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ミッションゼロ 苦しみを知る

 私には夫がいた。25歳のときに4歳上の彼と、半年付き合ってすぐに結婚をした。社内恋愛だった。ちょうど、友達が何人か結婚し始めて、結婚式に行くたび羨ましくなっていたときだ。


 彼の方も、30歳になるまでにと、焦っていたみたいだった。親からも早くに結婚しろと言われ、子どもも早くに作れと、口うるさく言われていたようだ。


 私と結婚し、彼も、彼のご両親も安心した。そうして、子どもができるのをみんなが心待ちにした。

 私は結婚して、2年子どもができないでいた。彼の親から、一回病院で調べてもらったらどうだと言われ、調べに行くことになった。結果は不妊症。卵子の数が少ないと言われた。


 そして、不妊症の治療を受けて1年後、ようやく私は妊娠した。夫も夫のご両親も、もちろん私の両親も、大喜びだった。

 だけど8ヶ月で破水…。ものすごい痛みの中病院に駆けつけたときには、遅かった。赤ちゃんはもう、息をしていなかった。


 夫は落胆した。夫のご両親から私は、

「体を大事にしなかったせいだ。」

とののしられた。


 そうだ。私はぎりぎりまで、働いていた。でも、まさかそんなことが起きるなんて思ってもみなかった。


 私の両親は、夫や夫のご両親に謝っていた。

 なんで…?私が、1番ショックを受けているのに…。

 退院するときにも、夫は来てくれなかったし、それから夫は、家に飲んで帰るか、帰らない日も増えていった。


 そしていきなり、それから半年して、離婚してくれと言われた。


 夫は不倫をしていた。その相手に赤ちゃんができたと言うのだ。夫のご両親も、頭をさげて、離婚して欲しいと言ってきた。どうしても、孫が欲しいと言う。夫の代で、血を絶やしたくない。跡取りが欲しいと言われた。


 釈然としなかった。いくら、赤ちゃんを流産したとはいえ、なんで、不倫相手と夫が結婚して、私が離婚しなくちゃならないのか…。

 私の両親は、しかたのないことだと言った。それだけだった。


 私は、実家に戻った。

 実家には、兄がいる。まだ、結婚もしていない。兄も、私の両親も冷たかった。


 親は、

「バツ一になるなんてみっともない。親戚やご近所になんて言われるか…。」

と言い、兄は私に、何も言ってくれなかった。


 私の、悲しみや、苦しみをわかってくれる人なんていなかった。


 私は、毎日のようにおなかの子に話しかけていた。生まれてくることを楽しみにして、産着を揃えたり、絵本を読んで聞かせたり…。それなのに、消えてしまったんだ。大事な私の赤ちゃん…。

 ショックで、私は立ち直ることができなかった。


 会社は、流産してすぐに辞めた。離婚して家に帰ってからは、3ヶ月間家の中にこもった。

 バツ一の友人の薫が、そんな私を心配して私をどんどん外に連れ出してくれた。そして、薫の家に遊びに行ったり、外食をしに行くまで私は、回復していった。


 薫が、飲み会にも誘ってくれた。その場には何人かの独身男性も来ていた。そのうちの二人と、私と薫が仲良くなり、また、4人で飲みに行ったりもした。薫はそのうちの一人と、お付き合いを始めた。

 もう一人の人は、たまに私を誘ってくれたが、私はまだ男の人と付き合う気がしなくて、二人だけで会うのは避けていた。


 あ…。ふと、今思った。もしかして、あの宇宙船で会った人って、あの人?彼の名前は、緒方文也。もしかして、そうかな?会って確かめてみるかな…。


 その頃、学生時代の独身の友人の美里が、久しぶりに会おうと連絡をくれた。美里に会うと、お付き合いをしている人もいるんだけど、まだまだ遊ぶんだ、と言った。


「ね。ひかりも一緒に楽しもうよ」

 ひかりというのは、私の名前。


「でも美里、私たちもう29だよ。美里は結婚考えないの?」

「あと1年は遊ぶの。あ、彼氏はキープしておいて…。海外旅行にも行くし、コンサートや舞台も行くし。そうだ!私が好きな舞台が、6月にあるんだよ。毎年してるのに、去年はなかったんだ。だから、今年楽しみで…。ね、一緒に行かない?笑いあり、涙ありの面白い舞台だよ」


