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ミッション 第1段階終了

 二人が帰った後、昴くんと洗い物を終え、部屋に行きくつろいだ。

「悟くん、昴くんが私のことで感じたようなことだって言ってたでしょ?」

「うん」


「あれ…。どういうことかな?」

「俺がいつも、ひかりのことを思うようなことってことじゃないの?」

「だから、それってどんな?」


「こんな感じ?」

 昴くんは黙って私も見た。ああ…、心で感じてることを、私に感じろってことか…。


 昴くんに、エネルギーを集中した。

『すげえ、ひかりが愛しい…。可愛い…。抱きたい…』

「え?!」


「わかった?多分、こんな感じ…」

と言って、背中から抱きついてきた。そしてぎゅって、抱きしめた。

「あ~~。2週間、ずっとこうして抱きしめたかった」


「夢で抱きしめてきたよ?」

「うん。でも、夢は夢だから」

「……」

 私はしばらく、昴くんの腕の中にいて、そのあったかいエネルギーに浸っていた。


「もう、きっと葉月ちゃん、大丈夫だよね?」

 私がそう言うと、

「うん。悟さんいるから」

と、昴くんは答えた。葉月ちゃんの心の中に巣くっている闇も、きっと悟くんの光で浄化されていくだろう。私の闇を、昴くんが浄化してくれたように…。


「ねえ…。第1段階は、苦しみや哀しみの感情を知り、それを乗り越え、愛や喜びを知るってことだったよね?」

「うん」

「じゃ、もうそこは、クリアーしたのかな?」


「ああ。そうだね。そうかもね」

「じゃ、もう第2段階に行くの?」

「そういうことになるかな」


「どんなことが起きるのかな?」

「もう、行動してるじゃない」

「え?私?」


「うん」

「何…?なんだろう…」

「小説だよ」


「え?」

「あれ、きっとミッションなんじゃないかな…。すごい内容だったもの。思い切り無償の愛を描いてた。それに、すごく大事なメッセージが隠されてる」

「どんな?」


「今に生きることだよ」

「今に…?」

「そう…。言わなかったっけ?宇宙には、今しかないんだ。時間があるってのは錯覚なんだ」


「錯覚?」

「幻想。明日も昨日も、本当はない」

「……」


「今、この時しかないんだ。だから、明日はきっといいことがあるとか、いつか幸せになるっていう考え自体が幻想なんだ。今しかないからね」

「そうなんだ…」


「今を感じるって、ものすごいことだよ。あ、面白い話しようか?」

「何?」

「You Tube観たんだ。脳の博士の講演。これが面白いんだ。」


「脳…?」

「そう。その博士、女性だけどね、自分が脳卒中になって、体験するんだけど」

「何を?」


「人間の左脳と右脳の違い。役割っていうのかな」

「うん」

「博士は、左脳が機能しなくなるんだ。それで、涅槃の世界を体験するんだ」


「涅槃?」

「ブッダが悟りを開いて、感じた世界。宇宙はすべてがつながっている…」

「え?じゃ、私が魂になってすべてとつながってるっていう、あの感覚と同じ?」


「そう、それ…。右脳はね、今しか感じられない脳なんだって。味、匂い、触った感じ、すべて、今に感じることでしょ?」

「うん」

「それに、すべてはつながっているという、感覚なんだって。地球全部、兄弟だって言うそういう感覚」


「うん」

「それに対して左脳はね、未来と過去しか考えられない。だから、過去のデータをもとにして、未来を考える。計画する。あと、言語でものを考える脳なんだって」


「へえ…」

「それで、私は私…っていう分離の感覚なんだってさ。だから、誰かと比較したり、競争したり、孤独を感じたりする…」

「人間だ。人間の感覚じゃないの?3次元の…」


「うん。その二面性を人は誰しも持ってるんだ。でもね、その博士が言うには、左脳と右脳を上手に使い分けたらいいって。右脳のみんなは一つ、つながっているという感覚でいたら、世界は平和になるって、そう言ってたよ」


「今を感じる脳だよね?」

「そう。今、この瞬間にいつもいて、今を感じてたら、いっつも俺らはすべてとつながっている感覚でいられる。だから、競争もしない、比較もしない、未来への不安もない、過去にたいしての後悔や罪悪感もない。いつも愛を感じて生きていける…。みんなは一つだから、孤独感もない、寂しさもない、怖さもない」


