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第3話

「間違っていますわ!」


 今日はロレッタの友人のリディアから招待されたお茶会である。


 ここ、アルスハイム王国のお茶会は基本的に同性のみで行われ、男性はほとんど開催しない。

 そのため、"お茶会"といえば、ほぼ"女子会"という認識である。


 男女が合同の場合は"交流会"と呼ばれ、王家が主催する事が多く、また開催時期も決まっている。


 "お茶会"を開催する事に特に決まりは無いが、高位貴族令嬢が主催する場合は、下位貴族令嬢も招く事が暗黙の了解となっている。


 これは、"女性の社会進出"に起因する。


 この"女性の社会進出"については、現在まだ明確な結果は出ていないものの、下位貴族令嬢の方が直ぐに順応し、戦力になりつつあるからだ。

 つまり、高位貴族令嬢も下位貴族令嬢から学ぶべきものがある、という事である。


 これは、改革の主宰である王妃からの"お願い"のようなものだ。

「お茶会」程度の事であるので、王家の者がが命令する、というのは大げさであり、現状の王家と貴族家の関係を鑑みた配慮でもある。


 しかし、現実はそう甘くはない。


 下位貴族令嬢からすれば、ハッキリ言って「いい迷惑」なのだ。

 万が一高位貴族家に睨まれる事になれば、下位貴族家は無傷では済まない。


 従って、王妃にそういう意図があったとしても、お茶会は、結局高位貴族令嬢へのゴマすり会となっているのが現状である。


 リディアが主催するお茶会にも、もちろん下位貴族令嬢も多数参加している。

 筆頭侯爵家の令嬢のお茶会ともなれば、かなり大きな規模となる。


 この国のとある事情(前国王のやらかし)により、現在は明確な対立関係にある派閥はない。

 しかし、それぞれの家の過去や婚姻、利害関係によって"それなり"に派閥は形成されている。


 リディアはそれを考慮して、派閥にムラの無いように、今回のお茶会の招待者を選定しているが、それでもゴマすり会である事は変わらない。

 そのため、ロレッタは間違っている、と言っているのである。


 とはいえ、「格下の者から格上の者に話しかけてはいけない」などのルールや、選民意識が強い令嬢もいる。

 また、家から「あの家の令嬢と仲良くなれ」や、その反対の指示を受けている令嬢なども。


 それは、家格に序列がある以上、どうしようもない事実なのだ。

 もちろん、ロレッタもそれは分かっているので、自分の考えをゴリ押しするつもりはない。


 やむを得ず、間違いを指摘するのはやめて、リディアのところに向かうのであった。




 ◆◇◆◇◆◇◆




 現在のアルスハイム王国の王家を含む王族と各貴族家の関係は、周辺諸国のそれとはかなり異なっている。


 それは、もちろん"前国王のやらかし"と、それに関する一連の事態よるものである。


 前国王はが王太子だった頃、大災害の混乱中に婚約していた公爵令嬢を一方的に婚約破棄し、子爵令嬢と強引に婚約した。さらに、大飢饉の最中に国王に即位した。

 これが、"前国王のやらかし"である。


 そのため、王家を含む王族と、その他貴族家の間に深い溝が出来てしまった。


 しかし、当時は大災害による大飢饉によって、被害を被った自領の立て直しで、各貴族家は王家や王族に構っている余裕もなかった。

 王家は使い物にならず、王族は麻痺した王宮機能と"国"としての体裁を回復する事に必死になっているので、各貴族家は独自に動く事が出来た。


 これまでの各貴族家は、当然ながら派閥が形成され、対立している派閥もあった。

 しかし、被害が全国的で規模(被害の大きさ)も領地によって様々であるため、派閥争いなどしている場合ではなかった。


