ミッション2 仲間の目覚め
目覚ましが鳴り、すぐに私は目を覚ましてベルを止めた。流音さんは寝ていた。窓の外はまだ、真っ暗な様子…。あまり寝ていないのにもかかわらず、頭が冴えていて、すぐにベッドを出て、行動することが出来た。
顔を洗い、また部屋に戻って、ベッドに入ると寝てしまうかもしれないから、コーヒーを淹れて、小さなテーブルに置き、その前にある椅子に座った。
『昴くん……』
心の中で呼んでみた。
『ひかり?起きた?』
『うん。今さっき』
『俺も、さっき起きたところだよ』
『みんなは?』
『うん、一緒に起きた』
『すぐに行くの?』
『うん、行くよ。顔も洗ったし』
『そう…』
『あ、夏樹さんが呼びに来た』
しばらく昴くんの声が聞こえなくなった。
「おはよう」
「あ、流音さん、起こしちゃいましたか?」
「ううん。なんとなく目が覚めて…。ひかりさんがこれから、昴くんに光を送る間、私はひかりさんに光を送るわ」
「え?」
「なんとなく、それが私の役目のような気がして」
「はい。ありがとうございます」
「あ、私もコーヒー飲もうかしら」
「じゃ、淹れましょうか?」
「いいわ。自分でするわ。ひかりさんは昴くんにエネルギーを合わせてて」
「はい」
流音さんがコーヒーを淹れてテーブルに置き、私の前の椅子に腰掛けた。
『ひかり』
『昴くん』
『東を向いてる大きな部屋に来たよ。窓が大きくて、開けるとすごい開放感のある部屋だ。その窓側に座って、みんなで朝日を浴びる準備をしてる』
『夏樹くんや、他の兄弟の人もいるの?』
『まだ…。あ、今来たよ。1番後ろから来たのがきっと、海藤玄だ』
『……』
昴くんが、少し苦しそうにしてるのがわかった。
『ん…。かなり黒い霧を出してるんだ…』
私は昴くんにエネルギーを集中して、光を送った。
『サンキュー』
昴くんはそれを感じ取ったようだ。流音さんは、黙って私に光を送ってくれていた。流音さんの光で、私はほかほかあったかくなった。
『誰かそばにいるの?』
『流音さんが私に光を送ってくれてるの』
『そっか…。ありがたいね』
『うん』
『これから、みんなで座って朝日を浴びるって…。夏樹くんが指揮をとってるよ』
『うん』
『あ…、空がだんだんと明るくなってきた。俺、冬美さんと春彦くんと、海藤玄に光を送るから、ひかり、俺と同化できる?』
『うん』
私はもっと昴くんのことを感じた。フワ…。魂が抜けた。昴くんのもとへとすぐに飛んで行った。そして同化した。
昴くんから光が出ている。それに合わせて、私も光を出した。昴くんからものすごい光が放たれた。それが当たり1面を包む。そこに日の光も混ざり合い、悟くんたちの光も混ざり、光がどんどん大きく拡大して、そのまま地球を包むくらいになった。
黒い霧が瞬く間に消えた。ストン…。自分に魂が戻ってきた。
しばらくして、昴くんが話しかけてきた。
『あ…。なんか、目覚めたみたい』
『誰が?』
『冬美さんと、春彦さん。夏樹くんと目配せしてた…』
『海藤玄は?』
『だいぶ、闇のエネルギーを浄化したと思うけど…。どうかな…』
「ひかりさん、戻ってきた?」
流音さんに聞かれた。
「はい」
私がそう答えると、流音さんは優しく微笑んだ。
『ひかり…』
『ん?』
『夏樹さんが、これから入団するための儀ってのを俺らにするから、その部屋に案内するって。ちょっと、交信切るよ』
『うん。わかった』
『じゃ、ひかり、何かあったらすぐ、俺のこと呼んでね』
『うん』
昴くんが一瞬、すごいあったかいエネルギーをくれて、交信を終わらせた。
「はあ…」
そのあったかいエネルギーで、体がすごいリラックスできた。わ、私緊張してたのかな。
「ひかりさん?」
「あ…。昴くんと交信終わりました」
「そう、どうだったの?」
