第4部 ミッション1 潜入
ここから、第4部の始まりです。
私は母の実家から漆原さんの車に乗り、本山に戻ってきた。昴くんに迎えられ、二人で抱き合った。そして、次なるミッションを遂行するときが来ていることを、なんとなく感じていた。
ノエルさんや他のみんなと共に、夕飯を食べた。食堂はなごやかなムードに包まれていた。私も昴くんも、こっちの次元の私たちとすっかり混ざり合い、なるべく高い波動の私たちでいるようにした。いつの間にか、珠代ちゃんも高い次元の彼女が目覚めていて、陽平くんと楽しそうに嬉しそうに会話をしていた。
夕飯が終わり、昴くんが悟くんと話をしている間に、珠代ちゃんは私の横に来て、
「星野さん。こっちの次元で私、いろいろと怖い思いさせてしまって、すみませんでした」
とあやまってきた。
「え?ううん。全然あやまらなくってもいいんだよ」
と言ってもまだ、珠代ちゃんは申し訳なさそうな顔をしていた。
「それよりも、陽平くんとすっかり打ち解けたみたいだね?」
と言うと、珠代ちゃんの顔つきがぱっと変わった。
「そうなんです。陽平、こっちの次元で私と昴くんが付き合ってたのを知ってから、ちょっとやきもちっていうか、嫉妬をしてしまって、それで、私のことを好きだって自覚したって言ってくれて」
「え?そうなの?」
「私が闇のエネルギーにのまれて、低い次元で消えてしまったっていうことを陽平が知って、慌てて助けに来てくれたみたいで…。いつの間にか私って存在が、大きくなってたってことにも気づいたって言ってました」
「そう。良かったね。珠代ちゃん、陽平くんのこと好きだったんだもんね」
「はい…。嬉しかったです。それに、こっちの次元の私も、気持ちが変わっていったんです」
「え?」
「陽平が、一緒に苦しみを味わってくれて、それなのに私のこと守ってくれようとしたり、光で包んでくれようとしてくれたのを知って、すごく心が満たされたっていうか、安心できたっていうか…。嬉しかったみたいです」
「そう…。良かった…」
私は心底ほっとした。珠代ちゃん、良かったねって心からそう思っていた。珠代ちゃんの顔は、すごく穏やかだった。そこへ、陽平くんが来て、
「珠代、そろそろ部屋に戻らない?」
と聞いてきた。
「うん」
珠代ちゃんは嬉しそうにうなづくと、私にぺこってお辞儀をして、陽平くんと食堂を出て行った。
「なんか、良かったですね…」
横で私たちの会話を聞いていた葉月ちゃんが、こっそりとそう言ってきた。
「うん…」
「もうすぐ年が明けるね。みんなで一緒にカウントダウンでもする?」
漆原さんが、私たちの席の方に来てそう言った。
「あ。いいですね。それ!」
葉月ちゃんが、嬉しそうにそう言った。
「昴くん、悟くんもどう?みんなでカウントダウンして、新年のお祝いをするっていうのは?」
と、ちょっと離れた席で話し込んでいた昴くんと悟くんに、漆原さんが声をかけた。
「え?」
二人同時に、少し驚いていた。
『みんなでか~。俺、ひかりと二人でカウントダウンしたかったんだけどな…』
昴くんが、心の中でそうつぶやいた。
『でも、みんなでお祝いするのもよくない?』
私が心でそう言うと、
『う~~ん。だけど、二人で抱き合って、新年を迎えたかったんだけど…』
『え~~?』
『え~~って、何それ?あ。呆れてる?あ。俺のことエッチって思ってる?!』
『思ってないよ~~』
『思ってたじゃん』
『そ、そうかな。思っちゃったかな…?』
『ふんだ。いいよ、別に…』
あ、またすねた…。
その時、食堂の電話が鳴った。ノエルさんが電話に出るとしばらく話して、
「漆原さん!父から電話。すぐに署に戻ってくれって」
と、だいぶ慌てた様子でそう言った。
「え?なんかの事件ですか?」
「ええ。とにかく、電話に出てくれる?」
「はい」
漆原さんは、ノエルさんから受話器を受け取り話し出した。
