ミッション 第2段階終了
白河さんが戻ってきた。その後ろから、ノエルさん、司さんも来た。
「おはよう、葉月ちゃん、ひかりさん」
「おはようございます」
「昴くんと悟くんかしら?はじめまして」
こちらの次元で会ったのは、初めてだもんな~。
「あ。はじめまして。なんか変ですね。低い次元では会っていたから」
悟くんがそう答えた。
「あら、そうなの?私は、そっちの次元ではどうだった?まだ目覚めていない?」
「はい。まだ…」
「そう」
「ノエルさんも、目覚めたんですか?」
「ええ。今朝の瞑想で自分のミッションを思い出したわ」
「今朝の?」
「低い次元のノエルからそうとうな、闇のエネルギーが浄化されたようだな。それで、こちらの次元のノエルに影響が出たのだろう」
白河さんが、静かにそう言った。
「はじめまして。私、司珠代といいます」
「え?あ…」
私も昴くんも、少し戸惑った。
「?」
司さんが、ちょっと私たちの戸惑いを見て、不思議そうな顔をした。
「あの、低い次元で会ってたから」
私が言うと、
「え?そうなんですか?」
と、司さんは驚いていた。
「司さんは、もう目覚めてる?」
「はい。私も今朝の瞑想で…。今朝の瞑想はすごかったんです」
『司さんも、低い次元でものすごい浄化があったからな~』
と、昴くんが心で言った。
司さんの後ろに、若い男の子がいた。多分、昴くんくらいだろう。
「司さんの魂は、彼と同じ魂だった…ということも、今朝わかったんだよ」
白河さんが教えてくれた。
「え?」
私たち4人は同時に、驚いていた。
「昨日、私はここにやってきて…、彼も昨日夜到着して、それで会った瞬間から何かを感じていたんだけど、まさか同じ魂だったなんて、びっくりしちゃった」
「昨日、はじめて会ったの?」
私が聞くと、
「そうなんです」
と司さんは、答えた。
「あの、前世のこととか知ってる?」
私が、司さんに聞いてみると、
「ノエルさんに一回、リーディングしてもらいました。宇宙船にいて宇宙人だったって言われて、信じられなかったんです。でも、今回の瞑想の会に誘っていただいて、昨日の夜来たんです」
「う、宇宙船…。宇宙人?」
ああ、前世飛び越して、そこまでこの次元のノエルさんなら、見れるのか。あ、そうか、私もそうだったっけ。
「それで瞑想してて、何もかも思い出して。宇宙船にいた頃の記憶まで、思い出して…」
「そうなんだ」
昴くんは、にっこりと笑った。
「良かったです。この地球に来た、同じ魂の彼とこうやって会えて」
「うん。そうだね」
昴くんは、もう一回にっこりと笑った。
それから、白河さんの誘導に従って私たちは瞑想をした。瞑想をしていると、ストーン!いきなり、意識が宇宙に飛んでいった。光の渦の中にいて、光と同化していた。
でも、幽体離脱はしていない。体の中にいながらにして、宇宙とつながる感じだ。
開放感、気持ちのよさ…。どんどん自分が広がっていく。そして、自分が宇宙になる。それから、徐々に、体が自分の体へと収まっていく感じがした。
目を開けると、周りの人はまだ目をつむっていた。だけど、昴くんは目を開けていた。
『すごかったね』
昴くんが、心で話しかけてきた。
『うん。すごかった』
私も、そう答えた。しばらくぼ~~ってしながら、私たちは太陽の光を感じていた。
昼食を食堂に行き食べていると、そこに司さんが来た。
「低い次元で私に、会ってるんですよね」
と、私に聞いてきた。
「え?うん」
「その、どうでしたか?私」
「え?」
なんて答えていいものやら。そこへ葉月ちゃんが、
「同じ本屋でバイトしてたんだよ」
と助け舟を出してくれた。
「本屋?新宿のですか?」
「え?うん」
「私、先週からそこで、バイトしてるんです」
「ええ?」
私も葉月ちゃんも、驚いてしまった。
「それで…、あの…」
葉月ちゃんは、ちらっと昴くんの方を見て、
「私、ずっと天宮昴くんのファンだったんです。昨年のサイン会にも行って、あの本屋でバイトしてたら、もしかしてまたサイン会するかなって…。バイト先決めた動機、不純なんですよ…」
と恥ずかしそうに言った。
「え?」
私と、昴くんが同時に驚いた。
「あの…?もしかして、低い次元でも私ファンでしたか?」
「うん」
私が、そう言うと、
「そうだったんですか…。あ、ここで会えて、私驚いちゃって。すごく嬉しいです」
と、司さんは、にっこりと微笑んだ。その笑顔にはなんの邪気もなく、嫉妬や執着も感じられなかった。
昼食が終わり、私たちは白河さんと挨拶をして、車に乗り込んだ。そして、東京に向かった。
車内は静かだった。葉月ちゃんは、どうやら眠ってしまったようだ。
「葉月さ…」
「え?」
悟くんが静かに話し出した。
「低い次元の葉月もそうだったけど、今までずっと、誰かに甘えたりできなかったみたい」
「……」
「特に男性にね。いつも怖くて、こわごわ接していたみたいだね」
「そうだったんだ」
昴くんが、ぽつりと言った。
「でも、そういうの、あまり見せないからわからなかったな」
私がぼそって言うと、
「頑張ってたんだろうね。でも、やっと安心できるようになったって言ってたよ」
「悟さんといて?」
「うん」
「悟さんに、甘えるの?葉月ちゃん」
「え?ああ。うん。お前ほどじゃないけど」
「俺?俺、悟さんに甘えてる?」
「あはは…。俺にじゃなくって、ひかりさんにだよ」
「え?」
昴くんが、とんでもない声を出した。
「甘えてるじゃん、いつもお前…」
「な、なんで知ってるんだよ~~」
「見てりゃわかるって」
悟くんは、笑いながらそう言った。昴くんは、逆にちょっとすねた表情をした。
「ちぇ~~、どうせね、甘えん坊だよ」
「あれ?」
私が聞くと、
「え?」
と、昴くんがこっちを向いた。
「その甘えん坊、こっちの次元の昴くんだったんだ」
