ミッション3 闇を光で包む
昴くんの魂が体に戻ると、昴くんはとても穏やかな表情になっていた。
『ひかり、海藤玄に光を送るよ』
『うん』
私と昴くんは同化して、ものすごい光を海藤玄に送り出した。その光は部屋全体をあっという間に包み、そこから外に飛び出し、地球全体をそして、宇宙までも拡がっていった。
海藤玄に、私は心で話しかけた。
『恐れるものは何もないの。裁くものも何もない。はじめから私たちは大いなる宇宙に愛されて、護られて、受け入れられてる』
もっと昴くんの体から、光が飛び出した。
『宇宙は私たちを、裁いたりしない。だって、すごく大事で、愛すべき存在だから』
海藤玄の顔つきがだんだんと、柔らかくなっていく。
「神はいつだって愛してくれてたし、いつだってそばにいたんだ。いや、俺らすべての人は、その宇宙の1部なんだよ」
昴くんが優しくそう言った。
「宇宙の1部…?」
海藤玄が聞き返した。
「そうだ。みんながだ。どんな存在もだ。だから、あなたは俺なんだ。みんな一つなんだ」
「……」
海藤玄は黙っていた。
「みんなみんな、宇宙の1部だ。みんな一つだ。例外なく、どの存在も宇宙に愛されてる存在なんだ。みんなで、一つの命なんだよ」
昴くんはあったかく、優しい声でそう続けた。それからまた、私と一緒に光を送った。海藤玄は、目を閉じた。私たちの光を感じ取っているようだった。
そして、海藤玄の魂がフワって体から抜けた。海藤玄の魂が、光と同化しものすごく輝いた。ほんの一瞬で海藤玄の魂は、体に戻った。
海藤玄の表情は、穏やかだった。
「今、光になっていた」
「はい。見えました」
夏樹くんがそう言った。
「見えたのか?」
「はい…。父さん、すごく奇麗な光でしたね」
「……」
海藤玄は、ものすごく感動をしているようだった。しばらく言葉も発しなかった。そして目を閉じ、しばらくして、ゆっくりと目を開けた。
「春彦。原田が泊まっていたホテルの部屋に、抗生剤がある」
「ホテルの部屋にですか?」
「そうだ。セキュリティボックスに入れたと原田が言っていた。3本用意していった。それをすぐに原田と、ひかりさんに打つといい」
「はい!」
夏樹くんが携帯ですぐに、漆原さんに電話した。
「漆原さん!抗生剤の場所わかりました。原田さんが泊まってた部屋です。偽名を使ってたんですが…」
「野上志郎という名で泊まっていた。」
海藤玄が、夏樹くんにそう言った。
「野上志郎です。…はい。その部屋のセキュリティボックスの中です。…はい。6時間以内に打たないとならないんです」
夏樹くんは、慌てた声でそう言った。
「ひかりさん、エレベーターには何時にいましたか?」
『11時頃』
私の声を聞き、昴くんが
「11時です」
と答えた。
「じゃ、夕方の5時までです。漆原さん、お願いします!」
夏樹くんは電話を切った。その横でいきなり昴くんが、真っ青な顔をして座り込んだ。
「昴?大丈夫か?」
悟くんが昴くんを抱えた。
「すみません。いきなり力が抜けて…」
昴くんのエネルギーが、下がっていく。体が冷たくなってるのがわかる。私は昴くんを光で包んだ。
「ひかりさんの状態が悪いと、お前にも影響が出るんだ」
「ひ…、ひかりの?」
私の…?
