、葉月ちゃんが話しかけてる。またね!』
『はい。またあとで』
昴くんとの会話は終わりにして、葉月ちゃんの方を見た。
「ごめん、ぼ~ってしてた。何?」
「星野さんの家って、私の家の近くですよね」
「そうなの?」
「はい、隣駅です。だから、一緒に帰りましょう」
「うん。あれ?真知子ちゃんは?」
「え?今さっき別れて…。電車が違うんです」
「あ、そうなの?悪かったな。挨拶もしなかったや…」
「星野さん、話しかけても、ぼ~ってしてましたもんね」
「ごめんね。どっか魂行っちゃってたみたい」
「わかりますよ~~。真知子とも話してたんです。やっぱり昴くん、最高だよねって。最後にあんなに丁寧にお辞儀をしてくれたり、アンケートもきちんと受け取ってくれたり…。悟くんは、ちょっと、無愛想だったけど」
「うん…。昴くんは、ファン大事にしてそうだしね。あ、ファンじゃなくても、人を大事にするのかな」
「そんな感じですよね。私ますますファンになっちゃった~~~。また、観に行きたいな。私も当日券で、観に来ようかな~~。一緒に来ますか?」
「観たいけど、もう、金欠…」
「そうですよね。チケット代、馬鹿にならないですよね」
「うん…」
これは、本当の話。私はかなりの貯金を今してる。一人暮らしを始めるためだ。だから、バイトでなく、正社員になりたいなとも思っている。
葉月ちゃんと、今日の舞台のことをあれこれ話していて、あっという間に葉月ちゃんの降りる駅になり、葉月ちゃんと別れた。
それから私は家に帰ると、すぐにお風呂に入った。昴くんに心の中で話しかけてみたが、応答がなかった。何か別のことをしてて、こっちの声が聞こえなかったのかもしれない。
お風呂から出て、自分の部屋にいき、前に買ったパンフレットを見ながら、昴くんのことを思った。優しい、あったかいエネルギー…。
その時、携帯が鳴った。緒方さんからのメールだった。
>明日、夜食事に行きませんか。
>すみませんが、明日は夕方からバイトです。
>わかりました。では、次の日曜日、映画を観に行きませんか?
…そう来たか。私は日曜はシフトをいつも空けている。そのことを緒方さんは知っている。どう返信するか悩んでしまった。
そのまま、バタンとベッドに転がった。緒方さんのことは、あまり考えたくない。今は、昴くんのエネルギーに包まれていたい。目を閉じて、昴くんのエネルギーに集中した。
すると、
『呼びましたか?』
と、昴くんの声がした。
『うん。呼んだ』
そう心で答えると、昴くんのエネルギーがもっと私から溢れ出た。
『今、何してるの?』
『風呂はいってますよ。ひかりさんは?』
『ベッドに横になってる。さっき、お風呂に入ってたとき声かけたんだよ』
『じゃあ、多分、みんなとご飯食べてたときだ』
『そうなんだ』
『すみません、聞こえなかった』
『いいよ。いいよ』
『明日休演日だから、みんなで美味しいもん食べに行ってたんです』
『カツサンドを3個も食べたのに?』
『あはは…。あれだけじゃお腹いっぱいにならないですよ』
『明日、休演日なんだ。何してるの?』
『夕方から、雑誌の取材、夜は、テレビの収録が入ってます』
『忙しいね』
『でも、昼は暇っすよ。会いますか?ひかりさん、仕事は?』
『明日は夕方から…。え?!会うって、夢で?白昼夢で?』
『あはは。実際に、生で』
『生昴くん?』
『そう、生昴と生ひかりさんとで』
『ど、どこで?』
『じゃ、12時ころ、ひかりさんちの最寄の駅で、待ち合わせはどうですか?』
『え?わかるの?』
『行ったことありますから』
『いつ?』
『ひかりさんが、階段ころげ落ちたとき』
『あ…そっか~~』
『どこか、食べるとこ近くにありますか?』
『ちょっと、しゃれたイタリアンの店が、駅の近くにあるよ』
『じゃ、そこでランチしましょう』
『うん。じゃ、12時にね』
私は、うきうきわくわく、ドキドキした。昴くんに会えるのがすごく嬉しい。
その反面、緒方さんはどうなのかな…。メールの返信もまだ、していなかった。とりあえず、
>日曜の件は、また返事します。
と返信した。すると、わかりましたという、短い返事が来た。
はあ…。ため息が出る。
寝ようかと思った頃、今度は薫からメールが来た。
>緒方さんと映画、行くことになった?