「え?低い方だと思ってたの?」
「うん」
「まじで?」
「ふふふ…」
「なんだよ?」
『くすくす…。そういえば、前から甘えん坊か~~』
『え?そんな前から?俺?』
『うんうん…』
『ちぇ、なんだよ~~。いいじゃんか、甘えたって』
あ、開き直った…。
『ひかり、一緒にいると、あったかいんだ。めっちゃ優しいし、だから俺つい…』
『昴くんも、あったかいよ?』
『じゃ、ひかりももっと甘えたらいいんだ』
『……』
『あ、だからなんで、こういうときに、恥ずかしがるかな?甘えるの恥ずかしい?』
『なんとなくね…』
『いいんだよ、俺に遠慮はしないでも。甘えていいから。俺、そっちのほうが嬉しいよ』
『うん…。わかった』
そう心で言ってから、昴くんの肩にもたれてみた。あったかいエネルギーがどんどんやってくる。そのうち、私も眠ってしまったようだ。遠くで昴くんの声がした。ああ、悟くんと話していたんだ。その会話も、まるで子守唄を聞いてるように、心地良かった。
気づいたら、昴くんのマンションの駐車場だった。
「ひかり、起きた?俺のマンションに寄ってく?」
「うん…」
ぼ~~ってしながら、私は目をこすった。
「じゃ、俺、このまま葉月を家まで送っていくから」
葉月ちゃんは、もう目を覚ましていた。
「昴くん、星野さん、お疲れ様でした」
と助手席の窓を開け、私たちに元気に言ってくれた。
昴くんの部屋に行くと、数日、家を空けていたっていう空気が漂っていた。
「なんか、空気こもってるな…」
と言いながら、昴くんは窓を開けた。
「あ、留守電」
電話の留守電が、点滅していた。聞いてみると、どうやらマネージャーさんが、
「実家から戻ったら、連絡ください」
と、何度も入れていたようだ。
「実家に行ってることにしたの?」
「うん。実家で休養してくるってことにしたんだ」
「そう。でも、10日も休んでたら、確か今ドラマの収録…」
「う~~ん。どうなっちゃったかな~~」
「ええ?」
「ま、どうにかなるって」
にこって笑って、ドスンと、ベッドに昴くんは座った。
「ひかりも、ここ!」
自分の座った横をぽんぽんとたたいて、昴くんはそう言った。私が昴くんの横に座ると、ぎゅ!と抱きしめてきた。
「帰って来たね」
「うん…。なんか、不思議だね」
「え?」
「同じ人たち、同じ場所。でも、次元は違う…」
「うん」
「向こうの次元も、懐かしいな」
「うん」
「……」
「低かったときの俺も、そんなに好きだったの?」
「え?」
「今、思ってたじゃん」
「うん。大好きだったよ…」
「ちょっと、寂しい?」
「ふふ…。昴くんは、昴くん。ここにいるもの」
「うん」
昴くんは、優しくキスをしてくれた。
「このまま、泊まっていくわけには…」
「うん。今日は帰る。親も心配してたら困るし」
「だよね」
「それに、こっちの次元の家族にも早く会いたい」
「そうだね」
「昴くんも、仕事大変だろうけど頑張ってね」
「うん。頑張るよ!」
ギュ…。また抱きしめあって、それから私は、荷物を持って外に出た。
帰り道は、みんな穏やかな表情をしてて、喧嘩をする人もいなければ、小競り合いもなかった。空を見ると、もう夕日に染まりだしていた。
「奇麗だな」
立ち止まって夕日を眺めていると、横を通りがかった親子も立ち止まり夕日を見て、
「お母さん、奇麗だね」
「本当ね」
と、会話をしていた。ほほえましいな…と思いながら、また私は歩き出した。
家に着くと、
「おかえりなさい」
と母が、飛んで来た。
「疲れたでしょう?大変な研修だったんだって?」
「え?」
「ほら、荷物持つわよ。あら、10日間、こんな荷物で間に合ったの?」
「え…うん。向こうに揃ってたから」
母は、優しかった。母からは、たくさんのあったかい光が出ていた。
リビングに入ると父もいて、
「やあ、おかえり」
と優しく、出迎えてくれた。父からもあったかい光が出ていた。
「広輝はもう、一人暮らしを始めたよ」
「え?お兄ちゃんが?」
「昨日引越しだったんだよ」
「そうだったの」
10日いないだけで…。
「アパートの住所聞いてるから、今度ひかり遊びに行ってきたら?」
「うん。そうする」
私はリビングで、母の淹れてくれたコーヒーを飲んで落ち着いた。
「あなた、研修行ってたから、知らないかもしれないけど、昴くんがね…」
「知ってる。インフルエンザでしょ?」
「そうなのよ。大丈夫かしら」
「もう、明日から復帰するみたい」
「そうなの?良かったわね。あ、悟くんなんて入院…」
「それも、知ってるよ。でも、もう復帰できるって聞いたよ」
「そうみたいね。10日間の入院だって言ってたから…」
「あ~~、私、部屋で休むね」
「夕飯できたら呼ぶわね」
「うん」
なんだか嘘ばかりついてて、申し訳なさを感じた。そのとたんに黒い霧が出たから、さっさと退散することにした。
部屋に行き、ぼ~~ってした。それから、こっちの次元での、ミッションって何かな?…と、思っていると、昴くんが、
『今に、生きることだよ、きっと』
と、答えてきた。
『…そうだね』
『うん』
『昴くんと、今を感じながら生きていくよ』
『うん。あ。俺ね、さっき…』
『うん?』
『あっちの次元の俺のこと、呼んでみたんだ』
『え?』
『そうしたら、答えてきた』
『ええ?』
『俺らが去った後、車に乗って帰って来て、ちょうど今仕事の待ち時間だってさ』
『話せたの?』
『うん』
『私は?』
『時間がなくて、途中でひかりと葉月ちゃんは降りて、電車で帰ったみたい。俺と悟さんは、仕事場に直行だって』
『大変そうだね』
『うん。俺は家でのんびりしてるって言ったら、ずるいって言われた』
『あははは…。そうなんだ』
『でも明日から、きっと鬼のように忙しくなると思うって言ったら、ざまあみろだってさ。あいつ、てんで変わってないんじゃないの?』