「はい。冬美さんと春彦くん、どうやら、目覚めることができたようです」
「そう!良かったわ。これで、阻止できるかもしれないわね」
「はい」
「じゃあ、も少し休まない?」
「はい、そうですね」
私たちは、またベッドに入った。安心したのか熟睡をしてしまい、目が覚めたら10時を過ぎていた。流音さんはもう着替えを終え、いすに座って携帯を見ていた。
「わ…。もうこんな時間」
「ひかりさん、起きた?時間なら大丈夫よ。11時からランチのビュッフェが始まるみたい。私先に行って、客として潜入してる仲間とラウンジで会ってくるわ。いろいろと話を聞いてから、ビュッフェに行くから、ひかりさんも11時頃に来て」
「はい、わかりました」
流音さんは、部屋を出て行った。私は顔を洗ったり、髪をとかしたり化粧をして着替えた。
11時10分前、昴くんが心で話しかけてきた。
『あ。ひかり?寝てた?』
『うん…。寝てるのわかった?』
『うん。わかったよ。疲れてたんだね』
『昴くんは?』
『あのあと、入団の儀ってのはやらなくてさ、夏樹さんや冬美さん、春彦さんと打ち合わせしてたんだ』
『じゃ、みんな目覚めたの?』
『うん。ばっちり。それで、春彦さんが、今回ホテルでテロをするメンバーを教えてくれて、それを漆原さんのパソコンに転送した。顔写真もついてて、ホテルに潜入してる仲間がチェックしてるって』
『そっか』
『今回は、たった3人で実行するようなんだ。一人はどうやら、客としてもうホテルに泊まってる。あとは、当日レストランの客でやってくるみたい』
『もう、泊まってるの?』
『名前も偽名使ってるし、わからないけど、ホテルの受付の人なら顔見てるだろうし、チェックしてもらってるってさ』
『そう…』
『流音さんは?』
『さきにラウンジに行った。仲間と会って、情報聞くって。それからもうすぐしたら、レストランで落ち合って、ランチをするよ』
『そう…。そのとき、もしかすると、下見に来る可能性あるね』
『春彦くんから連絡してもらって、中止にはできないの?』
『そこまで、春彦さんは権限ないみたい。そういうのを決定してるのはお父さんだって言ってたよ。だけど、なんとかやめさせるよう、説得するってさ。光を今も送ってるしさ』
『そう…。うまくいくといいね』
『うまくいくよ、絶対に』
『うん…。あ、私もう、レストランに行くね』
『うん。気をつけてね』
『うん』
私は部屋を出て、エレベーターに乗った。私が乗った階の次の階で、男の人が乗ってきた。その人は階のボタンに手をのばしたが、最上階が押してあったので、そのまま手を引っ込めた。
その時、携帯の電話が鳴った。
「ひかりさん?もう部屋を出た?」
「はい、今エレベーターに乗ってます」
「そう、部屋に電話したら出なかったから。あのね、今から写メール送るわ。ここの泊り客で潜入してる人のデータを、春彦くんから送ってもらったから」
「はい…」
「名前は偽名を使ってるわ。ホテルの人に聞いても、その顔はわからなかったって…。何か変装をしていたかもしれないのよ」
「そうなんですか」
「いったん、電話を切るわね。写メールの顔覚えてくれる?レストランに来る可能性高いから」
「はい」
「どうもね、実行は明後日だけど、その前の準備を今日からするようなこと、海藤玄が電話で連絡してたようなの。とにかく、今送る。じゃあね」
私は電話を切って、メールが来るのを待った。
はっ!その時に、ものすごい黒い霧に包まれていることに気づいた。横を見ると、男の人がものすごい形相で私を見ていた。流音さんの声が聞こえてた?
もしや、この人……。
その人は、上着の内ポケットに手を入れた。何を出すのか警戒したら、携帯電話だった。そのとき、私の携帯にメールが来た。後ろを向き、こっそりと写メールを見た。
ああ…。予想的中…。この人だ!!!
