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第3部 ミッション1 もっと次元を下げる

ここから、第3部が始まります。

低い次元で、ノエルさんと白河さんに何かが起きている…。助けに来て欲しい…。そう低い次元の私たちから言われ、私、昴くん、悟くん、葉月ちゃんとで、低い次元へと移行することにした。


ちょうど、私たちは年末年始ということもあり、仕事も休みだった。12月29日の朝、私たちは集まり、ノエルさんのマンションに向かった。こっちの次元のノエルさんが気になったのだ。行ってみたらノエルさんではなく、なんと漆原さんと流音さんが現れた。


「良かった!来てくれたのね。こっちからみなさんに、会いに行こうかと思ってたのよ」


流音さんが、ほっとした顔で私たち出迎えた。


「低い次元の俺らから、コンタクトがあって」


そう、悟くんが言うと、


「じゃ、低い次元に行ってくれるのか?」


と漆原さんが、熱く聞いてきた。


「そのつもりで来ました」


昴くんがそう答えた。


「よし!じゃ、俺らと一緒に行こう。白河さんもノエルさんも行ってるから」


「はい」


漆原さんと一緒に私たちは、ノエルさんの部屋にはいった。ノエルさんの、怪しい雰囲気のする部屋を真っ暗にして、漆原さんと流音さんは、なにやらぶつぶつ言い出した。


それに、DVDも流し、妙な匂いのするお香も焚いた。DVDからは、真っ黒な霧が出始めた。おどろおどろしい音楽に映像も、思い切り怖い。あ、ホラー映画だ。


うわ~~~~。すごい闇のエネルギーだ!体が重くなる。頭が痛くなる。隣にいた昴くんが、ぎゅって手を握ってきた。


辺りは真っ暗になり、ものすごい重圧感を感じて、そしてふっと体がもとに戻った気がして目を開けた。


「もう、低い次元だ」


漆原さんが、そう言った。


「気をつけてね。ここノエルさんの家だけど、ノエルさんが、闇のエネルギーと同化してるから」


「え?どういうことですか?」


悟さんが聞いた。


「こっちのノエルさんの中にある負のエネルギーが、闇のエネルギーとリンクしてて、闇のエネルギーの中に閉じこもってしまってるの」


「ノエルさん、この家にいるんですか…?」


葉月ちゃんが、こわごわ聞いた。


「ええ。1番奥の部屋に閉じこもってるわ…」


廊下の1番奥…、確かに、ドアからも黒い霧がもわもわと出ているのが見えた。


「ど、どうしたらいいんですか?」


葉月ちゃんがまた、こわごわ聞いた。


「光を送ってみてはいるんだけど…」


そう言う流音さんに私は、


「白河さんは?」


と気になり、聞いてみた。


「本山の屋敷から、出られないのよ」


「どうして?」


「とりあえず、ここは彼らに任せて、私のマンションに移動しない?」


流音さんは、私の質問に答えずにそう提案した。


「彼ら?」


昴くんが聞くと、


「ええ。高い次元から、サポートしに来てる魂が他にもいるの。ずっとここにいて、ノエルさんを守ってるわ」


「そうなんですか」


「低い波動の人間だと、闇に囚われる危険があって…。もう、その闇にすっかりのまれてしまった人もいるから」


「え?」


私たち4人が驚いていると、


「さあ、流音のマンションに移動しよう。車を用意したから」


と、玄関から漆原さんが入ってきて、そう言った。


私たちは車に乗り込み、流音さんのマンションに移動した。流音さんのマンションは、そこから10分もかからないところにあった。


中に入りリビングに通されたが、窓が大きく太陽の光がさんさんと降り注ぎ、とても心地のいい空間だった。部屋には、いくつも観葉植物が置いてあり、すごく奇麗な絵も飾られていた。その絵からも、不思議なあったかい光が見えた。