>ええ?なんで知ってるの?
>行くんだ?!
>まだ、決めてない。
>なんで?行けばいいじゃん。いっつも食事だけだったんでしょ?
>そうだけど。
>緒方さん、誠二にいろいろと相談しに来たらしくて、ひかりとこれからどうしたらいいかって。緒方さんは、かなり真剣みたいだよ?それで、誠二が、デートに誘ったらって。食事だけじゃなくて、もっと進展させろって言ったらしく、映画誘ってみるって、緒方さんが言ってたって聞いたからさ。どうしたかな~~って思って。
誠二さんっていうのは、薫の彼氏だ。
>もう~~。ほっておいてくれてもいいのに。
>何言ってんの?これはチャンスなんだよ?もう、昔の旦那なんか忘れて、さっさと新しい恋したら?
>いいよ。まだ、そんな気分じゃないよ。
>だからってね、芸能人、それもまだ、19歳の若いのをおっかけてる場合じゃないでしょ?
う…。昴くんのことか~~。
舞台を観に行った話をして、昴くんに感動した話をしたら、呆れられたんだよね~~。その昴くんと明日は、ランチするんですなんて、とても言えないし、その昴くんに会うのはドキドキなんですなんて、これも言えない。
>もう、デートしてみな?いやなら、途中で、断ればいいんだし。とにかく、私も前進して、ようやく昔のこと忘れられたんだから。
>わかった。ちょっと、前向きに検討してみる。
>検討じゃなくって、進むの!
>わかった。でも、もう少し考えてみる。じゃ、もう、寝るから、おやすみ。
携帯を充電器において、私は寝た。
新しい恋に踏み込む勇気は、いまだにない。誰かと付き合うことを考えただけで、胸が痛い。もう、苦しみたくない。
夢の中でまた、昴くんと会った。優しいエネルギーに包まれ、私は夢の中で泣いていた。起きると、ほっぺに涙の跡があり、ああ、本当に泣いてたんだって、気が付いた。私の傷はまだまだ、癒えてないんだな…。
翌日、改札口で昴くんを待っていた。12時を10分過ぎたくらいに、
『今、着きました!』
という声がした。どうやら、昴くんはホームに降り立ったようだ。
改札口を見ていると、ぞろぞろと人が出てきて、その中に真っ黒ずくめの男の人が現れた。あ、私が空中に浮いてるとき、私を見ていた人…。その人がどんどんこっちに向かって歩いてきた。
「すみません。10分の遅刻…。寝坊しちゃって、これでも慌てて、走ってきたんですけど」
あ、真っ黒ずくめの人が、昴くんだったのか…。
「ううん…。すごいね、頭の先から足の先まで、真っ黒」
「あ、そうですね。今日、真っ黒ですね」
と、昴くんはうつむきながらそう言った。
黒の帽子、サングラス、黒のTシャツ、黒のパンツに、黒の靴。それに、黒のベストまで着てる。
「これ、ちょっと怖いっすか?」
「うん。けっこう怖い。ちょっと近づけない…」
「それが狙いです」
「え?なんで?」
「みんな、ちょっと引くんです。それに、あまりジロジロ見られない。だから、けっこうばれない」
あ、変装か~~。
『そう。変装です』
また、心の中を読まれた。
「それ、どうやるの?」
「え?」
「だから…」
『私の心の声、どうやって聞いてるの?』
『え?それはなんていうか、チューニングするみたいにするんですよ』
『チューニング?』
私たちは、レストランに向かいながら、心で会話をしていた。はたから見たら、黙ってただ歩いている状態だ。
『そうです。ひかりさんに合わせるんです』
『何を?』
『波長って言うのかな』
『私にも、できる?』
『できますよ。あまり無理して、聞こうとしないで、頭の中静かにするんです』
『考えないってこと?』
『そう』
『難しそう…』
『なんで?今も俺の声聞いてるじゃないですか?一緒ですよ』