『ふふ…。面白いね』
『ま、いっか』
『私も、出来るかな』
『出来るよ。やってみたら?』
『うん』
『じゃあね…。俺、眠くなったから、ちょっと寝るよ』
『うん。おやすみ』
『おやすみ…』
と、言ってからすぐに寝たらしい。意識が夢の中へと入っていくのを、感じ取れた。
低い次元の私か…。でもしばらくは、昴くんのエネルギーを感じていたくて、その日は、昴くんのエネルギーを感じるようにしていた。
翌日本屋に行くと、更衣室に入るなり、
「旅行どうだった?」
と、聞かれてしまい、戸惑っていると、
「おはようございます。はじめまして、私、司といいます」
と横から、ずいっと私の前に来て、司さんが丁寧に挨拶をしてくれ、そのうえ、
「いろんなわからないことを、教えて欲しくて」
と強引に私の横にへばりつき、あまり、重要でもないようなことをあれこれ聞いてきた。どうやら、守ってくれているようだった。私が着替え終わると、自分のロッカーの方に司さんは戻って行った。
事務所に行くと、斉藤さんが、
「お久しぶりです」
と言ってきた。あ、ここでも旅行のことを聞かれるかと身構えていると、
「星野さんは、新しい小説に取り掛からないんですか?」
と、質問してきた。ああ、斉藤さんは小説以外、興味を持たないんだっけね。
「そうね…。今のところ、書きたいものもないし…」
「そうですか。でも、ぜひまた書いて欲しいな…。楽しみにしていますから」
「ありがとう」
こっちの次元の斉藤さんのほうが、なんとも素直で可愛いわ。いや、低い次元の斉藤さんも、斉藤さんなんだけどね。
葉月ちゃんは、今日夕方からのシフトだった。私は一人でランチをしようと、地下のカフェに行くとそこに、司さんがやってきた。
「ランチ、一緒にしてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「良かった~~。私まだ、仲いい人ができなくって」
「そうなの?」
ほっとした顔で司さんが、前の席に座った。
「星野さんは、もうずいぶん前から、昴くんが自分と同じ魂で、魂の片割れだってこと知ってたんですか?」
「う~~ん、そんなに前でもないかな。6月くらいだから」
「その頃からの、お付き合いですか?」
「そうだったかな」
「前にラジオで言ってた彼女って、星野さんのことですよね?」
「え?うん」
「私、羨ましくって…。あんなふうに思われたら、絶対に幸せだなって思ってたんですよ」
「あ、そうなの?」
そんなことを口にしても、司さんからは黒い霧は出なかった。
「だけど、昨日、わかっちゃったじゃないですか」
「え?」
「私の魂の片割れ」
「ああ、あの男の子」
「はい。星野さんと昴くんほど年は離れてないけど、彼も年下で…。あ、私今、20歳なんです。それで、彼、寺門陽平くんは18歳で、大学1年生なんです」
「あれ?昴くんと一緒かな?」
「はい。2歳しか変わらないですけど、でも、話しててけっこう幼くて…」
「へえ」
「だけど、それがけっこう可愛くて…」
「ふうん」
「あ、昴くんほどのイケメンじゃないですけど、見た目も可愛いし」
「そうだね。もっと若く見えるよね」
「はい。昨日もずっと話をしてたら、すごく気もあって…」
「うん」
「そ、それで!こんなことって、星野さんもあるんですか?」
いきなり身を乗り出して、司さんは聞いてきた。
「何?」
「あの…テレパシー…。陽平の声が聞こえちゃうんです」
ちょっと、声のトーンを下げて司さんは言った。
「あ…。心で会話が出来ちゃうんだ?」
「はい。星野さんも昴くんと?」
「出来るよ」
「やっぱり~~?」
司さんは大声を出し、周りの人がこっちを見た。
「あ、すみません」
司さんは、少し悪かったって顔をしてから、ランチのトーストを食べだした。
「あの…」
少しすると、また話し出した。
「私、もうすでに、陽平のことが好きになってると思うんですけど…」
「え?うん」
「陽平は、別にそういうこと思ってないみたいで」
「…そうなの?」
「なんか、彼女もいるみたいで」
「そうなんだ」
「こういうのって、どうしたらいいんでしょうか?」
「う~~~ん。ごめん。わからないや…。でもそういうのも、全部、陽平くんに聞いてみたらどうかな?」
「なんて?」
「わからないけど、とにかく、ほら。心で会話が出来るなら、なんでも筒抜けだからさ…」
「そうなんですよね。だから、彼女いることもわかったし」
「あ、そうなんだ」
「隠してたんですよ~~。でも心で会話したら、わかっちゃって。そうしたら陽平が、隠し事できないんだなって…。それから、開き直って」
「開き直る?」
「はい。私のことは、別にどうも思ってないってはっきりと」
「ふ~~ん…」
「はあ。先が思いやられるな…」
「でもそんなに未来のことを、思い悩まなくてもいいんだよ。今、この瞬間のことを感じて味わっていたら、それで」
「え?」
「なるように、なってるから」
「そうなんですか~?あ、いろいろとこれからも、教えてくださいね!」
「うん」
なんか、向こうの次元の司さんと違って、素直で可愛いな…。と、思いつつも、何度も昴くんと恋をしていた魂なんだよなって、心のどっかでひっかかる…。あ、こんなこと思ってたらまた、昴くんに何て言われるか…。いや、やきもちやいてくれたほうが嬉しいって言うかな。
でもな…。でも…。でも、なんだろう…?なんだか、自分の思ってることがわからない、釈然としない。
ランチが終わり、仕事に戻った。
今までならけっこういきなり、昴くんが話しかけてくることが多かったけど、今日はないな~。昴くんのエネルギーを感じてみても、思ってることはわかりづらかった。もしかして、本当に忙しくなっちゃってるんじゃないだろうか?