「この絵…」


私がその絵を見ながら、つぶやくと、


「私が描いたのよ。光が見える?」


と、流音さんが聞いてきた。


「はい」


「この部屋は、闇を浄化するようなものばかりを集めてるから、そうそう闇のエネルギーに、やられることはないと思うわ」


「ノエルさんはなんで、闇に?」


悟くんが聞いた。


「わからないわ…。闇をもう浄化できたと思ってたけど、最近になっていきなり、闇のエネルギーとつながり出して…」


「……」


私たち4人は、しばらく黙り込んだ。


そして、悟くんが口を開いた。


「でも、高い次元のノエルさん、来てるんですよね?」


「ええ。だけど、闇のエネルギーが強すぎて、表面に出られないんだと思うわ」


「……」


また、4人とも黙り込んだ。


「あ…、さっき、闇のエネルギーにのまれた人がいるって…」


昴くんがそう聞くと、流音さんは少し話すのを戸惑っていた。横で、何も話さず黙っていた漆原さんが、言いにくそうに言った。


「昴、お前にはちょっと辛いことかもしれないけど、司珠代さんなんだ」


「え?」


昴くんが、驚いていた。


「初めはノエルさんを助けるために、あのマンションに来てたんだけど、途中からおかしくなって」


流音さんが、話しづらそうに話し出した。


「おかしくなって…って?」


昴くんが聞くと、


「こっちの次元の昴くんに、いきなり泣き出して抱きついたり…。ひかりさんを、ののしり出したり…」


「ええ?!」


私も、昴くんも驚いてしまった。


「わ、私たちに?」


「あ…」


昴くんが、どうやら、こっちの次元の昴くんの記憶を思い出したようだ。と、同時に私もよみがえってきた。


「なんか、すごい豹変してる…。ものすごい黒い霧も出してた…」


昴くんが、思い出しながらそう言った。


「そうなんだよ」


ちょっと、辛そうに漆原さんが答えた。


「ひかり、そうとう怖がってたね。でもこっちの俺が、どうにか守ってたみたいだけど」


「うん。こっちの次元の昴くん、前と全然違ってた」


「そりゃ、そうだ。ひかりのことは、どの次元でも俺は守るから!」


いきなり、昴くんがそう言った。


「…今の、こっちの昴くん?」


私が聞くと、


「そう。高い次元のひかりだろ?久しぶりだな」


と、にかって笑って答えた。


「今、司さんはどこにいるんですか?」


悟くんが聞いた。


「彼女の家。ノエルさんもなんだけど、具合が悪くなって出られなくなってる」


漆原さんがそう答えた。


「寝込んじゃってるの。熱があるわけじゃないけど、体中冷たくなってガタガタ震えて…。そっちにも、高い次元の仲間が行ってるんだけどね」


「そうなんだ…」


昴くんは、少し心配そうだった。


「じゃ、白河さんも屋敷から出れないのは、体の具合が悪くてですか?」


悟くんが聞くと、


「白河さんは違うわ。もう、高い次元の白河さんも表面に出られてるし…。ただ…」


「ただ?」


「ただ、教団がね、マスコミにたたかれてて…」


「教団が?なんで?」


昴くんが、そう聞くと、


「白河さん、あなたやひかりさんに影響を受けて、ブログを始めたの。2012年に、地球は破滅など起きない。すべてが、うそっぱちだ。恐れることはない。そんな内容の…。それが、あっという間に注目を浴びて、本も出版されるってところまでいってたの。だけど、2012年に地球は滅びると本を書いてた作家が、白河さんのことも教団のことも、あることないこと並べ立て、テレビで反論しだしちゃってね」


