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第2部 ミッション1 違う次元へ

ここから、第2部が始まります。

 私は、「今 このときを 愛してる」という小説をどんどん、小説サイトに載せていった。まだ、反響はない。ちょっとは、アクセス数が増えているものの、そんなには一気に増える感じでもなかった。


 夜、寝る直前に昴くんが、

『今、小説見てるよ。だいぶ、載せられたね』

と、心で話しかけてきた。


『うん。昴くんはブログどうした?』

『今日書いたよ。見てよ。俺のオフィシャルサイト』

『ほんとう?見てみる。待って、今、見るから…』


 そう言って、私は昴くんのサイトを開けてみた。

『あ!私の小説のこと早速書いたの?』

『うん』


 ブログには、今はまっているものとして、パソコンで小説を読んでいますって書いてあった。私の小説の題名と、ペンネームも書いてあり、

>はまりすぎて、すっかり夜更かししています。でも、舞台が終わり、しばらく夏の休暇をもらったので、ちょうどよかったです。みなさんも読んでみてください。感動して泣いちゃうこと間違いなしです。


 なんて、書いてある…。

『ね?なかなかいい感じで書いたでしょ?明日のにも書いておくから』

『うん。明日なら、全部小説載せられそう。あ…。今って休暇中なの?』


『うん。8日間もお休みもらっちゃった』

『ええ?何するの?』

『今日から実家に戻ってる』


『今、山梨なの?』

『うん。明日までのんびりして、あさってからニューヨークに行く』

『ええ?!』


『同じ事務所で仲良くしてる先輩がいて、その人と一緒にニューヨーク行って舞台観てくる。もう、けっこう前から予定してたんだ』

『知らなかったよ!』


『ごめん。言うの忘れてた。ニューヨークから帰った次の日から、もう仕事なんだ。しばらくひかりとは、ゆっくり会えないね』

『そうなんだ…』

『寂しい?』


『うん…。でも、夢で会えるか…。あ、時差があるから無理?』

『そうだね…』

『……』


『ごめんって…』

『え?私なんか怒ってた?』

『あれ?自覚無し?今、心の中で俺のことせめてたよ』


『ごめん…。無意識だ』

『いいけどさ。ずっと会えなくて寂しい。昴くんのばかばか!って思ってても…』

『そんなこと、思ってないよ~~!』


『あははは…。そのくらいに思って欲しいなって、俺の願望』

『何それ…』

『帰ってきたら仕事始まるけど、なるべく会えるようにするよ。仕事って言っても、雑誌の取材と、CMの発表とかそんなもんだし…。あ、そうだ。俺、秋のドラマ出るんだ。主役で』


