ミッション2 仲間が集まる
家に着いた。暗く、重苦しい家の中だった。私は、さっさとご飯を済ませ部屋に行った。
部屋に行き、パソコンを開き昴くんのサイトを見た。どうやら昴くん自身でなく、スタッフがレポートを書いてるだけのようだった。
「なんだ…。この次元の昴くんは、ブログ書いてないんだ」
私の小説のことはどこにも、触れていないようだった。その時携帯が鳴った。昴くんからのメールが入った。この次元では、メールのやりとりをしているのか…。
メールには、
>明日、2時間だけあく。会う?
と書いてあった。なんか、ぶっきらぼうなメールだった。
>うん。
私もそれだけ返すと、
>また、メールする。
とだけ、返ってきた。
そうだ。今までの記録は…?携帯の受信のところを見てみると、やはり、
>明日は時間ある?何時にバイトは終わる?
とか、
>忙しいから、無理だ。
とか、
>明日から、ニューヨーク行くから。じゃあ。
とか、それはもう、愛想もそっけもないメールばかり…。うわあ…。こんなのを私は受け取っていたのか。それから、私から送ったメールも見てみた。
>わかった。
>また明日ね。
>気をつけてね。
そんなメールばかり。この二人って、どんな関係なんだ?恋人ではないよね~~。はあ…。ため息が出た。
あの優しい昴くんに会いたい。どうして、私は嫉妬なんてしたんだろう。どうしてあの時、昴くんの前から逃げたんだろうか。
声をかけてくれたあの時にちゃんと答えてたら、あの世界にとどまることが出来たんじゃないのか。この次元から、あの次元の昴くんとはつながらないのか…。
悲しかった。今すぐにでも、あの昴くんに抱きしめてもらいたかった。
「会いたいよ~~……」
涙が出た。
「会いに来てよ~~……」
あの次元の昴くんは、今どうしてるの?私はそこにはいないって、悟くんが言ってた。ねえ、じゃあどうしてるの?
会えない悲しさがこみ上げて、涙が止まらなかった。夢の中でも、私は泣いていた。夢の中にもどこにも、昴くんの気配もエネルギーも感じられなかった。
翌日は、バイトのシフトが入っていない日だった。朝から気持ちが落ち込んだまま、部屋でぼ~~ってしていた。すると携帯がなった。昴くんからの電話だった。
「もしもし…」
「あ。俺だけど…」
昴くんの声だ!でも声と同時に、あの冷たいエネルギーがやってくる。声は同じなのに。
「今日、11時から本読みなんだ。それで、その前の1時間くらい空いてるんだけど…。会う?」
「…うん」
「ひかりって、なんで悟さんと知り合いなの?」
「え?!」
「悟さんから昨日連絡が入って、ひかりと俺と悟さんとで会おうって…。なんで、知ってんの?」
「……。昨日、会った」
「え?」
「話しかけてきた」
「悟さんから?なんで?」
「わかんないけど…」
「そう。10時に、新宿のひかりが働いてるビルの地下の喫茶店で会おうって言ってた。仕事先も知ってんだね。悟さん」
「あ…。うん。そうみたい」
「…。じゃ、10時ね…」
「うん…」
ゾク…。また昴くんから、冷たいエネルギーが来た。重く苦しい、冷たいエネルギーだ。これ、いつだっけ?感じたことがある。
ああ、そうだ。前に緒方さんから感じたエネルギーだ。執着だって昴くんが言ってた。もしかして、それなの?
翌日、私は待ち合わせの5分前に喫茶店に着き、中でコーヒーを飲みながら待っていると、二人してやってきた。
「お待たせ」
悟くんが表情を変えずにそう言うと、私の斜め前の席に座った。昴くんは何も言わずに私の横に座った。
ヒヤ…。座ったとたんに、冷たい空気が昴くんから来た。その空気を包むように悟くんの方から、あったかい空気が来た。あ、もしかするとこの次元の悟くんも、光を出すことが出来るのかもしれない。
「それで…、なんで悟さんとひかりは知り合いなの?」
「この前話したよね。俺、いろんな俺とコンタクト取れるって」
「次元の話?いまいち、わかんないけど…」
「3次元、4次元、5次元、いろんな次元が今このときに存在してて、3次元でもまた、ちょっとずつ次元が違う世界があるんだ」
「そのどの次元にも、俺も悟さんもひかりもいるって言ってたよね?」
「そう。そのちょっと高い次元の俺から、交信してきたんだ。ちょっと高い次元の俺は、ひかりさんと知り合いだった」
「え?じゃ、この次元の悟さんとじゃなくてってこと?」
「うん。だから、昨日までは、俺はひかりさんのことを知らなかった」
「ふうん…。でもなんで、交信なんてしてきたんだ?」
「それを今日、お前に話そうと思って、3人で会うことにしたんだよ」
悟くんの顔は、いたって冷静。それに引き換え、昴くんの顔は疑っているようにも見えた。
「そういえば、お前、ひかりさんと心で会話できるの?」
「いや。そんなことできないよ。なんで?」
「じゃ、ひかりさんが何を思ってるかはわかる?」
「…わかってた。けど、昨日あたりからまったくわからない」
「え?」
「なんか、変じゃない?ひかり…」
昴くんに、そう言われて驚いた。この次元の昴くんも、私が変だって思ってたのか。
「ひかりさんは、今までのひかりさんとは違う。いや、一緒だけど、次元が高いひかりさんと同化してる」
「同化?」
「うん。それも、そっちのひかりさんの意識でいる」
「え?どういうこと?」
「今までの、この次元のひかりさんの記憶がないらしい」
「え?」
昴くんが、驚いていた。
「だから?変だと思った。昨日、光を出そうって思ってたみたいで、なんでそんなことをしてるのかって…」
「え?」
悟くんが聞き返した。
「昨日は少しだけ、心の中読めたから」
昴くんが、そう言った。私はなんだか、悲しくなった。この昴くんは、まったく違うんだな。
「でもなんで、高い次元のひかりがここにいんの?」
昴くんは、今までいた低い次元の私の記憶がなかろうが、そんなのおかまいなしみたいな感じで聞いてきた。この昴くんにとっての私って、どんな存在なんだろう。
「波動が下がるようなことが、あったみたいだよ」
「え?」
私は、何も言えなかった。まさか、嫉妬したからだなんて…。
「どんなこと?」
昴くんが聞いてきたが、私は、
「言えない…」
と、言うのを拒否した。
「また、それ?」
昴くんは、少しいらだった感じでそう言った。
…え?またってどういうこと?