「……」


みんな黙って聞いていた。


「それから、マスコミが教団のことをたたきだしたの。カルト集団だ。危ない教団だって。取材陣が今、本山の周りを囲んでて、毎日報道してる…。それで、出て来れないのよ」


「その、作家って誰なんですか?」


悟くんが聞いた。


「海藤玄って作家だよ」


漆原さんがそう言って、本を自分の鞄から出した。


「これだ。見える?黒い霧が出てる…」


「わ!本当だ。本からも黒い霧が出るの?」


私が驚くと、


「ブログやメール、手紙やFAXだって、エネルギーを出してるんだ。書き手のね」


と、漆原さんは言った。


「すごい恐怖をあおってるね」


悟くんが、その本を見ながらそう言った。


「ちょっと、手にするのも怖い…」


葉月ちゃんが、そう言うと、


「怖がることない。大丈夫」


と漆原さんは、その本をしまいながら言った。


「じゃ、白河さんは、ノエルさんのことを助けるわけには…」


「そうなのよ。今は、本山の中で報道陣からの闇を消すので精一杯なの」


「そっか…。じゃ、ノエルさんのことは、俺らがなんとかしないとならないのか」


「ええ。だからあなたたちを、こっちの次元に呼んだの。こっちの次元の昴くん、あやうく闇にのまれそうになってたし」


「俺が?」


昴くんが、驚いてた。


「司さんから出る闇と、リンクしそうになって…。悟くんと葉月ちゃんで、光を出して守ってたんだけど、ひかりさんも黒い霧に囲まれてたから、ほんと危なかったの」


「そうだったんだ」


「司さんと過去生とはいえ、何度も縁のあった魂だしね。昴くん、引きずられそうになったのよね」


「そんなことがあるんですか…?」


私が聞くと、


「ええ。ただ、高い波動でいられるなら大丈夫」


と流音さんが、安心させるよう私に言ってくれた。


「それで、こっちに来いってかなり、強引に言ってたのか…」


「昴、お前わかってると思うけど、ずっと高い波動でいろよ」


「わかってるって」


悟くんにそう言われて、昴くんは、まかしておけって顔でそう答えた。


「だけど、さっき一回、低い方出てただろ?」


「え?あ。あれはその…。ちょっと油断した。もう、大丈夫だから」


昴くんは、頭をぼりってかきながらそう言った。


「ひかりさんも、高い波動で…、葉月もだ。あまり、怖がったりしないで、なるべく俺に意識を合わせてるんだよ」


悟くんがそう言って、葉月ちゃんを見た。


「うん、わかった」


葉月ちゃんは、悟くんのことを見ながらうなづいた。


「とりあえず、俺ら、何をしたらいいんでしょうか?」


悟くんが、流音さんに聞くと、


「光で包んで欲しいのよ。ノエルさんと司さんを」


と、流音さんが答えた。


「俺と流音も、他のみんなも一緒に光を出す。本当は本山に連れて行って、朝日を浴びるのが1番なんだろうけど、今、いける状態じゃないからな」


漆原さんがそう言うと、


「じゃ、朝が1番、効果的ですよね?」


と悟くんが、言った。


「うん。明日の朝、朝日が昇ると同時に、みんなで光を出せたらいいんだが…」


「わかりました」


「とりあえず、今日はみんなそれぞれの家に帰って、また明朝、集まれるかしら」


「あ、それでしたら、俺がみんなのこと車で拾って、ノエルさんのマンションに行きます」


「悟くん、よろしくね」


「はい」


「じゃ、俺の車でみんなのことを送っていくよ」


漆原さんはそう言うと、先に荷物と上着を持って玄関を出た。


「じゃ、また明日…」


私たちも、流音さんに挨拶をして家を出た。それから漆原さんは、それぞれの家まで送ってくれた。


家に着くと、こっちの次元の母が、


「あら?遅くなるかもって言ってたけど、早かったのね」


とリビングで、テレビをのんびりと観ているところだった。


「うん。あ、でも明日も出かけることになって…。朝早いから、起きなくてもいいよ」


「そうなの?どこに行くの?」


「えっと、朝日を見に…」


「朝日?年の暮れに?初日の出見たほうがいいんじゃない?」


「うん。でも、みんな休みだから、早くから集まるのもいいかなって…」


「そうなの?ま、いいけどね。気をつけなさいよね。最近物騒な事件も、多いんだから」


「うん、わかってる」


こっちの次元では、私のいた次元とはまた違う事件が相次いでいるようだ。次元が違うと、ほんと、起きてくることが違ってくるんだな…。


部屋に行き、パソコンを開いた。私の小説のランキングは、かなり上位にあった。それから、やっと「今 このときを 愛してる」の出版が決まったようで、これからゲラ刷をするようだった。


「こっちの次元でも、今のところは私、忙しくないみたいだな」


あれ?でも、昴くんたちはどうなんだろう?