『え?すごい!』

『うん。それも、面白い役なんだ』

『どんな?』


『超能力を持った高校生で、人の心を読んだりして、いろんな事件を解決していくっていう…』

『へえ…。なんか、昴くんっぽいじゃん』

『あ。言っとくけど、俺が心読めるのはひかりだけだからね』


『あ。そうか…』

『まだ脚本もできてないし、どんな感じになるかわからないけど…。ラブシーンがあるかどうかも』

『え?』


『気になる?』

『べ、別に!』

『あはは…。素直じゃないんだから。ドラマのクランクインはまだまだ先だけどさ』


『そう…。始まると忙しいの?』

『けっこうね』

『……』


『寂しい。昴くんのばかばかばかって今、思ったでしょ?』

『思わないよ。もう~~。…そりゃ寂しいけど』

『じゃ、一緒に暮らす?』


『え?』

『離れてて寂しくなるなら、一緒に暮らさない?』

『……』


『あ。今、めちゃくちゃ嬉しい。昴くんのばかばかばかって』

『思ってない!そりゃ、嬉しいけど、でも…』

『でも?』


『私、ちゃんと自立できるようになってからがいいな…。バイトじゃなくて、正社員になって』

『家賃なら大丈夫だよ?』

『でも…。やっぱり…』


『そっか…。うん、わかった。ひかりがそう言うなら』

『……。うん。ごめんね』

『え?なんでごめんなの?』


『なんか、わがまま言ってるみたいで…』

『あはは。そんなことないよ。あ、いてて…』

『え?どうしたの?』


『猫。今、背中にのってきて…。爪が痛かった』

『猫、飼ってるの?』

『うん。2匹いる。にぼしと、かつおぶし』


『何?その名前…』

『あはは…。いいでしょ?俺がつけたの。愛称はにー坊と、かっちゃん』

『あ…。それなら可愛いけど…』


『今度写メールで送るよ』

『え?でもメアド知らないじゃん』

『え?ああ!そうじゃん!知らないじゃん!俺!!!!』


『あはは…。今頃気がついたの?』

『なんだよ~~。今、教えて、今!じゃなきゃ、いろんな写真送れない。ニューヨークからでも送るからさ』

『送れるの?』


『うん。PCの方も教えといて』

『うん。今から言うよ。メモしてね』

 なんだかおかしいな。今さらだよね。それにしても、ニューヨークからでも、昴くんのエネルギーは感じられるのかな。


『大丈夫だよ。宇宙からだって、どこからだって感じ取れるよ。同化もできる』

『そうだよね…』


 昴くんがしばらく黙った。感じ取ってみると、どうやら猫とじゃれてるらしい。たまに、いてて…って言ってる。

『いいな…猫』

『え?』


『その猫になりたいよ』

『…なんだよ、ひかり、思い切り可愛いじゃん…』

『え?』


『じゃ、夢で会おう。思い切り夢の中で、愛し合っちゃおう。だからもう寝よう。ね?』

『うん。わかった。もう寝るね』


『うん。おやすみ。また夢でね』

『うん、おやすみなさい』


 そう言って交信を終えて、それからベッドの中に潜り込んだ。すう……。すぐに私は夢の中に入った。そうしたら、昴くんが肩に猫をのせて登場した。

『これ、にー坊』


 白でところどころが、茶色の猫。もう1匹、足元にじゃれてる猫もいて、

『こっちが、かっちゃん』

と昴くんが教えてくれた。かっちゃんは茶色の縞模様だった。それから、すぐに猫がぱっと消えた。


『写メで送らなくても、紹介できたね』

と、昴くんは笑った。そして、ぎゅって私を抱きしめてきた。ああ…。夢だか現実だか、本当にもう、わからないよね…。


 翌日、バイトが遅番なので、朝から小説を載せる作業をしていた。そして、やっと最後までアップすることが出来た。

「は~~~~、終わった~~」


 小説のサイトを、美里や薫にもメールした。葉月ちゃんは、もう読んでいてくれて、

>すばらしいです。これ、ぜひ映画化してほしい。

とメールをくれた。


 バイトに行くまで、時間があったから昴くんを呼んでみたが、返事はなかった。


 私は早めに出て、新宿の街をぶらつき買い物をした。いろんな人から、いろんなエネルギーが出ていたが、それにも対処できるようになっていて、黒の霧はすぐに光で消していった。


 バイトに行くと、事務の斉藤さんが、

「昨日、読みましたよ。星野さんの小説。もう続きが気になって、読み続けて寝不足ですよ」

と言ってくれた。


「ありがとう。今日最後まで載せたから読んでね」

「はい。ああ。今日も寝不足になりそうだ~~」

 斉藤さんはそう言うと、パソコンに向かい仕事の続きをした。


 夜、仕事を終えて家に帰り、昴くんのサイトを見てみた。ブログが更新されていた。


>「今 このときを 愛してる」を最後まで読みました。最後までどうなるか、気になりましたが、ラストは…、内緒にしておきます。この小説に出てくる圭介って青年、俺にちょっと似ています。もし、映画化とかドラマ化されることになったら、圭介の役やってみたいですね。きっと、やりがいがある役になりそうです。なんてね。そんなことになったらの話ですけどね(笑)