『ふうん…』
「あ、ここだよ!レストラン」
「へえ、ちょっといい雰囲気ですね」
私たちは、レストランに入った。
「いらっしゃいませ」
店員さんに案内されて、席に着いた。
その店はわりといつも、高年齢のおばさまがたで、平日の昼はにぎわってて、今日も、おばさまがたが何人か来ていた。
「こういう店いいですよね」
「え?」
「俺のこと、知ってる人が、あまりいないんです」
「ああ。そうか…。若い人だと、わかっちゃうもんね」
「はい」
昴くんは、帽子もサングラスも外した。それから、オーダーをして、水を一口飲んだ。
私はさっきから、目の前にいる昴くんにときめいていた。なんて、かっこよくて綺麗なんだろう。
『それ、自分のことですよ』
いきなり、昴くんが、心の中で語りかけてきた。
「え?」
わけがわからず、私は口にして聞き返した。
『だから、俺はひかりさんだから、俺が綺麗ってことは、ひかりさんも綺麗ってことです』
ああ、そうか…。みとれてときめいているのもバレバレか…。なんかずるいな。
『ずるくないですよ。俺の心の中だって、見えますよ』
『それが、まだ、できないんじゃない…。だから、ずるいよ』
『じゃ、いいこと教えます』
『何?』
『たいてい、同じこと思ってます。俺はひかりさんだから、当たり前ですけど』
『え?』
『まあ、一緒にいないときには、別々のこと考えてたり別々の行動してますけど、二人でこんなふうに面と向かってるときには、同じようなことを感じてますよ。感覚を共有してるっていうのかな』
『ええ?何それ?だって、私は今、昴くんってどうしてこんなに奇麗なんだろうって思ってたんだよ?これは、私だけの感覚でしょ?』
『だから、俺も今、ひかりさんって奇麗だなって思ってたってことですよ』
「またまたまた~~~~」
あ、声に出てた…。でも、あまりにもびっくりすることを言うから。
「ほんとですよ」
そう言うと、昴くんはにこって笑った。
頼んだものが運ばれてきた。昴くんは嬉しそうに、
「うまそう!いただきます!」
って手を合わせた。そして、嬉しそうに食べだした。私はその嬉しそうな顔を見て、可愛いな~~と思いつつ、食べだした。
「美味しいね~~!」
と私が言うと、昴くんは、
「あはは…。ひかりさんだって、嬉しそうに食べてて、可愛いですよ」
と笑った。
あ、また、可愛いって思ってたのが、伝わっちゃったのか…。これじゃ、どんな感情も考えも、昴くんにはつつぬけだ。嘘をついても、わかっちゃうし、隠し事もできないや。
「そりゃ、そうですよ。だって、自分なんですから」
うん。そうなんだよね。でも、その感覚がまだ、わからない。昴くんは昴くんで、私は私でしょ?って思ってしまう。
「そのうちに、わかりますよ。ほっといても、わかるからほっといていいですよ」
昴くんは、にこって笑ってそう言った。そして、また美味しそうに食べだした。
食べ終わると、デザートとコーヒーが、運ばれた。
「ひかりさん、砂糖は何杯?」
「私は、いつもミルクだけ」
「え?砂糖入れないんすか?」
「うん」
「そうなんだ。俺は2杯も入れちゃう。甘くないとコーヒー飲めない」
「ふうん、そういうのは、違うんだね。まだ、19歳だから?」
「それ、子どもだって言いたいんすか?」
「う~~ん。だって、10歳も下だから」
「ちぇ~~~~」
あ、本当にふてくされてる…。
『魂じゃ年齢なんて関係ないのに…』
昴くんの声が聞こえた。
「そうか…。そうだよね?年齢があるのって、ここの地球上でだけなんだ」
「そうっすよ」
「……」
「え?」
昴くんが少し驚いていた。あれ?なんで?私が思っちゃったことで、驚いたけど…。私今、なんて思ってたっけ?