「どんな事件ですか?」
と悟くんが聞くと、
「予告状…。メールで届いたらしいの」
とノエルさんが言った。
「予告状?ってなんの?」
昴くんがそう聞いた。ノエルさんは少し顔をひきつらせ、
「それが…、無差別殺人の…」
と答えた。
「ええ?!」
私たち、そこにいた全員が驚いてしまった。
「む、無差別殺人って…?テロか何か?」
「2012年に、地球は滅びる。地球は、われわれ人間のことを怒り嘆いている。神がとうとう私たちを、裁くときがきた。それまでにも、各地でいろんなことが起こるだろう。今度の無差別殺人も、神の怒りの現われなのだ。そして、2012年には、地球全部が破滅するだろう」
漆原さんが、電話を置いてそう言った。
「え?何言ってるんですか?漆原さん」
昴くんが驚いてそう聞いた。
「今、白河さんから教えてもらった。そういうメールが届いたんだそうだ」
「どこに?」
「警視庁にだ」
「それが予告状?」
「ああ…。一回目の予告状」
「一回目?」
「10分ほどしてまた、メールが来たらしい。それには、近いうちに無差別殺人が起きる。とだけ、書いてあったらしいんだ」
「……」
私たちは、息を飲んだ。
近いうちにって、いつ…?それも、どこで…?
こんなこと映画やドラマの中のことみたいで、現実に起きたりするの?私は、信じられなかった。
「これが、まさか次のミッション…」
昴くんが、ぼそって言った。
「そうなのよ。昴くん。実は、メールは今までにも届いていたの」
「え?」
「でも、こういった内容は初めて。今までのはただ、2012年に地球は滅びるとか、われわれは地球を救う救世主だとか、そんな内容のものだったの」
「それ、誰からなのか、わかってるんですか?」
「ええ…。父は、これは海藤玄がいる教団だろうって言ってるわ」
「海藤玄…」
「そう。この次元より高い次元では作家で、父のことを落としいれようとしていた人よ」
ノエルさんは、少し暗い表情でそう言った。
「あの、黒い霧の出ている本を書いてた、作家ですよね」
葉月ちゃんがそう言った。
「ええ…」
ノエルさんは、うなづいてから続けた。
「でもね…、もっと高い次元では父の親友なの」
「え?!」
私たちはみんな、思わず驚いて声をあげた。
「ただ、ここ数年病を患ってて…。どうも、低い次元で闇のエネルギーとひかれあってるから、その影響が高い次元でも出ているんじゃないかって、父が言ってたわ」
「……」
私は、驚きを隠せなかった。次元が違うと、そんなにもいろいろと起きてくることが違うのか…。いや、それは私も体験済みじゃないか…。
だけど、高い次元の白河さんは辛くないだろうか。高い次元では親友なのに、この次元でも、ちょっと高い次元でも、まるで敵同士になってしまってるなんて…。
『それ、見えてる世界での話だよ、ひかり』
『え?』
昴くんが心で話しかけてきた。
『魂では多分、仲がいいんだ。だから敵になったり、悪役演じて、この世界に何かを起こそうとしてる』
『起こす?』
『アセンションのためにね』
『わざわざ、そんな恐ろしいことをしてまで?』
『俺だってかなり危なかったよ?ひかりのこと、殺しかけてたんだから』
『そうだけど…、でも…』
「ひかりさん、昴くん、いよいよミッションが遂行されるときが来ました。今回の相手は相当な闇のエネルギーを抱えています。でも、父はその闇を浄化したいんです。それが出来たら、高い次元の海藤さんは、病から救われるでしょう。それだけでなく、地球もかなりの闇のエネルギーを浄化できると思います」
「はい…」
昴くんは神妙な顔つきになり、大きくうなづいた。私はそれを聞き、正直戸惑った。いや、怖くなっていた。私たちにそんなミッションを、遂行できるのか…。そんな力がいったい、あるのか。
『ひかり…。俺だって、明日のこともわからない。だけどね…』
『ミッションなんだよね』