 う~~ん。なかなかうまいこと、書いてるな~~。昨日の日記にはたくさんのコメントが書いてあって、読んでみると、

>その小説、私も読んでみます。


っていうのがほとんど。他には、ブログ昴くん本人が書くようになったんですね…とか、今、休暇中なんですね…とか、そんなコメントだった。


 昨日は写真が載せてなかったが、今日は猫の写真が載せてあり、

>今、実家でのんびりしてます。これは、にー坊。

と書いてあった。


 昴くんの写真は載せてなくて、猫だけ…。な~~んだ。昴くんの顔、見たかった…。ってすっかりファンの気分。でも私、数ヶ月前までただのファンだったもんな~~。


『顔も、見たかった?』

 いきなり、昴くんの声がした。

『わ。びっくりした。いつから私の心の声、読んでた?』


『ちょっと前から…。なんか俺のブログ読んでるなって、わかったから』

『もう~~。だったら、もっと早く声かけて』

『へへ…』


『今、なにしてるの?』

『風呂にはいってるよ。実家の風呂は広くて、気持ちいい~~~』

『そうなんだ。今日は何してたの?』


『中学の時の友達と会って、地元うろうろしてた。みんな大学生で暇してたから。夜は姉貴が子ども連れてきて、ずっとその子守してたよ』

『へ~~。子どもって何歳?』


『3歳。もう、大変。俺、おままごとさせられてたんだよ?女の子って大変だな。もうすごいおしゃべりだし』


『あはは…。見たかったな。昴くんがおままごとしてるところ。そういうところを写真にとって、ブログに載せてよ』

『やだよ』

 くすくす…。


『お姉さんっていくつなの?』

『俺よりも、6歳上だから、25歳』

『じゃ、早くに結婚したんだね』


『できちゃった婚だよ』

『そうだったんだ。じゃ、昴くん、もうおじさんなんだ』

『そうなんだよね~~。あ、わりい。もう出るよ。そろそろ出ろっておやじに言われた。おやじが入るんだってさ』


『うん。じゃあね』

『またね』

 なんだか不思議…。昴くんにも家族がいるんだよね…って、当たり前か。お姉さんは私よりも年下だし…。どんな人なんだろうな…。


 小説サイトにはランキングもあり、観に来てくれた人の数も表示された。私の小説はあっという間に、何百人というアクセスになった。


 それに、なんと感想や評価も昴くんが書いていて、五つ星にしてくれたおかげで、ランキングもあがった。そのうえ評価の名前に、昴くん本人の名前が書いてあり、他にも感想を書いてくれる人が増えた。昴くんファンに間違いないだろうな。


 昴くんは翌日、ニューヨークへと飛び立った。

 時々、心で話しかけてきた。でも、夜中寝ても夢には現れなかった。


 ああ、時差があるとやっぱり駄目なのか。でも、ニューヨークが夜中の時間帯に、どうやら、昴くんは夢の中で私のエネルギーに集中していたらしく、ずっと昴くんのエネルギーを感じていた。そうか…。じゃ、私が寝てる時、ずっと昴くんは私のエネルギーを感じていたのかもな…。


 私は、昴くんがニューヨークに行っていても、昴くんのあったかい優しいエネルギーを感じられるから、寂しさはなかった。


 昴くんが帰ってきてから、すぐその日にブログを更新して、ニューヨークの写真を載せていた。ニューヨークに行っていたことは、ファンの子も知らなかったようで、コメント数がすごかった。


 私の小説も、昴くんがニューヨークに行っている間に、アクセス数が数千となり、感想もどんどん増えていった。


>ぜひ、映画化して、圭介役を昴くんにして欲しい。

という感想もあり、どうやら昴くんのブログを読んで、そう書いているなって思った。


 昴くんが、ニューヨークから帰ったその日の夜、

『ただいま。ひかり、寂しくなかった?』

という、心の声がした。


『おかえり。大丈夫だよ。たくさん昴くんのエネルギー感じていたから』

『俺も、向こうで感じてたよ』

『どうだった?向こうは…』


『舞台、面白かった。やっぱ、すげえよな…。あ、おみやげあるし、明日かあさって会おうよ』

『でも、仕事でしょ?』

『うん。でも、1~2時間くらいあけられる。バイト?新宿なら出やすいから、バイト終わってからでも…』


『明日は遅番だから、4時からなんだ。あさっては朝からはいってる』

『じゃ、あさっての夜がいいかな。俺、6時過ぎならあくと思うよ』

『うん。わかった。ビルの地下の喫茶店にでもいるよ』


『うん。あ、小説すごいね。ランキング、今2位だっけ?』

『そうなの。驚いちゃった。毎日のアクセス数すごいみたい。昴くんがブログに書いてくれたおかげ』

『これからも、雑誌のインタビューとかでばんばん言うからさ』


『うん』

『ひかり…?』

『何?』


『愛してるよ』

『え?いきなりどうしたの?』

『へへ…。言いたかっただけ』


『もう~~。びっくりするよ』

『じゃ、俺寝るよ。時差ぼけしないように、今まで起きてたから眠くて』

『うん。おやすみなさい』


『おやすみ』

 昴くんの声がしなくなった。早くに夢で会いたくて、私も寝ることにした。


 夢の中にいくと、昴くんのエネルギーはあるものの、昴くんはいなかった。目の前には、大きな舞台。ものすごい迫力のある、パフォーマンス。あ、これ昴くんの夢だ…。そうか。ニューヨークで観たものを、夢で再現してるんだな…。


