ミッション7 新たな仲間に会う
翌朝、外がまだ真っ暗なうちから、部屋にある電話が鳴った。
「おはようございます」
私が出ると、ノエルさんの声がした。
「あ…はい。おはようございます」
まだ、頭が働かない。いったい何時?
「朝日が昇ると共に、お祓いの儀を行いますから、あと1時間で支度して、中庭まで来てください」
「…はい」
ああ…。お祓いするんだっけ。
「ひかり…?」
昴くんも、目が覚めたようだ。
「おはよう、昴くん」
「え~~?まだ、夜中でしょ?」
「もう朝だよ。あと1時間したら、中庭に来てくださいって。お祓いするみたい」
「お…、はらい?」
あ、寝ぼけてるな…。昴くん。
「眠い…。寝る」
昴くんは、布団を頭までかぶり丸くなった。ま、いっか…。もう少し寝かせてあげよう。
私は着替えをして、洗面所に向かった。顔をそこで洗っていると、悟くんと葉月ちゃんがやってきた。
「おはよう」
まだ二人とも、眠気眼だった。
「あれ?昴は?」
悟くんが、目をこすりながら聞いてきた。
「寝てるよ」
「え?」
「もう少し寝かせてあげようかなって思って」
「優しいな、ひかりさんは。だから、昴がひかりさんに甘えるんだな」
「甘える…?」
私が不思議そうに聞くと、
「甘えてるじゃん、いつも」
と悟くんは言ってから、顔を洗い出した。
葉月ちゃんは、言葉数が少なかった。元気がないのかな、いつもしゃきしゃきとしているのに…。
「葉月ちゃん、元気?」
と聞いてみると、葉月ちゃんは、
「あ…はい」
と、少し恥ずかしそうに答えた。?なんか、雰囲気違わない?
「なんかね、こっちの次元の葉月みたい」
「え?」
「いや、高い波動の葉月もたまに出るけど…。まだ、安定してないんだ」
「ご…、ごめんね。悟くん」
「謝ることないよ。はじめはみんなそうだよ。ひかりさんもそうだったでしょ?」
「うん。昴くんだって、そうだったよ」
「……」
葉月ちゃんは黙ったまま、悟くんの腕にしがみついた。
…?
しばらく悟くんと、葉月ちゃんは見つめあってた。あ、心で会話してるのか。それから、葉月ちゃんは、真っ赤になり下を向いた。う~~ん、心でどんな会話をしているのやら…。
「じゃ、部屋戻って、昴くん起こしてくるね」
私は、二人よりも早めに洗面所をあとにした。
あの様子なら、もうこっちの次元の葉月ちゃんも、悟くんのことが怖くなくなったんだろうな~。
部屋に入ると、まだ布団の中で昴くんはまるまって寝ていた。
「さて、どうやって起こそうかな」
心の中で、呼びかけてみた。
『昴くん、起きて』
『起きてるよ』
いや、寝てる。うっすら、いびきも聞こえる。
「昴くん、起きて」
声に出して言ってみた。し~~~ん。何も返事がなかった。
しょうがない…。布団の先から、少し出ていた足の裏をくすぐってみた。パッ!昴くんが思い切り、足をひっこめた。あれ?ほんとに起きてるのかな?
そっと掛け布団をあげてみると、思い切り無防備な顔ですやすや寝ている…。く~~~!可愛い寝顔だ!
『ひかりも、可愛い…』
え…?昴くんにエネルギーを集中すると、どうも、夢の中で私に話をしているようだ。
しょうがない。布団を思い切りひっぺがすか、それとも…。
『ひかりのキスで、優しく起こされたいな~~』
こいつ、本当に寝てるのかな。う~~ん、夢の中で私の心の声を聞いてるんだな…。
「昴くん、あ、さ、だ、よ。お、き、て」
と耳のすぐそばで、ささやいてキスをしてみた。し~~~~ん。起きない…。
『起きないじゃない~~~!』
『起きてるよ。ひかり、愛してるよ』
いや、それは~~、夢だから…。
私は、思い切り掛け布団をひっぺがした。
「昴くん!いい加減、起きて!!!」
「うわ!」
昴くんが、あやうくベッドから落ちそうになった。
「え?え?」
目を覚ました昴くんは、しばらく放心状態。
「あれ?俺、寝てた?」
「寝てた」
「あれ?でも、ひかりにキスしてもらって起きたよ?」
「それ、夢だから…」
「なんだよ~~~。夢の中じゃ、優しかったのに~~。ひかり、怖いよ~」
昴くんが、ひっぺがした掛け布団を私からぶんどり、掛け布団を抱きしめながらそう言った。
「優しく起こしたよ?ちゃんとキスもしたよ?」
「え?でも、それ夢」
「夢じゃない。それは、本当。だって、昴くん、優しくキスして起こしてって言うから」
「……」
昴くんは、少しだけ黙り込み、
「もういっぺん、その優しく起こすところ再現してみて」
と、甘える声で言ってきた。
「嫌だ!それよりも、早く顔を洗ってきて」
「ちぇ~~~。なんだよ~~。減るもんじゃなし…」
……。悟くんが言ってたのはこれかな?