『うん。きっと宇宙の力が働く。絶対に大丈夫だ』
昴くんはそう心で言いながら、私の手をぎゅって握った。私も強く握り返して、
『そうだね…』
とうなづいた。
漆原さんはすぐに、署に戻った。食堂にいた全員に緊張が走ったが、ノエルさんが、
「みなさん、私たちは愛と光で闇を包み込んでいきましょう。闇と戦っては、火に油をそそぐようなものですから」
と穏やかにそう言った。みんなは、黙ってうなづいた。
とりあえず、署に戻った漆原さんや、白河さんからの連絡を待つことにして、私たちはそれぞれの部屋へと戻っていった。
「ひかり、なんかカウントダウンしてる場合じゃなくなっちゃったね…」
昴くんが部屋に入ってから、そう言った。
「何をしていったらいいのかな…、私たち」
「まったく見当もつかないけど…。だけど、流れに任せておこうよ」
「うん」
昴くんはそっと私を抱きしめて、
「大丈夫。大丈夫だよ、ひかり」
と耳元でささやいた。
「うん…」
私は、ぎゅって昴くんを抱きしめた。
「ひかり、今、宇宙船に行ってみない?」
「うん」
私たちは、抱き合いながら同化した。そしてそのまま、体を抜け宇宙船へと一気に飛んだ。宇宙船には、美しい地球が映し出されていた。
「奇麗だね」
「うん」
「一緒に、光を送ろうよ」
私は黙ってうなづいた。そして昴くんの魂と一つになり、地球へ光を送った。地球はその光で、包まれた。
私たちは、すべての存在と一つになり、そして無限で、静寂な大きな意識になっていた。そこに在るのは、愛…。愛のエネルギー。そのエネルギーを、すべてで感じ取り、私たちは自分の体へと戻ってきた。
「宇宙と一体化してたね、俺ら」
「うん。すごい愛のエネルギーを感じた」
「愛そのものになってたよね。いつも、この愛のエネルギーを感じながら、ミッションを遂行しようよ、ひかり」
「そうだね…。昴くん」
また、私たちは抱きしめあった。きっと、大丈夫。だってその、海藤玄って人もまた、愛の存在だから…。私も昴くんも、そう同時に思っていた。
静かな夜だった。お屋敷に人があまりいないこともあったが、みんなが自分たちの部屋に戻り、固唾をのんで待っていた。
そして、2010年が明けた。時計の針が12時を回ったとき、昴くんが心で、
『あ、新年が明けたよ』
と言ってきた。
『うん、でもなんだか、おめでとうって言いにくいな』
「そんなことないよ、ひかり。絶対にすべてがいい方向に向かってるんだ。だから、おめでとうでもいいんだよ」
「そうだよね」
「ひかり、明けましておめでとう。今年もよろしくね」
昴くんはそう言うと、にっこりと微笑んだ。最高の笑顔を見せてくれた。
「うん、おめでとう。今年もよろしくね」
私もそう言うと、昴くんがキスをしてきた。
「抱き合いながらのカウントダウンは無理だったけど、二人だけで、新年明けるときを迎えられちゃったね」
って昴くんは、ちょっといたずらっぽい目つきでそう言った。
その時、部屋の電話が鳴った。
「はい」
すぐに昴くんが出た。顔つきはいきなり変わり、真剣な表情だった。
「はい、わかりました」
「どうしたの?」
「ノエルさんが、上着着て荷物もって、食堂に集まってくれって」
「……」
いよいよ、私たち動き出すのかな。
昴くんと食堂に行くと、次々にみんなが集まってきた。
「漆原さんから連絡が来たわ。どうやら、教団にいる仲間から連絡が来たようです」
「教団に、仲間?」
悟くんが驚いて聞いた。私もびっくりした。
「ええ。今、3人の仲間が高い次元から来ています。ところが、この次元での意識が強いようで、一人しか目覚めていません」
「そうなんだ。あ、じゃ、その3人ってのは高い次元では仲間なんだ」
昴くんがそう言うと、
「…お子さんたちです」
とノエルさんが言った。
「え?誰のですか?」
悟くんが聞いた。