「あのさ、ひかりさん。俺でもいいけど、この次元の昴にも心開いていろんなこと話してみたら?」
「え?」
悟くん、私が思い切り、心を閉じているのに気がついたのか…。
「無理じゃない?ひかりはよくこうやって、心閉じるから。そうするともう、ひかりの内側見ることもできない」
昴くんが、顔をしかめてそう言った。
「まあ、そうぼやくなよ。だんだんと、心を開いていったらいいさ」
悟くんがめずらしく、優しい表情でそう言った。また、あったかいエネルギーが悟くんから来た。懐かしいエネルギーだった。
「じゃ、俺先に出るよ。あとは二人で話でもしたら?」
悟くんはそう言うと、コーヒー代をテーブルに置き店を出て行った。
「高い次元って…、そこにも俺いたんだろ?」
「え…?うん」
「どんなやつ?」
「どんなって…」
なんて言っていいのか、わからなかった。まさか、ずっと優しくてあったかくて…、なんて言えないし…。
「ま、いっか。でもさ、どんな俺だったか知んないけど、多分、俺はそいつとは違うから、なんか期待しても無理だから」
「……」
ものすごく冷たいエネルギーを出しながら、昴くんはそう言った。ああ、同じ魂だってことすら、信じられない。
「さっき、悟さんのこと見て、嬉しそうじゃなかった?ひかり…」
いきなり、昴くんがそう私に言ってきた。かなり暗い表情で。
「あ……」
多分、あったかいエネルギーを感じたときだ。
「悟さんに惚れたの?」
昴くんから、また冷たい重いエネルギーが来る。それが絡みつく。
「ち、違うよ!だいたい、私が好きなのは…」
と言いかけて、言うのをやめた。好きなのは昴くんだ。でも、この昴くんではないのだから。
「好きなのは?緒方ってやつ?それか、元亭主?」
「違う…」
「じゃ、誰?」
ものすごい勢いで、冷たい空気が昴くんから流れ込んでくる。ゾク…。体の芯が冷えていく感じだ。
「誰でもいいじゃない」
必死でそう言って、その空気を振り払おうとした。
「…なんだよ。せっかくちょっとは、素直になってきたと思ったら、またかよ。高い次元から来てんなら、もっと素直かと思ったよ」
え?どういうこと?いったい、この次元の私とこの昴くんとは、何があったって言うの?
「記憶、ほんとにないの?」
昴くんは、冷たくそう聞いてきた。
「この次元の私の?」
「そう」
「ないよ…」
「ああ、そう…。じゃ、高い次元のひかりさん。教えとくけど、こっちの次元じゃ俺ら、付き合ってるんだ」
「え?!」
驚いた。この次元でもそうなの?!でも、それにしてはなんなんだ。あのメールのやり取りは…。
「っていうか…、俺が勝手に惚れて、やっとひかりも俺のこと、好きになってきたってとこだったけど」
「え?!」
ますます驚いた。私と昴くんとは、逆なんだ。それにしても、この冷たい昴くんを私が好きになったなんて信じられない。
「そんなに驚くってことは、やっぱり、高い次元じゃ俺のことを好きだったわけじゃないんだ」
「それは…」
「ま、いいけど…。でも、とっとと早く、こっちのひかりに戻ってくれない?」
「え?」
「あんたとじゃ、なんか違和感がある」
それは、こっちの台詞だ。いつも、こんな冷たいエネルギーを出されたんじゃ、体がどんどん冷えていく。
「そういえば、高い次元の俺、ニューヨークに行ってた?」
「うん」
「そこで、なんか奇麗な金髪の人に惚れてた?」
「え?なんで?」
「いや、俺もニューヨークに行って、その女性に会ってさ…」
「それで…?」
「本気じゃないよ。まったく。ちょっと仲良くなっただけなのに、ひかりがすごいやきもちをやいて、それで昨日喧嘩した」
「え?」
「それで、追いかけていったら、なんかもうひかりが変だった」
「……」
こっちの次元でも、同じようなことがあったのか。でも、喧嘩?喧嘩は私はしていない。ただ、同じように嫉妬はした。それで、リンクしたんだろうか。
「ま、いっか。じゃ、俺はもう仕事だから」
そう言うと、さっさとレシートを持って昴くんは出て行った。
まったくエネルギーの違う、昴くん。でも、そんな昴くんと私は付き合ってたの?
なんだか、そのまま家に帰るのも気がひけて、そのまま自分の働いている本屋に行き、スピリチュアルのコーナーに行ってみた。
そして、驚いた。ほとんどの本が、2012年に、世界は滅びるとしか書いていなかった。
「あれ?こんなのばかりだったっけ?」
いや、次元が違うから、こんな本ばかりが並んでいるのかもしれない。
「星野さん?」
本の整頓をしていた葉月ちゃんが、声をかけてきた。
「今日、バイトない日ですよね?」
「うん。ちょっと新宿に用があったから、ついでに本でも買おうかなって思って」
「こういう本に、興味あるんですか?」
「うん。まあね」
「私もです。このあと休憩なんです。一緒にランチしませんか?」
「え?うん…」
驚いた。この次元でも、葉月ちゃんはスピリチュアルに興味あるんだ。それに、同じようなことが起きてくるんだ。
私はしばらく本を見ながら、葉月ちゃんの休憩の時間まで待っていた。10分もしないうちに、葉月ちゃんは、お財布を片手に持ちやってきた。
「お待たせしました。行きましょう」
それから、地下のイタリアンの店に入った。そしてパスタを食べながら、葉月ちゃんは話し出した。
「2012年に、地球が破滅するかもしれないって信じますか?」
「え?ううん」
「そうなんですか?でも、今そんな本ばかりだし、私怖くて…」
「そうなの?」
「はい。最近、変なことも起きてて…」
「どんな?」
「UFO見たんです。それから、声が聞こえてきて。私、変になっちゃったのかな」
わ。まったく同じ体験をしているじゃないか…。
「それで、ある人にみてもらったら、お祓いした方がいいって…」
「はあ?」
「なんか、取り憑いたかもって言われたんです」
「え…?それ、誰に言われたの?」
「占い師です。白河ノエルって人なんですけど。あ、今日会いに行くんですよ。良かったら一緒に行きませんか?」
「白河…、ノエル…?」
「はい。占星術とか、他にも占いが出来るんです」
「そう…。うん、行ってみる」
この次元でも、同じようなことが起きている。だったら、ちょっとそれをたどってみるのもいいかもしれない。ふと、そんな気になり、葉月ちゃんと行ってみることにした。いったい、この次元のノエルさんは、どんな人なんだろうか。
葉月ちゃんのバイトが終わる時間まで、私は映画でも観ることにした。映画は悲恋物語だった。最後に、恋人が死んでしまい、別れ別れになる…。私は、涙が止まらなかった。
「は~~~。なんで、こんなに泣くのかな、私…」
それから、一人でお茶をして時間をつぶした。
5時を過ぎ、本屋のビルの1階で葉月ちゃんと会った。葉月ちゃんと、あの白河ノエルさんのマンションに着くと、マンションの入り口に立っただけで、ゾクッとする悪寒を感じた。
いいのかな?入っても…。葉月ちゃんは、何も感じないようでさっさとマンションに入っていった。
ノエルさんの家は、やはりお香の香りが立ち込めていて、そのうえなんだか薄暗かった。それにノエルさんは全身黒づくめで、立っているだけで威圧感を感じた。
「こんにちは、ノエルさん。バイト先の知り合いがノエルさんに会いたいって言うから、一緒に来ました」
「お待ちしていましたよ。どうぞ」
なんだか、話し方がやけに丁寧で怖い。部屋に通されると、そこにはやっぱり水晶だの色んな石がおいてある。それに、大きな仏壇も。あれ…?こんなの前の次元の時にはなかったな。
「葉月ちゃんのことを、みてみましょう。どうぞ」
葉月ちゃんは、ノエルさんの前に座った。ノエルさんはろうそくに火を灯し、何やらぶつぶつ言い出した。
「やっぱり…。あなた、何か変なものに取り憑かれたみたい。あなたの周りにぼんやりとした、エネルギーみたいなのを感じるわ」
あ…。それって、悟くんのエネルギーなんじゃ…?