 王家、王族は頼りにならないので、筆頭侯爵家当主であるスターノヴァ侯爵(リディアの祖父)を代表として、全貴族家が協力関係となって事に当たり、この難局を乗り切った。


 そのため、現在でも王家や王族とは関係が希薄で、各貴族家の対立もほとんどないのである。

 とはいえ、大災害による大飢饉からはかなりの年月が経過しており、各貴族家当主も世代交代しているため、当時に比べれば、関係は改善している。


 関係が希薄といっても嫌悪しているわけではなく、各貴族家も臣下としての忠誠心はある。

 ただ、王家や王族が少しでも高慢にり、権力を振りかざすような事をすれば、関係は直に決裂し、反乱に発展する可能性すらある。そこが他国との大きな違いである。

 今の貴族家に王派閥は存在しない。それに、王家や王族も全貴族家を敵にするほど愚かではない。

 しかし、後に起こる貴族学園での理事長と第二王子の不祥事は、その関係を悪化させる事になる。


 王妃が推進している"女性の社会進出"は、前述の通りなかなか進まない。

 これは王家や王族と各貴族家の関係が希薄、という事も関係しているが、それだけでははない。


 よくも悪くも現状が安定している、という事だ。

 無駄に争いもしないが、新しい事にチャレンジするほど積極的でもない、という事だ。


 それでも、王妃が始めてから十数年経っている。

 現在では、男性だけだった王宮の文官に、少しずつ女性が採用されている。


 採用されているのは、下位貴族令嬢や平民女性が多く、高位貴族令嬢はほとんどいない。

 それで、お茶会を推奨しているわけだが、前述の通り趣旨が違うものになっている。



 ◆



 (のち)に貴族学園を卒業したロレッタが発案し、代表者となって"サロン"という施設を建設することになる。

 このサロンという施設は、簡単にいうとお茶会をする場所である。


 今までのお茶会は、主に高位貴族令嬢が主催して、自分の邸宅で開催するのが一般的であった。

 下位貴族家では、大きなお茶会を開催するのは、資金的にも場所的にも不可能に近い。


 では、場所を提供しよう、ということである。


 サロンでは、主催者は特にいない。

 あえて言うなら、代表者がロレッタでリディアが補佐。出資元が実家のグランシェル侯爵家とリディアの実家であるスターノヴァ侯爵家という事になる。


 しかし、2人がサロンで何かする、という事はほとんど無い。せいぜい参加者として下位貴族令嬢と交流する程度だ。


 常時オープンしていて日時も決まっていない。時々催し物がある程度。

 若い女性が多いので、夜は閉まっている。


 飲み物や軽食も販売している。

 大きなカフェ、と言えば想像しやすいだろう。


 サロンには、大きく3つのルールがある。


 1つ目は、このサロンの主役は下位貴族令嬢であること。

 2つ目は、基本的に女性の社会進出について語り合う場所であること。商会などの営業活動は認めない。

 3つめは、女性限定であること。


 1つ目のルールについては、2つ目のルールに関係している。

 この頃には、王宮文官で結果を出している女性が現れてきたからだ。そのほとんどが下位貴族令嬢という事。

 さらに、女性武官(軍人)や女性騎士も同様である。


 この女性武官や女性騎士は、下位貴族家にとっては朗報だった。

 "女性の護衛"については、頭の痛い問題だったからだ。


 高位貴族家なら自前で用意出来るが、下位貴族家にとってはかなり厳しい。

 このサロンが仲介する事で、女性武官や女性騎士を必要時に借りる事が出来る。彼女達も下位貴族令嬢が多いので、礼儀作法なども問題ない。

 ちなみにこの貸し出し制度を考案したのもロレッタである。


 参加者については、3つ目のルールでも分かる通り、女性なら誰でも参加する事が可能である。

 もちろん、高位貴族令嬢でも貴族夫人でも問題ない。年齢制限はほぼ無い。(未成年者(15歳以下)の場合は保護者の同伴が必要)