『ひかり、今、俺に光を送ってるよね?』
『うん』
『もういいから。ひかり、自分の体に戻って…』
『え?』
『俺がひかりのそばに行く。俺がひかりに光を送るから』
『駄目だよ、昴くん。休んでないと』
「悟さん、ひかりのところに行こう。直接、光を送りたい」
「わかった。葉月たちも一緒に行ってもらおう」
「私たちも行くわ」
冬美さんがそう言うと、夏樹くんが車のキーをポケットから出しながら、
「姉さんと兄さんはここにいて。テロを中止することを、父さんと一緒に信者の人に伝えてくれ」
と言った。
「わかった…」
春彦くんはうなづいた。
「じゃあ、すぐに行こう!」
夏樹くんと、悟くんは昴くんのことを抱えながら部屋を出た。
「ひかりさん、俺の声聞こえてる?ひかりさんは今すぐに、体に戻ったほうがいい。魂が抜けてるだけでも、体は弱まってると思う」
悟くんが私に話しかけてきた。
『でも、さっきはじかれた』
『もう一回行ってごらん…』
『うん。わかった…』
『ひかり…。愛してるよ』
『私も…』
昴くんにもう一回光を送り、私は自分の体へ魂を飛ばした。だが、体に入ろうとしたが、やっぱりはじかれて入れなかった。
私は病院にいた。原田さんは隣の部屋にいて、二人とも隔離されていた。すぐ横の検査室のような場所で、多分私たちの血液だろう、検査をしている人がいた。それから、病室の前には、流音さんと白河さんもいた。
そこへ、父と兄がやってきた。
「白河さん、ひかりの命が危ないってどういうことですか…?」
父が聞いた。
「ニュースは見ましたか?」
「テロですか?」
「そうです…。ひかりさんは、その犯人と同じエレベーターに乗っていました」
「……。ウイルスと聞きましたが…」
「はい。感染力も弱く、空気中でもすぐに死滅してしまうウイルスだとわかりました。ですが、いったん体に入ると、体の中の機能を弱らせ、6時間で機能を停止してしまうくらいの力を持っています」
「まさか、ひかりの体にそのウイルスが?」
「吸ってしまったようです…」
「ひかりは!?ひかりは助かるんですか?!」
父は思い切り動揺して、白河さんの肩を両手で掴み揺さぶった。
「6時間って…、そのウイルスをやっつける薬はないんですか?」
兄は、真っ青だった。
「あります。今、こちらに運ばれてくるところです」
「え?じゃあ、ひかりは助かるんですか?」
「命は、助かります」
「命?」
「後遺症は、残る可能性もあると、医者が言っていました」
「後遺症…?」
父は、がっくりしていた。でも兄は、
「父さん、命は助かるんだよ!」
と父を励ました。
そこに徹郎が来た。それに、母も来た。
「ひかり、ひかりは…?」
「母さん。大丈夫だ。ひかりなら、助かるよ」
兄が母の肩を抱いた。
「徹郎くん…?」
父は徹郎がいるので、驚いていると、
「ニュースを見ました」
と徹郎も青い顔をして、そう言った。
「え?」
「ひかりさんの命が危ないというのを見て、いてもたってもいられなくなり…」
「報道しているのか?ひかりのことを」
「星野社長はそれを見て、こちらに来たのでは?」
「いや、白河さんから連絡があって来たんだ。少し前にホテルでテロがあり、泊り客や従業員らが非難をしたと言うのはニュースで見た」
「そうだったんですか…。星野建設の娘のひかりさんが、犯人と同じエレベーターに乗っていて、何かウイルスを吸いこみ、命が危険な状態だと、報道されていたんです」
「どういうことだ、何も聞いてない。そんな勝手なことを!」
「すみません、星野さん…。ひかりさんのことは報道を控えるように、申していたんですが…。どこかからもれたようです」
白河さんが、すまなそうにそう言った。