「何?悟さんなんて言ってた?」
「別に」
すかさず、昴くんは私の心の声を聞き、
「え?俺が、ひかりに甘えてるって?」
って、聞いてきた。
「あ、読まれたか…」
「いいじゃん。甘えたって…」
昴くんは少しぶつくさ言いながら、タオルとはぶらしを持って部屋を出て行った。あ…。髪はボサボサ。よれたスエットのままだ。
『昴くん、着替えて、髪くらいとかしていったら?アイドルなんだからさ~』
『いいよ、めんどくさい』
『だって、誰に会うかわからない』
『あ…』
『え?』
少し、昴くんの心の声が途切れた。
『なんつったっけ?ああ、司さん?会っちゃった。なんか、俺見てひきつってたけど?』
『そりゃ、そんな姿じゃ…』
『え?そんなに酷い?』
『アイドルが台無し…』
『まじ?』
それでも、昴くんは戻ってこなくって、しばらくしてさっぱりとした顔で戻ってきた。
それから、着替えをして髪をとかすと、いつものイケメン昴くんになった。
「ね…」
「何?」
昴くんがベッドに座り込み、何か聞きたそうにしていた。
「俺、寝起き、いつもあんなじゃん」
「うん」
「へたすりゃ、よだれも目やにもついてるし…」
「うん」
「なんで、平気なの?」
「誰が?」
「ひかり」
「?」
「寝癖もすごいしさ…。俺」
「くす…。寝癖、可愛いよ」
「え?」
「しょうがないじゃない。私から見たら、どんな昴くんも可愛いんだから」
「あ…、そう…」
昴くんは、少し照れていた。
私が化粧を済ませた頃、ドアをノックする音がした。
「星野さん、昴くん、そろそろ行きませんか?」
「うん」
葉月ちゃんだった。私と昴くんは部屋を出て、葉月ちゃん悟くんと一緒に一階におりていった。
玄関で靴をはき、外に出た。まだ、外は暗くて肌寒かった。
「寒い…」
葉月ちゃんが、少し震えながら言うと、
「上着貸そうか?」
と、優しく悟くんが、声をかけた。
「ううん、大丈夫」
葉月ちゃんはそう言って、悟くんの腕にしがみついた。
『あれ…。なんか、急接近?あの二人…』
昴くんがそれを見て、心で話しかけてきた。
『うん。こっちの次元の葉月ちゃんも、悟くんのこと怖くなくなったみたい』
『そっか、良かったよね』
『うん。』
中庭がどこにあるんだかわからないままに、なんとなく屋敷の周りをぐるりと歩いていると、
「葉月ちゃん、ひかりさん、こちらよ」
とノエルさんが、手を振っているのが見えた。その横には、司さんもいた。
「おはようございます」
みんなで挨拶をしたが、司さんは黙ったまま。でも、昴くんの横にすっと並び、
「やっぱりこうしてると、昴くん、かっこいいよね」
と、昴くんに言っていた。
『?こうしてると?何?どういう意味?』
『ちゃんと着替えて、髪をとかしてると…って意味かな?』
『ああ。さっきのぼさぼさの頭に、スエットは冴えないってこと?』
『かも』
『……』
昴くんが、複雑な心境になっていた。
『ま、いいや。別に、どう思われても』
いやいや、一応スターなんだからさ…。
ノエルさんについていくと、屋敷の裏側に出た。そこには、すでに何人かの人が集まっていて、真ん中に白河さんもいた。今日は、上から下まで真っ白だった。
中庭には、大きな板の間が広がっていた。あれだ。能や狂言をするときの舞台のような感じだ。靴を脱ぎ、横の階段からその板の間にノエルさんはあがった。それに続いて私たちも、板の間にあがっていった。
「葉月ちゃんとひかりさんは、前の方に来て。他の人は、後ろで座っててね」
そうノエルさんに言われて、私と葉月ちゃんは白河さんのすぐ横に座らされた。白河さんは、いきなりなにやら唱え出した。
『こわ…』
思わず、身震いがしたが、
『大丈夫。ひかり、俺がいるから』
と、昴くんの声がした。後ろを見ると、昴くんからも悟くんからもすごい光が出ていた。安心して、じっとその場に私は座っていた。体全体で、昴くんのエネルギーを感じながら。
しばらくすると、葉月ちゃんが横でうなだれた。
「葉月ちゃん?」
葉月ちゃんの周りに、黒い霧が集まりかけていた。それを後ろから悟くんが、光を出して消していたが、なかなか黒い霧は消えなかった。
はっ!気がつくと、私の周りにも霧が立ち込めていた。慌てて昴くんのことを思ったが、光が出ても霧がどんどん増えていく。