「どうやったら、お祓いできますか」
お、お祓い?してもらう気でいるの?
「そうね……」
しばらく、ノエルさんは黙り込んだ。
「本山、行ってみる?」
「本山?」
「私たちの教団があるところよ」
きょ、教団?え~~~~~?怪しすぎない?
「そこに行ったら、お祓いできますか?」
「ええ。でないと…」
「何か、悪いことでも?」
「ええ。あなたにさらに何かが、取り憑いてる未来が見えるわ」
え?ちょっと、待ってよ…。
「どこにあるんですか?そこ…」
「週末、私も行く予定。一緒に行く?」
「はい。あ。星野さんはどうしますか?」
「私?!私は別に…」
「あなた…。変なこと聞いてもいいかしら?さっきから気になるわ」
「え?なんですか?」
「水子の霊いるわね」
「え?!」
「子ども、おろしていないかしら?」
「いえ…。あ。でも、流産なら前に…」
「ちゃんと供養した?」
「はい。病院で…」
「病院だけ?駄目ね」
「え?!」
「あなたも、週末一緒に来なさいよ」
「私はいいです…」
「あらなんで?ちゃんと供養してあげないと、そのままあなたに取り憑いて…」
「私の赤ちゃんは、そんなことしません!」
「ふ…。そう思いたいのはわかるけどね。ま、いいわ。そのうち、供養してくださいって言ってくる未来は見えてるわ」
な、何~~?このノエルさん。なんなの?!
「あなたは、チャネリングができるんですか?」
「チャネリング?なあに?それ。私は未来が見えるのよ」
「未来…?」
昴くんが、未来はないって言ってた。いったい、この人どういうつもりで?
「とにかく、今日はもう帰ります。葉月ちゃん、行こう」
私は、葉月ちゃんの手を強引に引っ張り、マンションを出た。
「駄目ですよ~~。ノエルさんの言うとおりにしないと」
「なんで?」
「おっかないことが起きたら、どうするんですか?」
「何も起きないよ。だいたい、何か悪いことが起きるなんて脅す人、信頼しちゃ駄目だよ」
「何言ってるんですか?ノエルさんの言うことは、本当に当たるんですよ」
「それはね…」
それはきっと、未来はこうなると言われて信じて、そんな未来を創ったからだ。多分そう…。
「とにかく、葉月ちゃん冷静になってみて。ね?だいたい今も声聞こえるの?悪いこと起きてるの?」
「今はないですけど。でも、この先…」
「だったら、何も怖がることないじゃない」
いや、その声ってのは、悟くんなんだろうけど…。ああ。悟くんにこのこと、相談しないと…。
「あのさ…。俳優の結城悟て知ってる?」
「はい。知ってますよ。だってうちの本屋でサイン会も開いたじゃないですか?その時、星野さんもいましたよね。私、大ファンです」
「え?そうなの?じゃ、天宮昴くんは?」
「あ~~。昴もうちの店で去年、サイン会したけど…。なんかぶっきらぼうで、態度良くなくて好きじゃないです」
「え?!!!」
驚いた。そうなの?この次元だと、そうなの?!
「じゃ、あのさ…。結城悟と会えたりしたら、嬉しいかな?」
「そりゃもう!え?何かあるんですか?」
「うん。ちょっと知りあいなの…」
「結城悟とですか?!」
「うん」
「すご~~~い!」
「今度、会えるようセッティングするから…ね?」
「はい!」
葉月ちゃんの目が、きらきら光った。ああ。良かった。どうにか、二人を会わせることができそうだ。
家に帰り、さっそくもらった名刺の携帯にメールした。すぐに、悟くんから電話が来た。
「もしもし…ひかりさん?」
「悟くん?」
「葉月ちゃんと、俺と3人で会えないかって。なんで?」
「なんでって…。今日ね、白河ノエルって人のところに行ったの。かなり怪しい人で」
「あのインチキ占い師?」
「そう。あれ?何で知ってるの?」
「ああ…。今の俺、高い次元の俺と同化してるんだ」
「え?」
「ひかりさんみたいに」
「波動下がるようなこと、あったの?」
「いや、わざと下げて同化した」
「そんなことできるの?」
「葉月ちゃんも、目覚めたのかと思った」
「目覚めたって?」
「葉月ちゃんと一緒に、派動を下げて来たんだ。多分、こっちの次元の葉月ちゃんの中に、高い次元の葉月ちゃんいるよ」
「え?」
「それで、会おうって言ってるのかと…。でも、そうだよな。それだったら、葉月ちゃんから直接、俺にコンタクト取ってくるよな…。まだ、目覚めてないんだな」
「なんで、二人して?」
「ひかりさんがいきなり消えて、昴も葉月ちゃんもびっくりしててさ。特に昴なんて…」
「昴くんが何?!」
「昴、探し回って。ひかりさんのエネルギーがまったく、感じられないって俺のところに、真っ青になってきてさ」
「うん」
「それで、俺は低い次元の俺とコンタクト取って、ひかりさんに会って確認した。それから、ひかりさんなら、低い次元に行ってるよって昴に話したんだ」
「それで?」
「昴、どうしたらひかりさんをまた、こっちの次元に戻せるかって聞いてきて」
「うん…」
「多分、ひかりさん自身が意識を変えないと来れないだろうって言ったら、じゃ、俺はどうしたら、そっちの次元に行けるのかって」
え?昴くんも、まさか…!