「舞台?」

 興味がなかった。でも、美里の話の続きを聞いた。


「3月にチケットは発売予定。私の好きな役者さんが出るんだ。あ、主人公は、まだ、19歳の若手。初めての舞台だって。イケメンだよ~~~。それも楽しみ」

「誰?」


「天宮昴。知ってる?今、ドラマにも出てて、活躍してる…」

「…知らない」

「知らないの?テレビ観ないの?」


「うん…。あまり。ここのところ、テレビは観てなかったんだ。本は読んでたけど」

「そうなの?ま、いいや。行こうよ。反戦のお芝居なんだよ」

「ふうん。いいよ」

「じゃ、チケット発売したら、取るからね」

「うん」


 あまり興味はなかったけど、でも、いろんなものを見たり、いろんなところに行っていたら、気も晴れて早くに立ち直れるかもしれないと、私はその時思っていた。


 それから、時々美里とは、ランチをしたり映画を観に行ったりした。温泉旅行にも行った。そのたびに、自分が好きな俳優の話や、舞台の話を聞かされた。

 美里が好きなのは、今24歳になる、イケメン俳優の結城悟。今度の舞台にも出るようだ。


「年下じゃん。あまり興味ないな~~」

「年下って言っても、5歳下なだけだし。やっぱり、かっこいいのよね~~。今の彼は30になるけど、30ってもうお腹出てくるし、おっさんだと思うわ」


「ええ?そう?私は絶対に年上がいいな」

「あ、飲み会で会った、緒方さん、年上だったっけ?」

「うん。32歳だったかな」


「どうなの?進展あったの?」

「ないよ」

「なんで?」

「なんか、いまいち会う気がしなくて」


「もったいないな~~。とりあえずキープしておけばいいのに」

 そんな話をしながら、温泉に入っていた。


 部屋に戻り、テレビをつけると、

「あ!ほら、ちょうど天宮昴が出てるドラマ、やってるよ!」

と美里が教えてくれた。


 19歳でしょ?興味ない。10歳も下なんてって思いながらそのドラマを観た。だけど私は、すごく綺麗な顔立ちに、どんどん惹かれていった。まだ、19歳とは思えないほどの色気もあるし、時々、かわいらしい表情もする。


「ね?かっこいいでしょ?」

 私がテレビを観て、くぎづけになってるのを知り、美里がそう言った。


「う…うん」

「年下もありよ。なんだか自分の年齢があがっていくと、年下の男の子が可愛く見えていくものなのよね」

「え?」


「もう、おばさん化してるかな~~」

 そう言って、美里は笑って、

「でも、いいよね。こういう楽しみも。6月にやる舞台、楽しみだよね」

と言った。


「…うん」

「でも、その前に、映画に昴くん出るよ。4月から公開の映画。観にいけば?」

「うん。行こうかな…」


「舞台挨拶も行けば?」

「いい、いい…」

 まさか、そんなおっかけみたいなことはしたくない。みっともないし。私が10代ならまだしも…。


 旅行から帰り、天宮昴の出ている映画や、ドラマのDVDを借りまくって観た。そんなに何本もまだ、映画にもドラマにも出ていないし、主役になったこともない。でも、いろんな役をこなしている。


 映画にも、私一人で観に行った。大きなスクリーンに映し出された彼の顔、すんごい綺麗だった。

「は~~~」

 やばいことにはまった。まさか10歳も年下に…。ま、いいか。今は、彼氏が欲しいとも思わないし、芸能人にうつつをぬかしている方が楽だって私は思っていた。


 家にいても、親とも兄ともほとんど話をしなかった。

 そろそろ、社会復帰をしようと、アルバイトを始めた。会社に勤める気はしなかったので、本屋でアルバイトをすることにした。


 そこは大きな本屋で、首都圏にあり、たくさんのサラリーマンやOLが毎日来ていた。時々、芸能人がサイン会も開いていて、その手伝いもさせられた。

 美里の好きな俳優の結城悟も写真集を出し、うちの店でサイン会をした。もちろん美里は駆けつけた。


 私は、並んだ人たちに整理券を配ったり、並べたり、けっこう大変だった。だけど、結城悟を間近で見ることが出来た。さすが、今1番売れてる俳優、オーラが違う…。なんか、いるだけで光輝いて見えた。


 サイン会が終わり、私が片づけをしていると、美里がやってきて、

「悟と握手できた~~。嬉しい、もう、手洗えない!」

とさわいだ。


「え~~?手は洗ってよ。きたないじゃん」

「何言ってんの?ひかりだって、昴くんと握手できたら、手洗えなくなるから!」

「う、う~~ん。そうかも」


「昴くんも去年、写真集出して、ここでサイン会したのよね。また、写真集出したらいいのに」

「え?!ここで?いつ?」

「知らないの?去年の10月頃。写真集持ってないの?」


「持ってるって言うか、買ったけど…。え~~~!!!」

 なんだ~~。もう少し、早くにファンになってて、ここでバイトをしていたら…。


 とはいえ、去年の10月といえば、まだ、離婚してショックで家に閉じこもっていた頃だ。そりゃ、無理な話だな…。

 ああ…。また、写真集を出してくれるのを、待つしかないか~~。


 すっかりはまりにはまった私は、6月の舞台を楽しみにしていた。その頃、薫から電話が来て、4人で飲みに行くことになった。


 その帰り、緒方さんが家まで送ってくれた。そして、

「もし、良かったら、お付き合いしてもらえないかな。実は、離婚して間もないっていう話を薫さんから聞いてたから、今まで、誘うのも控えていたんだけど…」

といきなり、言い出した。


 え…?そうだったの?