「もしもし、あ。原田です」
その人が、誰かに電話をした。そして、いきなり私の腕を掴み、私の携帯を取り上げた。
「痛い!」
ものすごい力で腕を捕まれ、思わずそう言ってしまった。
「やっぱり…。お前、何者だ?警察か?」
私の携帯に、その人の顔写真が出てて、その人がものすごい黒い霧を出しながら聞いてきた。のみ込まれる!光を出せなかった。体が冷たくなった。
バン!その人は、エレベーターのボタンを思い切りたたいた。
ガタン…。エレベーターが止まった。電気もパチパチと消えそうになったが、また明るくなった。
「もしもし、計画が誰かからもれて、警察にばれてます」
その男が電話の相手にそう言った。
「はい…。あ、さっき、春彦さんの名前が出てた」
聞かれてた…。
「おい、お前、春彦さんから聞いたのか。春彦さんは、裏切ってるのか?!」
「……」
私はどんどん体が冷え、苦しくなっていて、声も出せなかった。
「もしもし!春彦がなんだって?」
電話の向こうから声がした。
「教祖。春彦くんが裏切って、情報を警察に流しています」
やばい。ばれた!海藤玄に…。どうしよう!
『昴くん!』
答えがない。私がこんなエネルギーだから、届かないの?
「すみません、計画が失敗です。もう、警察がホテルに潜入しているようです。でもここで断念はしません。命に変えてもやり遂げます。ただ、春彦さんには罰を…」
春彦くんが危ない!どうしたらいいの。携帯も取り上げられた。ああ、早くに昴くんに連絡…。
『昴くん!!』
『ひかり…?』
『聞こえる?』
『かすかに…。どうした?エネルギー低いよ?』
『あ…』
男が、持っていた鞄の中から箱を取り出した。その箱を開け、中からスプレーを取り出すと、私と自分めがけて何かを散布した。私はそれを思い切り、吸ってしまった。
「う…」
喉が苦しい…。
『ひかり?どうした?声聞こえないよ…。ひかり…?』
昴くんの声が、遠のいていく。頭がくらくらする。目の前が白くぼやける。
「あんたは道連れだ。運が悪かったな…」
男がそう言うと、ズルってそのまま倒れこんだ。
『昴…くん…』
私は昴くんのエネルギーを感じた。そして一瞬昴くんと同化して、昴くんのエネルギーを吸収して体に戻った。
意識が少し戻ってきた。私は男から私の携帯を取って、流音さんに電話をした。男はもう、意識が朦朧としているようだった。
「ひかりさん?まだエレベーターなの?」
「あの…、エレベーター止まってます。警察呼んでください。それと、エレベーターの中危ないから、人をどこかに非難させてください」
「危ないって?」
「同じエレベーターに教団の人が乗ってて、何か撒いたんです。何かはわかりません。男は、気を失ってます」
「ひかりさんは大丈夫なの?」
「わ、私ももう…、朦朧としてて…」
「え?」
「……」
私は、床にしゃがみこんだ。力が抜け、もう意識も消えかけてた。
『昴くん…』
昴くんも危ないかもしれない…。そう思って、昴くんにエネルギーを集中させ、昴くんのもとへ魂を飛ばした。フワ…。一瞬で昴くんと同化した。
『ひかり?』
昴くんをすぐ近くに感じた。同化したあと、幽体離脱した私は昴くんのすぐそばにいた。
『大丈夫?ひかり…。エネルギー変だった』
『昴くんと同化したら、もうあったかくなったよ。それより、春彦くんが危ないの!』
『え?』
『すぐに春彦くんのところに行って!海藤玄にばれたよ。春彦くんが警察に情報を流してたこと』
『なんで?』
『あとで説明するから、早く行って!』
『わかった』
不思議と昴くんのことが見え、昴くんのすぐそばに私はずっといることができた。
「春彦さん、夏樹さん!」
昴くんは走って、ある部屋にと入っていった。そこには、春彦くんと夏樹くんが悟くんと一緒にいた。何かを打ち合わせているようだった。
「ひかりから交信が来て、春彦さんが警察に情報流したこと、海藤玄さんにばれたって」
「え?どういうことですか?」
夏樹くんが聞いてきた。
「詳しくはわかりませんが…」
バタン!その時部屋のドアが思い切りあいて、海藤玄が入ってきた。
「やあ。何の打ち合わせかな?」