「父さん、そんなことよりも、ひかりが助かるよう祈っていようよ」
「そうよ、あなた…」
母は震える声で言った。
ああ…。ごめんね、お母さん。こっちの次元のお母さんは体が弱まっているのに。
母と兄からは光が飛び出したが、父はずっと黒い霧を出していた。心配と、それから犯人への怒りなんだろう。
「犯人は、あの海藤玄が教祖の教団員ですか?」
「はい」
白河さんはうなづいた。
「…あの教団が怪しいのは、警察はわかっていたはずだ!なんでもっと、早くにあの教団をとっつかまえない?」
「テロを阻止できたんです。ひかりさんのおかげで」
「え?」
父も兄も、驚いた表情をした。
「本当は、あのホテルの最上階のレストランで、無差別殺人が実行されるところでした。それを、阻止するためにわれわれは動いていました。ひかりさんは、われわれの協力をしていてくれました」
「ひかりが?!」
「申し訳ありませんでした。私たちの不注意です」
「ふ…、不注意って、そんなですまされるか!」
父からもっと、黒い霧が飛び出した。
「白河さん!抗生剤です!」
そこに漆原さんが、飛び込んできた。
「待ってたぞ!すぐに医者のところへ持って行ってくれ!」
「はい」
漆原さんは、検査室に飛び込んだ。
「これで、ひかりは助かるのね?」
母は弱々しい声を出した。
「大丈夫ですよ」
徹郎が母の肩を抱いた。兄と父は、私の病室のまん前で手を合わせ、目をつむった。きっと、祈っていてくれてるんだ。彼らから、すごい光が飛び出した。母も目をつむった。母からも、徹郎からも光が飛び出し、私に届いていた。
私と原田さんは、抗生剤を注射された。体に戻れるかと思い試してみたが、まだ入れなかった。
『どうしてかな…』
『ひかり…?』
『昴くん?』
『体に戻れた?』
『戻れないの』
『え?』
『はじかれてしまうの』
『どうして?』
『わからない』
『抗生剤は?』
『今、注射で打ったよ』
『そうか…』
『昴くんのエネルギー、低いよ。苦しそう、大丈夫?』
『ああ…。悟さんやみんなが、光で包んでくれてる…。ひかりは?大丈夫なの?』
『私の体も、大勢の人から光で包んでもらってる』
白河さんと流音さん、それに漆原さんは、ものすごい光を私に送っていた。母や父、兄も、光を出していた。それは祈りの光だった。
『ひかり、同化できる?俺にエネルギー合わせられる?』
昴くんが、弱々しい声でそう聞いてきた。
『うん…』
『俺のエネルギー低いし弱いよ。それに合わせて…』
『わかった』
私は昴くんのエネルギーを感じ取ると、そのエネルギーに自分のエネルギーを合わせた。
ズン…。重い…。それにかなり苦しい。こんなエネルギーだったんだ。昴くん、すごく苦しくない?
そして、同化した。私は悟くんが運転してる車の中で、ぐったりしてる昴くんを感じた。
『ひかり…?』
昴くんが私のエネルギーに気がついた。
『昴くん、すごい苦しそう』
『大丈夫、でもこれがひかりの体のエネルギーなんだ。きっと魂のひかりだと、エネルギー高すぎて、体と引き合わないんだ』
『え?』
『それで、はじかれちゃってる…。いい?この低いエネルギーを維持したまま、もう一回体に入ってみて』
『わかった』
私はそのまま、すぐに体へと魂を飛ばした。
スッ…。今度は何の抵抗もなく、体に入った。だが、入ったとたん、ものすごい冷たさや、息苦しさ、気持ちの悪さを感じた。
『苦しい……!』
『ひかり?』
『昴くん、体に戻れたよ…』
『良かった…。今、光を送るよ。ひかりのそばにもすぐ行くから。あと30分くらいで着くって…』
『うん、待ってる…』
昴くんは光を送ってくれたが、昴くんも弱まってるのに大丈夫なんだろうか?