『大丈夫。仕事の予定、俺も悟さんも、入ってないみたいだから』


昴くんの声が聞こえた。


『昴くん?何してるの?』


『ブログ、書いてた』


『そう』


『ひかりには、うちに来てもらえば良かったかな』


『え?』


『明日、もしうちに帰れたら、泊まってってね』


『うん。でも…』


『心配は無しだよ?ノエルさんも司さんも、きっと大丈夫だから』


『そうだよね』


時々、不安や心配の気持ちが出る。どうも、こっちの次元の私らしい…。


葉月ちゃんは、たまに怖がっていたが、あれも、こっちの次元の葉月ちゃんだろうな。昴くんも、一回こっちの次元の昴くんが出てた。強引というか、ちょっと気が大きいというかなんていうか…。


私の次元の昴くんは、優しくていつも穏やか。楽天的で前向きで、なんでも楽しんでしまう。一緒にいると、楽しいし安心するしほっとできて、でも、それでもときめいちゃうのはなんでかな~。あ~、あの甘えん坊のところも、可愛いんだよな~~…。


『ひかり…』


『あれ?聞こえてた?もしかして…』


『うん、ずっと…』


『…もしかして、照れてる?』


『照れてないよ』


『うそ~。照れてるじゃん!』


『て、照れてないって。ただ、かなり嬉しいけど…』


『あ、そう?』


『そうだ。ブログに、ちょっと書いてみたんだ』


『何を?』


『アセンションのこと。ひかりの小説を読んで、自分も2012年に地球が破滅するなんてことはないと思うって』


『え?大丈夫なの?そんなこと書いて』


『うん。やっぱり、白河さんのように発信していかなくちゃ』


『そっか』


『白河さんのブログも見たんだ。確かに攻撃されてるけど、支持してる人もすごく多いみたい』


『そうなの?』


『コメントのほとんどは、応援メッセージだよ。その半分は、ものすごい光が出てるから、多分、高い波動の人が書いてるんじゃないかな』


『こっちの次元に応援に来てる人?』


『うん、だと思うよ』


『私も、小説の感想を読んでるんだけど、そんなに批判的なのはないな~~』


『多分、ほんの1部の人たちだね。それをマスコミは、面白く大げさに取り上げたんじゃないかな…。あ、白河さんのことだけどさ』


『大丈夫なのかな…、白河さんの方は』


『うん。とりあえず、俺らは今、ノエルさんと司さんのこと助けなくちゃ』


『そ、そうだよね!』


私たちは、交信を終えた。それから明日に備えて、泊まってもいいように用意をした。


昼食を終え、また部屋に戻ると携帯が鳴った。


「星野さん!今すぐノエルさんのマンションに来てもらえますか?」


葉月ちゃんからだった。


「どうしたの?」


「漆原さんから悟くんに電話が来て、ノエルさんがいきなり消えたって…」


「き…、消えた?!」


私は電話を切ると、すぐに用意をしていた鞄を持ち、リビングに行った。


「ごめん、いきなりみんなで、温泉行く話になって」


「え?」


「急なんだけど、いきなり…、や、宿が取れたって言うから…」


「誰と?」


「みんな…。昴くん、悟くん、葉月ちゃんと」


「あんたそんな人と行って、また写真にでも撮られたら…」


「大丈夫。気をつけるから。じゃ、行ってくる。しばらく泊まってくる」


「え?いつ帰るの?」


「7日くらいかな」


私は葉月ちゃんに、しばらく旅行ってことにしましょうと提案されたように母に言ったが、最近嘘ばかりで申し訳ないと思ってしまい、黒い霧をいっぱい出してしまった。それを慌てて消して、家を飛び出した。