「新しく入団した彼らに、いろいろと教団のことを説明していたんですよ」
春彦くんがそう答えた。
「春彦。お前はそんなことをしてる場合ではないだろう?それに、お前のする仕事ではない。今すぐ、私の部屋に来なさい」
「僕もお父さんに話があったところです」
春彦くんがそう言うと、
「僕も一緒に行きますよ」
と夏樹くんが言った。
「夏樹、お前はいい」
と海藤玄が言うと、ドアの外から、
「私も話があるのよ、お父様」
と冬美さんが言った。
「幹部としての意見か?」
「いいえ。子どもとして、大事なお話があるんです」
冬美さんは真剣な顔でそう言った。
「なんだ?今こんな大事なときに何の話なんだ?」
「今だからこそ、お話しなくちゃいけないことです」
今度は、春彦くんが、真剣な顔をしてそう言った。
「僕たちも一緒に行ってもいいですよね?春彦さん」
悟くんがそう言うと、春彦くんは黙ってうなづいた。
「なんで、彼らが?」
海藤玄がそう聞いても、誰も何も話さず、そのままその部屋を出て、廊下を静かに歩き出した。
『ひかり、まだそばにいる?』
『いるよ』
『なんで、ばれたってわかったの?』
『ホテルに泊まってた教団の人が、海藤玄に電話してそう言ってたから』
『それを聞いたの?』
『うん』
『どうして、ばれたの?』
『流音さんと私のやりとりを聞かれたの』
『え?…それで、ひかりは大丈夫なの?』
そのとき、海藤玄の部屋に着き、
「入りなさい」
と海藤玄がそう言った。海藤玄の部屋に入り、ドアを冬美さんが閉めた。
「他の信者の人には聞かれたくないので、誰も通さないでください」
冬美さんがそう、海藤玄に言うと、
「…わかった」
と海藤玄がうなづいた。
「では、まず私からいろいろと、春彦に聞きたいことがあるんだが」
「…はい?」
「原田から電話があった。計画が警察にもれていたので、今回のテロは失敗だと」
みんながいっせいに顔を見合わせた。
「では、実行はされなかったんですね?」
「……」
海藤玄は黙っていた。
「お父様?」
冬美さんがけげんな顔で聞いたが、海藤玄は、
「それよりも、原田が言うには春彦が裏切ったと…。警察に情報を流していたのはお前だと」
海藤玄から出る黒い霧はあっという間に、部屋中に広がっていったが、そこにいた全員がいっせいに光を出し、消してしまった。
「原田さんはなぜ、そんなことを言って来たんですか?」
「状況はわからない。ただ、そう言って連絡がとだえた」
「……」
春彦くんは、夏樹くんと黙って目を合わせていた。
「計画は失敗した。でも命に変えても、やり遂げる。それが最後の言葉だ。もしかすると、その場で例のものを開けたのかもしれない」
「ど、どこでですか?ホテルの部屋ですか?」
「…わからない」
「大変だ!連絡!昴くん、確か君、ホテルに泊まってたひかりさんって人と、交信できるよね?」
「はい。ひかりなら、ここに来てます」
「え?」
「俺のそばに飛んできてます」
「魂が?」
「はい」
「じゃ、状況を把握していないのか?」
『ひかり。ホテルではどうなってるの?わかる?』
『わからない。すぐに昴くんのところに来ちゃったから。今、戻って様子見てくる』
私はすぐに体に戻ろうとした。体のすぐ上まで戻ることが出来たが、体に入ろうとしても、はじき飛ばされてしまった。
『なんで…?』
『ひかり?』
『入れないの…』
『なんで?』
『わからない。体から拒否されてるみたい』
『え?どういうこと?』
私の体はぐったりとしてて、顔は真っ白だった。
エレベーターの外が、さわがしくなった。何人かの救護隊員がエレベーターを開け、私と男をエレベーターから降ろした。救護隊員はみな、防護服と言うのだろうか、宇宙服のようなものを着ていて、私と男も、全身ビニールのような袋に入れられた。
それから、エレベーターの中に転がっていたスプレーの容器を注意深く箱に入れると、エレベーター内の空気を調べ出した。
あの容器に入っていたものは、いったいなんなんだろうか。
そして、最後にエレベーター内を消毒し始めた。
ホテル内の人たちは、無事に安全なところに行けたんだろうか?流音さんは?