重い目を私は、開けてみた。
「ひかりさん?!」
防護服を着て、病室に入ってきていた流音さんが、私の目を見た。
「先生!ひかりさんが目を開けた!」
「何?」
防護服を着た医者が、隣の検査室から入ってきた。そして、私の目に光を当ててみたり、脈を測ったりした。
「星野さん、声、聞こえてますか?」
私はこくんとうなづいたが、首を動かすとものすごい頭痛がした。そして、顔をゆがめると、
「話せますか?」
と聞かれた。
「は…」
何かを話そうとしたが、喉が焼けるように痛かった。それに、目を開けているのも辛い。私は、もう一回目を閉じた。
「まだ、意識が朦朧としているのでしょう」
医者はそう言うと、1度病室を出た。
「良かった…。ひかりさん、本当に…」
流音さんの声は、泣き声だった。ああ、泣いてるんだ。続いて、看護士が来て、血液を採取していった。
「ひかりさん、お父様やお母様がいらしてるのよ。今、先生がひかりさんが目を覚ましたこと伝えていると思うわ。それに、昴くんもこっちに向かってる。安心してね」
私はうなづきたかったが、少しでも頭を動かすと頭痛がするので、できなかった。
『昴くん』
『ひかり?』
『目を覚ましたの、私…』
『…どう?気分は?』
『頭が痛い…。それに喉が焼けるように痛い』
『無理はしないで、また休むといいよ。でも、俺さっきよりも、だいぶ楽になってるよ。抗生剤が効いてきたのかな』
『うん…。なんか、朦朧としてきた…。寝るね』
『うん、わかったよ』
昴くんの声が、遠くに聞こえたかと思った次の瞬間、思い切り昴くんのエネルギーを感じた。あ、昴くんも眠ったんだ。夢の中で昴くんと同化してる。
「ひかり」
「昴くん」
昴くんと体が離れて、それから、思い切り抱きしめあった。
「良かった。ひかり、間に合ったんだね」
「うん」
私は、さっき白河さんが言ってた、後遺症のことを夢の中で思い出していた。
「後遺症残るの?」
「わからないって」
「そっか…。いや、絶対に大丈夫だよ」
昴くんはそう言うと、もう一回抱きしめてくれた。私は昴くんの腕の中で、思い切り安心した。心がゆったりとして、気持ちよかった。
「あ…。もう車着くよ。だから、起きるね」
「うん…」
昴くんのエネルギーが消えた。そして私も、目を覚ました。目の前には、兄と父がいた。
「ひかり…。もう、ウイルスが死滅してるから大丈夫だって、お医者さんが言ってたよ」
兄が優しく私に言った。
「ひかり…」
父が涙を浮かべて、私のことを見た。その後ろから、母も泣きながら私の名前を呼んだ。
「あ…」
声を出そうとしたが、出なかった。喉が痛いし、声がかすれる。
「無理するな、ひかり」
兄がそう言った。
「ひかりさん、大丈夫かい?」
徹郎だった。
「……」
少しだけ、私はうなづいた。さっきより頭痛は治まっていた。
「ひかりさん」
白河さんと、流音さん、漆原さんも病室にいた。みんなものすごい光を私に送ってくれてて、あったかかった。
「君たち、なんだね!」
病室の外から、大声が聞こえた。
「ひかりさんの友人です」
あ、悟くんの声…。昴くんもいるの?
「ひかり!!」
思い切り病室のドアが開くと、昴くんが飛び込んできた。
「君たち、誰の許可があって…」
医者が後ろからそう言うと、
「彼らは、私の知り合いだ」
と白河さんがそう言った。
「ひかり!」
昴くんは、父や兄を押しのけ私の横に来ると、私の手を握り締めた。そしてものすごい光をだし、私を包み込んでくれた。
ああ…。すごいあったかい。
悟くんも、葉月ちゃんも、陽平くん、珠代ちゃんもいて、みんな光を出してくれていた。
「……、父さん、こいつ…」
兄が真っ青な顔をした。
「え?」
「天宮昴…。それに、この女は昴の女で…」
兄がそう言うと、父も母も顔色を変えた。
「天宮昴だって?天宮建設の社長の息子か?」
父はそう言うと、
「白河さん、知り合いだって言いましたね?どういうことですか?」
と白河さんに聞いた。
「今はそんなことよりも、ひかりさんのことが1番ですよ」