 ドキドキした。興奮して、心臓がばくばくする。これ、私じゃなくて昴くんの感覚だ。同化してるんだ。昴くんはニューヨークで、すごいものをもらって帰ってきたんだな…。


 舞台から、ものすごい光が放たれていた。特に中央にいる人から…。女性だった。ものすごく奇麗な…。

 光に包まれて、すごく気持ちが良くなった。不思議な感覚だ。この人ももしかして、私や昴くんと同じミッションの持ち主?それとも、知らないで光を放ってるの?


 美しい金髪のその女性を、しばらくうっとりと見つめていた。でも、それもまた昴くんの感覚だ…。


 ふ…、目が覚めた。なんだか変な気持ちだった。ジェラシーかもしれない。魂の私なら、ジェラシーなんて感じない。でも、人間の私には独占欲がある。

 はあ…。これ、ない方がいいのに…。そんなことを思ったら、黒いもやもやが出た。


 ああ、自分を否定しても出るんだな~~。昴くんのエネルギーを感じとり、愛しいって思った瞬間に光が出て、黒い霧を消した。


 二日後、待ち合わせの時間に、喫茶店で待っていた。

 昴くんはサングラスもせず、帽子もかぶらず、普通の格好でやってきた。お店に入ると、店には若い女性もいて、昴くんを見て驚いていた。


「ひかり、ごめん。待たせた?」

「ううん」

 私の席の前に座ると、その1部始終をその女性が見て、同席していた男性にこそこそ話をしていた。


『いいよ、気にしなくても。なんてったって、俺ら、公認のカップルだし?』

と、心で昴くんは言うと、ウエイターにコーヒーを頼み、

「これ、ニューヨークのおみやげね」

と言って、渡してくれた。


「ありがとう。何?」

 袋を開けてみた。

「あ…可愛い」

 帽子だった。秋に似合いそうな…。


「ひかりに似合いそうだったから」

「ありがとう」

 可愛い帽子で、昴くんは本当にセンスがいいなって思った。着ている服もいつも、かっこいい。


「この前、ニューヨークのお芝居の夢、見なかった?」

「あ。見た」

「やっぱり」


「ひかり、その夢の中にいたんだ。気づかなかった」

「ふふ…。夢の中で舞台に夢中だったもんね」

「うん。すごかったんだよ。最後には、ものすごい光を放ってる人がいて」


「奇麗な金髪の女性」

「そう…。すごかった。歌もダンスもすげえうまくて…、奇麗で…。あれは感動した」

「ふうん…。すごいよね。あの光」


「うん…」

 昴くんは、しばらく黙って、その人を思い出しているようだった。私はまた、ジェラシーを感じそうになったが、黒い霧が出る前に、昴くんのことが大好きって思うようにして光を出した。


「ひかり、あの人のこと夢で見て何か感じた?」

「え?」

「俺と同じ派動っていうか、エネルギーを感じなかった?」


「似てるような気はしたけど」

「もしかして、同じようなミッション持って地球に来てるのかも…」

「うん。そうかもね」


「俺らだけじゃなくて、いるのかもね」

「そうかも…」

 昴くんは、コーヒーを一口飲むと、またぼ~~ってした。何を思っているのか、エネルギーを集中すると、その女性のことを考えていた。


 私はなんだか、寂しさを感じた。いつもは私といると、私が何を感じてるか、考えてるか、それだけに集中していたし…。ぼ~ってしてる昴くんからは、あまり温かさも感じなかった。


 もやもや…私から黒の霧が出る。あ!慌てて光を出して消した。ところが、その黒い霧にすら昴くんは気づいていなかった。


『どうにかして、コンタクトとれないかな…。やっぱり楽屋に行けばよかったかな。あのエネルギーに集中したら、あの人のことがわかるかな…』


 頭の中は、その女性のことでいっぱいだ。私から黒い霧がまた出てくる。でも光が出ない。どんどん霧が出てくる。

「私、帰るね」

 コーヒー代をおいて、私は席を立ち、店を飛び出た。


「ひかり?」

 後ろから声がしたが、私は振り返らなかった。黒い霧も見られたくなかったし、心も読まれたくなかった。


 私は必死で歩いた。黒い霧が出るばかりで、光がまったくでない。昴くんのことを思っても、黒の霧が出るだけだ。なんで?