「すごいね。でも、それって、アセンション後の世界なんじゃないの?」

「あはは…。実はアセンションなんていつでもできるんだよ。いつも、今ここを感じたら、それだけでいいんだ。簡単でしょ?なのに、宇宙人が攻めてくるだの、地球が崩壊するだの、変な話だよね?」


「そうだね。じゃ、いつでも誰で今ここに生きたら、それだけでもう…」

「うん。本当はすごくシンプル…。でも巧妙に、今ここにいられないようにしてるんだ」

「何が…?」


「思考が。左脳がって言った方がいい?」

「なんのために?」

「う~~ん。そこまではわからないや。でも、自分って存在を忘れて、3次元をたっぷりと味わってたんじゃないのかな」


「なんのために?」

「体験するために…かな?」

「人間を?」


「うん」

「じゃ、地球って人間体験できる、バーチャルシアターみたいなもの?」

「ああ。いいね、そのたとえ、面白いかも」


「マトリックスの映画みたい」

「うん。ほんと、そうだよね。俺ら、魂で本当は感情もないし、痛みもないし、体もないじゃん。それは、ひかりも知ってるよね?」


「うん」

「でもこうやって、人間の体で、いろんな感情を感じたり、痛いって感じたり、感動したりしてるじゃん」

「うん」


「魂の俺は、ひかりのこと見てドキドキしたりしないし、恋したりしない。嫉妬もしない。でも、人間の俺はそれを体験する。けっこう面白いもんだよ。それは全部体験であって、俺自身じゃない。なんていうのかな。本来の俺は、ただの光だ。でも、人間の俺はいろんな体験が出来る」

「遊園地みたいだね。じゃなきゃ、舞台で役を演じてるか…」


「うん。そうだね。遊園地では、作り物のジェットコースターだってわかってるし、安全なのをわかってるから、キャ~~怖いって悲鳴上げながらも楽しめる。でも、あれが何に乗ってるか、安全かどうかもわからないで、上下左右にぐるぐる回されたんじゃ、そりゃ心底怖いよね。きっと今の人間は、遊園地の乗り物に乗ってるのを忘れてる。それでぐるぐるになって、怖い~~ってことだけを感じているんじゃないのかな。ほんとうは安全で、作り物の世界なのにさ…。降りてみたらわかるんだ。な~~んだ。これ、遊園地のジェットコースターだったのかって」


「なるほどね…」

「舞台で演じてるってのもそうだよね。悪者の役や、悲劇のヒロインを演じてる。役になりきってて、役を今演じてるってことを忘れちゃう。それじゃ、ただ悲しい、苦しい、それだけだよね。でも、今演じてる役者なんだってことがわかれば、いろんな感情も楽しめるし、余裕持っていろんな役も演じられるし、全部を楽しめるじゃん」


「うん」

「もし、もしね、万が一俺が浮気したとして…」

「え?!」

「人間のひかりは、めちゃ傷つくか、悲しむか怒るかするよね」


「うん」

「でも、魂のひかりはびくともしない。それに浮気も何も俺はひかりだし、そのうえ、浮気した相手も俺であって、ひかりでもあるわけ。みんなが一つだから、浮気も本気もないわけ。人間やってるときだけ、泣いたりわめいたりするけど、魂になってみたらなんでもないこと。ああ、面白い体験したなってそれだけ…」


「…。そうか。そんなもんか…」

「しらけた?」

「え?」

「そんなもんかって…」


「ううん。いろんな苦しみあるけど、全部、本当はたいしたことないんだなって思っちゃって…。でも、みんな思い切り苦しんでるよね。私だって、苦しんでた」

「そうだよ、そうなんだよね~。本当は、単なる体験に過ぎないのにさ」


「自分がしたい体験をしているの?」

「そうかもね」

「ふうん…。じゃ、ものすごく苦しんでる人も、自分で選んだ?」


「そのへんはわからない。ほら、ずっと過去生見てたとき、気づいたでしょ?輪廻転生。あの輪の中にいて、ぐるぐるしてるだけかもしれない。でもね、あれも今に生きたらなくなるんだよ。消えちゃうんだ」