電車に乗り、ノエルさんのマンションまで直行すると、もう葉月ちゃんも悟くんも来ていた。


「あれ?昴くんは?」


「司さんの方に行ってる」


「え?」


「司さんも、異変が起きたらしくて」


「そ…、そうなの?」


「みんな、ノエルさんの部屋まで来てくれる?」


流音さんが、ノエルさんの部屋から出てきてそう言った。


「はい…」


おそるおそる行ってみると、中には3人の人がいて、ノエルさんはいなかった。


「何があったんですか?」


「ものすごい闇に一気にノエルさんが包まれて、そのあと、忽然と消えてしまったらしいの」


「ええ?」


葉月ちゃんが驚いていたが、悟くんは冷静に、


「低い次元への移行ですか?」


と、流音さんに聞いた。


「そのようね」


「低い次元への移行っていうと、私たちがこの次元に来たみたいに?」


「そう…。体ごと、行っちゃったみたい。今頃もっと低い次元のノエルさんと、同化してるはず」


「なんでそんなこと?」


「ものすごい闇に包まれたから、もっと波動が下がったんじゃないかしらね」


「ここにいた人たちは、大丈夫だったんですか?」


「光を出していたから大丈夫でした。でも、その光をまったく寄せ付けないくらいの、ノエルさんは黒い霧に覆われてしまってたんです」


「司さんは?大丈夫かしら」


「昴が行ってます」


悟くんが、冷静にそう言った。


『ひかり!』


「あ、昴くんから、交信が来た」


「なんて?」


流音さんが聞いてきた。


「待ってください、今聞いてみます」


『ひかり、司さんが消えた』


『司さんも?』


『うん。ものすごい闇に包まれてて、光をみんなで送ったけど、いきなり忽然と…』


『ノエルさんと同じだ』


『とにかくみんなで、ノエルさんのマンションに行くから』


『うん』


「あの…、司さんも消えちゃったって。それで、司さんのところにいた人みんなで、こっちに来るって言ってました」


「そう。司さんも…」


「いったい、何が起きてるんだろうな」


漆原さんが、顔を曇らせてそう言った。その時、漆原さんの携帯が鳴った。


「はい。あ、白河さん…」


どうやら、白河さんのようだ。


「すみませんでした。何も役に立てなくて、守れませんでした。え…?」


漆原さんは、しばらく黙り込んで話を聞いているようだった。


「そ…、それは本当ですか?」


顔がどんどん青ざめ、そうとうショックを受けている。どうしたというのか…。


「はい…。白河さんも行かれるんですか?はい…。俺と流音ももちろん助けに行きます。はい。みんなには俺から伝えます。気をつけて…」


そう言うと、漆原さんは電話を切った。


「何か、大変なことでもあったんですか?」


悟くんが聞いた。


「……」


漆原さんは、しばらく黙っていたが、どうやら心で、流音さんと会話をしていたらしい。流音さんの表情もどんどん曇っていった。


「そ、そんなこと…」


驚きを隠せない様子だった。


「何があったんですか?ノエルさんにですか?」


私も聞いてみた。流音さんは、私の顔を見て表情が固まった。


「あの、白河さんも、低い次元に行ったんですか?」


私が聞くと、漆原さんが答えた。


「ああ…。俺と流音もこれから行く」


「じゃ、俺らも行きますよ。葉月と一緒に」


悟くんがそう言った。


「ノエルさん、助けに行きます」