 途中まで早歩きで歩いたが、立ち止り振り返った。昴くんは追いかけてきていなかった。


 ズン……。黒の霧が濃くなった。それと同時に、私はものすごい重力を感じた。

 追いかけてきてもくれない。昴くんのエネルギーも感じられない。


 私は、また必死に歩き出した。自分からも周りからも黒い霧が出ていて、目の前が真っ黒になりそうだった。


 足が重い。体が冷たい。光を出すことすら、もう考えられない。どんどん黒い霧が私を覆う。それすら、どうでもよくなる。いけない…。なんか得体の知れない黒いものが、私からどんどん溢れ出ている。


 悲しい。寂しい。孤独。私、一人だ…。ズン…。ますます体が重くなる。心も重くなる。そして狭くなる。

 人が邪魔でしょうがない。人混みを避けて、小さな道に入った。そこで、苦しくてうずくまってしまった。


『…り……』

 かすかに昴くんの声がする。でも、答えたくない。

『ひかり…』


 耳をふさぐ。でも、体の中から聞こえるから、耳をふさいでも駄目だ。

 ああ…。もう、呼ばないでよ!私をほっておいて!そう思った瞬間。ズズズン…。もっと重たいものが私にのっかってきた。辺り1面が真っ暗だ。


 そして…、その中に人影を見た。

「誰?!」

「俺だよ」


「昴くん…?」

「うん」

 影だ…。本当に真っ黒な影だ。影の中に影が動く。


 昴くんとは会いたくなかった。いつの間に私を追いかけて来ていたのか…。私は、ふらふらと立ち上がり、その場を離れようとした。だが、昴くんが私の腕を掴んだ。


 ゾク…。え?なんで、こんなに冷たいの?

 振り返って昴くんを見た。ほとんど真っ暗な中の昴くんは、まったく別人に見えた。


「ほんとに、昴くんなの?」

 掴まれた腕からは、いつもの優しいエネルギーが来ない。思わず腕を引っ込めようとしたが、昴くんは離そうとしなかった。


「ああ。俺だよ」

 何か、変だ…。私は後ずさりをした。私の後ろの方は、少しだけ明かりが見え、その明かりの中に行こうとした。


 ずる、ずる…。少しずつ移動をすると、昴くんも一緒に徐々に明かりの方に来た。薄暗い明かりに照らされた昴くんは、やっぱり昴くんだった。

「なんで疑ってるの?」


 昴くんに聞かれた。ああ、心を読んだのか…。

「離して…」


 そう言うと、昴くんはようやく腕を離した。それから、にこって微笑むが、でもいつもの微笑ではない。それに昴くんの周りには、ぼんやりと黒い霧が立ち込めている…。


 昴くんの中から出た霧?私はその霧を消そうとしたが、どうやっても、光が出てこない。

「何してんの?」

「え?」


「光を出すってなんのこと?」

「……」

 私の心を読んだ?でも、なんでそんなこと聞くの?


「俺はもう、仕事に行かなくちゃ…。駅まで送るよ」

「…うん」


 変だ。街を歩いていても、何かが違っている。ネオンサインが街に灯り出し、街灯も照らされた。夜の街に、明かりが灯ったというのにどこか薄暗かった。


 それに、今気がついたが、さっきまで見えていた黒い霧が見えなくなっていた。前を歩く昴くんの周りからも、消えていた。私の体も、重苦しさがなくなっていった。


『昴くん』

 心で声をかけたが、返事がない。私は昴くんに集中をしてみた。でも、なんにも感じられなかった。


 駅に着くと、昴くんは私の方を見て、

「じゃあ…」

とだけ言い、さっさと来た道を帰って行った。


 ズン…。また、心が冷えた気がした。ものすごい孤独感を感じる。昴くんからの冷たいエネルギーも感じた。なんだろう、これ…。初めてだ。昴くんからのこんなエネルギーは…。