周りを見ると、その霧に吸い寄せられるように、黒い霧が集まってきていた。ノエルさんや司さんや、他の人からもどんどん黒い霧が出ていた。
『反応してるんだ』
『え?』
『リンクしてる。黒い霧と、彼らの中にある負のエネルギー…。ひかり、ずっと、俺のことを思ってるんだよ?』
昴くんがそう言うと、また昴くんのエネルギーを送ってくれた。
昴くんが好き…。昴くんを愛している…。何度も、何度も、心の中でそうつぶやいた。だが、黒い霧はどんどん押し寄せてきた。
嫌だ!助けて!!!!怖くなって、私は思い切り、そう心で叫んでしまった。その瞬間、ドン!!!恐怖の念が、心の中からどっと溢れ出たのがわかった。
ブワ…。私の中からも、黒い霧が一気に出てきた。
『やばい、どうしよう』
私が慌てると、昴くんが、
『落ち着いて』
と言ってきた。そうだ、落ち着け…。心を穏やかにして…。目を閉じた。だが心の奥からあの、低い声が聞こえてきた。
『憎い』
何が?
『妬ましい』
え?
『お前がいなければ…』
ゾク…。ものすごい冷たいエネルギーを感じて目を開けると、さすような視線を感じた。その方向を見ると、司さんがものすごい形相でこっちを睨んでいた。
『怖い…』
また、私の中から黒い霧が出た。
ぎゅ!!いきなり誰かが私の腕を掴んだ。見ると昴くんだった。いつの間にか、昴くんは私の横にいた。
下を向いたまま、うなだれている葉月ちゃんの横には悟くんがいて、葉月ちゃんのことをしっかりと抱きしめていた。
「あなたたち、お祓いの邪魔よ。こっちに戻りなさい」
ノエルさんが後ろからそう言ったが、二人はまったく無視をしていた。
私はガタガタ震えていたが、昴くんの手からあったかいエネルギーが入ってくるので、どうにか正気を保てていた。横を見ると、葉月ちゃんも顔色が良くなってきていた。だが、次の瞬間、
「こっちに来なさい!」
と悟くんと昴くんは、大きな男性二人がかりで私から引き離された。
『怖い…』
昴くんが離れたとたんに、ものすごい不安や恐怖がやってくる。ドスン…。体が重くなる。冷える。くらくらする…。
『助けて、昴くん、助けて』
でも、昴くんの声がしない。
『誰か、助け…て…』
意識が遠くなりそうだった。その時、
『ママ!』
とても懐かしい可愛い声が、体の中から聞こえた。
『ママ!』
また、聞こえる。
『赤ちゃん…?』
『ママ!大丈夫。僕が何があっても守ってるから』
『え?』
『ママのことは、どんな闇のエネルギーが来ても、僕がここにいるからママは大丈夫!』
『え?』
『心の1番奥で、いつも守ってきた』
『…私を?』
『もうすぐ朝日が昇る。朝日を浴びたら、黒の霧は晴れていくよ』
『え?』
『闇のエネルギーが弱まるから』
少しすると辺りが白々としてきた。そして、朝日が昇ってきた。周りに立ち込めていた、黒い霧が徐々に消えていく。
『ひかり…』
昴くんの声も聞こえるようになった。
『昴くん』
『ひかり、良かった、聞こえるんだね?』
『うん』
『大丈夫?ごめん、取り押さえられてて、動けないんだ』
『大丈夫、赤ちゃんが守ってくれてるから』
『ひかりの?』
『そう、こっちの次元の私の赤ちゃん』
『そっか…。それが赤ちゃんの役目だったのか』
『え?』
『きっと、こっちの次元のひかりを守ってたんだ』
『そうだね…』
『ありがとう、赤ちゃん。私のことを守ってくれてたんでしょう?』
私が心で話しかけると、赤ちゃんが答えた。
『闇のエネルギーと、ママ、つながっちゃったんだ。でも、その声にひきずられないよう、僕、必死でママのこと守ってたんだ。ママの心が闇で覆われないように』
そう言うと、心の中でぽわって小さく光っている赤ちゃんのことを、見ることが出来た。ああ、こうやってずっと光り続けて、闇に飲まれないように頑張っててくれたんだな…。
『ありがとう…』
私は、思わず涙を流した。
『ママ、もう大丈夫だね。高い波動のママもいるし、昴さんやママを守ってくれる人がいるから』
『え?』
『あのね。高い次元の僕も、ママがずっと心を閉ざしてたときに、闇に飲まれないよう守ってたの。でも、昴さんがママを守ってくれるようになって、僕の役目は終わったんだ』
『そうだったの?』
『うん。それとね、前世のこと聞いたでしょ?僕、前世でもママのおなかにいたけど、でもね、その時もっとママに愛されたいなって思って、それで、今度もママのおなかに来たの』