「海藤さんのお子さんたちなんです。お父様がご病気で、低い次元のお父様の闇を浄化できたら、病気も治るかもしれないって、低い次元にやってきているの」
みんな、黙って聞いていた。
「1番上のお子さんだけ女性。今、目覚めたのは1番年下のお子さんで、確か、まだ22歳くらいだと思うわ」
「あの、その人たちもやっぱり、ミッションを持ってるんですか?」
私が聞くと、ノエルさんは、
「ええ」
とうなづいた。
「下のお子さんは、あ、名前は海藤夏樹くんといいます。父のしていた座禅の会に来て、すぐに目覚めたわ。それから、2番目のお子さんの海藤春彦くん、彼のことを夏樹くんが連れてきて、彼もまた目覚めた。最後に来たのは、1番上のお子さんの海藤冬美さん。やはり一回の座禅だけで、目覚めた。とても高い波動の兄弟よ。お父様の海藤玄さんは、目覚めてはいないけど、すごく温厚な優しい方」
ノエルさんが説明をしてくれた。
「そんな家族が、この次元だと教団を?」
葉月ちゃんがそう言うと、
「俺だって、この次元じゃ、ひかりを誘拐したりしたよ」
と昴くんが言った。
「え?あ…。そうか…」
葉月ちゃんはそう言うと、黙り込んだ。
「この次元の彼らの意識が、強いんですか?」
悟くんがノエルさんに聞いた。
「ええ。2012年、人間に天からの罰が下る。それを信じ込んでるようなの。そして、その神の仕事を自分たちがしているんだと、この次元の海藤玄さんは言ってるわ」
「……」
私たちは黙っていたが、それぞれが、心で会話をしてるようだった。昴くんも、私に心の中で話しかけてきた。
『ずいぶんと、思い込みが激しいみたいだね』
『え?』
『幻想にどっぷりとつかりこんで、何が幻想で何が真実かも、見失ってる』
『幻想…』
『自分たちには使命があるって、そこは気づいてると思うよ。でも、まったくその使命を思い出せてない』
『そうなんだ…』
『あ、いや、待てよ』
『え?』
『アセンションのためにすべてが起きてるなら、やっぱり使命を遂行してるのかな』
『待って…。だって地球は破滅もしないし、天は人間を裁いたりしないよ』
『そうだよ。それが幻想だ。そういうことすべてが、幻想でしかないんだってことを、多くの人が知らなくっちゃいけないんだ。そのために起きてることかもしれない』
『どういうこと?』
『宗教ってさ、海藤玄の教団だけじゃなくって、けっこう神が人間を裁いたり、こういうことすると、救われないですよとか、地獄に落ちますよとか、自分の子孫に返ってきますよとか、いろんな脅しがあるでしょ?』
『脅し?』
『そう。怖がらせて、信仰させようとする。でも、そんなのまったくないんだ。だって、神はっていうか、宇宙はさ、どんな俺らも受け止めて、まるのまま愛してくれてるんだから。それはね、無償の愛なんだ。こうだからいけないとか、こうしないと裁くとか、そんな見返りなんて求めちゃいない。自分を信じようが、信じなかろうが、そんなこともどうでもいいこと。どんな人もまるごと包み込み、愛してるんだから』
『そっか…』
『それに、そういう無償の愛の存在なんだよ、みんな』
『だって、私たちって、宇宙そのもの…』
『そ。大いなる存在なの。みんなね。み~~んな一つの大きな意識』
『じゃ、神が罰を下すなんて、自分が自分に罰を下してるようなもので』
『うん。そうなんだよ。そんなこと絶対、したりしないのにさ』
「話の続きをしてもいいかしら」
ノエルさんが、私たちが心で会話をしている間黙っていたが、口を開いた。
「あ、はい」
みんな、うなづいた。
「夏樹くんからの連絡ではね、いきなり、多くの人がいるところはねらわないようなの。その前に、天からの罰をみんなに知らしめるために、前触れって言うのかしらね。そういうことをするようなのよ」
「多くの人がいなくても、まさか、死人が出たりしますか?」
悟くんが聞いた。
「……」