 私は驚いていた。もう、この人とは、なんの接点もなくなり、そのまま、会うこともなくなるだろうって思っていたから。


「あの…。私、まだ…」

「じゃ、ご飯を食べに行ったりするくらいは、どうかな?」

「…はい」


 乗り気はまったくしなかったが、はいと言ってしまった。それからは、週に一回連絡が来て、バイトの帰りに会い、ご飯を食べた。でも、本当にご飯を食べるだけだった。


 結婚も男の人も、なんだか怖かった。また、去っていかれたらとか、また、苦しい思いをしないといけないのかとか、それが怖くて、付き合う気にはやっぱりなれなかった。

 どうやって、今度連絡があったら断ろうか…。そんなことを考えるんだけど、また誘われると、ご飯を食べに行っていた。


 美里に言うと、いやになったらすぐ別れたらいいんだからって言われた。そりゃ、そうなんだけど…。

 はあ…。やっぱり、芸能人を見て、わくわくドキドキしているほうが楽だ。


 私は雑誌に昴くんが載っていると、買ってきては眺めていた。10代の子が読むような雑誌で、買うのが恥ずかしいけど、でも、なるべく自分のことを知ってる人がいないような、そんな本屋に行き、買っていた。自分がバイトをしている店では、とてもじゃないけどさすがに買えない。


 そして、家に帰って、わくわくしながら、昴くんの記事を読む…。

 携帯の待ち受けにもしていたし、パソコンのトップの画面も昴くんだった。


 そんなに毎日、昴くんのことを見ていたからか、何日も立て続けに夢に出てきて、朝起きるたびに私は、

「やった~~!」

って喜んだ。ああ、情けない。私は中坊か…。


 夢は、いつも昴くんが、ただこっちを見て笑ってるだけ。そして、すって姿を消していた。

 そんな日々を送っていた。離婚のショックもかなり消え、赤ちゃんのことも忘れかけ、美里にランチを誘われ、電車に乗ろうと駅の階段を登った時だ。転落したのは…。



 離婚のことで、私は夫だった彼を憎んだ。不倫相手も憎んだ。どうせなら、その子も死産になればいいのになんて、すごく怖いことも思った。

 赤ちゃん連れの人を見ると、むしょうに腹が立った。羨ましいのを通り越し、妬みそうにもなった。夫の親も恨んだ。自分の家族も恨んだ。


 1番傷ついているのは、私なのに!

 世界全部を恨んで、3ヶ月、引きこもった。

 でも、同じように離婚をして、自分の子供を相手に取られ、ずっと泣いて暮らしていた薫が、救い出してくれた。


 薫が離婚して、私、そういえば、ちょくちょく薫の家にいってたっけ。私になかなか子どもが出来なくて、精神的に追い詰められてた時だった。薫の辛さがなんだかわかる気がして、一緒に泣いたこともあったっけ。


「あれで、私は救われた。だから、今度は私がひかりを、助ける番だって思ったんだよ」

って、薫は言った。そして、

「お付き合いもすることにした。ずっと、ふさぎこんでもしかたがないし、子どものことを思っててもしかたがない。また、新しい彼と、そのうち家族をもてたらって思ってるんだ。」

とも…。


 強いな…、怖くないのかな…?

 私は…、私は……?まだ、やっぱり、新しい恋をするのすら怖い…。


 今は、夢の中で、昴くんに会って、喜んでるだけでいいよ。数ヶ月前まで、世界全部を恨んでいたときに比べたら、私は毎日、楽しく過ごせてるんだもん。薫や美里や、昴くんのおかげでね…。やっぱり、友情、友達が1番かな…。


 そして、昴くんはなんだろう?不思議な人だ。画面や写真でしか観たことがないけど、彼の笑顔は私を癒してくれる。すごくあったかくて可愛くて、優しい笑顔だ。

 きっと、私以外にも彼の笑顔で、救われた人はたくさんいるんじゃないだろうか…。



 ズキズキする頭のまま、家に帰り、私は美里に電話をして、今日はランチができそうもないことを告げた。階段を転げ落ちた話をしたら、絶対、病院で診てもらいなと念を押された。


 私は、すぐ近くにある病院に行き、診てもらったが、どこにも異常はなかった。ただ、大きなたんこぶができていただけで…。あの光の彼が言っていたとおりだ。


 そして、いったい彼は、誰なんだろうか…。

 気になりながら、その日、たんこぶを冷やして、ずっと私は横になっていた。


 1週間してようやく、たんこぶは消えた。

 夢の中で、時々あの光の人型が現れて、私の頭に光を当てていた。手当てをしてくれていたのだろうか?


 そのたびに、どんどん過去生の記憶がよみがえった。

 あるときは、自分がアトランティスにいたときの記憶。あるときは、古代エジプト。こんなことを書くと、さぞ、すごいことを過去していたのかと思うかもしれないが、全然たいしたことのない人生ばかりを送っていた。


 確か、すごいミッションを携えて、この地球に来たはずだ。でも、アトランティス時代も、なんでもない普通の人だったし、古代エジプトの時代も、王に仕える給仕係か何かって感じで、ぱっとしない人生を送っているようだったし。


 また、あるときは、江戸時代の農民だった。ひもじくて、百姓一揆っていうのに参加していた様子だし。また、あるときは、戦争に行き、敵に打たれて死んだ。またあるときは、飢えで死に、またあるときは、病気で幼い子供の頃に、死んでいた。すごいことをするどころか、かなり悲惨な人生ばかりだ。


 あるときは、兵隊で、たくさんの人を殺していたし、あるときは、マフィアになり、銃撃戦で死んでいた。また、あるときは、宗教戦争に巻き込まれ、あるときは、孤児になり一生涯、寂しい人生を送っていた。


 なんだ…。幸せな人生っていうのは、なかったのか…?