 早くに家に帰り、あったまろうと思い、電車に乗った。電車に乗ると、車内で小競り合いが始まった。周りの人は、それを遠巻きにして見ていた。


 駅に着きホームに下りると、酔っ払いがサラリーマンにつっかかっていた。それから、改札口に行くと、おじさんが駅員さんを怒鳴っていた。改札を抜けると、女子高生が大きな声で悪口を言い合っているのが聞こえた。その横を通り過ぎると、子どもを怒鳴り散らすお母さんがいた。子供は大声で泣き喚いていた。家までの道でも、高校生どうしが喧嘩をしていて、ものすごく怖かった。


 慌てて、私は走って家に帰った。なんだっていうんだ…。なんであんなにも、怖いものを立て続けに見せられたのだろうか。


 玄関のドアを開けると、いきなり父親の怒鳴り声が聞こえた。兄と喧嘩をしているようだ。その横で、近所に聞こえるからやめてと、泣いている母がいた。


「どうしたの?」

 そう聞くと、

「お前には関係ない」

と、父に怒鳴られた。


「あんたは、部屋にいってなさい」

 母にそう言われて、私は自分の部屋に行った。階段の途中から、両親からの光を見ようと目を凝らしたが、何も見えなかった。


 バタン。部屋のドアを閉めた。

 何かが、おかしい…。ベッドの上に座り深呼吸をして、何も考えないようにした。それから、昴くんのエネルギーを感じようとした。でも、またあの冷たいエネルギーが、私を包み込み身震いがして、慌てて昴くんのことを振りはらった。


「なんで?どうして…?」

 自分の体も、冷え切っていることに気がつき、すぐにお風呂に入りに行った。そうだ。きっと、私が冷えてたからだ。そう思って、お風呂でゆっくりとあたたまり、それから昴くんを呼んでみた。


 でも、冷たいエネルギーがやってくるだけで、何も声は聞こえなかった。ブル…。その冷たいエネルギーで、お風呂に入っているにもかかわらず私は寒気がした。


 部屋に行って、昴くんのブログを開いた。何も更新されてはいなかった。私の小説を見てみると、アクセス数ががくんと減り、感想に、

>こんなつまらない小説はない。

>ラストが、がっかりだ。

そんなことが書かれてあった。


「わ、何?これ…」

 気持ちが一気に、沈んでいった。


 夢でなら、あの昴くんの優しいエネルギーに会えるかもと思い、ベッドに入った。でもなかなか、寝付くことが出来ず、私の頭の中には不安や恐怖がうずまいていた。


 このまま、もっと酷い感想がきたらどうしようか。

 このまま、昴くんに嫌われたらどうしようか。

 なんで昴くんは、あんなに冷たかったのか。


 布団の中に、顔までうずめて私は丸くなって寝た。


 夢の中には、昴くんは現れなかった。いや、昴くんの夢を一緒にみていたのだろう。昴くんは、ずっとあの金髪の女性を見ていた。その女性も、昴くんを見ていた。見つめあいながら何かを話していたが、私は聞きたくなくて、目を覚ました。


 目を覚ますと、私は泣いていた。なんでだろうか…。悲しくて、寂しくて、心に穴がぽっかりと開いたようになり、そのまま私はずっと泣き続けた。

 ほとんど寝れずに、朝を迎えた。空は曇っていて、朝だというのに暗かった。


「おはよう」

 一階におり、ダイニングで母に声をかけたが無視をされた。兄もおりて来たが、何も言わずに洗面所に行ってしまった。


「あれ?」

 なんか、変だ…。そうだ。前に私が引きこもっていたときも、こうやって、みんな声をかけてくれなかったっけ。その頃に戻ってしまったようだ。


 ご飯を食べ、支度をしてバイトに向かった。行きの電車でも、また、小競り合いがあった。


 嫌な気持ちのまま、私は更衣室に入ると、こそこそと何か私のほうを見て話をしている人たちがいた。なんだろう。前ならそんなの気にならなかったが、妙に気になり嫌な気持ちになった。