白河さんは落ち着いたまま、そう答えた。だが父は、思い切り動揺していた。
「この男も、今回の事件に関係してるんじゃないのか?こんなところにのこのこと現れて、ひかりのことを殺そうとしてるやつじゃないのか?危険なやつだとしたら、今すぐここを出て行け。いや、白河さん、こいつを捕まえてください」
「そういうわけにはいきませんよ。彼は唯一、ひかりさんとコンタクトが取れますから。今、ひかりさんは話すもの困難な状態だ。でも、心で彼は会話が出来るから、ひかりさんの今の状態をわかってあげられるんですよ」
「心で、会話だって?!」
白河さんの説明に、父も兄も変な顔をした。
「とにかく、この病室に人が多すぎる。一回出て行きましょう。ここは、彼らに任せて」
「まさか!私は父親ですよ」
「…では、星野さんの家族と、昴くん以外は出て行くとしよう。ああ、悟くんと流音さんには残ってもらおうか。サポートもして欲しいからね」
そう言うと白河さんは、みんなを連れて出て行った。
ドアを出る前に、葉月ちゃんと珠代ちゃんは、泣きながら、
「星野さん、頑張ってね。私たち光を送ってるからね」
と言って、出て行った。
『ひかり…。苦しい?』
昴くんが、手を握り締めながら聞いてきた。
『だいぶ、楽になった…』
『ほんと?』
『うん。ありがとう、昴くん』
「なぜ、ここに天宮建設の息子が?」
父がそう言うと、ようやく昴くんは父の方を向いた。それから、反対側にいる流音さんの方を向いて、
「ひかり、だいぶ楽になってきたって」
とそう言った。
「ほんとう?ひかりさん。どこか痛かったり、具合悪かったりしない?」
「喉、焼けるように痛いから声出せないんだって」
昴くんがそう言った。
「なんでわかる?」
父がそう聞くと、
「心で会話が出来るんです」
と昴くんは答えた。
「心で?今さっき、白河さんもそんなことを言っていたが、そんなことができるわけがない」
「できるんです」
「お前は何か?超能力でもあると言うのか?」
馬鹿にした顔で父が聞くと、
「ないですよ、ひかりの声しか聞こえません」
と、昴くんは真剣な顔で答えた。
「じゃあ、今、ひかりは何を考えてる?」
兄がそう聞くと、昴くんが私に心で話しかけてきた。
『ひかり?』
『…父や兄に言っても、わからないかもしれない。でも、そんなことどうでもいいの。それより、昴くんは大丈夫なの?』
私は昴くんの体の方が気になり、そう聞いた。
『え?』
『もう、エネルギー高くなってきた?』
『うん。もう大丈夫だよ。今、同化するから、俺のエネルギーをひかりにあげるから』
そう言うと、昴くんは私と同化した。体中があったまっていく…。
『ひかり…。喉、本当だ。焼けつくように痛いね…』
『感じたの?』
『うん、同化して…。意識もまだ、ちょっと朦朧としてるね。それに、頭痛もまだ…。吐き気もあった。大丈夫?相当辛いよね』
『でも、楽になってるよ』
昴くんはずっと、光を出して私を包んでくれてた。
「おい!」
父が、昴くんの肩に手をかけた。
「あなた、やめてください」
母がそう言って、父を止めた。
「見ててわかりませんか?彼を見るひかりの表情…。とても安心して、柔らかい表情をしてる。さっきまでとは、大違いだわ」
母が、そう言って私の顔を見た。
「私は彼を信じます。ひかりと心で会話できるなら、ひかりも安心よね?だって伝えたいことが伝えられる人が、ここにいるんですもの」
母は、優しい表情でそう言った。
「しかし…」
父はまだ、何かを言いたそうにしたが、
「さあ、もう出ましょう。私たちのできることは、病室の外で、ひかりの回復を祈ることだけですよ」
母はそう言うと、兄と父を連れて出て行った。
「良かった。彼らからどんどん黒い霧が出て、なかなかこの部屋を光で満たせなかった」
悟くんがそう言った。そして、悟くんと流音さんからも、ものすごい光が飛び出した。
『ひかり、愛してるよ』
昴くんは心の中で、ずっとそれを繰り返していた。だんだんと喉の痛みが消えていった。頭痛や吐き気も治まってきた。
『昴くん、もうだいぶいい』
『え?』