 徐々に、何かがつながっていくのがわかった。そう、大勢を殺した次の生では、殺されていた。子どもをさっさと捨てるような酷い親の人生の次の生では、捨てられていた。富豪になって、贅沢三昧した次の生では、ひもじい貧しい生活を。いろんな人を騙し、お金をふんだくって、暮らしていた次の生では、飢えで幼いうちに死んでいた。


 そんなたくさんの人生を思い出し、私は、因果応報、輪廻転生…。そんな言葉が頭を、ぐるぐるかけめぐった。


 そして、ある日、私は昼間だというのに夢を見た。どうも、夢というより、幽体離脱をしていたようだ。

 体はぐったりしてて、その上を私は飛んでいた。あの、階段から落ちたときと同じ状態だ。ただ、自分の部屋でぼ~~ってしていたら、私は体から離れたようだ。


 光の彼のことを思い出し、その彼のエネルギーに集中した。と、その瞬間、ビュンって光が飛んできた。

「え?」

 驚いた。彼が光になり、横にいた。


「呼んだ?」

「今、体から離れてるの?」

「君もでしょ?」


「大丈夫なの?私は家で、寝てるような状態だからいいけど」

「僕は車の中で、寝てる状態だから平気」

「車?運転してる最中?」


「なわけ、ないでしょ。後部座席で寝てるよ」

 だ、だよね。ああ、びっくりした。


「夢にしょっちゅう現れてたよね?私の頭に光を当てて…」

「すごいたんこぶだったからね」

「知ってたの?」


「宇宙船で同化したとき、君の体の方まで、感じることが出来て」

「そんなことが出来るの?」

「うん。いろいろと出来るよ」


「じゃ、その逆も?今、同化したらあなたの、体で起きてることがわかるの?」

「わかると思うけど、僕は今、寝ているだけだよ。たいして面白くないよ」

「…あ、そう…」


 ちょっと、今思った。もしかするとこの人は、子供かもしれない。5~6歳の子どもで、親が運転してる車に乗っているとか…。なんだか、話し方が子どもっぽい気がする。


「夢で、いろんな過去生を見るようになったの。そりゃ、もういろいろと悲惨な人生ばかりを思い出してる」

「輪廻転生」

「え?」


「人は、死ぬときに後悔したりする。もしくは、誰かを恨んだり、恨まれたり…。そうして、次の生で、その恨みをはらそうとして、そんな人生を送るようになる。または、罪悪感を感じて死ぬと、次の人生で償おうとする」

「あ、そんな感じだった」


「僕の過去生も同じようなものだ」

「あなたは、私の過去生で現れてこなかった」

「うん。別々にいろんな人生を、演じてきたから」


「演じた?」

「そう。そして、いろんな感情を知った。大事なことだ」

「なんで?」


「地球人を知るためだよ。地球人が何を怖がり、怯え、苦しみ、悲しむのか…。魂の自分では、とうてい理解不能だ」

「え?そうなの?」

「魂には、感情はない。判断もない、いい悪いもない」


「……」

「宇宙はすべてがあり、すべてを許している。認めている。何が起きようと、判断しない。裁いたりもしない。ただ、そこにあるものを包み込んでいるだけだ」


「すべて?」

「無償の愛だよ」

「……」


「でも、人間は違う。だけど、人間にならないとそれはわからない。だから、いろんな体験をした。知るために」

「……」

「でも、もともと人間も、愛そのものの魂だ。忘れちゃってるけどね。だけど、そろそろそれを思い出していく頃だ」


「自分が、愛だってこと?」

「うん。光だってことを」

「……」


「そのお手伝いを僕たちがする。いろんな感情を知り、そのうえで、喜びや平和、幸せ、愛、自由っていうものを、まず自分たちが思い出す」

「それから?」


「それから?そうだね。まずは、第1段階を知らないと、その先には進めない。だから、その時にならないと君は、理解できないだろう」

「あなたはもう、その先を知ってるの?」


「知らないよ。僕は君だ。確かに少しだけ早くに、幽体離脱はしたけど、それは、君がものすごい苦しみを負ったからだ」

「え?」

「その苦しみを、なぜか僕が感知して、いろんなことを思い出すことになった。君という存在も」


「じゃあ、これからのことは、二人で、いろいろと思い出していくの?」

「そうだね。第1段階をきっと、二人で乗り越えるのかな」

「いろんな感情を知ったうえで、喜びや愛を知る…?」


「うん、そうだ」

「私の、離婚のことや、赤ちゃんが死んだことも、悲しみという感情を知るためだった?」

「うん。そして、とても大事な重要な出来事だったんだよ、起きるべくして起きた…」


「あ…あんなに苦しいことが?」

「それを体験したうえで、愛を知ることになるからね」

「……」


「これからも、まだ、いろんな感情を味わうことになるかもしれない。でもすべてが、その先に起きることのためだ。だから、感情に流されたりしないで、ただ、感じて。そして、流れに身をまかせるんだよ。いい?いろんなことを考えすぎたりしないで。自分のうちにこもらないで。そうすると、僕は君とコンタクトが取れなくなる」