「昴くんも来てるの?もしかして」
「うん。波動下げて来てるとは思うけど…」
「じゃ、こっちの昴くんに会えば…」
「多分、波動の低い昴だと思うよ」
「え?」
「目覚めてなければね」
「どうやったら?、どうしたら目覚める?」
私は気が気じゃなかった。早くに高い次元の昴くんに会いたくて…。
「昴自身が、派動をあげないと…」
「それ、どうしたら…」
「ひかりさんも、協力しないと」
私?
「どうやって?」
「例えば葉月ちゃんの場合は、葉月ちゃんに光を送ることで、葉月ちゃんは目覚めると思うけど…」
「じゃ、私も?」
そうしたら、昴くん目覚めるの?!
「できる?」
「え?」
「今、ひかりさん、光出ないよね?」
「あ…!」
「それも、低い次元の昴に出せるの?」
「え?どういうこと…?」
「その辺、ひかりさん自身がやっていくことだから。俺はあまり、口をはさめない」
「でも、いるんでしょ?昴くん、この次元に来てるんでしょ?」
「この次元の昴の中にいると思うよ。明日、昴と会うようにしてるんだ。ひかりさんと葉月ちゃんも来なよ。夜、10時過ぎだけど…」
「うん。行くよ。私遅番だから、ちょうどよかった」
「じゃあ、また明日。本屋の地下に駐車場あったよね。車で迎えに行く。昴の家で会うようにしてるから」
「え?うん」
昴くんち…。そうだよね。この次元でも、昴くん一人暮らししてて…。
ああ!それより、こっちの次元に来てるんだ!私は嬉しくて、昴くんのエネルギーに集中してみた。でも、感じるのはやっぱり冷たいエネルギー…。
「まだ、目覚めてないんだ」
ああ…。でもいるんだ!それだけでも嬉しい…!昴くんに会うのを楽しみにしながら、その日は眠った。
翌日、葉月ちゃんも夜のシフトだった。更衣室でこっそり、今日バイト終わったら悟くんと会わないかと誘ってみると、大喜びをした。
「もう会えちゃうんですか?信じられない!」
「あ。天宮昴くんも、一緒なの。いいかな?」
「え?はい。いいですけど。でも、ちょっとあの人は苦手だな」
そうなんだ。高い次元だったらその逆だったのにな。
10時になり、地下2階にある駐車場に行くと、もう悟くんが車の前で待っていた。
「ああ。こっちだよ」
手を振って、呼んでくれた。
「わ…。本物!」
葉月ちゃんが、喜んでいた。
「こんばんは。葉月ちゃん」
悟くんは、わざと葉月ちゃんの顔をのぞきこむようにして、そう言った。多分その時、ものすごい光を葉月ちゃんに送っただろう。
「こ、こんばんは」
葉月ちゃんは緊張した顔でそう言ったが、顔を真っ赤にさせて喜んでいた。
「あれ?」
葉月ちゃんが、いきなり不思議そうに首をかしげて、
「前にも、会ったことありますか?」
と、悟くんに聞いた。
「サイン会で会ったじゃない?」
私がそう言うと、
「いえ…。こんなふうにもっと近くで…。なんか今、ものすごく懐かしい感じがして」
「え?」
私と悟くんが、同時に聞いた。
「あ。気のせいですね。会うわけないですよね」
葉月ちゃん、もしかして目覚めかかってるの?
「車に乗って。昴の家に行くから」
「え?昴の家?」
葉月ちゃんが驚いていたが、後部座席に葉月ちゃんを乗せ、私も乗り込んだ。昴くんに会うのが嬉しい。でも怖い。とっても複雑だった。
そういえば、悟くんも葉月ちゃんも、なんでこの次元に来たのかな…。私を助けてくれるためなのかな?