『すごく楽になった』
『ほんと?』
『本当…』
『ああ、そうだね、顔色もよくなってきた』
『うん。体もあったかいよ…』
『……。良かった…』
昴くんが、心底ほっとしていた。
「ひかり、楽になったって」
昴くんが悟くんと、流音さんにそう言った。
「よかったわ。顔色もよくなったし、もうだいじょうぶね」
『昴くん、原田さんは?』
『大丈夫、夏樹くんが光を送ってる』
『そう…』
誰も死んでほしくない。原田さんだって、本当は愛と光の存在なのだから。
『そうだね…』
昴くんが心で答えた。
白河さんが入ってきた。
「どうだい?ひかりさんの様子は?」
「はい。もうだいぶよくなってきています」
昴くんがそう答えた。
「昴くん、君も大変だったんじゃないかい?同じ魂なんだから影響があっただろう?」
「はい。でも今は、俺も楽になりました」
昴くんは私の手をずっと握ったまま、そう話していた。
「ひかりさん、少し休みなさい。順番で、ここでひかりさんを見守ろう。光を常に出し、光を絶やさないようにしながら…ね?」
「俺がここにいます」
「昴くんも休みなさい」
「いえ、大丈夫です」
「白河さん、二人にさせてあげましょう?」
流音さんはそう言うと、私と昴くんに目配せをした。
「そうか…」
白河さんもうなづくと、流音さん、悟くんと一緒に病室を出て行った。
『ひかり、少し休もうか…。俺もなんだか眠くなってきた』
『うん』
『夢で抱き合おうね?』
昴くんはそう心で言うと、椅子をベッドの横に持ってきて座り、それからまた私の手を握りしめた。昴くんの目は優しかった。昴くんのあったかい光に包まれて、私はすぐに眠りに着いた。
夢の中で、昴くんは私を抱きしめていた。そして、私を優しく光で包んでいた。そのまま、私たちは宇宙船に行った。そこから青い地球を見ていた。
「奇麗だね」
「うん」
昴くんとそれ以上、何も話さなかった。ずっと抱きしめ合っていた。
しばらくすると、昴くんは私の髪にそっとキスをして、
「ひかり…。生きることを選択してくれてありがとう…」
と、ささやいた。
「え?」
「ひかりがもし死んだとしても、いつも一緒にいるのはわかってた。けど、やっぱり、ひかりが必要なんだ」
「……」
「人間の俺には、まだ必要なんだ。いや、ずっと必要なんだ」
「うん」
昴くんは、優しくキスをしてきた。
「こうやって、ひかりを感じていたい…。体がなかったら、感じられない」
「うん…」
「ひかり、俺、人間でよかったって、今回ほど思ったことないよ」
「え?」
「ひかりのぬくもりや、あったかさや、声や、いろんなものを感じられる」
「うん…」
「まだ、人間楽しもうよ、ね?」
「うん…。私も、昴くんに抱きしめられるのが好き。このぬくもり大好き。だから、もっと人間でいたいって思うよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあさ。どの次元でももう、一緒に暮らしちゃおうよ」
「え?」
「この次元の俺らも、高い次元の俺らも」
「うん…」
「ひかり、夢の中なら、体に負担かけないよね?」
「え?」
いきなり場面は、昴くんのマンションの部屋になった。そこでベッドに、二人で横になっていた。
「それとも、夢の中でも影響出ちゃうかな?」
昴くんはちょっと、心配をしていた。
「大丈夫…」
私がそう言うと、昴くんは優しくキスをしてきた。
体全身で、昴くんのぬくもりを感じた。夢なのに、そのぬくもりはすごくあったかくて、心地良くて昴くんの匂いも感じられて、安心して私は泣いてしまった。
「ひかり?」
「あ…。なんだか、嬉しくて…」
「うん」
昴くんはすごく優しい表情で、微笑んだ。そしてそっと、抱きしめてくれた。最高で最上の、優しい抱擁だった。昴くんの体全部から、光が出て私を包み込む。その光に私は溶けていく。
これ…、宇宙の愛だね。宇宙そのものだね…。
昴くんの愛は、無償の愛で、宇宙の愛そのものだね…。
「ひかりの愛もそうだよ」
「…うん」
また、涙が溢れた。これは、歓びの涙だ…。