ノエルさんが、しばらく黙ってから、
「かもしれない…。それをどうにか、阻止しようって父も、そして夏樹くんも動いてるわ。もうすでに」
「どうやって?」
「まず、春彦くんと冬美さんが目覚められるよう、今日の朝日を二人に浴びさせるって夏樹くんが言ってたわ。それから、無差別殺人をしそうなところを、夏樹くんが父に教えてくれたから、もう警察が配備についてるわ」
「じゃあ、俺らは何をしたら?」
「教団に行って欲しいの」
「教団に?」
「夏樹くんと会って、協力して阻止して欲しいのよ」
「ど、どうやってですか?」
「4人くらいは潜入して欲しい。それから残りの人は、警察の方に協力して欲しいの」
「…4人で潜入?」
「夏樹くんが、よく友達や知り合いを、教団に勧誘して連れていってたみたいで…。あ、こっちの次元の夏樹くんだけどね。それで、夏樹くんと年が近い人が、夏樹くんの友人のふりして潜入して欲しいのよ」
「俺、行きますよ」
悟くんが言った。
「じゃ、私も」
葉月ちゃんがそう言うと、
「俺も行きます。」
と、陽平くんも手を挙げた。
「じゃ、私も!」
珠代ちゃんも手を挙げたが、同時に、昴くんも手を挙げていた。
「じゃ、5人で潜入してくれるかしら」
「え?」
ノエルさんの言葉に、私は驚いた。
「昴くんも行くの?」
「うん」
昴くんはうなづいた。
「じゃあ、私も」
「ひかりさん、今回は夏樹くんと年の近い彼らに行って貰いましょう」
ノエルさんがそう言った。
『い、嫌だよ。昴くんと離れるの…』
『大丈夫、俺ならいつでも、ひかりにエネルギー合わせてるから』
『でも、手の届くところにいて欲しいの』
『心配?』
『そうだよ、心配だよ。すぐそばにいなきゃ心配だよ、不安だよ』
『大丈夫だよ、ひかり。全部うまくいくから』
『でも…』
「その無差別殺人、実行するのはいつなんですか?」
悟くんが聞くと、
「明後日よ」
とノエルさんが言った。
「明後日?じゃ、今日入れて、3日だけしかないってこと?」
「ええ。明後日の夕方の予定」
「……」
しばらく私たちは黙っていたが、
「わかりました。絶対に阻止しましょう」
と悟くんが、真剣なまなざしでそう言った。
不安だった。昴くんがそばにいない。昴くんにもし、何かあったらどうしようか。すぐそばで、昴くんのことを守りたい。
『大丈夫だよ、ひかり。悟さんたちもいるんだから』
『でも…』
でも、潜入っていったい何をするの?
「潜入ってことは俺ら、信者になりすますってことですか?」
昴くんがノエルさんに聞いた。
「ええ。夏樹くんの勧誘を受けて、教団に入ったってことにする予定よ」
「5人も?」
「ええ。そのくらい、いきなり入ることはめずらしくないようよ」
「そうなんだ…」
昴くんが、少し驚いていた。
「でも、こんな時期で、怪しまれないですか?」
悟くんが聞いた。
「夏樹くんたちは、教祖の子供でしょ?信者も一目置いてるの。けっこう今までも勧誘を成功させて連れてきてるし、怪しむ人はいないと思うわ」
「ノエルさん、なんでそんなことまで知ってるんですか?」
葉月ちゃんが、聞いた。
「夏樹くんや、お父さんから聞いてるから。私もね、今教団に入ったりしたら、疑われないかってそう思ったのよ。でも、夏樹くんが絶対大丈夫だって」
「そうですか…」
悟くんが、静かにそう答えた。
「夏樹くんが、朝日が昇る前には会いたいって言ってたわ。これから明け方までに、向こうの本部に着くよう、ここを出てくれる?」
「はい」
「あなたたちに光を出してもらって、それと同時に朝日を浴びることで、冬美さんと春彦くんも目覚めると思うわ」
「はい」
5人はうなづいた。
「じゃあ、悟くん、車を出してくれる?」
「はい」
悟くんはそう言うと、車のキーを上着のポケットから出した。
「本部の地図を、夏樹くんからパソコンで転送してもらったの。それを印刷したわ。これよ」