 許可がでれば平民女性でも参加可能である。

 しかし、平民女性の場合はかなり制限がある。


 一番の問題点は、マナーである。

 下位でも貴族家の令嬢や夫人であれば、マナーは学んでいる。


 平民は、貴族を相手にしている商会の娘など、身につけている場合もあるが、普通は学んでいない。

 この国では、いくら下位でも貴族の者に平民が不適切な言動や態度をとれば"侮辱罪"が適用され、処罰される。


 貴族への侮辱罪は罪状によっては連座で家族全員が処罰の対象となる場合がある。さらに、罪状が酷い場合は傍系まで対象となる事もある。


 平民の常識と貴族の常識は全くの別物である。

 それを理解したものでなければサロンに参加する事は出来ない。かなり難関である。


 このサロンに参加するのに費用は一切必要無い。(飲み物や軽食は有料であるが、相場よりかなり安い)

 要するに、平民を蔑視している訳では無く、守るためである。


 高位貴族令嬢や夫人が下位貴族や平民に対する言動にも注意が必要である。

 このサロンは自分の立場を分からせる場所ではない。むしろ彼女達から学ぶべき場所である。


 サロンには、グランシェル侯爵家とスターノヴァ侯爵家から派遣された複数の女性騎士が、護衛として常に監視している。

 身分を笠に高慢な態度を取れば、強制的に退出させられる場合がある。そしてそれは醜聞として、社交界に流される。

 3大侯爵家のうちの2家(筆頭侯爵家も含む)を敵にする覚悟があればどうぞ、という事である。


 2つ目のルールに関しては、お茶会のように、高位貴族令嬢へのゴマすり会ではない、という事。

 また、他家との繋がりを求める社交の場でもない。


 一番やっかいなのが商会の令嬢である。平民も同様。

 彼女達は家から指示を受け、巧妙に営業活動をするのだ。


 ルールに"基本的"とあるように、話題が女性の社会進出だけ、という事ではない。

 世間話でも恋バナでも流行りのものでも、好きに話せば良い。


 そのため、さり気なく営業活動が出来てしまう。

 但し、もしそれが発覚すれば、2つの侯爵家による全力反撃を覚悟しなければならない。


 商会は残る(商会が潰れると、経済的に混乱する)が、画策した者は跡形もなく消える事になるだろう。

 そこには一切の容赦はしない。言い訳も反論も聞かない。このリスク以上の利益があればどうぞ、という事である。


 この、グランシェル侯爵家、スターノヴァ侯爵家の力を舐めてはいけない。2家が全力を出せば王家や王族でも潰せる。

 普段のニコニコしている顔に騙されてはいけない。ヘビどころか龍が出てくる。

 (「あの商会の娘と父親が突然いなくなった」と"嘘"の噂を流したら、効果抜群であった。"嘘"を本当のように偽装するくらい、侯爵家であれば児戯に等しい)


 3つ目のルール。

 わざわざ女性限定を強調しているのには理由がある。お茶会での経験からだ。


 "友達"と称して男性を連れてくる令嬢や、婚約者同伴という事も。

 前者は"お相手探し"が目的であり、後者はデート、あるいは婚約者自慢のため。


 追い返すわけにもいかず、主催者を困らせた実績がある。

 そのためのルールである。


 始めた頃は色々と問題点が出てきたが、ロレッタ、リディアが一つ一つ丁寧に対策して解決した。

 やがて軌道に乗ると、予想以上に人が集まり、サロンは広く知れ渡り、他国の人も来るようになった。


 このサロンによって、多くの優秀な女性達が活躍し、国の発展に貢献する事になるのだが、それはまだ、先の話。

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― 新着の感想 ―
[一言] 優秀やなあ( ˘ω˘ )
[良い点] 自分が間違っていると思うことには、臆せずに「間違っている」というロレッタ。メイドのことや生徒会のこと、お茶会のことと、どれもロレッタが主張するのにはそれなりの背景があって、周囲の人もどこか…
[一言] また、変な俗習が残ってるんですねえ…
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