私は幽体離脱したまま、一部始終を見て、また昴くんのもとへと戻った。
ちょうどその時、夏樹くんの携帯が鳴った。夏樹くんは、携帯をちらっと見た。それから、一瞬春彦くんを見て、そして電話に出た。
「はい、夏樹です」
そう言いながらドアの外に行ってしまった。
「おい。誰からだ?」
海藤玄が、夏樹くんを呼びとめようとしたが、冬美さんに制されてしまった。
「お父様。私たちの話と言うのは、テロのことです」
「え?」
「お父様、これから話すことは、なかなか信じてもらえないかもしれませんが、聞いてくれますか?」
「……」
海藤玄はあまりにも冬美さんが真剣な表情だったからか、黙り込んでしまった。
「私たち3人は、もっと高い次元から来ました」
「次元?」
「この世界にはたくさんの次元が、まったく同じ空間に存在しています」
「うむ。それはなんとなくわかる。低い次元には、悪い霊がいるだろう」
「高い次元の私たちは、低い次元の私たちと同化しています」
「同化だと?」
「はい。今朝の朝日を浴び、高い次元の私たちは目覚めました」
「どういうことだ?」
「低い次元の私たちの意識ではなく、今は高い次元の意識でいるんです」
「…なぜ高い次元から来たんだ?」
「お父さんを救うためです」
今度は、春彦くんが話し始めた。
「高い次元の世界のお父さんは、ずっと病気です。日に日に弱まっています。それが低い次元の影響があるからだと、最近知りました。そして、僕たちは低い次元のお父さんの闇のエネルギーを、浄化しに来たんです」
「はははは」
海藤玄はいきなり、笑い出した。
「闇のエネルギーだと?私は神の仕事を変わってしているのだ。闇のエネルギーなど私にはない」
「いいえ」
春彦くんは、はっきりとそう言った。
「春彦!お前は私のことが信じられないのか!」
「高い次元から来たからわかります。地球は滅びたりしないし、神は人間を裁いたりしません」
「な、何を言ってるんだ?」
「お父さんこそ、それは幻想なのだと、早くに気づいてください」
ずっと、昴くんも悟くんも春彦くんも冬美さんも、光を出し続けていた。そこへ、暗い表情の夏樹くんがドアを開け、入ってきた。
「昴くん…。そこにひかりさんがいるって言ったよね?」
「え?はい」
「今も?」
「はい、ずっとそばにいますよ。感じますから」
「ひかりさんね…。エレベーターで原田さんと一緒にいたんだ」
「え?」
「そこで、多分、電話を聞かれた。そして原田さんは、レストランでの計画をやめて、自害する覚悟で、スプレーを散布した…」
「え?!」
冬美さんと、春彦くんが同時に驚いていた。
「エレベーターで?」
そう春彦くんが聞き返した。
「もう二人とも、病院に運ばれている」
「ひかりさんも?」
悟くんがそう聞くと、
「うん。二人とも意識はない…。すごく危険な状態だって…」
「……」
昴くんは呆然としていた。そして、
「でも、ひかり、ここにいてすごくエネルギーも高いよ?」
とそう言った。
「…体が危ないから、魂が抜けてるんじゃないのかな?」
夏樹くんが冷静にそう言った。
「もしくは、魂が抜けてるからってことは?」
悟くんがそう言うと、
「それより、早くに抗生剤を打たないと!」
と冬美さんが大きな声でそう言った。
「は!そうだ。6時間以内に、抗生剤打たなきゃ!」
春彦くんも、顔つきが変わった。
「何?ひかりは何を吸ってしまったの?」
昴くんが慌てた。それ、私も聞きたいところだ。
「あるウイルス…」
「え?」
「人工的に作り出したもの。吸うと、朦朧として意識がなくなる。それから、6時間放置していると命が、危ないのよ」
「え?!」
昴くんも悟くんも、ものすごく驚いていた。
「父さん!早くに抗生剤を!」
夏樹くんがそう叫んだ。
「原田さんも危ないんだよ?」
春彦くんもそう言った。