ノエルさんが悟くんに渡した。
「はい、わかりました」
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい」
5人は荷物を持って、玄関に向かった。
『昴くん…』
『大丈夫!安心してて、ひかり』
すごく不安だ。でも、不安は黒い霧を出す…。それをすかさず、昴くんが光で消してくれた。大丈夫。昴くんなら、大丈夫…。私は必死でそう思った。
玄関で5人は、
「行ってきます」
と言って、暗い外へ出て行った。
「さあ、残りのみんなにも、いろいろとしてもらうことはあるわ」
ノエルさんはそう言うと、指示を出し始めた。
「ひかりさんと流音さんには、漆原さんと共に行動して欲しいの。警察にいる仲間が、もう集まってる」
「はい」
「今回、無差別殺人が起きるだろう場所に、もう彼らは行ってるわ。相手側がどう動いてくるかを見張ってる」
「場所はどこなんですか?」
「高級レストラン」
「え?」
「ホテルの最上階にある」
「なかなか人が出入りできないんじゃないですか?」
「そうよ。もしかしたら、お客として来るのかもしれないし、従業員が教団の仲間かもしれない」
「……」
「ひかりさんと流音さんには、ホテルに泊まってるお客として行って欲しいの」
「はい」
「今日、昼に行ってみてくれる?ホテルの従業員に仲間がいるわ。それに警察が潜入もしてる」
「はい…」
私と流音さんは、同時にうなづいた。
「私はここにいて、夏樹くんたちからの連絡を待ちます」
「じゃ、私とひかりさんも、そろそろ出たほうがいいですよね?」
「ええ。途中で漆原さんと落ち合っていろいろと、打ち合わせをしてね。連絡を取るのは、流音さん、任せるわ。心で漆原さんと交信してくれる?」
「はい。わかりました」
「車は、榊さん、運転していって。彼女たちを漆原さんと合流させたら、いったんまた、ここに戻ってきてくれる?」
「はい」
榊さんというのは、私と同じくらいの年の男性で、この次元でノエルさんの手伝いをしてる人だ。高い次元の榊さんがこの次元に来ていて、もう目覚めている。
「じゃあ、すぐに行きましょうか」
流音さんがそう言った。
「はい」
私は鞄を持った。そして、駐車場に向かった。
『昴くん…』
呼んだけど、返事がなかった。昴くんのエネルギーに合わせてみると、緊張感が漂っていた。ああ、昴くん、緊張しているんだ…。
私と流音さんは、車に乗り込んだ。そして榊さんがすぐに発進させた。
「漆原さんが、交信してきたわ」
流音さんが言った。
「まず警視庁の方に来てくれって。そこで白河さんから話があるそうよ」
「はい。じゃ、警視庁に向かいます」
榊さんがそう返事をした。
車内に緊張が走る。私も榊さんも流音さんも黙っていた。流音さんは、漆原さんと多分、話をしてるのだろう。
「ひかりさん…」
「え?」
「漆原さんがね、昴くんのことは心配ないって」
「え?」
「悟くんもいるし、それに夏樹くんっていうのは、かなりの高い波動の持ち主で、どうも、悟くんと同じ星の出身みたいよ」
「そうなんですか…」
「うん。だから安心して、自分のミッションを遂行して欲しいって」
「自分のミッション?」
「ホテルの泊り客としての潜入。もしかするとそこで、教団の誰かと会うかもしれないし…。何があるかはわからないけど、黒い霧を見たら光で消す。それだけは忘れないで。だから、いつでも光を出せる状態でいてくれって漆原さんが言ってる」
「はい」
そうか。私には私のミッションがあるんだ。うん、しっかりしなくっちゃ…。
「あの、私が昴くんのこと心配してるの、わかったんですか?」
「さっきね、昴くんが出て行くとき、ひかりさん、黒い霧を出してたでしょう?それで、漆原さんにそのことを今、心で話してたの」
「大丈夫ですよ。俺、二人のことをずっと見てましたけど、すごい光で闇を包み込んでしまう力を持ってる人たちだなって、感心していたんです」