 事務所に行こうとすると、主任につかまり、

「どこ行くの?星野さんはレジの方に出て」

と言われた。


「はい」

 私は、お店の方へと向かった。レジにはすでに葉月ちゃんがいて、

「おはよう」

と挨拶をすると、

「あ、おはようございます」

と妙に、他人行儀な感じで挨拶をしてきた。


 変だ…。何かが変だ…。レジにいると、お客さんがこそこそと私を見て話をしている。なんだろうか…。


 昼の休憩になり、地下の喫茶店に行くとそこへ葉月ちゃんも来た。

「葉月ちゃん」

と、呼ぶと、

「え?!」

と思い切り、驚かれた。


「?」

 なんで、そんなに驚くのかと思ったが、葉月ちゃんはぺこってお辞儀をしただけで、別のテーブルに座ってしまった。あれ?なんで…?


 バイトが終わり、更衣室に向かう途中斉藤さんに会ったが、挨拶をしても、

「どうも…」

と、軽くお辞儀をされ、さっさと事務所に入って行ってしまった。何かが、変だ。なんだろう?これ…。


 帰りの道で、また昴くんを呼んでみたが、あの冷たいエネルギー以外、何も感じられなかった。私は泣きそうになった。どうして…?昴くん…。


 アルタの前に来て、大きなスクリーンを見ると、怖いニュースを次々に映していた。人々はそれを見て、口々に怖いわねって言っていた。


 ぼ~~。しばらくそれを見ていた。なぜか、私までどんどん恐怖を感じてしまい、急いでそこから離れた。私は一人で、どこに行くでもなくぶらついた。


 昨日、昴くんとあの喫茶店で別れてから何かが変わってる。追いかけてきてくれた昴くんが、もう変わってしまっていた。なんで…?

 黒い霧も見えなければ、光も見えない。どうなっているの…?


 考えてもわからなかった。そして、いったいどうしたらいいのかも、わからなかった。


 ポン…。いきなり肩をたたかれて、思わずびっくりして、

「わ!」

と大声を出してしまった。振り返ると、

「あ、ごめん。驚かせた?」

と、悟くんが小声でそう言った。


「さ…、悟くん?」

 いつもの、クールな表情だ。でも、たたかれた肩はほんわかとあったかさが残っていた。

「……」


 なぜかそのあたたかさだけで、私は涙が出てしまった。悟くんはそれを見て、別に驚くわけでもなく、

「ちょっと、どっかでお茶しませんか?」

と、冷静に言った。


「?うん…」

 なんだか、改まった感じだったので不思議に思ったが、ついていくことにした。なにしろ、あったかさを久々に感じたので、今はこの人しかいないってそう感じていたから。


 近くのカフェに入った。周りの人がみんな悟くんに気がついていたが、悟くんはそんなのおかまいなしで、さっさと席に着いた。

「何飲みますか?」

「コーヒー」


 そう言うと、悟くんは私の分も買ってきてくれた。

「はい」

「ありがとう」


 悟くんからは冷たいエネルギーも、あったかいエネルギーも感じられなかった。

「ひかりさん…、ですよね?」

「え?!」


 なんで聞くの?

「う~~ん。ちょっと今、驚いてる?」

「うん。だって、私のことなら知ってるでしょ?」


「はい。他の次元の俺は…」

「え?」

 どういうこと?