そうだ…。10歳も下の昴くんに恋したりするのは、変だよなって思ってたけど、そういうのも関係ないのかって…。
「あ…、う~~ん。恋するのは変だって言う、そういう感覚、俺もありますけど…」
「え?!そうなの?」
「はい。でも、俺は10歳も上なのにっていう感覚はないです。どっちかっていうと、ひかりさんは、俺じゃないですか。俺が俺に恋してるってどうよって…。そんなことは思ってました」
「そっか~。私は、10歳も年下の昴くんをまさかねって思ってたけど…」
「ですよね。でも、年齢は関係ないすよ」
「うん…」
私はデザートを食べた。甘さの控えたケーキで、とても美味しかった。昴くんも美味しいって言って、食べていた。
それから、コーヒーを飲んで、ふと思った。そのふと思ったことも、昴くんは、感づいていた。
「…悩んでるんですか?」
「え?うん。ちょっとね…」
「緒方さん…?」
「うん。薫って友達が、昔の旦那を忘れるには、新しい恋だよって言うんだけど…。映画に誘われた。でも、どうも一緒に行く気がしなくて…。どうしたらいいのかなって。薫はね、前進だって言うんだけど…」
「でも、行きたくないんでしょ?」
「うん」
「じゃ、その気持ちに素直に、従ったらいいんじゃないんですか?」
「え?」
「だって、行きたくないんですよね?」
「うん」
「今までも、何で会ってたんですか?」
「え?」
「緒方さんって人のこと、好きじゃないんですよね?って、ひかりさんの心は言ってますけど?」
「うん…。そうだよね。やっぱり、昴くんもそう感じるよね?」
「はい」
「そうだよね~~。無理して人を好きになんてなれないよね。それに…」
「まだ、傷も癒えてない…」
「それも、わかる?」
「わかりますよ。多分、俺の方が、びしばし感じてると思います」
「え?」
「ひかりさん、蓋してるから」
「何に?」
「悲しいとか、辛いとか、そういう感情。心の奥に溜め込んで蓋してる。でも、俺には、そういう蓋された感情も流れこんできます」
「え?そうなの?じゃ、昴くんが苦しくなるんじゃないの?」
「大丈夫です。ただ、感じてるだけですから。俺があれこれ、考え込んだり、悩むことじゃないから、ただ、感情を感じるってことができますから」
「……」
「でも、ひかりさんは、あれこれ、考えちゃうでしょ?本当は、ただ、悲しいって泣いたり、苦しいって叫んだりしたらいいだけなのに…。自分がいけなかったのかとか、赤ちゃんに対しても、すごい罪悪感じてたりとか…」
「そういうのも、わかるの?」
「わかりますよ。すごいですよ。溜め込んじゃって、なんていうのかな、渦になってるって言うか、重いし、暗いし、そんなの心の中に溜め込んで、そうとう苦しいだろうなって思います」
「…。でも、どうしたら…」
「だから、感情出して、味わって、開放したらいいんです。味わうだけでいいんです。罪悪も感じなくていいんです」
「でも…」
私は、涙が出てきて、言葉が続かなくなった。
「それに、誰かを恨んではいけないとか、そういうことも考えなくていいんです。自分を責めたり、裁かなくてもいいんです。ただ、感情を、そして、自分の中の思考を観ていたらいいんです」
「でも…」
「言ったでしょ?思考は、本来のひかりさんじゃないですよ。誰かを憎らしいって思ったら、それは、過去から来ている情報ですから。本来のひかりさんは、ただの光です…。あれ?なんか、光、ひかりでわけわからなくなりそうですね」
昴くんはそう言うと、にこって笑った。