「なんで?あ…。そうか、時間がないから。未来も過去もないから?」


「そう」

「過去生も何もないんだ。じゃ、来世で自分に返ってくるとか、来世で恨みをはらしてやるとか、そういうのもなくなって…」


「そう、それも全部幻想の世界。今に生きると抜けるよ、そこから…。だいたい、みんなが一つなのに、誰かを恨むこともしないでしょう。今しかないのなら、未来の生でこんなことをしたいってのも、なくなるわけ」

「そうか…。でも、そういうことを思ってると…」


「うん。幻想を創り上げ、そこに生きることになるよね」

「ね、天国がないってはじめに言ったよね?あれはどういうこと?」


「今しかない。ここしかない。ここがもう、天国みたいなもの。極楽浄土みたいなもの。涅槃なの。だから、死んだらそういう世界に行くんじゃなくて、もう、今ここにあるものなの。わかる?」

「うん、なんとなく…。あれ?じゃ、死なないの?」


「肉体は滅びるときはくるけど、魂は死なないよ。今ここにあるだけだよ」

「そうなんだ…。あれ?じゃ、肉体が死んだら思考とか、感情は?」

「なくなるよ」


 なんか、寂しい…。

「寂しいっていうのもなくなる。だから死んだら、寂しさもない。なにしろすべてとつながるわけだし。だって、それ体験してるじゃない?」


「そうだね。そっか。人間の私だから、今寂しいって思ったのか」

「うん。そういうこと」

「…じゃ、寂しいっていう思いも、けっこう貴重な体験かな?」


「どんな体験もきっとね」

「ふうん…」

 べたって、昴くんにくっついた。


「こういう感覚、別の体を持ってるから感じられるんだね。昴くんの匂いとかあったかさとか、鼓動とか…」

「うん。あれ?なんか俺、匂う?」

「うん。昴くんの匂いね…」


「くさい?」

「ううん。全然。愛しいよ…」

「あ…そう?…」

 昴くんは鼻の頭を、ぼりって掻いてそうつぶやいた。照れてるのかな?