『え?』
『それでね、ママ、いっぱいおなかにいる僕のことを愛してくれたから、僕満足しちゃって…』
『…恨んでないの?前世であなたの命…』
『僕は、ママがどんなにそのことで、苦しんだかを知ってるよ。誰よりも知ってる』
『……』
『僕が、苦しめちゃってた。ごめんね。僕、謝りたかった』
『なんで、あなたが謝るの?私のほうが悪いのに』
『ううん、ママは悪くない』
『じゃ、あなただって』
『うん。そうだね。誰も悪くないね。だから、もう謝るのは無しにする』
『え?』
『僕ね、ママにありがとうが言いたい。それとね、大好きって』
『うん』
『こっちの次元でも僕は、またパパの子になるよ。パパのこと、パパの家族を愛して幸せにするの』
『うん』
『ありがとう。ママ』
『赤ちゃん、あなたもありがとう。ずっと愛してたよ』
『うん。知ってた』
『ごめんね、名前もないね』
『いいの。謝るのは無しだよ。じゃ、僕逝くよ』
『え?』
『ママの体から出て、転生する』
『うん』
ママ、大好きだからね…。
最後に赤ちゃんはその言葉を残して、私の体から出て行った。ものすいごく奇麗な光が、太陽の光と混ざり合いながら、空高く舞い上がっていくのが見えた。
「さあ、お祓いの儀を、無事に終えることができた」
白河さんがそう言うと、私と葉月ちゃんの前に座った。もう、白河さんの周りには、黒い霧は立ち込めていなかった。そして、
「恐怖を感じましたか?」
と、とても穏やかにそう言った。
「え?はい」
私と葉月ちゃんは、同時に答えた。
「さて、ノエル。私には、ひかりさんの体にはいっていた魂を見ることが出来た。君は見えたかね?」
「私にはまだ、そこまで力がありません」
「うむ…。では、葉月さんに憑いていたという、魂はどうかな?」
「見えませんでしたが、でも、お二人の今の顔を見ると、もう成仏できたのでは?」
「ははは…。確かに、ひかりさんの中にいた魂はね」
え?見えてたの?本当に…。
「水子の霊ですか?」
ノエルさんが、白河さんに聞いた。
「水子だとなぜ、そう思った?」
「赤ちゃんの霊が、取り憑いてるのが見えたので」
「ははは…。まだまだ青いな。ノエルには、いろんな観念がありすぎる。いろんな占い、まじない、他にも知識を取り入れすぎたんだ」
「え?」
「赤ちゃんの魂が、ひかりさんの中にいたのは確かだ。でもそれは、光輝く美しい魂だよ」
「え?」
「昨日、前世も見えたと言って、私に教えてくれたね?」
「ひかりさんのですか?」
「赤ちゃんの命を絶ったということを…。だからといって、赤ちゃんが恨むという考えはあさはかだ」
「え?どういうことですか?お父さん」
「ひかりさんは、もしかすると、赤ちゃんの魂と会話をしていたんじゃないかい?」
「はい」
「え?」
ノエルさんや、そこにいた人たちが驚いていた。
「どんなことを話していたのか、良ければ、教えてくれないかな」
白河さんは、ものすごく優しい声で聞いてきた。
「あの…。私のことを、ずっと守るのが役目だったと…」
ノエルさんが、ものすごく驚いていた。
「それから、今生でまた、私のおなかにきて私に愛されたかったと…。それで、私が赤ちゃんを愛していたから、満足したんだって言ってました」
「うむ…」
白河さんは、深くうなづいた。
「奇麗な、汚れを知らない魂だった。まさに天の使いだな」
「見えたんですか?」
昴くんが、後ろからそう聞いた。
「見えたよ。ひかりさんの体から出て、太陽の光と混ざり合い天に昇っていくのを」
「光が、見えるんですか?」
「ああ、見える。君たちからの、ものすごく奇麗な光も」
「え?」
私も悟くんも、昴くんも葉月ちゃんも、目を丸くした。
「ノエル。そろそろ君も、目覚めないといけないな~。でも、どうだ?相当、気持ちが楽になったんじゃないかい?」
「え?」
「君の中にいる闇のエネルギーが、浄化されたからね」
「どういうことですか?」
ノエルさんが、不思議そうに聞いた。
「ははは…。お祓いとは言っても、ひかりさんや葉月さんのではない。君や、ここにいる他の人たちの闇のエネルギーを浄化したんだ」
「え?」
また、私たちは仰天した。
「ああ、いやいや…。もちろん、君たちの中にもある、恐怖や不安のエネルギーも、浄化したんだがね。どうかな?葉月さん、君の中からも、たくさんの負のエネルギーが出たんじゃないかい?」