「……」
私は、涙があふれて止まらなくなった。なんて、優しい言葉を言い、優しい表情をするのだろうか。その言葉を発するたびに、昴くんから光の渦が発せられ、私を優しく包んでいた。
「優しいね。昴くん」
「でも、この優しさは、ひかりさんのものでもあるんですよ」
「私が、昴くんだから…?」
「うん。そう」
「……」
「俺、ちょっと今思ったんですけど…」
「え?」
「俺は、ひかりさんみたいな辛い体験ってないんです。19年間生きてきて、そんなに悩んだり苦しんだこともないし。いろんなことに恵まれてて、夢もどんどん叶ってるし。だけど、苦しいって感情や、悲しいって感情を、ひかりさんと共有して、ひかりさんと一緒に、それを乗り越えていくのかなって、そんなこと思ったんですよね」
「……」
「それで、もしかしたら、俺が一緒に感じることで、ひかりさんは癒されていってるのかなって」
「私、去年の秋から冬にかけて、本当に苦しかったの。ずっと自分の部屋に閉じこもって。それで、友達の薫が心配して、外に連れ出してくれて…。それから、今年になったら、美里が私に会ってくれて、いろいろと一緒に行動していたら、だんだんと気持ちがあがってきて…。でも、本当に癒してくれてたのは、昴くんだったような気がする」
「俺?」
「うん。昴くんが出てる映画やドラマを観たり、あ、写真集も買った。それを見てるとね、すごく心があったかくなった。幸せな気持ちになれたんだ」
「うん…。それ、今年に入ってからでしょ?」
「そう」
「俺、何度もひかりさんのもとに、来てたよ。どうにか、ひかりさんとコンタクト取りたくて。でもなかなか、ひかりさんに俺の声届かなくて。それで時々、宇宙船に魂だけ飛ばしてたんだ。そうしたら、ある日、映像がスクリーンに映し出された。ひかりさんが、階段から落ちて、魂が抜けて、宇宙船に来るまでの映像。それも、俺がエネルギーで、ひかりさんのこと階段から落としてる…。はじめは、びっくりした。でも、それをしないと、ひかりさんとコンタクト取れないってわかってさ」
「それで…?」
「うん。それであの日、駅まで行って、エネルギー飛ばして…。でも、ちゃんと怪我しないよう、エネルギーで包んで…。ちょっと、そんなことが自分に出来るか不安だったけど、でも、あのスクリーンに映ってたことは、きっと起きるだろうって信じてさ」
「スクリーンには、未来が映るの?」
「わからない。他の未来の映像は映ったことないし…」
「そう…」
「うん」
「じゃ、私が昴くんの出てる雑誌やDVDを見て癒されてたとき、昴くんのエネルギーも来てたんだ」
「うん。だから、俺のことをひかりさん、見てたんじゃないかな~~。そのへんはよくわからないけど。この世界ってうまくできてて、何も偶然ってないからさ」
「そうなんだ…」
「なんでもうまくいってるんだよ。だから、あまり悩むこともないし、今、目の前のことを取り組んでいたらいいんじゃないかって思う。それは俺、なぜかわからないけど、ずっとしてきてたな」
「目の前のこと?」
「うん。だから、無理して好きでもない人と会おうってしなくっても、いいんじゃないの?」
「…うん」
あ、そういえば、明日の夜、葉月ちゃんとプレアデス星の人と会う…。昴くんに言ったほうがいいかな。
「うん。言わなくても、聞こえちゃってるし…。プレアデス星?」
「あ。そうか。聞こえてるんだもんね…」
口を使って会話してたから、心で会話できること忘れてた。