葉月ちゃんもそう言った。だけど、暗い顔をして流音さんは、


「違うのよ。ノエルさんは、助けに行ってるの」


と低い声でそう言った。


「…どういうことですか?」


悟くんも低い声になっていた。


「どうも、低い次元に大変なことが起きたことを察知して、行ったようなの…。ノエルさんのミッションだったのね」


「誰を助けに?」


悟くんが聞くと、流音さんと漆原さんが私を見た。


「…私?」


私がそう聞くと、


「そう…。ひかりさん」


と、二人は同時に答えた。


「星野さんに何か、あったんですか?!」


葉月ちゃんが二人に聞いたが、二人とも黙って見つめ合っていた。心で、何か会話をしているようだ。


しばらくして、ようやく漆原さんが口を開いた。


「ひかりさん…。驚かないでくれ。とにかく落ち着いて聞いて欲しい」


「はい…」


「この次元よりさらに低い次元では、こことはまったく異なった出来事が起きている。低い次元で起きるのだから、かなり、その…、大変なことも起きる」


「…はい」


「何かの事件に、巻き込まれてるとか?!」


葉月ちゃんがそう聞くと、


「そうだ…」


と漆原さんは、重い表情で答えた。


「事件って…?」


悟くんも、表情が固まっていた。


「ひかりさんが、誘拐された」


「誘拐?!」


悟くんと葉月ちゃんは、同時に声をあげた。


「ある事件に関わって…、いや、当事者ではない。ひかりさんのお父さんのことで、巻き込まれて…」


漆原さんは、話しづらそうだった。


「私の…、父が何かしたんですか?」


「ああ…。どうやらその次元では、会社を経営してて成功をし、その規模を拡大させていってる。他の会社を買収しながら…。そして、ある会社をのっとったんだが、ちょっとあくどいことをして、その会社の社長を、死に追い込んだんだ」


「……」


信じられない。この次元では少し父は怖いが、私の次元では穏やかで、平凡が1番の普通のサラリーマンだ。それなのに…。


「それで?その…、復讐とかですか?」


悟くんが聞いた。


「そうだ。自殺をしたその社長の息子が、さらったらしい」


「それって、相当危険な目にあってるってことじゃ…」


いつも冷静な悟くんが、動揺した。葉月ちゃんは私を見ながら、言葉を失っていた。


「殺されるかもしれない…と白河さんが言ってた」


「え?」


『ひかり?』


『昴くん…』


『どうした?何があった?』


『…え?』


『ものすごい動揺してない?それに、エネルギー低いよ』


『あ…』


『ノエルさんのこと?でも、派動をあげてないと…、ひかり』


『……』


『どうしたの?待って!もうすぐ着くから』


「大丈夫?ひかりさん、真っ青…」


流音さんが、私の肩を抱きながら光で包んでくれた。


「はい。今、昴くんも来てくれるし、大丈夫です…」


私がどうにかそう言うと、ますます漆原さんの顔が曇った。


「まだ、言ってないことがあるんだ…」


そう漆原さんが、言おうとしたが、


「それは、昴くんが来てからのほうがよくない?」


と流音さんが、漆原さんに言った。


「昴に言うのか?」


「言わなくても、ひかりさんに言えば、昴くんに伝わるでしょ?心で会話できちゃうんだから」


「……」


漆原さんの顔がもっと曇る。あの元気で明るい漆原さんが、こんな暗い顔をするなんて…。


私、違う次元で殺されたら、この私はいったいどうなるの…?