榊さんがちらりと、バックミラーで私を見ながらそう言った。
「お二人の光なら、どんな闇にも負けませんよ」
「ありがとう」
そうだよね…。
『ひかり・…』
『昴くん?』
『今どこ?』
『車の中、これから警視庁に行くの』
『え?どうして?』
『白河さんが話があるって。それからホテルのお客として潜入する』
『ホテル?どこの?』
『明後日、無差別殺人をする予定になってるホテル』
『だ、大丈夫なの?』
『うん。流音さんと行くから。漆原さんもいるし、もう警察の仲間が潜入してるんだって』
『そっか。わかった。でも絶対に明後日までには、阻止するからね』
『うん…。昴くんは今、どこ?』
『もうすぐ、着くみたい。つい今しがた、ノエルさんから電話があって、夏樹さんと合流する場所教えてきてくれた』
『そう…』
『ひかり、何かあったら、すぐに俺に言ってきて。わかった?』
『うん』
『じゃあね』
『うん。気をつけてね』
……。昴くんの声がしなくなった。
明後日というと1月3日だ。まだお正月気分で、みんなゆっくりしている頃だ。ホテルに泊まり、レストランで食べる客ってどんな人たちなんだろうか。
それから1時間して、私たちは警視庁に着いた。入り口で漆原さんと合流して、最上階に向かった。
「やあ、ひかりさん、流音さん」
白河さんの部屋に通されると、白河さんが待っていた。
「こんばんは」
「こんな夜中に呼んですまないね。少しは休んで欲しいから、早めにホテルにチェックインできるよう手配は済んでいるよ」
「すみません」
「その前に、ちょっと打ち合わせをしておきたくて呼んだんだが…」
「はい」
「ホテルに潜入してもらうのは、ホテルの従業員か、泊り客に教団のものがいないかを、探って欲しいというのが1番の目的だ。それは今も、何人かの仲間が潜入して見てはいるが、今のところ見つかっていない」
「どうやって、探るんですか?」
「黒い霧を発してるかどうかだ。それから、彼らはきっと実行する前に、店に必ず様子を見に来ると思う」
「探り当てることが、できるでしょうか?」
「うむ…。なんとも言えないが…。だが、ここにリストがある」
「リスト?」
私が聞くと、
「夏樹くんから教団の信者のリストをもらっていてね。顔写真も載っている。丸がついているのが、今回、関わってるものたちのようだ。夏樹くんも、現場で誰が動くかは把握できていない。それを指揮してるのは、海藤玄本人らしい。夏樹くんは、本部でその後の対策を練ったり、本部での指揮をとる役目らしい」
「……」
「今回のレストランでの指揮をしてるのは、海藤玄だが、春彦くんも手伝っているらしいから、彼が目覚めたらかなり情報を得られるんだが…」
「そうですね。じゃあ、朝日が昇れば、ずいぶんとことが進むんじゃないですか?」
漆原さんがそう言った。
「うむ。彼らが目覚めてくれたらな…」
「……」
私たちは黙り込んだ。それは、昴くんたちに任せるしかない。
「じゃあ、漆原くん、そろそろ流音さんたちをホテルまで、送ってくれたまえ」
「はい」
漆原さんはうなづくと、私と流音さんを連れて部屋を出た。
「流音、ここから車ですぐだから、ホテルに着いたら少しでも寝るといいよ。レストランは昼、ビュッフェをしている。その時間にゆっくりとレストランで昼食をとるといい」
「わかったわ」
「ひかりさんも、ゆっくり休むんだよ?」
「はい…」
漆原さんにそう言われて、私はうなづいた。
ホテルに着き、チェックインを済ませ、私と流音さんは部屋に向かった。流音さんとは同室だった。
「警察の動きは、私が漆原さんと交信してわかるし、本部の様子は、昴くんからひかりさんに教えてもらえるわね」
「あ、そうですね。じゃ、もしかして、いろんな場所と交信できるよう、私と流音さんがここに潜入するようになっていたんでしょうか?」