「なんかね、葉月ちゃんって昨日一緒に行った子、宇宙人とチャネリングができるんだって。そのことを教えてくれたのが、その過去生がプレアデス星の人でね…。その人、地球のアセンションの手伝いに来てるって…」
「一緒だね。俺らと」
「やっぱり?目的が一緒の人?」
「っていうかさ、俺らもプレアデス星人だよ。あ、だったよって言った方がいいのかな」
「ええ?!!!!」
「だから、仲間かもね」
「……」
「あ、でも、わからないよ。いろんな人がいて、幻想を見てものを言ってる人もいるから」
「幻想?」
「そう、例えば、2012年に地球は破滅するとか、宇宙人の襲撃があるとか…。あれは、まったくの幻想」
「まったくの?」
「うん」
「なんでわかるの?」
「う~~ん。なんでかな。多分、地球は愛と光に包まれた世界になるって、確信があるからかな」
「…その手伝いに来ているんだよね?私たち」
「そうだよ。なのに、地球が破滅なんて、おかしいでしょ?俺らが会ったのも、ちゃんとミッションに組み込まれてることだ。宇宙は完璧だからね」
「……」
「あれ?頭の中、こんがらがってる?ぐちゃぐちゃしてるね」
「うん…」
じゃ、葉月ちゃんは?
「葉月ちゃんも、もしかしたら、同じミッションを持ってるかも」
「え?」
「わからないけど…。そのチャネリングしてる人は、俺みたいな存在かも」
「ね。いろんなスピリチュアルの本を読んだんだけど、ツインソウルっていう本があって」
「ソウルメイトとか、ツインソウルでしょ?」
「知ってる?」
「なんとなく、俺は本じゃなくて、誰かのブログで読んだかな」
「あれ、本当のこと?もしかして、私と昴くん」
「本当といえば、本当。嘘といえば、嘘」
え?どういうこと?!
「何度か味わってない?俺とだけじゃなくて、地球というか宇宙全体と一体になる感覚」
「ある。すべてが一つになる…。すごい開放感」
「うん。みんなつながってるんだ。だから、二人だけつながってるっていうのはない」
「じゃ、私たちは?」
「うん。俺がひかりさんってことと同じように、他の人も、ひかりさんなんだ。みんな一つだから」
「じゃ、なんで?昴くんと…」
「う~~~ん。難しいね、説明するの。プレアデス星での俺らは、一つだった。いや、分離も出来たし、一つにもなれたし…」
「???」
「地球上じゃ、考えられないよね。俺と、ひかりさんの体は、一つになれないもんね。でも、光の状態なら同化できる。もっと、大きな大きな意識と一緒になろうと思えば、それも可能。だけど、少しだけ波動を下げてっていうか、分離して、光なんだけど人型になってたのが、宇宙船での俺たち…。もっと波動を下げて、こうやって物体化して、分離しているのが3次元の俺たち」
「う~~ん。波動を下げるって?」
「これまた、難しいけど…。粒子の動きをゆっくりする…。早ければ早いほど、高い波動になる。わかる?」
「さっぱり…」
「じゃ、これ見て」
昴くんは、スプーンの端を持って、ゆっくりと振った。そのあと、早く振って見せた。
「早いと、ぐにゃぐにゃに見えない?それに、もっとスピードをあげたら、スプーン自体見えなくなる。早いと柔らかくて、もっと早いと見えなくなるんだ」
「へ~~~。なるほどね」
「でも、止めると、ほら…。硬いし、まっすぐだ」
「目の錯覚じゃないの?」
「う~~ん。ま、錯覚ってのはおいといて…。俺らはみんな、粒子でできてる。エネルギーってそうなんだよ。それが早くに動いているか、遅いかの違い…」
「へ~~~~」
なんで、そんなこと知ってるのかな?