昴くんのマンションに着いた。部屋番号も同じだった。ドアの前まで来たら、悟くんがチャイムをならした。ああ…。来たことを察知してくれることはないんだな…。そう思うと、少し寂しい気もした。
ガチャ…。ドアが開いた。
「よ。昴…」
悟くんは、軽く片手をあげて挨拶をした。
「ども…。どうぞ」
昴くんは無表情に言うと、さっさと部屋の奥に入ってしまった。
「お邪魔します…」
小声で葉月ちゃんはそう言うと、部屋に入っていった。私はドアのカギをかけ、最後に部屋に行った。
部屋は、散らかっていた。その辺には、雑誌がころがっていて、それを昴くんは足でテーブルの下にどかしていた。
「夕飯は?」
悟くんが私たちに聞いた。
「バイトに入る前に、少し食べただけです」
葉月ちゃんが言った。
「冷凍のビザあるから、あっためてくるよ」
昴くんはキッチンに、向かった。ああ…、冷凍か…。こっちの昴くんは、自炊とかしないのかもな…。
「き、緊張する…」
葉月ちゃんが、かちかちに固まっていた。
少しして、ピザや他にも冷凍食品を解凍したものを昴くんは持ってきて、それに冷たいお茶も用意した。
「適当に食べて」
そう言うと、自分もどかってテーブルの前に座った。私は、その横で葉月ちゃんじゃないけど、緊張して硬くなっていた。
「葉月ちゃん、そういえばさ、ひかりさんから聞いたけど、なんか悩み事あるの?」
「え?」
「占い師だっけ?みてもらったんだって?ひかりさんから聞いたんだ。ちょっと怪しい…」
「なんだよ?ひかりさん、ひかりさんって。どうしてそんなに二人は、仲いいわけ?しょっちゅう連絡取り合ってるのかよ」
昴くんが、横から口をはさんだ。
「そうじゃないけど…。いや、ひかりさんは、俺くらいしか相談できないから」
「なんで?俺は?俺にもいろいろと話したらって、この前言ってたじゃん。でも、まったく連絡もしてこなかったよ?」
「だからこうやって、訪ねてきてるだろ?」
「なんで一人で来ないんだよ?ひかり」
昴くんから、またものすごい冷たい空気が来る。ゾク…。体中が冷える。でも、この昴くんの中にいるんだよね?あったかい昴くんが…。私は心の中で、何度も昴くんを呼んだ。
『昴くん、答えて。昴くん、そこにいるんでしょ?』
でも、返事はない。
「この子、誰?」
昴くんは、葉月ちゃんの方を見てそう聞いた。
「私のバイト先の、神野葉月ちゃん」
私はそう答えた。葉月ちゃんは黙っていた。
「なんで、この子も来たの?」
「相談があって…」
「誰に?なんの?」
「いろいろと、悟くんに聞いてもらいたいことが…」
「また、悟さん?!」
私がそう言うと、昴くんが大声を出した。私も葉月ちゃんも、ビクって体を硬くした。
「ひかりは、俺と付き合ってるって教えたよね?何考えてんだよ?いい加減にしろよ!」
「……」
昴くんから、ものすごい冷たいエネルギーが来て、さらにそれが私の体に巻きつく。そしてそのあと、昴くんは信じられない行動をした。
昴くんの隣に座ってた、葉月ちゃんに顔を近づけたと思ったら、いきなり葉月ちゃんにキスをしたのだ。
「え?!」
私も悟くんも驚いてしまった。葉月ちゃんは真っ青になり、
「嫌だ!!!」
と、昴くんの体を押しのけ、ぼろぼろと泣き出した。
「葉月ちゃん!」
悟くんが、葉月ちゃんの肩を抱いた。一瞬真っ青になった葉月ちゃんの顔色が、戻っていった。
「なんで?」
私は、動揺を隠せなかった。今、私と付き合ってると言ったくせに何をしてるの?ものすごい怒りを私は感じた。嫉妬や昴くんに対しての怒り…。
「な、何してるの?昴くん…」
わなわなと震えた。喉が焼けるように熱くなっていた。
「少しは妬いた?嫉妬でもした?」
「え?」
「あの、金髪の女性の話をしたときみたいにさ」
「……」
嫉妬…。そうだ。ものすごい嫉妬だ。嫌だ。そんな自分は見たくない。でも、今はそんなこと言ってられない。自分より、昴くんへの怒りの方が勝っている。
もし、私が黒の霧が見えてたら、私の体から毒ガスのごとく、霧が出ているのが見えただろう。悟くんが冷静に、
「ひかりさん、落ち着いて」
と言いながら、私の方を優しく見ていた。多分、黒の霧を消していたのだろう。それを見て落ち着こうとしたが、なかなか落ち着くことができなかった。
「俺のこと、好きだって自覚できた?」
「え?」
「悟さんの方ばっかり向いてたけど…」
「そのために、こんなことしたの?」
私はまた、怒りが出てきた。
「葉月ちゃんに悪いと思わないの?し、信じられない!」
「ああ。そっか…。悪かったね。あやまるよ」
葉月ちゃんも、信じられないっていった顔で昴くんを見ていた。
「昴、ひかりさん、もう座って」
悟くんが、穏やかにそう言った。私は、震える手を必死で押さえながら、その場に座った。すぐ隣にいる昴くんが、ものすごく憎らしくも思えた。
昴くんも座った。顔を見ると、全然平然としている。
『昴くん。いるの?ねえ、昴くん…、そこにいるの…?』
怒りから悲しみへと変わった。なんで、あの次元の昴くんと、こうも違うのだろうか。下を向くと、涙がこぼれそうで必死で我慢した。
「で?その葉月ちゃんの悩みって?」
昴くんが、しらっとした顔でそう聞いた。
「……」
葉月ちゃんは、何も話す気も失せたようだった。
「俺から話すよ。ひかりさんから、ちょっとは聞いてる」
「ああ、そう。仲いいね。どうせなら悟さんとひかりが、くっついちゃえば?俺と葉月ちゃんが付きあえば、ちょうどいいんじゃね?」
そう言われて、葉月ちゃんは悟くんの方へと体をよせて、明らかに昴くんを遠ざけようとした。
それを見ていた昴くんは、少し鼻で笑い、
「冗談だよ」
と軽く、言った。
「昴。その…、嫉妬するのは別にいいけどさ。それだけお前がひかりさんを、好きなんだろうから。でも、ちょっとこれから話すことはまじめな話で、お前にもひかりさんにも関係あることだから、聞いてくれない?」
「……」
昴くんは、ちらっと悟くんを見ただけだった。私のほうが、その言葉を聞き動揺した。嫉妬は私を好きだから…?