「そうだ。今日、小説全部プリントアウトして持ってきた。完成したの、読んでみてね」

「うん」

「それから、どうしようかな…」


「携帯か、パソコンのサイトに掲載したら?」

「え?」

「今、無料で載せてくれるサイトあるよ」


「そうなんだ」

「俺、いろんなところで宣伝するから…」

「宣伝?どうやって?」


「今、夢中になってる小説ですって…。雑誌のインタビューから、テレビから、あ、自分のブログにも載せる」

「ブログ?してたの?」

「今は、スタッフが書いてる。スタッフのレポートって感じで…。それを自分で書こうかって思ってたところなんだ」


「へえ…」

「毎日の更新は無理でもさ…」

 そっか…。昴くんも発信していくんだね…。私は…、そうだ。私、星野ひかりで小説を載せるより、ペンネームで載せたいかも…。


「あ、そうだね。そっちの方がいいと思うよ。なんて名前にする?」

 昴くんは私の心の声を聞いて、そう言ってきた。


「う~~~ん。そうだね~」

「星野ひかりでも、十分なペンネームになりそうだけど…」

「でも、本名だもん…」


「あ、逆にして、ひかりの星なんてどう?」

「え?」

「駄目か…。俺の名前とごっちゃにして星野昴」

「…」


「あ、今、心の中で、ばっかじゃないって言った?」

「わかる?今、読まなくてもわかったでしょ?」

「まあね…。顔つきでね…」


「祈り…とかいいな~~」

「え?」

「いのり…」


「星野いのり?」

「あ、それもいいな。でも、苗字も変えたいから、天野いのりとか…。それか、もう堂々と宇宙って書いて、そらって読むの。あ、ひらめいた。美しい空で、美空」


「美空ひかり」

「美空ひばりに似ちゃう~」

「あはは…」


「もうわかんないや。昴くん考えて」

「いのり…。気に入ったけどな。星野いのり…。苗字が同じでもいいんじゃない?もし変えたいなら、空野いのり…とか」


「そらの?」

「そらの、いのり…」

「うん、いいかも。なんか広がるイメージあるし…」


「よっしゃ~~。あ、なんか楽しくなってきた」

「くす。なんで昴くんが…?」

「え?だって、なんか面白そうじゃん。これからの展開…」


「うん。ふふ…。昴くんってどんなことも楽しんじゃうよね」

「そりゃそうだよ。だって、ここはバーチャルシアター。体験版だよ。遊園地だよ?いろんな体験楽しまなくちゃ」


「そうだね」

「でも、ミッションは遂行する。で、ミッションは…」

「宇宙の流れに任せていたら、いい…でしょ?」


「そ。何が起きるかは任せて、起きてきたことを楽しむ…」

「うん。楽しそう。何が起きてくるかな」

「でも今は…」


「わかってるよ。今を楽しむんでしょ?」

「そういうこと~~!」

 そう言って、昴くんは私をぎゅって抱きしめた。


「もう、夜が明けちゃうよ。明日俺は仕事ないけど、ひかりはあるでしょ?」

「ないよ。ちゃんとシフトあけておいたよ」

「まじで?!」


「うん。まじで…」

「やった~~~~!丸1日、一緒にいられるじゃん。じゃ、寝坊も出来るね。夜更かしOKだね」

 昴くんは、ものすごく喜んだ。もう、きらきらした光がそこら中に飛び散って、そこら中でダンスをしている。


「うん。だから、何かテレビでも観る?」

「なんでそうなるんだよ?ひかり、こっち…」

 昴くんは、ベッドに私を座らせた。


「シャワー浴びたいな。仕事もしたし…」

と、私が言うと、

「……」

 昴くんは、顔がええ~~?って顔してる。心の中を読まなくても、丸わかり…。


「シャワー浴びてきます!」

と言って、さっさと昴くんの体から、すり抜けた。昴くんを振り返って見ると、ベッドに倒れこんでいた。

「ちぇ~~~~。ちぇ~~~」


 何が「ちぇ~~」なんだか…。それから飛び起きて、聞いてきた。

「あ!一緒に浴びるのは?」

「駄目。今日は一人で浴びる」


 そう言って、さっさと私はバスルームに、入ってしまった。さぞがっかりしてるだろうと、昴くんの心の声を聞いてみた。そうしたら、

『1日、ひかりと一緒にいられる。すげえ嬉しい…!』

と、うきうきわくわくした思いが伝わってきた。なんか可愛いな~~。


 シャワーを浴びて部屋に行くと、昴くんはなんと寝ていた。うきうきわくわくしながら寝たようで、顔はにやけていた。

 ああ…。このにやけ顔まで、可愛いや…。


 私はしっかりと寝る準備を済ませて、そっと昴くんの横に潜り込んだ。

「うん…。ひかり…?」


 起きたのかと思ったら、やっぱり寝ていた。寝言だったみたいだ。

 寝ても覚めても私なの?って思うと、なんだか照れくさくなった。でも、私もそうか…。寝ても覚めても昴くんだな~。


 そして眠りにつくと、夢の中に昴くんがいた。思い切り抱きつかれ、そのまま押し倒され…。あ…。なんだか起きてたとしても、夢の中でも変わらなかったな~~って、不思議と夢の中の私は、思っていた。