「思考が邪魔をするの?」


「そうだよ。いいね?きっと、これから先僕に会う。思考が邪魔をしていたらそれすら、気づけない。でも、そろそろ君と地球上で会って、第1段階を乗り越える時期なんだ」

「……」


「いいね?今、僕が言ったことは忘れないで」

「あなたに会って、あなただってわかるのね?」

「あれこれ考えていなければ。この人がそうかとか、僕にどうにかして会いたいとか、そんなことも考えないで。流れに任せていたら、必ず会うし、会って僕だってわかるから」


「わかった…。何も考えないようにする」

「そのコツ、わかる?」

「え?」


「今に生きることだよ」

「今に?」

「今だけを感じて、生きて…。そうしたら、思考に邪魔されない」


「わかった…。今に生きる」

「うん。あ、車が目的地についたみたい。僕、起こされてるから起きるね。じゃあ」

「うん…。じゃあね」


 そう言ったとたんに、私も自分の体に戻り目を開けた。しばらく窮屈な感じがした。でも、だんだんと人間の体に慣れていった。


「そうか…。誰が彼なのかって詮索したり、会いたいって望んだりしないでもいいってことか…」

 誰だろうってものすごく気になっていたが、それすら、忘れることにした。


 そして翌日、またバイトに行き、帰りに昨日メールでご飯を食べに行こうって誘われてたので、緒方さんとご飯を食べ、家に帰った。

 もしかして、緒方さんって可能性もある。今、気が付かないだけで…。ある日、この人だったか!って気が付くことがあるかもしれない。そう思うと、食事に誘われて断ることもできなくなってた。


 ああ…。でも、詮索しないでもいいんだよね?

 だけど、今、他に回りに男の人っていないんだよね。あ、バイト先にも何人かいるか。だけど、そんなに会話もしないし…。

 あ!また詮索している。忘れよう。忘れちゃえ…。


 翌日、バイトの帰りに、美里に誘われ飲みに行った。

「あさってじゃん。舞台。もう、楽しみ~~。悟くんに会えるよ~~」


「私も、生昴くんに会える!」

「昴くんもかっこいいだろうね」

「うん!」


 私は、実は、昴くんがあの光の人だったりして…って思ったりもした。でも、それは妄想の世界だ。


 ただ、

「夢で会いに行った。君は僕を知っている」

って言ってたのや、

「これから先僕に会う」

って、この舞台のことかしら…なんて思ったりしてたんだ。


 あ。だけど、これも思考だ。あれこれ考えてる。妄想だとしても、立派な思考だ。やめよう。もう、何も考えないで、舞台は舞台で楽しもう。


 舞台を観にいく当日を迎えた。バイト先から直接、劇場に駆けつけた。そこで美里と落ち合い、軽く劇場の近くにあるカフェでパンを食べて、それから劇場に入った。


 席に着く前に、パンフレットを購入して、席でじっくりと二人で無言で眺めていた。

 昴くんのサムライ姿。かっこいい…。


 そうして、開演のブザーが鳴りお芝居が始まった。

 ドキドキしていると、いきなり昴くんが舞台に登場した。ちょっとのシーンですぐに消えたが、それだけで感動。めちゃくちゃかっこよかった。


 しばらくお芝居が進んで、ようやく悟くんが登場。隣で美里が小声で、

「かっこいい~」

と言っていた。


 私はオペラグラスを持ち、ずっと昴くんを観ていた。申し訳ないが、他の役者さんは見ていなかった。昴くんの美しさ、かもし出すオーラにくぎづけになっていた。


 ふと…。そのオーラに身に覚えがあるって思って、もっと昴くんを感じようと、頭を真っ白にした。深く呼吸をして、昴くんに焦点を合わせる。ああ、そう幽体離脱したとき、光の彼のエネルギーに集中するみたいに…。


 昴くんっていう存在だけを感じようと、心を穏やかにして、そうして、目を閉じてみた。


 グワ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!


 ものすごいエネルギーが、昴くんからこっちに向かって、飛んでくるのがわかった。そのエネルギーを感じるがままにしていたら、あの光の人と同じエネルギーだというのがわかった。


 そして、しばらくして私と昴くんが同化した。

 私は、どうやら魂が抜け、昴くんと同化して、お芝居をしているようだった。客席が見え、その先に美里が見えた。


 昴くんの息遣い、体温、そして、ステージ上での温度、スポットライトの光、音、すべてを感じ取れた。あ、今、私ステージにいる…。そう思った瞬間、私の魂は自分の体に戻っていた。


 は…って目を開けた。ステージで演技をしている、昴くんが目に入った。昴くんの姿を見てるだけでも、昴くんがあの光の彼と同一人物だというのが、はっきりとわかった。なぜわかったかが、わからない。でも、はっきりと昴くんから感じるのだ。


 ああ…。昴くんだった……!