「理解しにくいですよね。多分…」

「うん…?」

「ひかりさん、どうやら、違う次元に来てますよ」


「は?」

「っていうか、この次元のひかりさんと、リンクしてるっていうか、同化してるっていうか」

「ええ?」


「あ。俺は、少し高い次元の俺と交信して、知ったんですけど…」

「少し高い次元って…?」

「多分、つい昨日まで、ひかりさんがいた世界の…」


「え?!」

「ひかりさん、元に戻ったっていうか、いや、もしかすると前いた次元よりさらに、低い次元に来てるっていうか…」

「????」


 まったく、わけがわかならい。


「つまり、前にひかりさんがいた次元で、昴説明してなかったですか?この宇宙には、いろんな次元が、今ここに存在してるって」

「あ、そういえば…」


「低い次元のほうに、来ちゃったようですよ」

「…。さっき、なんて言った?」

「え?」


「さっき、前にいた次元の、昴くん…?」

「ああ。昴に会いましたか?この次元の…」

「……、もしかして、昨日会ったのは…」


「どんな昴でしたか?」

「冷たいエネルギーの…」

「ああ、この次元ですね」


「じゃ、私の知ってる昴くんは?!」

「もう少し高い次元にいますよ」

「どうしたら会える?どうやったらコンタクト取れる?だってあなた、高い次元のあなたと、会話できるんでしょ?」


「チャネリングです」

「じゃ、私もその次元の私と…」

「いえ、ひかりさんの場合はどうやら、この次元のひかりさんと同化してるから、高い次元のひかりさんは、今いないですよ」


「どういうこと?」

「つまり、自分の波動を下げて、ここに来ちゃったんです」

「派動を…、下げて…?」


「たまに感じる、マイナスっていうか、今までと違った感情を持った自分、いませんか?」

「いる…。怖いとか、不安とか感じてる」

「それは、この次元に住んでるひかりさんの意識です」


「一緒になってるってこと?」

「はい」

「……。どうやったら、私戻れる?」


「派動をあげたら…」

「どうやったら、あがる?」

「わかりません」


「なんで?」

「俺も、したことないですから」

「……。あなたは、どうやってチャネリング…」


「う~~~ん。そういうの、得意分野なんです、実は…。聞いていなかったですか?高い次元の俺から」

「うん」

「そっか…」


「あ、あなたも、もしかして、幽体離脱できる?」

「できますよ。ついでに、いろんな次元の自分とコンタクトも取れます」

「昴くんも、できる?」


「まだ、そこまではできないんじゃないかな」

「あ…。葉月ちゃんも変だった…」

「この次元では、まだ俺とも会ってないです」


「どういうこと?」

「ひかりさんがいた次元とは、ちょっとずつ現実に起きてることが違ってるんです」

「え?」


「ひかりさんの周りも、違ってたでしょ?」

「違ってた。家も、前の家に戻っちゃった。暗くて、みんな話しかけても来ない」

「高い次元で起きたようなことが、起きてないんです」


「…なんで?」

「波動が違うから。この次元でふさわしいようなことしか、起きてはきません」

「じゃ、なんであなたはここにいて、あなたはいろんなことができるの?」


「ここの世界の波動もあげるためです」

「え?」

「いろんな次元にミッションを遂行するために、いろんな俺が来ています」


「わ、わけわからない…」

「そうですか?宇宙船に行きましたよね?そこで、光の人型になりましたか?」

「なった」


「あれは、さらに高い次元のひかりさんです。その高い波動のひかりさんと同化していたんです。今でも宇宙船には、高い波動のひかりさんがいますよ」

「その私と、同化できる?」


「今の波動じゃ、多分無理です。かなりきついですよ」

「幽体離脱も、できないの?私…」

「はい。多分」


「……。この次元の昴くんって…」

「多分、昴もまたミッション持ってますけど、今は思い出してないですね」

「……」


 どうしたらいいの?今のこの次元の昴くんって?高い次元の昴くんとは、全然違うの?あの優しくてあったかい昴くんとは…。

「あ。でもね、昨日私の心の声、聞いてたよ。そんなことできてたよ」


「そうですか?じゃ、この次元のひかりさんと、昴はその辺まで、ミッションが進んでいたってことじゃないですか?」

「ここの次元の私?でも、なんの記憶もない…」


「いや、それは感じないようにしてるだけかも…」

「え?」

「そのうちに、思い出すっていうか、わかってくるかも」


「……」

 待って。待って…。じゃあ、私…。

「わ、私は、今まで会ってた昴くんには、会えないの?もう…」


「それは、わかりません」

「なんで…?なんで、私ここにいるの?なんで?」

「昨日、かなり負のエネルギーを感じたか、何かしませんでしたか?」


 昴くんが、他の女性の事を考えてて嫉妬した。それで…?それでなの?

「多分、昴は、ひかりさんが高い次元のひかりさんと同化してること、知らないはずです。知ってるのは俺だけですから、何かあったらいつでも相談してください」


「ありがと…」

 私は思わず、泣いてしまった。悲しさもあったが、ほっと安心したのだ。悟くんがいてくれて良かった。


「じゃ、携帯のアドレスです。これ、名刺置いていきますね。俺、これから取材が入ってるからもう行きます」

「うん。ありがとう」

 私は、その名刺を大事に鞄にしまい、店を出て家に向かった。


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