 翌朝、昴くんは起きても寝ぼけていた。しばらく夢を現実と思っていたらしい。

「昨日、なんか俺、ちょっとあれだったよね…」


「え?」

「強引って言うか、その…」

「?昨日?」


「だから、その…。ちょっとワイルドになってました。で、いつ寝たかも覚えてないし」

「え?!何が?何のこと?もうシャワー浴びて出てきたら、ぐうすか寝てたよ」

「誰が?」


「昴くんが…」

「ええ?でも俺…」

「それ、夢だよ」

「……」


 昴くんは、開いた口がふさがらないくらい驚いていた。

「あれ?夢?夢?すんごいリアルで…。感触っていうか、全部覚えてるけど?」


「でも夢だよ?」

「……」

 また、昴くんはぽかんと口を開けていた。


「え~~~!!嘘だろう~~!じゃ、俺、まだひかりと愛し合ってないじゃん!」

「う~~ん。でも多分、同じ夢だよ。夢の中で、愛し合ってたからいいんじゃない?」

「でも……」


 昴くんは、少し情けない顔をした。

「寝ちゃったの?俺……」


 そうとう、ショックだったらしい。私は、さっさとそんな昴くんをその場に残し、顔を洗いお化粧をして髪をとかし、朝食の準備にとりかかった。


 昴くんが後ろからやってきて、抱きついてくると、

「夢の中の俺のほうが、ワイルド…」

と、ぼそって言った。


「現実じゃあんなことできない。ちょっと、気が弱くって俺…」

「あはは…。何それ~~」

 笑ってしまった。それから、昴くんも顔を洗いに行き一緒に朝食をとった。


 いい天気で、洗濯物を干して掃除をした。昴くんは、いろいろと手伝ってくれた。っていうか、私のほうが手伝っているのか、本当は…。


 昴くんが、コーヒーを淹れてくれてから、パソコンを開いた。


「何個かあると思うんだ。小説を載せられるサイト」

と言って検索をしだした。それから、

「あ、ここなんかよさそうだよ」

と一つ、サイトを見せてくれた。


「ふうん…」

 他の人の小説を見てみたら、けっこう読みやすい感じだ。

「うん。いいかも…」


 私が、今度はパソコンの前に座り、そのサイトの会員になった。そしてすぐに、私の小説を打ち出した。


 題名は「今 このときを 愛してる」ペンネームは、空野いのり。でも、横で何かと昴くんがちょっかいを出すので、なかなか進まない。

「昴くん、くすぐったいよ。打てないってば…」


「じゃ、こうやってくっついてるだけにする」

 そう言って、後ろからべったり抱き付いてきた。でも、やっぱり首筋にキスをしてきたりするから、集中が出来ない。


「昴くん。集中出来ないよ」

「じゃ、家でやって」

「え?だって、パソコン開いたの昴くんだよ」

「うん」


「ま、いっか~~。そうだね。自分のパソコンなら、保存してるファイルから載せられるね」

「うん」

 昴くんは、ちゃんと私の話を聞いていないようだ。生返事っていうやつ。


 私は、昴くんの心の声を聞いてみた。あ…。聞くまでもなかった。そのまま、押し倒されてしまった。それにキス攻めにあっちゃうし…。


 そして結局またベッドに乗せられ、着替えた服も脱がされた。

「もう、俺、絶対寝ない」

と、断言をしながら…。


 ああ、確かに…。夢の中の昴くんのほうがワイルドだ。現実じゃとっても優しい。あ、それ、気が弱いからって言ってたっけ?それを思い出すと、ちょっと笑いそうになってしまった。


 でも昴くんに悪いと思って、必死にこらえたが、

「全部、聞こえてるから」

と言われてしまった。ああ、心の声を聞いていたのか…。


「どっちの俺がいい?」

「え?」

「ワイルドな俺。優しい俺…」


「どっちも好きだよ」

「え?」

「どっちも昴くんだもん。大好きだよ」


 そう言うと、昴くんは真っ赤になった。あれ?こんなに照れること、今までなかったのにな。

 そして、その日も昴くんと二人で思い切りいちゃついて、1日が終わっていった。


 夜になり、帰り支度を始めながら、

「明日、早番だから今日は帰るね」

と私が言うと、

「うん。駅まで送っていこうか?」

って昴くんは言ってくれた。


「大丈夫、すぐ近くだし…。じゃ、明日は仕事でしょ?頑張ってね」

「うん。ひかりもね」

 昴くんがぎゅってハグをして、優しい光で包んでくれた。私からも、いっぱい光が飛び出て昴くんを包んだ。


 そして、私は家に帰った。家に着くとすぐに部屋に入り、私はパソコンを開いた。そして、小説を載せていった。でも、さすがにそれにも時間がかかり、半分も終わらないうちに、夜中になってしまい、私はお風呂にはいって寝ることにした。


 寝る前に昴くんを呼んでみたが、もう寝てしまったようだ。私も寝たが、その日は昴くんは、あったかい光を夢の中で送ってくれるだけだった。その光に包まれて私は、ぐっすりと寝ることが出来た。


 翌日は、バイトに出た。更衣室で葉月ちゃんに会い、昼ごはんを一緒に食べる約束をした。


 事務所に行き、例の正社員の男の子に、小説を書き終わり、あるサイトに載せたんだって話をした。

「え?賞に応募しないんですか?」

「うん。だって、賞とか興味ないし…」


「もったいない」

「え~~。いいよ~~」

「なんていうサイトに載せたんですか?僕読みたいです」

と言うので、教えてあげた。早速今日、帰ったら読みますと言ってくれた。


 なかなか、まじめないい青年だ。青年といっても、もう24歳。名前は、斉藤くん。いつもあれ?佐藤くんだっけ?伊藤くんだっけ?と間違ってしまう。でもやっと覚えた。斉藤だ。