仕事が終わり帰りの電車で、昴くんのエネルギーに集中しても、家に帰り、集中しても声が聞こえてこない。一瞬だけ同化したが、頭の中は台詞でいっぱい。ものすごい集中力で、覚えているようだった。仕事、頑張ってるんだな…。
そう思うと、私も、また小説を書いてみようかっていう気になった。私もなにか、やっていたいというか、昴くんが頑張ってるんだから、頑張りたいっていうか…。
パソコンを開き、まず、無料小説サイトのランキングを見てみた。私の小説が1位になり、アクセス数もどっと増え、そのうえ感想もたくさん書かれていた。その中に、こんな感想があった。
>新しい小説も楽しみにしています。
「新しい小説か…」
ふと、私の頭に浮かんだのは私と昴くんのことだ。アセンションのことを書いた小説…。早速、ワードに書き始めた。不思議だ。また、すらすらと書ける。
もちろん、名前は変えたし、少しずつ状況も変えた。だけど幽体離脱をして、宇宙船に行ったことや、ミッションのことはきちんと書き記した。
夜中も2時を過ぎた頃、小説を書くのを切り上げお風呂に入っていると、
『ひかり、起きてる?』
と、昴くんの声がした。
『うん。起きてるよ』
『何か、集中してた?小説?』
『わかった?』
『うん。次々に文章が浮かんだり、その場面が見えてたね。俺、そういうのも、わかるよになったよ』
『昴くんは、何してたの?』
『さっき、家に帰ってきた。今風呂だよ』
『仕事そんなに遅くまで?』
『うん。撮影できなかった分、思い切り今撮ってる。明日も、6時起き』
『大変…』
『それ、俺らの話だよね?』
『え?ああ、そう。アセンションの…』
『うん。いいかも。小説で発信するのも』
『だよね?そういえば、私の小説からはものすごい光が出てるって、流音さんが言ってた』
『流音さん?』
『漆原さんと同じ魂の女性』
『そうなんだ』
『うん。だったら、また、小説書いてもいいかなって思って』
『うん。いいんじゃないかな。俺らは、とにかく光を出す。それが使命だと思うって、漆原さんが言ってたよ』
『漆原さんたちは、どんな使命があるの?』
『多分、白河さんのサポートをすることなんじゃないかな。今はね』
『ふうん』
『じゃ、また小説書けたら、サイトに載せる?』
『うん』
『そうしたら、また俺のブログで紹介するよ』
『うん、ありがとう』
『ひかり…』
『え?』
『……』
『え?』
『あ。今、寝そうになった。やばい…。もう風呂出るよ。ひかりのエネルギー感じてたら、あったかくって気持ちよくなって寝るとこだった。そんじゃね』
『うん。昴くん、大好きだよ』
『うん。俺も』
ほんとだ…。今にも寝そうな感じだ。大丈夫かな、ちゃんとお風呂から出れたかな?思い切り、心を静かにして昴くんに集中した。あ…、同化したみたいだ。
お風呂から出て着替えて、髪の毛をバスタオルでゴシゴシってして、ものすごい勢いでドライヤーをかけ、でも半乾きのまま、部屋に行くとばったり…。そのまま、ベッドに倒れこんだ。と思ったら、ぐ~~~。寝ていた。
ああ…。髪の毛、きっと朝爆発するよ?と、思った瞬間に、自分の体に意識が戻ってきた。
ブクブク…。あやうい。昴くんのことばかりに集中してて、私のほうがお風呂で、おぼれそうになってた。
「やばい!」
慌てて私もお風呂から出た。着替えてゆっくりと髪を乾かした。ぼ~~っとしながら、髪を乾かしていると、時々昴くんの部屋の匂いがした。それから不思議と、昴くんのベッドで寝ているような感覚…。半分同化していたのかな。
それから、私もベッドに入って目を閉じた。そして、あっという間に眠りに着いた。夢の中で昴くんは、私を見つけて、
「ひかり!」
と走って寄ってきた。それから、
「ワン!」
とまた、じゃれついた。
え?え?ええ~~~?なぜか、昴くんのお尻から、犬のしっぽがはえてて、ぐるんぐるんと振り回していた。そのうち、ほんとに、犬になっちゃうんじゃないか…。そんなことを思って、笑ってしまった。
しっぽは次の瞬間、消えていた。それから、私と昴くんは宇宙空間に移動して、そこから地球を眺めた。
「奇麗だね」
「うん、奇麗だ」
私たちは夢で、うっとりと地球を眺めていた。
それから、また3日間であっという間に小説を書き上げた。
昴くんは、めちゃ忙しいらしく、心で会話も出来ないほどだった。でも、なかなかやりがいのある役らしくて、夢で興奮して撮影風景や台詞を教えてくれた。
昴くんが演じる高校生の男の子は、とってもクール。昴くんとは正反対だねと言うと、
「俺だって、クールじゃんか~~~!」
と、のたまいた。
「クールって言うのはね、悟くんのような」
「ひかり、クールな人のほうが、好みなの?」
「私?私は別に…。昴くんが1番いいけど」
「でしょ?!」
夢の中でそんな話をした。最近昴くんは夢の中で喜ぶと、しっぽがはえて、ぶるんぶるん振る。
「これ、可愛いよね~~」
としっぽに触ろうとすると、
「駄目!犬のしっぽは触ったら駄目なんだよ。知らなかった?」
と、わけのわからないことを言う。
小説はまた、無料の小説サイトにどんどん載せていった。昴くんが、またブログで紹介したので、あっという間に、アクセス数は増えた。
「今 このときを 愛してる」も、昴くんは雑誌のインタビューで言ってくれて、その雑誌が発売すると、またアクセス数が増えた。そしてその1週間後に、なんと、
「この小説を、本にしませんか?」
というメッセージが来たのだ。
「昴くん、本にしませんかっていうメッセージきたけど、どうしたらいいの?」
その日の夜、夢の中で聞いてみた。
「出版社は?」
「○○出版だって」
「知らないな~~」
「あ。怪しくないかな?」
「そうだな…。ちょっと、事務所の人とか、周りの人に聞いてみるよ」
「え?」
「ほら、雑誌の編集者とか記者の人とか、知り合いいるし」
「うん」
「本だけじゃなくて、ドラマ化されるかもよ」
「え?!」
「今、現場でも俺、この小説気にいってて、ぜひ読んでみてって、会った人会った人に言ってるんだ。それで、いろんな役者さんや脚本家の人も目を通したみたいで、これはドラマにしても面白いかもってさ」
「ええ?」
「今共演してる人は、映画の監督もしてるんだけど、映画にするのもいいな~、もし映画化するなら、お前主演するか?って、今日聞かれたんだ」
「す、すご~~い!」
「すごいでしょ?」
「……」
「信じられないの?」
「うん。そんなにうまくいっちゃうと…」
「しょうがないじゃん、これもまたミッションなんだから、うまくいっちゃうって」
「そうか…」
「ま、どうなるかはわからないけど、それも宇宙に任せておこうよ」
「うん」
私はその夢で昴くんに、ぎゅって抱きつくと、昴くんも私をぎゅって抱きしめてくれた。
「昴くんの匂いがする。夢でも、匂いがするから不思議」
「そうだね。ひかりも、いい匂いがするよ。石鹸?」
「シャンプーかな?」
「あ、やばいです。その気になりました」
昴くんはそう言うと、いきなり押し倒してきた。それまで、奇麗な海を眺めながら私たちは、話をしていたのに、場面は一気に昴くんの部屋に変わった。
「こういうときには、昴くんの部屋なんだね~~」
「うん。1番落ち着く」
昴くんは、夢だとちょっと強引になる。でも私も夢なんだし、甘えちゃえって、思い切り甘えてみた。
「え?ひかり?」
昴くんがびっくりしてるから、
「だって、これ夢だし」
って言うと、
「あ。そうだけど」
と、まだ驚いた顔でいたが、
「でも、甘えてくるひかり可愛いから、現実でも甘えてきて!」
と、ぎゅって抱きしめてきた。ああ…、そんなことを言う昴くんが、めちゃ可愛いんだよね。そう思いながら昴くんの頭をなでると、またしっぽがはえ、ぐるんぐるん振り回っていた。このしっぽ、どんな仕組みになっているのやら…?