「……」
葉月ちゃんは、目を丸くしたまま黙っていた。
「朝日には、闇を浄化するエネルギーがあるんだよ。それを利用させてもらい、今までもたくさんの闇のエネルギーを浄化してきた。まあ、荒療治ではあるがね」
そう言うと白河さんは、悟くんと昴くんのそばに寄った。
「君たちには、ものすごい光で闇を覆うという、素晴らしい力があり、それが君たちのミッションなんだな…。できたら、ここで私のサポートをしてほしかったが、君たちには、君たちのミッションがあるようだから、引き止めるわけにはいくまい」
「仲間…、ですか…?」
悟くんが、めずらしく動揺していた。
「ああ。君たちとは、どうやら住んでいた星は違うようだがね」
「……」
悟くんは、黙って白河さんのことを見つめていた。
「ノエルもそうなんだが…。彼女はまだ、目覚めていない」
「え?!」
私と昴くんが、同時に驚いた。
「高い波動のノエルなら、もう、目覚めたかもしれないな。なにしろ、こっちの次元と向こうで起きることも、実はリンクしているからね」
「そうなんですか?」
昴くんが、目を丸くしたまま聞いた。
「こちらのノエルが、かなり闇を浄化できた。その影響は大きいだろう」
「……」
「こちらの次元の君たちはすでに、目覚めたね。闇の浄化も済み、もう高い次元の君たちがいなくても、ミッションを遂行できるだろう」
「え?」
4人同時に、聞いた。
「もう、高い次元に戻るときが来た。私がそのサポートをしよう。まあ、急ぐこともない。ゆっくりと朝食を取り戻るといい」
「あの、いろいろとお聞きしたいことがあるのですが」
悟くんが、聞いた。
「なんだね?」
「この次元では、2012年に地球が破滅すると言われていますが、それを阻止することもミッションですか?」
「それが私の1番のミッションだよ。君たちの次元ではね、もう、それを信じる人たちもいなくなってる。でも、この次元では、多くの人が信じ込んでいる」
「それは、その…、俺らはしなくてもいいんですか?」
「ああ。こちらの次元の君たちは、もう十分に目覚めているから、彼らがするだろうミッションだ。私もそうだ」
「白河さんも?」
「君たちの次元では、少し違う活動をしている。君たちが戻れば、君たちの次元の私に会うだろう」
「あの…、俺らのこと、わかりますか?その高い次元の白河さん…」
昴くんが、聞いた。
「ははは…。わかるさ。私は色んな次元の私と、つねにコンタクトをとっているからね」
「悟くんみたいだ」
と私が言うと、
「悟くんもまた、高い次元の星の出身だね」
と白河さんは、答えた。
「あの、もう一つ聞いてもいいですか?」
昴くんが、今度は質問した。
「なんだね?」
「俺らが高い次元から来ていること、なんでわかったんですか?」
「君たちの中に、高い波動、低い波動、入り混じっているのが見えたからね」
「え?」
「ああ。もう大丈夫だ。さきほどの浄化で、こちらの次元の君たちも、すっかり高い波動に変わってるよ」
「そうですか…」
「こちらの次元の君たちのことを、心配することはない。もう大丈夫だ。私も彼らとは連絡を取り合い、何かの時には、サポートさせてもらうよ。だから、君たちは安心して君たちの次元に戻りなさい」
「はい」
「向こうの次元の私は、君たちのことをサポートしていく」
「心強いです」
悟くんが、そう言った。
「もう一つ…、あの」
昴くんが、もっといろんなことを聞きたそうにしていたが、でも、控えめに聞いた。
「俺とひかりみたいに、もう一人の白河さんの魂がいるんですか?」
「いや…。君たちのように、分離して地球に来てるわけではないからね」
「え?」
「ははは…。いろんなミッションによって、形態が異なるんだよ。君たちは、男性性、女性性の二つに分かれて、地球に来た。それにも、大いに意味があるというわけだ」
「……」
「ノエル、君が前世を見てあげた、珠代さんだが…」
「はい」
「多分、そうとうな闇のエネルギーを浄化できたと思うが、どうかな?」
「体が、軽いんです…」
司さんは、すっきりした顔で答えた。
「だろうね…。そのうちに、君もミッションを思い出すだろう」
「え?司さんも、仲間ですか?」
悟くんが聞いた。