 お芝居が架橋に入った。それまでは笑いあり、歌あり、ダンスあり…。でも、架橋に入ると、ただただ、感動して泣くばかり…。

 昴くんは、舞台で泣いていた。役になりきっていた。


 最後には、愛と平和をかなでる歌を歌っていた。ものすごかった。会場全体が光で、包み込まれた。その光は昴くんから発せられているのがわかった。


 ハートにそのまま、その光が飛び込み、優しさや温かさに包まれ涙が溢れた。隣にいる美里も、逆側に座っていた女性も、前の席に座っていた男性も、泣いているようだった。昴くんの歌声は愛が溢れ、誰しもが感動で泣いているようだった。


 舞台が終わった。アンコールでまた、幕が上がった。主役の昴くんが挨拶をした。昴くんが発する言葉からも光がくるくると螺旋状に出て、会場全体に広がり辺り1面を包んでいた。


 気持ちが良かった。いつもの、あの優しい光…。

 私は目を閉じた。そして、昴くんのエネルギーを体全体で感じていた。ふと、声がした。耳元じゃない。頭の中というか、体の中から聞こえた。


『僕を見つけたね?』

 私も心の中で、うんって答えた。

 それから幕が降り、会場に明かりが灯った。


「は~~。感動した。泣いちゃったよ。昴くんの歌声、素敵だったね」

「うん」

「歌も歌えるって知らなかったな」


「…うん」

「何?ひかり、呆けちゃってるよ?生昴くん観て、腰でも抜かした?」

「うん」

「え~~?大丈夫?」


「あ?何?」

「聞いてなかったの?」

「ごめん。ぼお~ってしちゃって」

「いいけどさ~~。昴くんかっこよかったもん。呆けるのも無理ないわ」

「…うん」


 ゆっくりと席で、アンケート用紙に感想を書き込んだ。私は、感動してラストの歌では泣いてしまった、素晴らしかったと書いた。それから私は席を立ち、出口に向かって歩き出した。すると、

「ね?ステージの前で写真撮らない?記念に」

と美里が言いだし、二人で、携帯で写真を撮りあった。


 周りを見ると、すでに客席からすべてのお客さんが、いなくなっていた。

「すみません。そろそろ閉めますので、出ていただけますか?」 

と、会場係の人が言ってきた。


「すみません、今、出ます」

 ステージの横のドアを残して、他のドアは閉められていた。ドアから出ようかとした瞬間に、いきなり、美里が小さな悲鳴をあげた。


「ひゃ~~~~~~!」

 声にならない悲鳴だった。

「どうした?幽霊でも出た?」


 美里は、舞台の袖の奥を指差していた。

「す、昴くん…」

 美里が、私の腕をがしって思い切り掴んだ。


「え?!」

 私も驚いて、袖のところを覗いた。すると、着替えを済ませた昴くんがすぐそこにいた。


「もう、他にお客さんいないですか?」

 昴くんが聞いてきた。

「え?うん」


 私が答えると、ステージの横の階段から、客席に降りてきた。

「ひゃ~~~~~~~~!」

 また、美里は声にならない悲鳴をあげた。


「今日は舞台観に来てくれて、ありがとうございます」

 ものすごく丁寧に、昴くんは頭を下げた。


「い、いえいえ…」

 恐縮して、私と美里も頭を深々と下げた。そして、頭を上げてから、昴くんの顔を間近で見た。


 か、か、か、かっこいい!綺麗!美しい!でも、にっこり微笑むと可愛い。そのうえ、たまに光を発射する。

『ま、まぶしい!』

 心の中でそういい、目を思い切り閉じると、昴くんにくすって笑われた。


「どうでしたか?俺の芝居」

 俺…?僕じゃなくて…?

「あ。僕の芝居」

と、言いなおした。え?もしかして、私の思ってること、聞こえてたりする?


「すごい感動した。良かった!泣いちゃった!」

と、美里が興奮して話した。


「あの…」

 会場係の女性が、困ったように声をかけてきた。

「あ、僕の知り合いなんです。すみません。そこ、扉閉めていってください」


「はい、わかりました。じゃあ、カギも閉めますので、舞台裏から出てもらえますか?」

「あ、はい。わかりました」

 そして、その係りの女性は会場を出て、扉を閉めた。


「し、知り合い?!」

 美里が、目を丸くした。

「うん、ちょっとした…」

 昴くんがそう言った。


「誰と?え?!ひかりと?」


「ひかり?っていうんですか?」

「え?!」

 私のほうが驚いた。名前知らないでいたの?