日中は本当に、会話が出来ない。思わず心で、何かあると、
『昴くん』
と、話しかけてしまうが、返事がない。
『あ、そうか。忙しいんだっけ…』
オンエアがあるのは、あと1週間後、そうとうな追い込みのようだった。
「はあ…」
ちょっと寂しい。
テレビ欄を見ると、昴くんの名前が何箇所にも出ていた。番宣で出るようだった。リビングで、昴くんが出ている番組を見ていると、
「あら。テレビに出るの、久しぶりよね~~」
と母が、横に来て言ってきた。
「うん。もうすぐ、ドラマ始まるから、今番宣で出てるみたい」
「ドラマ出るの?」
「うん。もうすぐだよ。始まるの」
「楽しみね~」
「うん」
画面の中の昴くん、ものすごく奇麗だ。笑い顔はめちゃ可愛い。ああ…。なんか、ものすご~~く遠い存在のような気もしてしまう。
『大好きだよ~~!昴くん!』
と、心で叫んでみても返事がない。ああ…。寂しいぞ…。かなり…。
その夜、バスタブに浸かりぼけってしながら、きっと昴くんとは会話できないんだし…と思い、低い次元の私に話しかけてみた。どうやったら、いいのかわからなかったが、とりあえず心を静かにし目を閉じて、
「私…。低い次元の私…」
と声をかけてみた。それを何回か繰り返していたら、
『もしかして、高い次元の私なの?』
と、体の中から声がした。
『そう!私!』
『やっぱり?今、どこ?』
『高い次元で、お風呂はいってる』
『私も、お風呂にはいってるよ』
『え?そうなの?』
じゃ、ここに一緒にいるんだ、次元は違っても…そう思うと、ちょっと嬉しくなった。
『そっちの次元の、昴くん元気?』
『うん。めちゃくちゃ、元気』
『仕事忙しくない?』
『ドラマの撮影で忙しい。会えないけど、夢の中で会えてるんだ』
『あ、一緒だ』
『高い波動の昴くんは、優しい?』
『優しいよ?なんで?』
『うん、こっちの次元の昴くんも、前より優しい。でも、ちょこっと強引。それに…』
『それに?』
『最近、甘えてくる』
『へえ。そっちの次元の昴くんもなんだ』
『時々、情報交換できるといいね』
『うん。しようね。また、コンタクト取るから…』
『うん。じゃ、またね』
プツ…。電話が途切れたかのように、声がいきなり消えた。
ああ。私も違う次元の私と、話が出来たんだな~。嬉しかった。違う次元の昴くんのことも聞けて、嬉しかった。
夢で、そのことを話そうと思っていたら、その日の夢はずっとドラマの撮影をしていた。昴くんの頭の中、ドラマのことしかないな、こりゃ…と思ったけど、けっこうその夢も面白かったから、私は昴くんと同化しながら楽しんでいた。
それからも、時々、次元の違う私と交信をした。低い次元でも、昴くんと会話が困難になっているので、私と交信している時間が、取れるってことだった。
そして1週間して、ドラマが始まった。一回目から面白い内容だった。半分くらいの内容は、夢の中で昴くんが、何回も見せてくれたのでわかっていたが、きちんと、ストーリーになって見てみると、もっと面白い内容だったのがわかった。昴くんのミッションに近いのだ。
自殺をしようとしていた、同じ高校の女の子、結花を昴くん扮する遠山希一が助ける。かたくなに閉じている彼女の心の声を、希一は超能力を使い聞きだしていく。そして、いじめが原因で自殺をしようとしたことがわかり、誰がいじめをしていたのかを探り当てる。
学校の先生や警察も動く中、希一は単独で、いじめをしていた首謀者の子に会い、彼女の心の声も聞いていく。自分よりも、周りからもてはやされ、注目を浴びていた結花に嫉妬し、根も葉もない噂を流して、回りの女子高生も巻き込み、いじめをしていたことがわかった。
でも、その子もまた親に愛されずに育った、とても孤独な幼少時代を過ごしていて、認められたい、愛されたいという気持ちが、人1倍強かったことを希一は知る。そして、彼女が抱えていた苦しみを知ったうえで、希一は彼女に話しかけ、彼女の心も変わっていく。そして、その子が首謀者は自分だと名乗りをあげる。その子は反省をして、人生をやりなおす第一歩を踏み出すというストーリー。
希一の台詞がとてもいい。
「君だけじゃないんだ。孤独をかかえているのは!みんな、認められたい、愛されたいと思ってる。人を妬んだり、ひがんだりもしている。だけど、どの人も人を愛する心も持ってるんだ。それは、君の中にもあるんだよ」
「君は結花さんが、自殺未遂したことで、そうとう苦しんだね?自分のせいだと…。そこでようやく自分がしてしまった大きな過ちに、気づいたんだね?」
「自分を裁くのは簡単だ。だけど、これからは自分や周りの人を信じたり、愛したりしていかなくっちゃ。それがせめてもの罪滅ぼしだよ」
そんな言葉をかけられ、その女性は泣き崩れ、それを聞いていた親も、自分たちが、放任過ぎたと反省をするという、そんなシーンがあった。
それに自殺を図ろうとした、結花に対しても、
「命を絶対、粗末にしちゃ駄目だ。どれだけ君の両親は、君の事を大事に思ってるかわかってる?」
と、かなりの迫真の演技で、昴くんは言っていた。
「君は、ものすごく価値のある、愛されている存在だ。絶対に、自分の命も人の命も、大事にしなくちゃ駄目なんだ!」
涙ぐんでいた。昴くん、思い切りここの台詞思い入れがあったようで、夢でも何回も言ってたもんな~~。
一回目は、そんな内容。次回は、また別の事件がある。試験の答案用紙が盗まれるという、そんな事件。その犯人を超能力で見つけ出すという、そんな内容だ。
2回目からも、結花は登場する。すっかり希一のことが好きになり、つねにそばにいて、希一のことを助けようとする、そんな役のようだ。
結花役は、今、超売れてる女優。モデルもしてて、背がすらっと高くて足が長くて、ものすご~く可愛い。う~~~ん…。複雑…。もしかして、ラブシーンとかあるのかな。
それにしても、この希一は、超、超クール。高校生とは思えないようなクールさで、最後だけ、熱く語ってはいるのもの、いつもはすごいクール。どうやら、クールなのに情にもろいというか、実は熱いものを秘めているという、そのギャップ差を売りにしようというドラマのようだ。クールな昴くんと、熱く涙ながらに語る昴くんと、両方の昴くんを楽しめるという感じかな。
番宣でアナウンサーが、
「クールな昴くんと、熱い昴くんがこのドラマで見れると聞いたんですが、昴くん自身は、どちらなんですか?」
と聞いていた。
「僕ですか?う~~~ん。両方とも、違うかな」
「え?」
「僕自身は、いつも能天気でおちゃらけてて、クールでもないし、そんなに熱くなることもないですから」