…求めるのは本当の愛じゃないんだよ…。
前に昴くんから、聞いた言葉を思い出した。
…でも、嫉妬するひかりのことも、好きだよ。嬉しいよ…
そんな言葉も思い出していた。ああ…。あの昴くんは、いつでも優しかった。いつでも、私をあったかい愛で包んでくれてた。そして、大事に思ってくれてた。
求めたりしていなかった。俺が俺に見返り求めてどうするのさって笑ってた。無償の愛で、優しく包んでくれてた。
ボロ…。涙が出た。止まらなくなった。
「ひかりさん?」
「星野さん、どうしたんですか?」
悟くんと、葉月ちゃんが同時に聞いてきた。
「ごめん。私…」
涙が溢れて、止まらない。隣で昴くんは、冷ややかな表情をしているのがわかった。でも、しばらくすると、
「なんで、泣いてるんだよ?」
とぼそって、聞いてきた。あったかい優しい昴くんに会いたいから。喉までその言葉が出かかった。でも、言うのをやめた。
「昴。この間俺、いろんな次元に俺がいるって話をしたろ?」
「え?」
いきなり、悟くんが話し出した。
「高い次元にも俺がいる。ひかりさんは、高い次元にいたひかりさんが、この次元のひかりさんと同化している」
「ああ…。そのこと」
昴くんは、少ししらけた感じでそう答えた。だが葉月ちゃんは、目を丸くして聞いていた。
「俺も高い次元から、この次元に波動を下げて同化してるんだ」
「え?」
「今は高い次元、この次元、両方の俺が混ざり合ってる」
「そんなことできんの?」
「まあね」
「じゃ、ひかりは?」
「ひかりさんの場合は、この次元のひかりさんは、どうやら影を潜めてるみたいだね」
「なんで?」
「何かショックなことか、表に出たくないような、そんなことがあるのかな?高い次元のひかりさんに、意識を受け渡しちゃってるようだから」
「ショックな…こと…?」
「昴、心当たりあるか?」
「…。この前喧嘩した」
「喧嘩…?」
ちょっと、悟くんは驚いていた。
「ニューヨークで会った金髪の女性の話ばかりしたら、いきなりひかりが怒り出して」
「嫉妬したのかな?」
悟くんは、私の方をちらりと見た。なんだか、見透かされてるような気がして私は話し出した。
「それ、私の次元でもあったの」
「え?」
少し、昴くんは驚いていた。
「あ、でも喧嘩はしてない。ただ、昴くんが、ずっとその女性のことばかり考えてて、悲しくなって、その場をさっさと離れて…」
「それで?」
悟くんが、冷静に聞いてきた。
「それから、私からものすごい黒い霧が出てきて…。嫉妬したの。その感情が嫌で醜く思えて、それを昴くんに知られたくなくて、必死で昴くんから離れて…。一回真っ暗闇の中にはいって…。具合が悪くて動けなくなってしゃがみこんでたら、そこに昴くんが来たの」
「ああ…、あの時」
昴くんが、ぼそって言った。
「その時にはもう、低い次元に来てたのか」
悟くんも、つぶやいた。
「昴はひかりさんから、冷たいエネルギーを感じて、心配して追いかけたらしい。でも、どこにもいなくて…。数分したら、そのエネルギー自体が消えたって…」
「私、高い次元から消えたんだね」
「こっちの次元のひかりは?いるんだろ?ここに」
「いるよ。ひかりさんと同化してるから」
「なんで隠れてるの?っていうかさ、あんた、さっさともとの次元になんで戻らないの?」
「え?」
昴くんは、怒っている。
「勝手にやってきて、こっちのひかりにとりついて…。いや、のっとって…」
「昴くん?」
「ひかりは、やっと俺に心開いてきたんだ。俺のことやっと好きになってたんだ。なのに…」
昴くんは、私を睨みつけていた。
ああ…。この次元の昴くんも、この次元のひかりに会いたいんだ。私が、高い次元の昴くんに会いたいように…。
「ひかりを返せよ。いい加減もといたところに戻れよ」
「昴…。そう簡単にはいかないんだ。それにこの次元のひかりさんは、自分の意思で隠れちゃってる」
悟くんは、いつものクールな感じでそう言った。
「え?」
「葉月ちゃんも来てるんだ。でも、この次元の葉月ちゃんの意識が強くて表に出れない。俺みたいに、混ざり合うのはなかなか難しいんだ」
「わ、わたし…?」
葉月ちゃんが、凍り付いていた。
「そう。一緒に波動下げて来たんだよ」
「どうやって?」
昴くんも、少し驚きながら聞いた。
「黒い霧の多い場所に行って、そこで心を開放してどんどん霧を吸収した。かなり、体も冷えたし気持ちも悪くなったけど」
「本当に、私の中にもいるの?」
「うん。いる。それは感じる」
「……」
葉月ちゃんは口を開けたまま、微動だに動かなくなった。
「あ、そのまま何も考えないで、ただ、俺のことを見ててくれる?葉月ちゃん」
悟くんはそう言うと、じっと葉月ちゃんのことを見た。数分すると、いきなり葉月ちゃんの顔色が変わり、
「ええ?!さ、悟くんだったんですか?」
と大声を出した。
「何?どうした?」
昴くんが、驚いていた。
「声…。聞こえてきた…」
葉月ちゃんは、目を丸くしたまま口をぱくぱくさせ、言葉を失っていた。ああ…、悟くんが心で話しかけたんだろうな。
「もうちょっと、こっちに集中してて」
そう言うと、また悟くんは葉月ちゃんを見た。光は見えなかったが、多分ものすごい光を葉月ちゃんに送っているのだろう。葉月ちゃんの頬がピンク色に染まり、私までゆったりとした気持ちになった。
ガタン!!突然、葉月ちゃんは立ち上がり、
「信じられな~~い!昴くん、何やってんのよ~~~!」
と叫んだ。
「え?俺?」
昴くんは、あまりの勢いで葉月ちゃんが立ち上がって叫んだので、一瞬のけぞっていた。
「星野さんの前で、私にキスするなんて!この次元の昴くんは、いったいなんなの?信じられない!」
「まあまあ…」
悟くんが、葉月ちゃんの肩に手を置き座るようになだめた。
「思い出した?っていうか、目覚めたみたいだね?」
悟くんが、葉月ちゃんの顔をのぞきこんでそう言うと、
「はい。もうばっちり!あ、でもどうやら、この次元の私の記憶も意識も、同時に感じてて…」
と葉月ちゃんは元気に答えた。
「うん。そのうち一緒くたなるよ。一人の人間になれるから。」
「葉月ちゃんなの?あっちの次元にいた…」
「はい!もう星野さん、大丈夫ですよ!悟くんと助けに来たし昴くんだって…。あれ?でも、昴くんは?」
「俺が何?」
昴くんが、変な顔をして葉月ちゃんを見た。葉月ちゃんの変わりように、驚いているようだった。
「こっちの昴の意識は、かなり強いみたいだね」
悟くんが、そう言った。
「今、何してたの?悟さん、なんか葉月ちゃんにしたの?」