「名前も知らないで、知り合い?」

 美里も驚いていた。

「あ…はい。名前はわからなかった。そういえば、聞かなかったし…。なに、ひかりさんですか?」


「星野ひかり」

「わ。すげぇ名前。星の光?」

「そう…」


「やっぱり、名前にも現れるんですね。俺の名前も、天宮昴って本名だけど、すごい名前でしょ?じいちゃんは神社の宮司さんで、こんな苗字なんだけど…」

「……」


 美里はなんのことかわからなくて、ぽかんと口を開けていて、私は言葉使いが、光の彼と違うものだから、ぽかんと口を開けていた。本当に、彼と同一人物?


「そろそろ行かないとやばいかな…俺。今日は、本当に観に来てくれて、ありがとうございました。まさか、ここで会えるとは思ってもみなかった」

「え?!そうなの?わかってなかったの?」


 私が驚くと、美里も何がなんだかわからないって表情をした。

「わかってなかったですよ。詮索もしないし、なんも考えてなかったし。すべて成るように成るって任せてたけど、まさか、舞台観に来てくれるとは、思ってもみませんでした」


「でも、私が昴くんを知ってるのを、知ってたよね?」

「ああ。それはなんとなく、わかってました」

「え?」


「ひかりさんが僕のことを知ってるって、それは気がついてましたよ」

「そうなの?」

「じゃ、本当にこれでもう、楽屋に戻ります。あ、こっちに登ってください。ドア閉めちゃったから、そこから出られないですよ」


「うん」

 私たちは、舞台の袖から、ぐるりと回り廊下に出た。

「じゃ、また」

 昴くんが、そう言って去って行った。


 また…?またって言っても、いつ会えるの?!

『大丈夫です。任せていたら、会えるようになってますから』


 体の中から、声がした。わ!昴くんの声だ。これ、テレパシーってやつ?

『違います。僕はひかりさんなので、本当はいつでも、こうやって、会話ができます』

 え?


『ひかりさんの思ってること、いつでも聞こうと思えば聞けますよ』

 今までも、盗み聞きしてた?


『してません。こんなにはっきりとつながったことないですから。今日が初めてです』

 じゃ、これからは?

『ちゃんと、つながるようにしたら、心で会話が出来ますよ』


 どうやったら、つながるの?

『僕のエネルギーに、集中してください。幽体離脱したときに、したでしょ?』

 ああ…。それを体にいるときもすれば、いいの?


『そうです。あ、そろそろ、すみません。荷物整頓して、楽屋でないと…。いったん、切りますよ』

 …うん。

 そうか。他のことに集中し出すと、つながれないのか…。


 隣で美里が、なにやら話しているのに、そのとき気が付いた。

「どうして知り合いなの?なんで今まで、教えてくれなかったの?っていうか、なんか不思議なことばかり、言ってなかった?わけわかんなかったよ」


「うん…。私も、あまり把握できてないかも」

「え?」

「美里に言っても、私ですら、把握できていないんだもん、わからないよ」


「ええ?」

「そのうち話すね。でも、一つだけ聞いていい?」

「何?」


「目に見えない世界、信じる?」

「スピリチュアルってこと?信じるよ。大好き!過去生とか、オーラとか。オーラの泉毎回見てたもん」

「じゃ、大丈夫かな…。今は私がこんがらがってるから、私の頭が整理できたら、話すね」


「わかった…」

 しばらく、私が黙っていると、

「過去生で、恋人だったとか、そんな感じ?!まさか!」

と、美里が叫んだ。


「違うよ。まったく違う」

「そう…。な~~んだ。だったら、面白かったのに。」

 ほんと、だったらロマンチックだったのに。残念ながら地球上に来て、出逢うのが今回が初めてのようだからさ…。


 まさか、宇宙船で一緒にいたのと…か、昴くんは私なの…とかそんなこと言っても、理解不能だろうな~~。やっぱり、話すのはやめようか…ってそんなことを考え、あ、そうだ。これも、流れにまかせてみるとするかっていきなり、お気楽なことを思いつき、ほっておくことにした。


 家に帰って、お風呂に入った。ものすごくリラックスしてて、ぼ~~ってしていると、

『ひかりさん、聞こえてますか?』

って声がした。昴くんだ。


『聞こえてるよ』

『今日は、本当にありがとうございます。で、どうでした?芝居』

『すごく良かった。感動した。昴くん、めちゃかっこよかったよ』


『ほんとに?』

『そういえば、私一回、昴くんと同化してた。ステージから客席が見えたし、スポットライトが当たってるのもわかったよ』

『そうか。だからか』


『え?何が?』

『体中で、ひかりさんのエネルギー感じ取ったんです』

『そうなんだ』


『同化すると、相手と同じことを感じられるんですよね。あ、今も同化すれば、ひかりさんのこと感じられる…』

『駄目!!!!!今は駄目!!!』

『なんで?』


『お風呂はいってるから、絶対に駄目』

『え?僕も入ってますよ。1番リラックスしてるから、つながりやすいかなって思って、声かけたんです』

『そうだったの?』


『あはは、奇遇。いや、これもなるようになってたのかな?じゃ、今同化して、ひかりさんのとこに行っても、結局あったかいお風呂につかってるってだけですね』

『そうそう。だから、別にねえ…』


『じゃ、やめときます』

 もし同化すると、私が客席が見えたように、昴くんはうちのお風呂見える…とか?