「え?そうなんですか?意外ですね。けっこう年齢のわりには、落ち着いてらっしゃいますよ」
「あ。それは多分、猫かぶってるんです。普段は、こうじゃないですよ」
と、ちょっと笑って言ってた。
そうよね。クールさのクの字もないよね…。ってその時、思ったんだ。それ、もし聞こえてたら、絶対に、すぐまたすねたんだろうな…。だけど、私の心の声を聞いてる暇もないくらい、忙しいみたいだからな~~。
すごいのは、その熱く語るときの昴くんから、ものすごい光がテレビの画面から放たれることだ。くるくると光が画面から出たと思ったら、辺り1面を覆う。これは、すごいよ。見てる人を包み込んじゃうよ…。
アセンションのために、このドラマにも出ることになってるんだろうな…。これからも、楽しみなドラマだ。
私の新しい小説「2012年 愛と光の地球」も、ものすごい勢いで、アクセス数が増えていった。感想には、
「面白い内容ですね。少しわかりにくいけど、こんなことを考えられるのはすごいと思います」
なんていうのもあり…。半分以上は、ノンフィクションなんだけどな…とも思ったりした。中には、
「アセンションのことが、わかりやすく書いてある小説ですね」
という感想もあり、あ、この人はもしかして、目覚めてる人かな?とも思った。
そんなとき、メッセージが届いた。
>この小説のように、私も、自分のミッションに気がついちゃったんです。幽体離脱も経験しました。でも、宇宙船には行ってません。ただ、私にも魂の片割れがいるのは、感じてます。どうしたら、その相手と会えますか?
というメッセージだ。私は、返事をするかどうか迷った。もう少ししてから返事をしてみようと、そのまま保留にした。
パソコンを閉じて、布団に潜り込み、うとうととした頃に声がした。
『ひかり…』
『昴くん?』
『ドラマ観た?』
『観たよ』
『どう?俺どうよ?』
『……』
『え?やっぱりクールじゃないって何?どういうこと?』
『私、そんなこと思ってた?』
『今、一瞬…』
『くす…。かっこよかったよ。それに、なかなかいいドラマだね』
『でしょ?俺のあの熱く語るシーンもいいでしょ?』
『くす…』
『なんだよ?さっきから~~。笑ってばかりで』
『良かったよ。感動した。それに、ものすごい光が出てたよ』
『うん。愛を感じながら、台詞言ってたから』
『ふうん』
『え?何?やきもちやいてるの?』
『え?何が?』
『今、思ってたじゃん、あの結花役の子可愛い。ラブシーンあったら、嫌だなって』
『思ってないよ!』
『ちぇ~~~。思ってよ。少しくらい』
『そうきたか…』
『え?』
『なんでもない。でも、あの子本当に可愛いね』
『え?そう?』
『思わないの?めっちゃ可愛いじゃない?』
『そうかもね』
あれ?これ、嘘ついてる?って、エネルギーを感じ取ろうとしても、嘘をついてる感じがしない。
『なんで、嘘つかなきゃいけないんだよ?可愛いかもしれないけど、俺、ひかりが1番だから』
『あ、そう…』
『あ~~~~~。照れてる、照れてる!』
もう~~~。子どもなんだから~~。
『どうせガキだよ!そんなこと言うんだったら、俺、もう寝ちゃうよ?』
『いいよ、夢でまた、抱きついてくるんでしょ?』
『俺が~~?ひかりでしょ?夢の中じゃ、ひかり甘えん坊だよ。よっぽど、いつもより素直だよね』
『いつも素直じゃなくて、悪かったわね』
『……』
『え?』
今、可愛いって思ってた?
『うん』
『……』
『あはは!また、照れてる~~~すんげえ、可愛い~~!!!』
も、もう~~~、本当にもう寝よう、私。
『夢で会おうね!』
『うん。おやすみ』
と言いつつ、夢の中はまたドラマのセット。ああ、またかって思ってると、昴くんがこっちに来て、
「ひかり、愛してるよ」
と、セットの中で、抱きしめてキスをしてきた。あ~~~。昴くん、ドラマと私と、もうごっちゃになってるよね~~。
私に向かって台詞を言ってみたり、いきなり世間話をしてきたり…。ま、いっか~。しばらくは、こういう夢の繰り返しかもしれないな。それだけ、今ハードなんだよね…。
せめて夢の中だけでも、気が休まったらいいなって、昴くんに思い切り光を出して包み込み、ぎゅって抱きしめると、場面がいきなり草原に変わり、草原の気持ちのいい風を二人で感じて、そして昴くんは私の膝枕で寝てしまった。
夢の中で寝るってどうよ…って思ってると、
「ひかり、気持ちいいね。すごく気持ちが楽になる…」
と、目を閉じたまま昴くんはそう言った。良かった…。気持ち、落ち着いたんだ。そのまま昴くんは、私の膝枕で気持ちよさそうに寝ていた。
それからの数週間、昴くんとは会えなかったが、私の周りでいろんなことが起きた。
昴くんが○○出版のことをいろんな人に聞いてくれたのだが、そのことで別の大手の出版社が、「今 このときを 愛してる」を出版しないかと申し出があり、その話がどんどん進んでいった。
それどころか、昴くんと共演している人が、映画化もしようということになり、そっちの話も進み出した。
本の出版、映画化が同時進行。これはなかなか、すごい展開だった。主人公は昴くん。昴くんの上司役がその、共演者ということにもなっていた。
『ひかり、なんかこの展開すごくない?』
そんなある日の夜中、昴くんが話しかけてきた。
『うん。すごいよね』
『低い次元だと、まだ本の出版が決まったくらいみたいだ。でもひかりの書いた小説、けっこう話題になってるみたいだね』
『昴くんも、あっちの次元の昴くんに聞いたの?私も聞いたんだけど、「2012年 愛と光の地球」も、すごいアクセス数になってるらしいよ』
『こっちでも、アクセス数すごいね』
『うん。なんかもう、びっくりだよ』
『ひかりの小説の映画化、来年の春から撮影始まるようなこと言ってたよ』
『ほ、ほんと?』
『本も、春に出るんだっけ?』
『3月って言ってた』
『う~~ん。すごいね!わくわくするね』
『圭介の役なんだよね?』
『そうだよ』
『わ~~~。楽しみだな。昴くんの圭介…』
『あ、そうだ。瑞希の役も決まったよ』
『え?誰?』
『菅原エリカ』
『え?!すごい!私、瑞希役だったら、菅原エリカがいいな~~って思ってた』
『知ってる。だから俺、瑞希役は、菅原エリカさんがいいと思うって、言ってみたんだ。そうしたら、その意見通っちゃった』
『すごいね。確か、今年30歳くらいだったっけ?』
『ああ、そうだっけ?あれ?ひかりとそんなに変わらないんだ…』
『うん』
『大人っぽいよな~』
『誰が?』
『え?』
『どっちが?』
『えっと~~』
どうせね、私はてんで大人っぽくないですよ。
『あはは…。すねてる?可愛いよね~~』
もう~~~!!こういうのは、聞くな!