「そうね。もしかすると、ノエルさんや白河さんはそのつもりだったのかもしれないわね」
「そうか…」
「でも、きっと宇宙がそういうふうになるよう、流れを作ってくれたのよ。だから、何も心配することはないわ。私ね、きっと海藤玄さんも、お子さんたちによって、闇のエネルギーを浄化するんじゃないかってそう思ってるの」
ベッドに腰掛けて、流音さんが優しい表情でそう言った。
「はい。そうですよね。そのために高い次元から来てるんですもんね」
「そう…。それにね、あなたと昴くんの光は、榊さんも言ってたけど、ものすごい光なのよ。あれで包み込んだら、絶対に浄化できると思うわ」
「はい」
「でも、心配は黒い霧を出す…。これって、昴くんがひかりさんを殺そうとしたとき、みんなで心配しちゃったじゃない?それでわかったのよね。心配は何も生まない。ううん、闇を生むかもしれない。だけどね、信頼は光を出す…。だから、みんなのことを信頼していましょうね」
「はい」
「海藤玄さんのこともよ。彼も本来は、愛と光の存在だものね」
「はい」
そうだ。宇宙船に行って、昴くんとそんな話をしたっけ…。
「さて、休みましょうか?お風呂はどうする?」
「はい、あったまりたいから、入ってきます」
「私は昨日夕飯の前、早い時間に入っちゃったの。だから、ひかりさん入ってきて」
「はい。じゃ、流音さん、もう休んでてください」
「ええ。ありがとう、そうするわ」
私は、バスルームに向かった。バスタブにお湯をため、それからゆっくりとつかって、体を洗ったりした。
『昴くん、聞こえる?』
『聞こえるよ。今、どこ?』
『ホテルに着いたの。今、部屋にいる。お風呂から出たら、少し休もうって思ってる』
『そうか、そうだね。休んだ方がいいね』
『昴くんは?』
『夏樹さんと合流できた。もう本部に来てるよ』
『どんな感じなの?』
『まだ、海藤玄には会ってない。だけど、夏樹さんのお姉さんに会った。教団にようこそって、部屋に案内された』
『部屋?』
『男部屋と女部屋があって、葉月ちゃんたちとは別れた。でも、常に悟さんと陽平が、葉月ちゃんたちと交信してる』
『そう…』
『夏樹さんが冬美さんに、朝日の出る前に瞑想をして、意識を高めようって提案をした。冬美さんもそれを了解したし、春彦さんもそれに参加するよう、冬美さんから話してくるらしい。多分、海藤玄も来ると思うよ』
『気をつけてね。黒い霧にやられないようにね。あ。その時私も、こっちから光を送るから、ちゃんと私に心で合図してね』
『わかった。5時半から始めるって言ってた。あと3時間はあるから、ひかり、休んで。俺も悟さんたちと、仮眠とるからさ』
『わかった。じゃあ、もうお風呂出るから、すぐに寝るよ』
『夢で会おうね』
『うん』
私は、急いでお風呂を出た。流音さんはまだ、起きていた。どうやら、漆原さんと交信していたようだ。
「流音さん、私、5時半頃起きて、昴くんに光を送ることにしたので、流音さんはゆっくりと寝ててください。あ、目覚ましをかけちゃうけど、いいですか?」
「ええ。いいわよ。気にしないで」
「はい」
「朝日が昇ると同時に、浄化ね?」
「はい。うまく冬美さんと春彦くんを、朝の瞑想に来るよう、夏樹くんが誘ったみたいです」
「そう…。うん!大丈夫よ。信頼していましょう」
「はい」
すべてはうまくいく。そういうふうになってるんだから、心配はいらない。私は自分に言い聞かせた。
それから、目覚ましをセットして眠りに着いた。
夢の中で、昴くんが私をいきなり抱きしめてきた。
「ひかり」
「昴くん」
「信じようね、全部を。みんなアセンションのために起きてることだから。ね?」
昴くんは私の中にある、不安に気がついているんだろうな。
「大丈夫…」
昴くんが、またぎゅって私を抱きしめた。
「うん…」
私も昴くんを抱きしめた。