『見えますね。多分』

『あ、今のも聞こえてた?』

『はい』


『聞かないでよ~~』

『なんでですか?僕はひかりさんなんだから、何を思っていようといいんですよ』


 え~~~?恥ずかしいじゃん…。あれ?お風呂場が見えたら、例えば、私が私の体を洗うと、私の体も見えたり…。

『見えますね』


『だから、聞いてないでってば!』

『いいじゃないですか。恥ずかしいことないですよ。だって、ひかりさんはいつも自分で思ってることを、自分が知って恥ずかしいですか?』

『ううん』


『それと同じです。だから、体が見えても、僕の体みたいなものだから、大丈夫です』

『え?!?!!!!!!!』

『今のは、冗談ですけど』


『え?!!!!???』

 もう、わけわかんない~~~。

『さすがに、この地球上では、男と女の別々の体をまとってるんだから、一緒くたにしちゃ、駄目ですよね』


 一緒くた…って?

『でも、恥ずかしいことはないですよ。魂では、一緒ですから』

 魂ではね…。じゃ、恥ずかしがってるのは、誰だ?ってことになるよね。


『ああ、それです。そこが人間です。思考なんです。』

『え?』


『例えば、僕らが3歳だったとする。多分、相手に自分の裸みられても、恥ずかしくないですよね。だけど、だんだんといろんな常識とかが入ってくる。恥ずかしいという概念も…。そうすると、魂の部分では、恥ずかしがることなんていっこもないのに、思考は恥ずかしいと思う。国が変われば、裸で過ごしている部族もいる。その人たちは裸を恥ずかしいとは思わない。やっぱり、生まれてから植えつけられた、考え方、観念、思考なんです。』


『植えつけられた?』

『そう、それが本来の自分じゃないのに、まるで、自分だと勘違いして、みんな生きてる』


『え?どういうこと?』

『本来の自分は、愛と光です。判断もない。恥ずかしいもない。自由で、広い』

『うん…。裸も恥ずかしくない…?』


『この体はもともと、地球上での乗り物のようなものです。いわば、車ですね。車がカバーかけてなくて、露骨にあらわになってたとしても、別に恥ずかしくないでしょ?』

『じゃあ、昴くんは、恥ずかしくないの?』


『恥ずかしいですよ』

『え?!』

『だって、僕にも、そういう常識や観念、思い切りありますから』


『そっか…』

『でも、僕、ひかりさんだったら、恥ずかしくないかも』

『なんで?!』


『なんでって、ひかりさんは僕だから』

 ああ、その変になると、まだ、私には理解不能だ。私はめっちゃくちゃ、恥ずかしいよ…いや、この年で、バツ一で、恥ずかしがるのも変かな。いや、年齢なんて関係ないよね?あ、やば…。頭くらくらする。


『もう、切ります。これ以上、お風呂につかってたら、のぼせますよね?っていうか、もうのぼせてませんか?』

『のぼせた…』

『じゃ、僕ももう出ますから、それじゃ』


『うん、明日も頑張ってね』

『はい。おやすみなさい』

『おやすみ』


 お風呂から出て、しばらく扇風機の風に当たった。

 昴くんは、なぜだか、敬語になっていた。光のときは、ため口だったし、ちょっと幼い感じもしたんだけどな。


 それにしても、恥ずかしいっていうのも思考。本来の私じゃない。なんだか、理解不能だ。こう考えてる私はなんなんだろう?私は私でしょ?でも、魂の私とは違うのかな?

 ああ。こんがらがる。こんなときには、何も考えないことだ。


 扇風機の風に当たりながらただ、ひたすら、ぼ~~~ってした。ついでに、扇風機に向かって、

「あ~~~」

と言ってみた。それを、キッチンの片づけをしていた母親にみられ、変な顔をされた。私は、リビングの扇風機を止めて、自分の部屋に行った。


 家族とは、いまだに口をあまりきかない。時々、母が何かを言いたそうにしているが、それを私が無視して、部屋に閉じこもってしまう。親とは、口をききたくなかった。まだ、親を恨んでいるところがあるのだ。


 は~~~。もやもやした。こんなときには、集中が出来ないから、昴くんを呼び出せないだろう。いや、もう、寝なくちゃいけない時間だ。呼び出して迷惑はかけられない。


 ベッドに横になり、枕に顔をうずめた。苦しい…。まだまだ、傷は癒えてないのだ。でも昴くんは、言ってた。起きたことは、起きるべくして起きたこと。いろんな感情を味わうためだって。そして、それから喜びや愛を感じていくんだって…。


 喜びや、愛を感じるのを、一緒にしていくって言ってたな。どういうことかな?

 また、あれこれ、考えそうになり、やめた。やめて、髪を乾かし、とっとと寝ることにした。


 昴くんといつ会えるのか…。それも、流れに任せてみることにした。それより何より、昴くんとは、心で会話が出来るのだ。いつ会うか約束だってできるじゃないか…。メ-ルもいらないし、電話もいらない。すごいことかも…。 そう思うと、気持ちがだんだんと上がり、わくわくした気分で眠りにつくことができた。


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