『あははは…。そりゃ、しょうがないじゃんか。聞こえちゃうんだもん』
『はあ…』
『え?どうしたの?』
『なんか、このものすごい展開に、ちょっとついていってないの』
『そうなの?』
『う~~ん…。バイトもどうしようかな。なんかね、小説担当の人がついてくれて、何回かゲラ刷して、チェックしてってするらしくって』
『ふうん』
『けっこう忙しくなるのかな~~』
『大丈夫だよ。でももし忙しいのが嫌だったら、バイトやめてみるっていう手もあるけど…』
『う~~ん』
『きっと、ベストセラーだよ?バイトする必要もなくなるかも』
『え~~?そうかな~』
『万が一、それで食べていけなくても、俺が養ってあげるから』
『いつの話?それ…』
『すぐだよ、すぐ!』
『ふふ…。何万光年もさきじゃないよね?』
『すぐだって!』
『わかった。今年いっぱい働いて、来年やめることにする』
『うん。俺も来年には、20歳になるし』
『それ、なんか意味あるの?』
『もう大人ってこと!』
『……』
『何?大人になれないって思ってるの?』
『そんなこと思ってないよ~~。多分』
『聞こえたから!昴くん、まだまだ子供なのにって』
『え?そんなこと思ってた?やだな。無意識だ、それ』
『ちぇ~~~。いいよ。べっつに~~。魂じゃ年齢関係ないし~~!』
くすくす…。
『昴くん、もう1時過ぎたよ。寝なくていいの?』
『寝るよ!』
あ、すねちゃった。可愛いな~~。ほんとに…。
『おやすみ!でもね、言っとくけど、けっこうひかりだって、子供っぽくて可愛いんだよ?』
『…おやすみ!』
昴くんとは、もう何週間会ってないかな…。でも、夢では会えていたし、寂しいっていうのはないな~。
『俺は、ひかりに会いたいよ?』
あ、まだ聞いてたのか。
『ひかりは、会いたくないの?』
『会いたいよ。だけど、昴くんのエネルギーは感じられるから、寂しいっていうのはないよ』
『そっか。俺は寝るとき、横にひかりがいてくれたらって思うけどな…』
『……』
『ごめん!困らせた。いつかそういうときが来たら、一緒に暮らせるよね』
『うん…』
『じゃ、本当におやすみ』
『おやすみ…』
一緒に暮らす…。考えるけど、でもどうしてもまだかなっていう気がして…。なんでかな?きっと、昴くんの言うように、一番いい時期に、一緒に暮らせるようになるってそんな気がする。
その日眠ると、昴くんは夢で甘えてきた。
「だって、俺、子どもだし~~」
と、開き直りながら…。
12月、ドラマの収録が無事に終わり、クリスマスは一緒に過ごせた。その日、私と昴くんは丸1日べったりと、昴くんの家で過ごした。小さなクリスマスツリーを昴くんは、買っていた。私はクリスマスケーキと、小さな可愛いキャンドルを持っていった。
夕飯は二人で作った。食べ終わり明かりを消して、キャンドルだけにしてみた。
「なんか、いいね。キャンドルって…」
昴くんがそう言いながら、私のことを後ろから抱きしめた。
「うん…」
昴くんの腕の中は、相変わらず優しいしあったかい。本当に最近、ずっとお互い忙しくて、こんなふうに抱きしめてもらったのも久しぶりだ。
「ひかり、やきもちやいてた?」
「やきもち?」
「結花役の、女優さん」
「ああ…、なんで?」
「ラブシーン、見れなかったでしょ?」
「え?なんで知ってんの?」
「あはは…。その時、同化してた」
「ほんと?」
「うん。オンエアの時間にちょうど家に帰れたから、ひかりにエネルギーあわせて同化したら、なんかジェラシーみたいなのを感じて、テレビ消しちゃったからさ」
「もう~~、そんなときに同化しなくっても」
「へへ…。でも、そんなひかりも可愛いよね」
『昴くんにかかると…』
「そう、どんなひかりも可愛くなっちゃう…」
私の心の声を、読んで昴くんがそう言った。
「それ、私もだけどさ」
「どんな昴くんも大好き…なんでしょ?」
自分で言うか…。ほんとに、もう…。
「ひかり…。愛してるよ」
「うん」
「ひかりは、あんまり言ってくれないよね?」
「え?」
「言葉で、愛してるって」
「心では言ってるよ」
『ひかり、愛してるよ…』
昴くんは、心で言ってきた。
『…あれ?』
『え?』
『ひかりは?』
『しょうがないな~~』
『え?何それ~~?』
『くす…』
『最近、俺のこといじめてない?』
『いじめてないよ~~』
『じゃ、なんで愛してるって言ってくれないの?』
あ、すねちゃった…。可愛いな~~。
『やっぱり、いじめてる』
「あはは…。いじめてないってば~~」
思わず声に出して、笑ってしまった。すねてる昴くんを、後ろからぎゅって抱きしめて、
『そんな昴くんも、愛してるってば…』
って心で言った。
『どんな昴くんも、愛してるから…』
もう一回、そう言った。
『ふ~~~んだ』
あれれ?まだすねてる?