 彼の書いた小説を読ませてもらったが、なんというか、ものすごく真面目なストーリーだった。文学っていった方がいいかな。


 そういえば、私と昴くんとの噂は、みんないつの間にかしなくなっていた。人の噂話なんて、こんなものか…。


 テレビや雑誌でも、もう取り上げられていない。それよりも、他の芸能人の大きなニュースが立て続けにあり、そっちで話が盛り上がってる状態だった。ありがたいといえば、ありがたい。さっさと忘れてくれたら本当に助かる。


 昼休み、葉月ちゃんとレストランに入り、ご飯を食べた。

「一昨日、どうだった?帰り…」


 私が聞くと、葉月ちゃんは少し顔を赤らめた。

「悟くんが、もし、俺のことを恋愛の対象として見られるなら、俺と付き合おうって言ってくれました」


「へ~~。そうなんだ」

「はい…。でも、お付き合いしてた人がいますよねって聞いたら、別れたって…」

「…そうなの?」


「ミッション遂行するためには、別れた方がいいって思ったらしくて。そういうところも、クールですよね。私、ちょっとそれ聞いて、私もさっさと別れようって言われたらどうしようって、思っちゃいました」

「それで?」


「でも、その気持ちを悟くんが察して、それは絶対にありえないって言われました。だって、別れようにも、俺は葉月ちゃんだからって…。そのへんはよくわかんないですけど…。もし、別れたとしてもいずれは、またくっつくしって」

「一つの魂だったんだもんね。そりゃ、くっつくよね」


「いつですか?」

「え?今すぐじゃないよ。そうだな。葉月ちゃんの一生を終えてからかもしれないし。もっと先かもね」

「死んでからってことですか?」


「うん。だって今は別の肉体持ってるし」

「あ、そうですよね」

「うん」


「私、悟くんに聞いたんです。私のことを恋愛対象に見れるんですかって。私の方は見れたとしても、悟くんのほうが無理なんじゃないかって思って」

「うん」


「そうしたら、ちゃんと見ているよって…」

「そっか~~。良かったね」

「はい。なんか悟くん、口数少ないけど、優しかったです」


「そっか~」

「星野さんは、昴くんの家に泊まったんですよね?」

「うん。昨日の夜、家に帰った」


「じゃ、それまでずっと?」

「うん」

「あ、今羨ましいって思っちゃった。これ、黒い霧が出ちゃうんですよね。いけない」


「いいんだよ。そんな感情を持ってる葉月ちゃんのことを、自分で許してあげて」

「え?」

「そんなことを思っててもいい。そんな自分も可愛いわって…。そうすると、光がでるよ」


「そうなんですか?」

「うん」

「はい。そう思うようにしてみます」


 葉月ちゃんはなんだか、素直になった。そして顔がすっきりした気がする。

「私今ね、小説を無料サイトに載せてるの」

「え?」


「昴くんに相談して、そんなことをしてみることにしたの」

「本になるんですか?ノエルさんが言ったみたいに」

「本になるかはわからないよ」


「どんな内容ですか?」

「恋愛もの。読んでみて」

「はい。どのサイトでなんていう小説か、教えてください。読みたいです」

 私は葉月ちゃんにも、教えてあげた。


 これからどうなっていくのかわからないが、とにかく何かを発信し始めた。それだけは感じていた。


 昴くんが言うように、もうミッションの第2段階に入っているのだろうか…。私たちは第1段階を、クリアーしたんだろうか…。

 一緒に苦しみを味わい、喜びや幸せを味わい…。そして、愛を体験した。じゃあ、これからは?


 昴くんがいつも言うように、今にいて、起きてきた事を受け止めていったらいいんだよね。うん。大丈夫。だって、昴くんがいつも、いてくれるから…。あの優しくてあったかくて、私をいつでも大事に思ってくれる昴くんが、いつもそばにいてくれるから。だから、何があっても大丈夫…。


 私はそんなことを思っていた。何がきても大丈夫…。まさか、これからのミッションはもっと、苦しむことになるなんて、予想もしていなかった。


 昴くんがいてくれるから大丈夫。それが、まさかこんな展開になるなんて…。ミッションの第2段階は、さらに、私の心の奥底へと進みこんでいく旅になった。


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