『殺されるって…?』


あ、昴くんが、聞いてたんだ…。


バタン!ものすごい勢いで、ドアが開いた。


「昴くん…」


みんなが、いっせいに昴くんを見た。漆原さんの顔は、厳しかった。


「こ、殺されるって、どういうこと?」


昴くんの顔色もよくない。


「低い次元でのひかりさんのことだよ、昴…」


悟くんが、私と昴くんに光を送りながらそう言い、


「とにかく、落ち着いて…。漆原さんが詳しいことを白河さんから聞いてる。今、説明してくれてたところだ」


と、昴くんを落ち着かせた。


「…低い次元?」


「ノエルさんが行った次元だ。白河さんももう、行ってるよ」


「…なんで、ひかりが…?」


『事件に巻き込まれたって…』


『え?』


私が、昴くんに心で今、聞いていたことを再現した。


「ひかりのお父さんが?」


昴くんも驚いていた。


「ひかりをさらったやつ、何の目的があって?」


「昴…、今、俺も低い次元の俺に、状況を聞けた…」


悟くんが、真っ青になりながら話し出した。


「どうやら、俺がその事件のことを知り、低い次元のノエルさんに相談をしたようだ。ノエルさんから白河さんに情報が伝わったらしい…」


悟くんは、冷静な話し方ではあったが、顔色はすぐれなかった。悟くんも真っ青になるくらい、事態は大変なことが起きているのか…。


「俺も、低い次元の俺と交信できる?」


昴くんが聞いた。


「無理だ。」


悟くんがそう言った。


「なんで?悟さんできんのに…」


「俺は、そういうのが得意なんだ。どの次元の俺とも交信できるし、どの次元の俺も、その次元に囚われていない」


「え?」


「多分、白河さんもそうだ」


「…じゃ、俺もすぐに行って、ひかりを助ける!」


「ちょっと待って、昴くん。まだ、話の続きがあるの…」


流音さんがそう言うと、昴くんをリビングのソファに座らせた。


「…流音さん、俺から説明する。詳しいこと、いろいろと聞けたから」


悟くんが、神妙な顔つきでそう言った。


「ひかりは?今は大丈夫なのか?」


昴くんが、いてもたってもいられない状態でそう言った。


「大丈夫だ。今のところは…。まだ、さらわれて間もない」


「さらったやつ、なんの目的で?」


「復讐…」


「それで、なんでひかりを?だったら、ひかりの父親に直接復讐すればいいだろ?」


「多分、推測だけど、1番大切なものを奪って、復讐するつもりじゃないのかな」


「じゃ、まさか、目的は星野さんの命…」


葉月ちゃんは、それ以上言葉を続けられなかった。


「……」


悟くんが黙りこんだ。葉月ちゃんは、悟くんをじっと見た。悟くんに、エネルギーをあわせて会話をしているようだった。


「まさか!」


葉月ちゃんが、真っ青になった。そして、黙り込んだ。


「何?なんだよ?!葉月ちゃんも悟さんも、なんか隠してない?」


「……。ひかりさん…、それに、昴…。気を確かに持って、聞いてくれ…」


悟くんが、重苦しくそう言った。


「……」


ゴク…。怖い…。昴くんは、私のことを見てから手を握ってきた。


『大丈夫、どんなことがあっても、どんな次元のひかりも俺が守る』


昴くんは、そう心で言ってきた。昴くん…。そうだよ。大丈夫。昴くんがいるんだから…。その次元にだって…。


「昴なんだ」


「…え?」


私と昴くんが、同時に悟くんに聞いた。


「何が…?」


昴くんは、もう1度聞いた。


「さらった犯人…」


「…え?」


昴…くんが…?