「あ、いろいろとインターネットや、本で読んだりしたし。ある程度は思い出したところもあるし」
「ふうん。すごいな~」
あれ?そういえば、「小さな宇宙人アミ」でもそんなことが書いてあったっけ。
「うん。それ読んだよ。俺も」
「前から、こういうの興味あったの?」
「う~~ん、ちょっとは。俺の母さん、スピリチュアル好きでさ。いろんな本あったし」
「じゃ、お母さんももしかして、何か…」
「そうだね。同じ目的もってるかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない」
「ふうん…」
じゃあ、もしかしたら、私たちの周りにも、仲間がたくさんいるかもしれないんだ。
「かもね。でも、詮索はなしだよ」
「うん。思考はいらないんでしょ?」
「そう」
あれ?そういえば、思い切り、昴くん、タメ口…。
「あ!ごめん。なんかずっとそうだった…」
「いいよ。なんかそっちの方が、話しやすい。それに、魂には年齢ないんでしょ?」
「うん」
コーヒーも飲み終えてたし、私たちは出ることにした。昴くんは、また帽子とサングラスをかけた。
「ここ、俺のおごりね」
「え?いいよ。払うよ」
「誘ったの、俺だから。次は、もしかして、ひかりさんに払ってもらうかも…」
「そう…?ありがとう。ごちそうさま」
昴くんは、レジでお金を払った。するとお店の人に、
「天宮昴くんですよね?」
って聞かれていた。
「ああ…はい」
あれ、答えちゃったよ。
「サインしてもらえますか?!」
ああ…。どうするの?
「はい、いいですよ」
ええ?受けちゃったよ。
お店の人はなぜだか、色紙を持っていて、そこに昴くんは、サインしていた。壁を見ると、なにやら、誰だかわからない人のサインが飾ってあり、たまにもしかしたら、有名人が来るのかもしれない。それで、色紙があるのか…。
お店を出て、駅までの道、心の中で聞いてみた。
『サイン、よかったの?しても…』
『うん、全然』
でも、あそこの店に昴くんが来たなんてことが、知れたら、みんな驚くんじゃないかな~。
『そうかな?飾ってあっても、俺のサインだってわからないよ。読めないでしょ?あのサイン』
『だけど、お店の人が、色紙の下に名前書いたりしたら?』
『そんときは、そんときだって。抵抗したりせず、現実はそのまま受け止めていったらいいと思うよ』
は~~。ときどき、昴くんがすごいって思うよ。大人だなって…。
「え?さっきは、子ども扱いしたのに?!」
「え?ああ、お砂糖のこと?」
「そうだよ」
「いいじゃん。もう…。あれ?根に持ってたとか?」
「べ、別にそんなことないけど」
心を静かにして、ちょっと昴くんの心の声を聞こうとした。すると、
『ガキだって思われたくないよ…』
って声が聞こえた。
『思ってないよ。でも、たまに可愛いなって思うことはあるけど』
『あ、読んだ?俺の考えてること』
『うん、読めちゃった。へへ…』
『何?そのへへって…。やけに、嬉しそう』
『だって、昴くんの心の中、見れるんだもん。なんか、嬉しくて…』
『なんだよ、それ…。言っとくけど』
『昴くんは、私でしょ?』
『そう、そういうこと。自分のことを知って、喜んでるんだよ?』
『だとしても嬉しいよ』
『そう…?』
私たちはお互い、なにもしゃべらず、ただ、顔をにやけさせていたから、周りの人から見たら、かなり異様な二人だったかもしれない。
駅に着き、改札口で昴くんのことを見送った。周りには女子高生もいたが、黒ずくめの昴くんのことは、誰も見ようとはしていなかった。
なるほど。みんな逆に避けてるわ…。
『でしょ?』
昴くんは、ホームへの階段を下りながら、そう心の中で言ってきた。
『明日も、舞台でしょ?頑張ってね。あ、これから仕事もあるのか…。頑張って』
『サンキュー。ひかりさんも、仕事でしょ?頑張ってよ』
『うん!ありがとう』
そして、昴くんの声はしなくなった。