「ああ。そうだ。君たちのように、そのうち、自分の魂の片割れとも出会うだろう」
「どういうことですか?お父さん」
「ノエル。この地球での前世など、単なる記憶のデータに過ぎない」
「え?」
「あまり、そういうことに囚われていては、真実は見れないんだよ?珠代さんの過去では、昴くんが恋人だったかもしれないが、過去の話だ。それに彼女には、もっと出会わなければならない相手がいる。ここで、過去にこだわっていたら、その相手に出会っても気がつけず、自分のミッションを遂行するのもできなくなるだろう」
「私の、魂の片割れ?」
司さんが不思議そうに、白河さんに聞いた。
「ああ、そうだ。昴くんと、ひかりさん。悟くんと、葉月さんのようにね。君にもまたいるんだ」
「どこにですか?」
「詮索はしなくても、宇宙がすべてを取り計らってくれる。今回、ここに集まったように。ここにいる全員が、仲間なのだ」
「ええ?!」
私たち、4人はみんな驚いてしまった。
「ははは…。すべては、必然と言うわけだ。うむ…。この世界はなかなか、うまく出来ている。そうは思わないかな?」
「え~~~?……」
昴くんが言葉を失っていたが、途中で笑い出した。
「あはは…。何それ…。じゃ、何?仲間に会って、アセンションの手伝いをするために、この次元に来たの?」
「そうだ、もちろん、そうだ。それ以外のどんな目的があると言うのだ?」
「邪魔してたんじゃなくって?」
「アセンションのかい?そんなことをする意味がどこにあるというのかい?邪魔をする魂などいないよ。すべての魂がつながり、今、アセンションに向かっている。いうなれば、会う人はみな仲間だ。敵など、どこにもいない」
「……」
私たち4人は目を合わせて、それからくすくすと笑い出してしまった。
その光景を見てノエルさんや司さんは、すごく不思議そうな顔をした。でも周りいた、数人の人たちは、優しく微笑んでいた。
「あれ?もしかして、この人たちも…」
「ああ。もう目覚めている。君たちのように、高い次元からこの次元に来たものもいる」
「そ、そうだったのか…。じゃ、そういうこと前もって言ってくれますか?さっき、俺のこと捕まえた人、ものすごく力があって、俺、グーで思い切り殴りそうになってたよ。ああ、殴らなくて良かった」
そう昴くんが言うと、その時に昴くんを抑えてた人が、思い切りがははって笑った。
「まあ、殴っても良かったけどな~。体があってのことだ。それもいい体験だよ。昴くん」
「へ?」
昴くんは、少しあっけに取られていた。そんな昴くんの背中をバンバンたたきながら、
「俺も、プレアデス人だ。君と一緒だ。わっはっは」
と大笑いをした。う~ん…。悟くんが言うように、プレアデスの人はやっぱり、陽気なのかな。
私たちは屋敷に戻り、朝食を取ることにした。昴くんは、さっきのプレアデス人だったという、漆原さんって人と意気投合して、一緒にご飯を食べていた。
私の横には、奇麗な女性が座ってて、その人は漆原さんと同じ魂なのだと言った。私と、昴くんと同じように…。その女性は、流音さんという名前で、名前のように流れるような美しい声で話す人だった。
「私たちは、白河さんに会ってから、使命を思い出したの」
「流音さんと漆原さんは、どこで会ったんですか?」
「信じてもらえないかもしれないけど、町ですれ違って、お互いが一瞬にして惹かれあって」
「え~~~?すごいですね!」
「それから、もともと私はスピリチュアルなことが興味があって、瞑想もしていたし、彼の方は武道をしていたから、座禅をすることもあって、それで、瞑想や座禅をするところに参加していて、白河さんに会ったの」
「この教団にですか?」
「次元の高い世界では、この教団はないのよ」
「ええ?」
「もっともっと、自由な感じで、白河さんがブログで瞑想や座禅をしましょうって呼びかけてて、それで集まって、みんなでしていただけ」
「じゃ、どうして、この次元じゃ教団を?」
「起こることが少し、違うのね。この次元では、教団や教祖がいるほうが、みんな信じやすいし、それに、ノエルさんのように霊が見えたり、白河さんのようにお祓いができた方が人が集まるの。禅をしましょう、瞑想をしましょうって言ったって、みんな興味ないの。もっと、今の生活をどうにか変えて欲しいって、すがってくる人のほうが多いの」