「あ…はは……。何言ってんの、悟さん。俺がひかりのこと、さらうわけないじゃん」


「昴の父親が、自殺したんだ…」


「……。俺の…?」


「一ヶ月前だ。行方不明になってて、探して…。遺体と遺書が見つかったのは、ほんの2~3日前。でも、死後一ヶ月はたってるだろうって…。ニュースにもなってた」


「一ヶ月前って…」


「昴の父さん、何かその頃…」


「事故にあった。でも、奇跡的に助かったから、ほんと、かすり傷くらいですんでる」


「この次元の昴くんのお父さんは、一月前、いきなり心臓発作で倒れたのよ…」


「え?」


みんな驚いて、流音さんを見た。


「命はとりとめたわ」


「…他の次元でも、影響が出るってこと?」


葉月ちゃんが聞いた。


「もし、星野さんが、低い次元で死んだら、こっちの次元の星野さんにも、何か…」


「出るだろうね」


悟くんが、冷静に言った。


「……。それより…、今、ひかりがその次元に行ったら、同化したまま死ぬかもしれないってこと…?」


昴くんが、真っ青な顔のまま聞いた。


「そうなるかな…」


悟くんが答えた。


「ひかり…、行っちゃ駄目だ…」


「え?」


「ひかりは、ここにいて…」


昴くんは、震える声でそう言った。


「だけど、ひかりさんと昴が行かないことには、その次元の二人を救えないよ」


悟くんが、そう言った。


「……」


昴くんは、言葉を失った。しばらく黙り込んで、


「俺…も…?」


と小さな声でつぶやくように聞いた。


「そうだ。昴も行かなくちゃ」


「…俺、ひかりに手をかけるかもしれないんだろ…?」


「そうだな。だから、それをお前が…」


「そんなの…、冗談じゃない…。そんな場面に居合わせられない…。俺…」


昴くんは、泣きそうだった。ガタガタ震えながら、体を丸めていた。


「だから!お前が低い次元のお前の中から、阻止するんだよ。他に誰がそれをできるんだよ?」


「……」


昴くんは、頭を抱えた。昴くんの心は、恐怖でいっぱいになってる。こんな昴くんは初めてだ。


「昴!派動を下げるな!」


悟くんが、珍しく声をあらげた。


「お前が、高い波動でいないと、助けることなんてできないんだぞ!」


『わかってる…、わかってるけど…』


昴くんは、心でそう言った。でも、声が出ないようだった。しばらく昴くんは下を向いたまま、手を震わせていた。


『俺が…?俺が、なんで…?』


ずっと昴くんは、それを心の中で繰り返していた。そしてようやく、


「なんで、俺、なんで、そんなこと…」


と悟くんの方を見て、声に出して聞いた。


「それも、ミッションだ」


「ひかりを、殺そうとすることが…?」


昴くんは、わなわな震えながら悟くんにそう言ってから、


「冗談じゃない。そんなのがミッションだなんて…。なんの意味があるって言うんだよ?!」


昴くんは、とうとう怒鳴り出した。


「わかんねえよ。でも、アセンションのためだ」


悟くんも、辛そうな表情をした。


「アセンションのために、なんで俺が、ひかりを殺そうとするんだよ…」


昴くんは、泣き出した。


「意味ねえよ。そんなこと…。俺はひかりを愛するために、地球に来てるんだよ。なのになんで…」


ギュウ…。


「ひかり?」


私は、昴くんを抱きしめた。昴くんの苦しみも、悲しみも辛さも、痛いほど伝わってきた。


「大丈夫だから」


私が言うと、昴くんは驚いた顔をした。


「昴くんは、絶対、どの次元でも私を愛してくれる」


「……」


「私だって、どの次元でも昴くんのことを愛すると思う」


「ひかり…?」


「私、行くよ。どんな昴くんでも愛して、光で包みに行くから」


「駄目だよ、ひかり…」


「嫌だ。低い次元の昴くんのこと、殺人犯になんてしたくない。それに…」


「……」


「それに昴くん、きっとものすごく苦しんでる…」


「俺が…?」


私は、もう一回昴くんのことを抱きしめた。


「私が、昴くんを守る!」


「ひかり…」


昴くんも、ぎゅって私を抱きしめた。


「わかった…。ひかり、俺も行くよ…。それで、絶対にひかりに手をかけないようにする。絶対にひかりを守る」


「昴、ひかりさん。俺らも行く。みんなで行って、二人に光を送る。どんなことがあっても、二人を守る」


悟くんも、力強くそう言ってくれた。


「じゃ、すぐに行こう。一時の猶予もない」


漆原さんはそう言うと、ノエルさんの部屋へと移動した。私たちも、後に続いた。私の手を握っていた昴くんの手は、震えていた。


『ひかり…。愛してるよ』


『私も愛してるよ』


『ずっと、いつでも、俺はひかりを愛してるよ…』


『うん…』


ギュウ…。昴くんは、つないだ手に力を入れた。


ノエルさんの部屋を締め切り、変な匂いのお香を焚く。暗いDVDもかける。それから、どんどん黒い霧が発せられた。辺り1面が真っ暗闇に覆われていった。


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