昴くんが、ものすごく疑い深そうな顔をしながら聞いた。
「俺?うん。葉月ちゃんの心に話しかけて、光を送ってた」
「光を?心で話すって?」
「心で会話できるんだ。俺と葉月ちゃんは。それに、光を送ることもできる」
「何?それ」
また、昴くんは顔をしかめた。
「お前もできるよ。次元の高い世界じゃ、ひかりさんと心で会話してたし光も出してたし…」
「俺が…?」
「そうだよ」
「ああ…、そういえば、ひかりが何を考えてるか、たまに聞こえてくることがあった。でも、このひかりだと聞こえてこない」
「そりゃそうだろうね。お互いが心を閉じあってるから」
「え?」
私と昴くんが、同時に聞いた。
「お互い、なんか閉じあってるどころか、嫌いあってない?そりゃ、心が通じ合うとはとても思えないね」
悟くんは優しい表情をしながらも、けっこうクールに言ってのけた。私は、昴くんの顔を見た。昴くんも私を見たけど、すぐに視線をそらした。
「無理だよ。ひかりはひかりでも、こんな冷たい空気出すようなやつ好きになれないよ」
昴くんが、悟くんに向かってそう言った。
「冷たい空気?」
私が聞くと、
「隣にいるだけで、ものすごく冷たいのがくる。自覚してないの?」
昴くんが、嫌そうな顔をしながらそう言った。
「私から…?」
驚いた。昴くんからも冷たい空気が来ると思っていたけど、私からも出していたのか。
「黒い霧、出し合ってるからね」
悟くんが、ぽつりと言った。
「さっきからもそうだよ。でも、黒い霧で覆われないのは、一応俺が光を出してるから」
「そうだったの?ごめん、悟くん」
「それだよ!なんで、そう悟さんには素直なんだよ?」
昴くんが、怒った。
「だって悟くんは、優しいしあったかいし…」
「なんだよ?俺は冷たいからか?でもこんな俺でも、この次元のひかりは好きになってくれたんだよ」
「え?」
「ひかりの前でも、俺はこんなだった。だけど、ぶっきらぼうだろうが不器用だろうが冷たかろうが、それでも好きだって言ってたんだよ」
「私が?」
「あんたじゃねえよ。この次元にいるひかりだよ」
「昴…。ひかりさんには、変わんない。そのひかりさんも同じ魂だよ」
「なんだよ、それ。てんで違うよ!こんなに冷たくねえよ!」
「……」
嘘…。そうなの?この次元の私は、この昴くんが好きなの?ドクン…。心の奥で、何かが動いた。ドクン…。昴くんの顔を見た。ドクン…。昴くんに反応している私がいる。
しばらく昴くんを、見つめていると、
「なんだよ?」
と昴くんが、また嫌そうな顔をした。嫌われたくない…。いきなり、そういう感情が押し寄せてくる。
あれ?これ、私…?不思議なことだが、私は心の奥で、そう思っているようだ。
もっと、心の奥にある感情を感じてみようと思って、目を閉じた。静かに、自分の心の方に集中した。その時、ふわ…。昴くんの匂いがした。
あれ?思わず目を開けた。昴くんの顔を見るとまだ怒った表情だったが、昴くんからはいつもの昴くんの匂いがしてきた。
ああ、いつもの昴くんの匂いだ。何で今までこの匂い、気がつかなかったんだろうか。
部屋をぐるりと見回した。そこら中に、昴くんの匂いがあることに気づいた。私は今までそれすら、気づけなかったが、その匂いに包まれていたんだ。
また、目をつむった。懐かしい、心があったかくなる匂いだ。匂いは変わらないんだ…。
「何してんだよ?」
昴くんが、聞いてきた。
私は少し目を開けて、昴くんの手を見た。いつもの、白くて奇麗な手だった。それから腕。筋肉質で、やっぱり奇麗な肌。そして、首、耳、髪。サラサラな黒髪は、いつもの昴くんと同じだったし、長いまつげも、鼻筋も、白い歯だって一緒だ。それに、少し冷たい声だけど、でも声だって…。
じ~~って昴くんを見ていると、さらに昴くんは、変な顔をした。
「何…?何で俺のこと、見てんの?あれ?もしかして、こっちの次元のひかり?」
「ううん。違う…」
そう言うと、昴くんの顔は一気に落胆の表情を見せた。ああ、一瞬期待したのか…。落胆する昴くんの表情は、あまり見たことがなかったし、怒ったところも嫌がる顔も冷たい表情も…。
ううん、たまにそんな昴くんの顔も見てたと思う。だけどそんな昴くんだって、好きだったじゃないか…。
「……」
私はそのままうつむいて、黙り込んでいた。
「星野さん?」
葉月ちゃんが、声をかけてきた。
「なんでもないの。ごめん。えっと、話を続けて、悟くん…」
そう言うと、悟くんは、
「わかった。今日こうやって集まってもらったのは、白河ノエルって人のことで」
と、話を始めた。私はそれを聞きながらも、隣にいる昴くんに意識を向けていた。
もう、冷たい空気は来なくなっていた。それよりも、いつもの昴くんの匂いがして、私はだんだんと嬉しくなっていっていた。
昴くんだ…。隣にいるのは次元が違っていようが、波動が違っていようが昴くんなんだ。
胸がドキドキしてきた。体があったかくなってくる。
「それで、取り憑かれてるって言われたの。でも、それって悟くんのことでしょ?それに、星野さんなんて、水子の霊がいるって言うんだよ」
「え?」
葉月ちゃんの言葉に、昴くんが驚いていた。
「ひかりは、確かに赤ちゃん流産したけど、でも、そんな霊に取り憑かれるなんてこと…」
「そうだよね?ね?星野さん。それはどう考えてもおかしいよね?」
「え?うん。私向こうの次元では、赤ちゃんもう、私の体からいなくなってたし…」
「そりゃ、流産したから」
昴くんがそう言うので、
「違うの。魂だけ、私の中に残っていたの。でも、私がそれに気がついて、赤ちゃんが私にメッセージを残してくれて、それで転生するからって私の体から、離れていったのよ」
と、説明した。
「そうだったんだ」
悟くんが、ぽつりと言った。
「でも、それは高い次元での出来事であって、この次元だとわからないな」
「え?どういうこと?」
私が聞くと、悟くんは穏やかに答えてくれた。
「この次元にふさわしい出来事が起きるんだ。だからもし、波動が低いことが起きるなら、赤ちゃんがあまりよくない霊になって、取り憑くくこともあるかもしれない」
「まさか!」
私がその言葉を否定すると、悟くんは静かに話を続けた。
「ああ。うん。多分ね、ひかりさんがそんなことが、起きるって思ってなかったら起きないよ。思考が現実化するから。でも、水子の霊が憑いてますよとか、祟りがありますよとか言われるとね、それを本当のことと思い込んで、そういう現実を創ってしまうことがあるんだよ」
「あ、それ、昴くんも言ってた」
「俺?」
「あ、高い次元のほうの昴くん」