「だけど、そんな人来ても…」
「そういう人の闇のエネルギーを、朝日で浄化して、そのあとに一緒に瞑想をして、心を落ち着かせていくの。波動があがるから、その人の周りで起きること、その人自身の思考も変わっていくのよね」
「……」
私は、黙って聞いていた。
「だから、こういうのを白河さんは続けてるけど、もう少しこの次元が上がったら教団を廃止して、高い次元みたいに、みんなで瞑想したり座禅組んだり、そういったことをしていこうと思うって言ってたわ」
「あの…。地球が破滅するのをふせぐっていうのは?」
「恐怖を一人一人から取り除く」
「でも…」
「まあ、一人一人にしていったら、何万年もかかりそうよね」
「はい」
「だけど、みんなつながってるから、一人が目覚めると、他の人が目覚める確立も上がるわけ」
「え?」
「波動が上がる人が増えて、あなたたちのように闇でなく、光のエネルギーを出す人が増えだすと、この世界はどんどん変わっていくと思うわ」
「……」
「だからね、地道な活動のようだけど、白河さんのしていることは、多くの魂を目覚めさせるのに役立ってるの」
「そうなんですか」
「だけど、昴くんや悟くんのように、メディアで活躍してる人が、たくさんの光を出すことは、素晴らしいことだと白河さんは言ってたわ」
「そうですよね。私もそう思います」
「メディアは、恐怖の方をあおるからね」
「はい」
「でも、変わるわよ、きっと」
「そうですよね」
「流音」
漆原さんが、こっちのテーブルにやってきた。
「そろそろ帰ろうか?」
「うん」
そう言うと、流音さんは私の方を向き、
「ひかりさんに会えてよかった。あなたが書いてる小説、前にいた次元の時から読んでるの。ぜひ、本にして欲しいわ」
「ペンネームを使っていたのに、わかるんですか?」
「ええ。あなたからの光が、あの小説からも出てるからね」
「え?」
「あら、自分で知らなかった?小説からも光が出ていることを」
「はい」
「ふふ…。そうなの?昴くんのブログからも、すごい光が出てるわよ」
「それは気づいてました」
「じゃ、またいつか、会いましょうね」
「はい」
流音さんと漆原さんは、仲むつましく寄り添い、食堂を出て行った。
その頃、昴くんは司さんと話をしていた。そして、しばらくすると立ち上がり私の方に来た。
「部屋に戻って、帰り支度しようよ」
「うん」
昴くんと部屋に戻り、荷物を詰め込んだ。
「司さん?」
いきなり、昴くんが言った。
「え?」
「さっきから、気にしてるでしょう?」
「私?」
「うん」
「そ、そうかな…」
「ま~~た、そうやって隠そうとする」
「う…、うん」
「浄化されたみたい。すっきりしてたよ」
「え?」
「今までは、俺の恋人は、自分だって思ってたらしくて、それで、ひかりのこと相当憎んでたらしいし、俺に対しての執着もすごかったみたい。でも、朝、そういうのが、まるでなくなっちゃったんだってさ」
「え?」
「朝日で、浄化されたらしい」
「そうなの…」
「それで、自分の片割れとどうやったら、会えるのかって聞いてきたから、何も考えないで、今に生きることだって話をしてたんだ」
「……」
「俺と離れるのは、少し寂しいとは言ってたけど」
「え?どうして?」
「だって何回も何回も、転生を繰り返しては、くっついて離れてしてた魂だからね」
「そっか。じゃ、昴くんも寂しい?」
「いや、俺はもう輪廻から脱してるし、ひかりがいるし」
「……」
「司さんも、片割れが見つかったら、俺のことなんかさっさと忘れんじゃない?」
「そっか…」
「安心した?」
「私は別に」
「いいよ。無理しなくて。ちょっとくらい、やきもちやいてくれても。そんなひかり可愛いし」
「……」
「あはは!まだそういうこと言うと、照れるんだね」
「す、昴くんだって、照れたりするよ?」
「俺が~~?」
「うん。自覚してないの?」
「ぜ~~んぜん」
え~~?そうなの?真っ赤になったりするのに。
「俺が?」
「そうだよ」
「…俺が?」
まだ言うか…。
荷物を持って私たちは一階におりて行くと、もう悟くんと葉月ちゃんがいて、白河さんと話をしていた。
「さあ、また中庭に来てもらおうかな」
「はい」
どうやって、この次元から帰ると言うのだろう…。でも、白河さんに任せることにしよう。