「いや、出すわけにはいかない。原田は覚悟を決めていたんだ。それに、これが初めの災いとなる。これから徐々に、天の罰が下っていくんだ」
そう海藤玄が言うと、昴くんがものすごい勢いでつっかかった。
「あんた、ばっかじゃね~の!何が天の罰だよ?あんた何様なんだよ?ひかりの命が危ないんだよ。でも、まだ助かるんだ!抗生剤よこせよ!」
「昴!」
昴くんからは、ものすごい黒い霧が発せられた。悟くんは昴くんの肩を掴み、光を思い切り送った。
「悟さん…」
「落ち着けよ。お前が怒っても何も変わらないんだよ」
「…でも…、ひかりが……」
『私なら、大丈夫だよ?昴くん。ここでこうして昴くんのそばにいる』
『ひかり……』
昴くんは今にも、泣き出しそうだった。そして、心の中は後悔の念でいっぱいになった。
『どうして離れたりしたんだろうか。俺よりずっと、ひかりの方が危険だったんだ。なのに、そばで守ってやれなかった。どうして俺、いつもこんなバカなことするんだろう…』
昴くんから黒い霧が出る。それでも昴くんはやめなかった。
『ひかり…。俺、ひかりがいなくなったら…』
ものすごい恐怖が、昴くんの心を覆う。
『いなくならないよ。私は昴くんだよ?体が消えたって、私は消えない』
『嫌だ…。ひかりが死ぬのなんて…』
『死なない。こうやっていつも、昴くんのそばにいる』
『嫌だ!俺は生身のひかりといたい!』
『でも、体は仮の姿でしょ?』
『わかってる。だけど、嫌なもんは嫌だ!』
昴くんは、声を殺して泣き出した。
「お父様!お願い。人を死に追いやることなんて、私たちにはしてはいけないこと。それに、天の罰なんて初めからありえないことなのよ」
冬美さんも、目に涙を浮かべてそう言った。
「父さん!いい加減気づいてくれよ?」
夏樹くんもそう言った。海藤玄は黙っていた。
私は光を出して、昴くんを包んでいた。昴くんの体を包み込み、
『昴くん、大好きだよ…』
とささやいた。
昴くんはまだ泣いていた。心の中は悲しみ、後悔、怒り、憎しみ、いろんな感情が交差していた。そして、昴くんの中からどんどん、黒い霧が溢れ出ていた。それを私は、光で包み込んだ。
「……。海藤玄さん…。この世界は滅びたりしない。地球も宇宙も、人間を裁いたりしない。逆にいつだって、愛してるんだ…」
昴くんは少し落ち着いたらしく、海藤玄に向かってそう話し出した。
「それこそ、幻想だ。今まで人間は何をしてきた?地球をどれだけ痛めつけてきた?地球は悲鳴をあげている。それが私には聞こえる」
海藤玄は、そう昴くんに答えた。
「聞こえない!聞こえてるのは、あんたが創りだしてる幻想だ。それが闇のエネルギーなんだよ!」
昴くんからまた、黒い霧が飛び出した。
「昴!」
悟くんがまた、昴くんに光を送り、霧を消した。
「怒りのエネルギーを出すな。高い次元のお前でいろよ。お前まで闇にのまれるぞ」
「……」
昴くんは黙った。でも、まだ心の中で、いろんな感情が出てきていて、黒い霧を出し続けていた。それを私は光で包み込んだ。
『昴くん…』
『ひかり…』
『同化して』
『え?』
『今、宇宙船に行こう』
『……』
昴くんは私にエネルギーを合わせた。フワ…。私たちはすぐに宇宙船に着いた。
「ひかり」
光の人型の昴くんは、落ち着いて私に声をかけた。
「昴くん。もう、大丈夫だね?」
「ああ…。魂の俺なら」
「昴くん、思い出して、私たちのミッション」
「闇を光で包む」
「そうだよ。闇に闇を出しても、何も変わらない」
「そうだね…、ひかり」
昴くんは私を抱きしめた。そして私たちは、同じ光になった。
「昴くん、私の体が消えたって、私は昴くんといるんだよ?」
「うん…」
「だって、私は昴くんだから」
「ひかり…」
「昴くん、愛してるよ。永遠に愛してるよ」
昴くんは体に戻った。私も昴くんのすぐそばに戻ってきた。