「ああ。そう。物知りだね、そっちの昴は…」
昴くんは、少しすねた表情をした。ああ、こういう顔もするのか…。
「じゃ、ノエルさん、嘘言ってみんなを怖がらせてるの?」
葉月ちゃんが、悟くんに聞いた。
「いや…。ノエルさん自身は嘘は言ってないだろうね。何か、低いエネルギー体と交信してて、そこから来る情報を伝えてるんじゃないかな。あっちの次元でも、そうだったでしょ?プレアデス人と交信してると言いつつ、怪しかった。でも本人はいたって真面目。人のためにやってることって、信じ込んでるんだよ」
「それって、1番やっかい…」
昴くんが、ぼそって言った。
「そう、やっかいだ」
「でも、その低い波動のエネルギー体はなんのために?」
葉月ちゃんが、聞いた。
「アセンションを、邪魔するために」
「アセンション?」
昴くんが聞いた。
「そう。次元上昇。地球の次元上昇を助けるのが、俺らのミッション。まだ、思い出さないの?昴」
「俺に、そんなミッションがあるの?まさか!」
「思い出せないみたいだね」
ちょっと、ため息混じりに悟くんは言った。
「それでね、悟くん。ノエルさんがお祓いをしてあげるから、週末本山に来なさいって言ったの」
「お祓い?本山?」
「教団の本山だって」
「げ、怪しい。何それ?」
昴くんが、また変な顔をした。
「週末か…。俺は土曜の夜から日曜の午前中、何でだか知らないけどあいてるな。昴は?」
「俺?ちょっと待って」
昴くんは、携帯を出して、スケジュールを確かめているようだった。
「ああ。俺も、土曜の夜7時から、日曜の12時まであいてる…」
「そうか~。偶然はないって言うからな~」
悟くんが、少しにやって笑ってからそう言った。
「行く気なの?悟くん」
葉月ちゃんが、心配そうに聞いた。
「こういうのはね、普通は避ける。なるべく関わらないけど、でも、向こうの次元でもノエルって人と関わって、こっちでもだ。これって、なんかあるんじゃないかって思って…」
「これも、ミッションの一つなの?」
葉月ちゃんが、ちょっと嫌そうな顔をした。
「うん。多分ね」
悟くんは、少し微笑みながらそう言うと、
「この次元では、地球が2012年に滅びるって言ってる人も多いようだ」
と、今度は真面目な顔をしてそう言った。
「それ、昴くんがそんなことが起きるわけないって言ってたけど…」
「俺が?」
「あ、次元の違う昴くんが」
「ああ」
また、昴くんはすねた顔をした。なんだか、その顔も可愛く見えた。
「起きないよ。でもね、もしそれを信じる人が多くなって、現実的に感じてきたら、そういう現実が創られる可能性はある」
「え?そうなの?」
「うん」
悟くんは冷静だったが、でも、ちょっといつもよりも目が真剣だった。
「もし、その、この次元の地球が破滅したら、どうなるの?」
と、葉月ちゃんがこわごわ聞いた。
「人類は、違う星に移動するかな?そこでまた、3次元の毎日を楽しむかもね」
「以前の、プレアデス人のように?」
私が聞くと、
「そう」
と、悟くんは冷静に答えた。葉月ちゃんが、話に入ってきた。
「それじゃ、特に破滅したからって、大変なことってわけじゃないの?」
「う~~ん。どうかな?昔、アトランティス大陸が、沈むような大きな出来事があったけど、それはまあ、地球の1部だったからな…。ま、それでも、宇宙全体に影響はあったけどね」
「影響…?」
葉月ちゃんは、また、顔をしかめた。
「うん。もし、この次元の地球が破滅したら、他の次元の地球にも、何か影響は出るだろうね。どんな影響が起きるかは、予想もつかないけど」
「そうなんだ」
私は、ため息混じりにそう言った。
でも、そりゃそうか…。どの次元にも私はいて、どっかの次元の私が破滅を味わったら、他の次元の私に影響が出ないわけがない…。
「それだから、そういうことが起きないよう、俺らみたいなのがいる」
悟くんが、静かにそう言った。
「それが、ミッションなわけ?」
昴くんが無表情で聞いた。
「そうだよ」
悟くんも、クールに昴くんに向かって答えた。
「俺にもそんなミッションがあるなんて、どう考えても信じられない。さっきから、次元の違う俺が、ああ言った、こう言ったって言ってるけど、それは俺じゃない。俺には関係ないことだよ」
「そんなことはない…。まあ、そう思うのも、無理ないかもしれないけどね」
悟くんは、またクールにそう言った。昴くんは、ちらりと私を見て聞いてきた。
「あんたもそのミッションのこと、わかってるんだ」
「え?…うん」
「ふうん」
と、昴くんは冷めた表情で言った。
「さて、遅くなったから帰るとするかな」
そう悟くんは言って、立ち上がった。
「送ってくけど…、ひかりさんは泊まってくの?」
悟くんがそう聞くと、
「え?!」
と1番驚いたのは、昴くんだった。
「泊まるわけないじゃん。俺らそういう関係じゃ…」
昴くんは、戸惑っていた。
「あれ?そうなんだ。向こうの次元のお前たちはさ、泊まったりしてたし、ものすごい仲が良かったから。こっちもそうかなって…」
「ち、ちげえよ」
昴くんは、かなり動揺していた。
「うん。泊まってく」
私がそう言うと、私の方を見て昴くんは目を丸くした。
「な、何言ってんの?ひかり」
「もう少し、昴くんと話がしたい」
この思いは私なのか、私の中にいるもう一人の私の思いなのかは、わからなかったけど、もっと昴くんと一緒にいたいって、そう思っていたのは確実だった。
「じゃ、俺は葉月ちゃんだけ送ってくよ。それじゃ、おやすみ」
「え?ええ?」
まだ昴くんは戸惑っていたが、さっさと悟くんと葉月ちゃんは、玄関を出て行った。
「洗い物でもするね」
「え?」
私はキッチンに行きさっさと洗い物をしだすと、昴くんは話しかけてきた。
「慣れた手つきだね。もしかして、よくそっちの世界じゃ俺の家に来てた?」
「うん。っていっても、2回くらいかな?泊まったのは…」
「それって…その…」
「え?」
戸惑いながら、昴くんは聞いてきた。
「セックスもしたってこと?」
「あ。うん…」
なんだか恥ずかしくなって、目線を外してそう答えた。
「俺、悪いけど、あんたとはする気ないよ」
「え?」
「こっちの次元のひかりしか、する気ないから」
「あ…。うん」
私は冷たくそう言い放つ昴くんに、ショックを覚えたけど、でも、こっちの次元の私のことをちゃんと思ってくれてるのかって安心もした。
ただもうその時には、私の中で、もう一人の私は目覚めかけてて、
『こっちの次元の私も、ここにいるのにな…』
なんてことを、思っていた。