白河さんに着いて行き、4人でまた板の間にあがった。そして、白河さんに言われたところに座った。もう、日はだいぶ上がっていて、こうこうと私たちを照りつけていた。
私たちから少し離れた、日の当たらない影に白河さんは入り込むと、そこでなにやら唱えていた。
『ど、どうなるのかな…』
ちょっと不安を感じた。
『大丈夫だよ、ひかり』
昴くんが手を、ギュって握ってくれた。
「ゆっくりと目を閉じて、深く深呼吸をして…」
白河さんにそう言われて、私たちは深呼吸をした。
「日光を思い切り感じて、そのまま、しばらく何も考えないようにして…」
言われたとおりにしていると、ものすごい目を閉じていてもまぶしいくらいの光が、私たちを包み出した。あったかくて、優しい、でも力強い。ああ、これ、白河さんから出てる光だ。
その光と太陽の光が混ざり合い、私たちは一瞬、体全部が光に変わったのを感じた。そして次の瞬間、体が重たさを感じ、座っている感覚や床の冷たさを感じた。
「さあ、もう目を開けてもいいですよ」
ものすごく穏やかに、白河さんが言った。
目を開けると目の前に白河さんが、優しく微笑みながら立っていた。
「…あれ?」
私たちは、しばらくその辺をきょろきょろと見回した。でも、どこも変わっていなかった。
「…?」
「今日はみなさん、仕事ですか?」
「はい」
悟くんが答えた。
「では、もうお帰りになった方がいいとは思いますが。ただ…」
「はい…」
「こちらの次元では、あなたたちは、10日ほどいなくなっていたので、ちょっと、いろいろとはじめは大変だと思いますよ」
「え?!」
私が驚いたが、
「10日ですか?ああ、ぴったりだ」
と、悟くんが笑った。
「あれ?じゃ、もう、前の次元なんですか?ここ」
昴くんが、びっくりしながら聞いた。
「そうですよ」
「え?でも、何にも変わってない」
「ははは…。変わっているんですよ。まあ、そのうちわかります。ところで、何がぴったりなんですか?」
白河さんが、悟くんに聞いた。
「低い次元へ行く前に、仕事を10日ほど、休みますと言っておいたんです」
「ほお…。それは素晴らしい。本当にぴったり10日目で戻られたんですね」
「休めたの?忙しかったでしょ?」
私が聞くと、
「うん。俺はインフルエンザ。悟さんなんて、入院するって嘘ついちゃって」
と昴くんは答えた。
「え?だ、大丈夫なの?」
「まあ、なんとかなるさ」
「あれ?私は?何も言わないで、低い次元に行っちゃった」
「大丈夫です。私、おうちに電話して、仕事の研修が10日間あって、ってお話しました」
「え?」
「すんごい忙しくて、慌てて研修に行ったから、私が変わりに連絡しましたって言ったら、お母さん、信じてくれました」
「あ、ありがとう、葉月ちゃん」
なんて、ナイスなフォローをしてくれたんだろう。
「じゃ、今日までオフってことだ」
「ああ、そうだな」
悟くんと昴くんは、目を合わせた。
「でも、私、バイト…」
私がやばいって顔をすると、また葉月ちゃんが、
「大丈夫です。10日間、私と二人で、海外旅行に行ってることになってますから」
と、ウィンクをしてそう言った。
「え?でも、急にそんなに休んだりしたら」
「懸賞に当たったって言ったら、行っていいよって」
「ええ?」
そっか。葉月ちゃん、ほんとすごいな…。
「では、もう少しここで、ゆっくりしていきますか?良かったら、瞑想を一緒にするのはどうですか?もう、朝の瞑想の時間は終わりましたが、特別にこれから…」
と白河さんが提案してくれた。
「はい…」
私たち4人は、こくんとうなづいた。白河さんは、このままお待ちくださいと言い残し、館の方に行った。
「なんか、全然変わってないと思ったけど、白河さんが少し違ってた」
昴くんが言った。
「うん、こちらの次元のほうが、穏やかな感じがするね」
悟くんも、そう言った。
10日間だけだったんだな。もっと、長いことあっちの次元に行ってた気がする。
『寂しいの?』
昴くんが聞いてきた。
『え?』
『低い次元の俺と、会えないのが…』
『そんなことないよ』
「ね、悟さんって、どの次元の悟さんともコンタクト取れるでしょ?俺も出来るのかな」
「ああ、そのうち出来るようになるさ」
「そっか…」
そんなことを話しながら、太陽の光に照らされ、4人でしばらくほっこりとしていた。