『全部全部、愛してるってば』
そう心で言いながら、もう一回ぎゅってすると、私の腕をぎゅって握って、
『俺も!!!』
って昴くんが、言ってきた。そして、やっぱりあい変わらず、私たちはお互いのあったかい光に包まれながら、その日眠りについた。夢の中でも、ずっとべったりくっついていた。
私の小説「2012年 愛と光の地球」に、「同じような体験をしました。」というメッセージが、何件か入っていた。昴くんや悟くんに、どう返事をしたらいいか相談してみたが、
「ほっておいていいんじゃないの?」
と言われた。
「俺らみたいに、目覚め出す魂が最近多いみたいだよ。他にもそんなブログ書いてる人、増えてきてるし」
「そうなんだ」
「うん。もう、2010年になるしね」
そんな話をしたのは、クリスマスも過ぎ年末になり、昴くんも悟くんも葉月ちゃんも休みが取れて、4人でやっとこ会えた日だった。私たちはまた例のごとく、昴くんの家に集まっていた。
「昴は実家に行くの?」
「う~~ん、正月は行こうかな…。なんか、別に帰ってこなくてもいいわよって言われたけどさ。悟さんは?」
「俺は帰らないよ。面倒くさいし、親戚中集まるから、ゆっくりできないしさ」
「じゃ、昴くんも悟くんも、しばらくのんびりできるの?」
葉月ちゃんが聞くと、
「うん。葉月もけっこうバイト休み、取れたんだっけ?」
「うん」
葉月ちゃんが嬉しそうに言った。
「星野さんは、もう辞めちゃったんですよね」
「うん。昨日で最後だったんだ」
「寂しいな~~。もう、バイトに行っても会えないんですね」
「でも、たまに、ランチしに行くよ」
「本当ですか~~!絶対に来てくださいね!珠代ちゃんも、星野さんやめて、がっかりしてましたよ。3人でランチしましょうね」
「珠代ちゃん?ああ…。司さんか」
昴くんが、聞いてきた。
「そう、司さん。こっちの次元じゃ全然違ってて、私仲いいんだ」
葉月ちゃんが、そう答えた。
「司さん、魂の片割れとはどうした?」
「う~ん。あまり、変わらないみたい。恋人に進展するでもなし。でも、心で会話してるみたいだよ」
葉月ちゃんが、そう言うと昴くんは、
「ふうん」
と相槌を打った。
「気になる?昴くん」
って私が聞くと、
「え?なんで?」
とちょっと不思議そうに、昴くんが聞いてきた。
「なんとなく、気になるのかなって…」
「別に…」
『本当?』
心で聞いてみた。
『ひかりも、もう徹郎さんのこと、なんとも思ってないでしょ?』
『うん』
『それと、一緒』
『そっか』
『ただね、幸せでいて欲しいとは、思ってるけどね』
『うん。そうだよね。私も徹郎には、幸せになって欲しいもの』
「昴!」
悟くんが少し驚いた表情で、昴くんの肩をゆすった。
「え?何?」
「お前、低い次元の昴から、今コンタクトあった?」
「いや、ないけど…。今は、ひかりと話してた」
「なんかさ…、やばいことになってるって」
「え?」
「白河さんもノエルさんも、今、やばいってさ」
「低い次元の?」
「うん。こっちに来れるかって言ってきた」
「低い次元の悟さんから?」
「うん」
「待って、俺もコンタクト取ってみる」
昴くんは、静かにうつむいた。私も低い次元の私に、話しかけてみた。
『低い次元の、私…』
その次元に意識を向ける。
『あ!良かった!コンタクト取れて…』
向こうの次元の私が、ほっとした感じで言ってきた。
『助けに来てもらえないかな。できたら、高い次元の昴くんも一緒に』
『どうしたの?』
『闇にノエルさんが、捕まってて…。白河さんも本山から出てこられないし。ノエルさんのこと助けたいんだけど、闇のエネルギーが大きくて大変なの』
『わかった。今ここに、昴くんも悟くんも葉月ちゃんもいるから、みんなで行けると思う』
私がコンタクトをしていたように、昴くん、葉月ちゃんもコンタクトして、同時に同じことを聞いていたようだ。
「すぐに行く?とりあえず俺は、年始7日まで休みだから10日はいられる」
悟くんが言った。
「俺も、10日間はいられるよ」
昴くんが言った。
「私、7日まで休みです」
葉月ちゃんもそう、答えた。
「私は、今度のゲラ出来上がらないとチェックできないし、担当さんも年末年始休むから、多分、7日までくらい大丈夫だよ」
私が言うと、悟くんが、
「じゃ、とりあえず、旅行ってことにしよう。いったん家に帰って、連絡しないといけないところには連絡して、明日の朝、また集まって向こうの次元に出発ってのはどう?」
と提案した。
「OK!」
残り3人同時に、うなづいた。
悟くんが車で来ていたので、私と葉月ちゃんを家まで送ってくれた。それから母に、
「悟くんと昴くんと、葉月ちゃんがお休みが一緒だったから、明日から旅行に行ってくるね」
と告げた。
「そんなにいきなりで、宿空いてるの?」
「なんか、悟くんの知り合いの旅館で…。さっき聞いたら空いてるって。1月7日頃戻るから」
「え?そんなにゆっくりしてくるの?あんた、小説は大丈夫なの?」
「うん。担当さんも年末年始休んでるから大丈夫。それじゃ、お風呂はいってもう寝るね」
そう言って、私はとっととお風呂に入り、とっとと寝た。
夢の中で、昴くんが、
「何があったのかな?なんか白河さんも、ノエルさんも大変なことが起きたって言ってたけど」
と話しかけてきた。
「うん。闇のエネルギーが大きいって言ってたよ」
「あっちの次元の俺じゃ、たちうちできないから助けに来いって。あいつ、強引にそう言ってたけど…」
「そうなんだ…」
「俺らのミッションだね。これ…」
「うん。そうだね。でも…」
「え?」
「白河さんでも大変なこと、私たちでなんとかできるのかな?」
「それはわからないけど、でも行くしかないよ。仲間、集まって何かをするときなんだよ」
「うん。そうだね」
「悟さんが言うように、こっちの次元は目覚める人が本当に増えてる。このままいけば、2012年にアセンションできるって俺、なんとなく確信してるんだ。ひかりの小説も映画化されるし、そうしたら、もっと多くの人に光を届けられる。だから、こっちの次元はもう安定してると思う。だけど、低い次元では、きっとまだ闇のエネルギーが強いんじゃないかな」
「うん。そうかも…」
「大丈夫!心配はいらないって。白河さんも言ってたじゃん。全部がアセンションのために起きることだよ」
「そうだよね」
昴くんは夢の中で、私をぎゅって抱きしめて、あったかいエネルギーをいっぱい送ってくれた。
正直少しの不安はある。でも、これもまたミッションだ。そして、昴くんも一緒に行くのだ…。これから、何が起きるのかは、想像も出来なかったが、何があってもいつも昴くんのことを愛してる…、その気持ちはずっと持ち続けながら、ミッションを遂行するんだ。そんな意気込みでいた。
さあ、明日また、あっちの次元に出発する。何が待ち受けているのだろうか…。